ACT.2
10メートルほどの距離を置き、俺は奴を見張っていた。
その先の電柱の陰に奴はいる。
道路を挟んで反対側、そこはあるビルの入り口、その奥にあるライブハウスで、今夜彼女、つまりお目当てのアイドル声優が新曲のライブイベントを開いているのだという。
彼が立っているのは、ビルの裏手に当たり、イベントがはねれば、間違いなくそこから出てくる
アニメの声優なんていうから、声の芝居だけしているのかと思ったから(まったくモノを知らないおっさんにも困ったもんだ)、最近はラジオのDJをやったり、CDを出したりと、結構多方面で活躍しているらしい。
もっとも、それはごく一部だけであって、大半が芽が出ないまま終わっていく。
彼が叶わぬ恋の対象にしているのは、その『ごく一部』の一人だった。
歳は若いが、今や人気急上昇中ってやつだ。
男は年齢22歳、痩せた青白い顔に、落ちくぼんだ目をしている。
もう陽は暮れ、風の冷たさが身に染みる。
彼はそんな中、レインコートの襟を立て、入り口に向かってじっと目を血走らせて凝視していた。
(あれじゃ、幾ら何でも相手も気持ち悪く思うだろう)
アイドルに熱を上げたことのない俺だって、そのくらいのことは直ぐに分かる。
俺の時計の文字盤が8時を示した。
すると、一台のワゴン車が路地に滑り込んでくる。
間もなく、入り口がにわかにざわつき、ドアが開いた。
数名の男に囲まれて”彼女”が姿を現す。
男は身体を震わせ、懐深く手を突っ込んだ。
間違いない。
コルト・コンバットコマンダーだ。
声にならない叫び声を上げながら、男はワゴン車を回り込んで彼女の前に飛び出し、拳銃を抜くと腰を落として構える。
甲高い発射音が辺りに響いた。
数発が彼女の周りをガードしていた男に当たり、男たちが倒れる。
後ろにいた彼女が、青い顔をして何かを叫ぶ。
俺は間髪を入れず、借り物のコルトM1917を抜き、一発発射した。
間違いなく、奴の肩を捉える。
続けて二発目、だが、何としたことだろう。
トリガーが固定されて動かない。
そんな馬鹿な。
奴は肩から血を流しながら、俺を睨みつけ、三発発射した。
二発は外れたが、そのうちの一発が俺の右の太股に、焼けつくような痛みを食らわせた。
(ちっ、やっぱり婆さんはダメだな。)
一瞬、意地を張るんじゃなかったと、後悔が脳裏をかすめる。
だが、それも一瞬の事だった。
男の銃口が俺の頭に向いた時、借り物のM1917の
り、気が付くと男は銃を放り出し、左肩と右の脇腹を押さえて地面に突っ伏していた。
(寒くなったな‥‥)
そう思った途端、俺の意識が飛んだ。
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