第103話 鍛治職人の1日 〜side ユリス〜


 「おはよー、ユリス」

 「おはよう」

 「今日ご飯なーに?」

 「今日はトマトスープにサラダとパンですよ」

 「ふーん」

 

 この家に世話になってから食事は自分の仕事となったがキュリエルは自分がここにくるまでの期間食べていなかったはず……今では3食しっかり食べているが、問題ないのだろうか……よくわからない。

 ここに来た当初キュリエルのことをさん付けで呼んでいたが、キュリエルからさん付け気持ち悪いとのことで呼び捨てになった。多分、そこそこ仲良くなれていると思う。

 エナさんの改築のおかげで住みやすさが増し、冷蔵庫?のおかげで作りおきができるようになった。


 「「いただきます」」


 朝食を食べ終え、後片付けをしていると……


 「ん?ユリス!だれか来たっ」

 「え?」

 「なんか家の外ウロウロしてる」

 「ちょっと見て来ますね」

 「わかった。僕、姿消すけど攻撃体制は整えとくから!」

 「は、はい」


 何者か知らないが穏便にお引き取り願おう……用なら店舗で聞けばいい。あまり開けられてないけど……


 確かに門の外には人がいた……キュリエルの言う通りだ。


 「あのー……何かご用ですか?」

 「私、冒険者ギルドからの使いの者ですが……エナさんはいらっしゃいますか?」


 どう答えよう……とりあえず用件を聞いてから考えるか。キュリエルも様子見のようだし……


 「いえ、今はちょっと……」

 「そうですか。伝言を頼んでも?」

 「は、はい」

 「では……来るだけ早くマルガスさんかサブマスを訪ねてほしいとのことです」

 「わかりました。伝えておきます」

 「ありがとうございます。それと例の株があればそれも頼むとことです……例の株といえば伝わるはずだと言っていましたが……」

 「あー……そのまま伝えますね」

 「よろしくお願いします。では失礼します」


 使いの方は小走りで去っていった。ふぅ……キュリエルが騒ぎを起こさなくてよかった。


 「エナさんはもう起きているでしょうか……」

 「んー、どーだろ?もう少ししてから行ってみれば?」

 「ええ、そうします」


 後片付けを再開し、作りおきでも用意しますか……


 「ねー、ユリス。もういいんじゃない?」

 「あ、そうでした」


 思ったより時間が経っていたので急いである部屋へ向かう。

 初めて見た時も大変驚いたこの部屋……何がどうなっているか皆目見当がつかないけど、エナさんのやることだから……


 部屋に入り、扉を閉め……深呼吸。


 「よし」


 もう1度扉を開けると……不思議なことに違う場所へ繋がっているのです。


 「あれ?ユリスさんどうしたんですか」

 「あの、家に冒険者ギルドからの使いの方が来まして出来るだけ早くマルガスさんかサブマスを訪ねてほしいとのことです」

 「んー……なんだろ?わかりました。わざわざすいません」 

 「いえ……それと例の株があればそれも頼むとことで……例の株といえば伝わるはずだと言っていましたが」

 「あー、わかりました」


 例の株で本当に伝わったみたいだ。


 「それと、店舗に置いてあるポーションや羽が売れましたのでできれば追加を……」


 「はい、どうぞー」

 「ん、これも……」

 「ありがとうございます。ではこれで」

 「はーい」

 「ん」


 ポーションとブランの羽を手に家に戻り、早速店舗へ並べる。


 「近々開けないとなぁ……」


 店舗は5日に1度くらいしか開けていない……店舗は冒険者が来ることはほとんどなく、庶民が時々来てはポーションや羽、自身作の鍋などの生活用品が主に売れていく……武器はほとんど売れないので最近は主に生活用品を作っている。


 本来ならもっと店を開かなければならないが1度作り出すと集中しすぎていつのまにか夕方なんてこともある。

 ポーションや羽の代金はそのままエナさんとリディに渡し、残りの売り上げ代金は自分のものになるが……そのほとんどはエナさんへの返却と素材集め、食料品に消える。このままではまだまだエナさんに借りたお金を返しきれない。もっと店舗を開けるようにしなくては……

 エナさんは食欲に忠実なのでそのことが関わるとこの間の釣り竿のように無茶ぶりをしてくるが、それもいい経験だと思う。

 魚が食べたいからと言って魔物の切り身を持ってきた時もあんなに美味しく食べられるとは思わなかったが、料理したら美味しかった。

 そのおかげで鱗や骨などの素材も分けてもらえたしありがたいことも多いんだけどね。


 昼から夕方にかけては工房にこもることが多い。お昼は準備してあるのでキュリエルは問題ない。


 炉に火を入れひたすら素材を叩いて形を作っていく……満足のいく出来になるまで何度も作り直していたらあっという間に夕方だ。でもこれはリディから頼まれたものだ。もっと作り込まないと……


 「ユリスー、リディが来てるよー」

 「はい」



 リディは料理を教えるようになってから少し心を開いてくれている。それまではブランの殺気に内心びびっていたけど最近はブランも認めてくれているっぽい……


 「あれ、エナさんは?」

 「ん、まだ」

 「そっか。ご飯一緒に作る?」

 「ん……あとこれ作ってきた。おすそ分け」


 リディから渡されたのはたくさんのジャムの瓶だ。


 「ありがとう……美味しそうだね」

 「ん、自信作」

 「今日は時間ないけど、明日一緒にジャムパイ作ってみようか?」


 こうやってやりたいことがどんどん増えていくから店舗を開く日がまちまちになっていくんだよなぁー。


 「ん!」

 「そうだ。リディから頼まれたアレだけど……もう少しこだわりたいんだけど、いいかな?」

 「ん、わかった……頑張って」

 「うん」


 リディと夕飯を作っているとキュリエルが味見と称して盗み食いをしてはブランにたしなめられている。ここ最近よくある光景だ。

 ここに暮らしてから驚くことも多いけど、とても充実した日々を過ごせている。


 「ただいまー……あれ、リディ来てたんだね」

 「ん、ご飯作った」

 「今日はこっちで食べていきますか?」

 「そうですねー」


 少し早いけど夕飯にすることに……


 「「「「いただきますっ」」」」


 おいしいと頬を緩めるエナさんやキュリエル、リディにブラン……家族以外味方がいなかった集落。いつの間にかこの家は居心地のいい場所になっていた。

 彼らは少し変わっているかもしれないけど、その分他ではできない経験がたくさんある。精霊と暮らすことだって、別の場所に繋がっている部屋だって……

 これからもたくさんの経験を積んで腕をあげよう。いつか、家族に胸を張って会えるように……リーナに笑顔で腕輪が返せるように。

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