第2話 ドアを開ける覚悟




 少女は目の前に現れたドアに手をかけ、ゆっくりと回しました。




ガチャ、、、


 


 少女はドアをゆっくりと開こうとした手をピタリと止め、クラスメイトの話していた噂を思い出します。



―――代行屋があるって。なんでも代行をしてくれるんだってさ。でも二度と戻れないんだって!


 少女は少年たちの言葉を思い出し、慌ててドアノブから手を離しました。



 ガシャッ。



 少女は勢いを失い。そのままドアの前に立ちすくんでしまいます。


「もし、クラスメイトの話が本当だったなら……私は二度と帰ってこれないんだ…それってどういう事なんだろう…私は死んじゃうのかな。」


 少女は一度、噂を信じたつもりでいましたが、二度と帰ってこられない…。いま目の前に現れたドアが代行屋のドアならば…そんな事を考えると足がすくんでしまったのです。


 「私ってば…意気地なし。このドアの向こうが何かなんてわからない。でも、もしそうならば、あたしが望んで現れたんじゃない。そうでしょ?一度呼び出しておいて、やっぱりやめた、なんて…代行屋さんに失礼だわ。それに…お母さんも中に居るかもしれないわ。あの子だって。この先がどうなっているか、確認しなくちゃ。」


 少女は一度手を離したドアノブを再び掴みます。


 「大丈夫。お母さんもあの子も、あたしが救うのよ。」


 少女は自分に言い聞かせるように呟くと、目を閉じ、下にうつむいた状態でドアノブをゆっくりと回し、力を込めて押しました。


 ガッチャ、ギィーーーーーー。


 少女が部屋に入ると。パタンッと音を立てドアが閉まりました。ガチャリ、今度は鍵のかかる音がしました。少女は俯いた顔をゆっくりとあげ、目を開きます。


 「やあ。初めまして、今晩わ。よく来たね、お嬢さん。」


 少女の前には椅子に腰掛けた、1人の男が居ました。


「貴方は誰?一体ここは何処?」


 少女は男にたずねます。


「おや?君は僕を知らないのかい?そんなはずは無いと思うのだけど。何せ僕を呼んだのは君のはずだからね。」


「私が呼んだ……。じゃあやっぱり貴方なのね…」


「そう。まあ、改めて自己紹介と行こうか。此処は噂のなんでも代行屋。そして、僕がこの代行屋の店主だよ。君が強く願い、店が現れた。そして、君がドアを開けた。だから僕が現れた。さて……心の準備はいいかい?君の依頼を聞こうじゃないか。」


「貴方が代行屋さん…。あの!その前に…此処に女の人が来ませんでしたか?お母さんなんですけど…。」


「お母さん?……いいえ。今ここにいるのは貴方と私だけですよ。お母様は来ていませんね。」


「そう…ですか。すみません。」


 少女は母がいないことに安堵した。此処へ来た者は二度と戻れないかもしれない。それだけは…



「安心しましたか?それでは早速…本題の方へ入りたいのですが、よろしいですか?」



「私の…望みは…」


 少女は声を震わせる。少女の様子を見た男は少女に優しく声をかけた。



「申し訳ございません。なんだか急かしているようでしたね。ゆっくりで構いませんよ。噂を聞いて、此処へ辿り着いた。貴女は覚悟を持って此処へ来たのでしょう。覚悟を持つ…勇気とも言えますが、少し違います。何も知らずに来た、と言うならまだ間に合います。」


店主の言葉に少女は驚いた。

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