代行屋

まだ名前が無い鳥

第1話 病室


 少女は病室にいた。


「ねぇ。起きて。起きてよ。私と遊びましょ。」


 病室には、ベッドに横たわる1人の少女がいる。


「ねぇ、早く起きて」


 呼びかけにも応えることがない。


「また、来るわね。」


 病室を出た少女は、ロビーの椅子に座り、俯く女性に声をかけた。


「お母さん。大丈夫?」


「助けて、どうか助けて、ああ、どうか…どうか神様、たすけて、どうか、どうか…」


「お母さん、大丈夫。きっと、大丈夫よ」


「神様、どうか…代われるのなら、私が…。私が、あの子の代わり。なんだってします。なんだっていい。どうか、どうか、あの子を救ってください。」



「お母さん……。かわいそうに。このままじゃお母さんまで…どうにかなってしまうわ…」



 少女は居た堪れなくなり、ひとり病院を抜け出し、当てもなく彷徨い始める。少女は藁にもすがる思いで、1人の男を探し始めたのだった。


「きっと、いるわ。神様がいるなら、彼だって。きっと、そうよ。」


 彼女の小学校ではこんな噂があったのだ。


 ―――知ってるか?なんでも代行屋ってのがあるらしいぜ。強く願うと、不思議な部屋が現れて、1人の男がそこには居て、なんでも代行してくれるってよ。ただし、部屋からは二度と出られないんだってさ。


 ―――嘘だ!絶対嘘に決まってる!だって、二度と部屋から出れないなら、誰がそんな噂を広めたんだ?変だろ!


―――確かにそうだな!じゃあ確かめようぜ!強く願えばなんだっていんだろ?ははは!誰が先に会えるか勝負だな!


 少女はクラスの男子が話していた噂を聞いていたのだ。最初は気にもしていなかったが、今はそれでも信じたい気持ちが強いのだ。もし、本当にそんな人がいるなら彼女を救えるかもしれない。


 少女は街中を走り出した。けれど一向に見当たらない。日が暮れ始めたが、彼女は疲れを忘れたように走り続けた。途中、雨が降り始めた。彼女は傘を持っていない。お財布ももっていない。彼女は一度、雨宿りを考えたが濡れるほどの雨ではないと、再び走り出した。走って、走って、走る。どれくらい時間が過ぎただろうか。雨の事もあり、辺りはすっかり暗くなってしまった。


「病院に帰ろう。」


 少女は病院に戻ることにした。


「お母さん、大丈夫?そろそろご飯にしない?何か食べないと…ね?」


「私は何もいりません…神様…どうか助けてください」


 病院を出る前と、何も変わらない。少女は病室に向かった。


 少女は病室につくと、少し中に入るのを躊躇った。


「私がこの子の代わりに慣れたなら。」後ろから母が病室に入っていく。


 先に入っていく母の後ろを「私も、それが出来たら、どんなにいいか。代わりたい。」そう言って中に入ろうとした瞬間。


 ガンッと音を立て何かに体を激しく打ち、後ろに転んでしまった。


「……なに??何が起きたの?!」彼女はとても驚いた。


「え、、?どういうことこれ?」


 彼女の目の前には、病室ではなく古びたドアがある。


「え?なにこれ…お母さん?お母さん!!!なんなの!?お母さん、どこ!?お母さん!大丈夫なの!?いるなら返事をして!!」


 母親からの返答はなく。目の前に病室の代わりにドアがあること以外は何も変わらない。辺りを見渡しても、病院内の様子は変わらないのだ。


 ―――いったいどうなっているのかしら。


 少女は恐る恐ると、ドアノブを回した。

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