第104話 女神見習い、冒険者ギルドから呼び出される(1)


 「おはよー」

 「ん、おはよ」


 毎日の日課をすませるとリディがご飯の用意をしてくれていた。

 最近、料理はリディかユリスさんの担当だ。朝はだいたいリディが用意してくれる。


 「おっ、このジャムリディが作ったの?」

 「ん、エナにもらった果物で作った」



 リディお手製のジャムをパンに塗って食べる……


 「おいしー」

 「ん、よかった」


 あれ、ひょっとして宿のことリディに任せすぎかな?私、薬草畑ぐらいしか世話してない……いやいや、掃除はしてる……リディに負担かけすぎかなー?でも、料理も畑仕事も楽しそうなんだよねー……もぐもぐ。


 「リディ、宿のこととかしてほしいことがあったら何でも言ってね?」

 「ん、大丈夫」

 「ブランは?」

 「……ん、エナが料理を作らなければ問題ないって」

 「あ、そう……」

 

 ガチャ……ん?


 「あれ?ユリスさんどうしたんですか」


 ユリスさんが訪ねてくるなんて珍しい。


 「あの、家に冒険者ギルドからの使いの方が来まして出来るだけ早くマルガスさんかサブマスを訪ねてほしいとのことです」

 「んー……なんだろ」


 とりあえず出来上がっている分だけでも持っていくか……


 「わかりました。わざわざすいません」 

 「いえ……それと例の株があればそれも頼むとことで……例の株といえば伝わるはずだと言っていましたが」

 「あー、わかりました」


 ファルシュ草の株のことだよね?薬草畑にあるから大丈夫。


 「それと、店舗に置いてあるポーションや羽が売れましたのでできれば追加を……」 


 時々ポロリと売れるらしいんだけど、ユリスさんも作り出したら工房にこもるらしく不定期にしか開店してないんだって。一応テリトリーに設定してるとはいえキュリエルひとりに店番させるわけにもいかないしね……ユリスさんは申し訳なさそうだけど、私もリディも特段気にしてはいない。それがなくても生活できてるのが大きいんだけどね。


 「はい、どうぞー」

 「ん、これも……」

 「ありがとうございます。ではこれで」

 「はーい」

 「ん」


 ユリスさんはポーションとブランの羽を手に帰っていった。


 私も準備して行かなくちゃ……薬草畑からファルシュ草を株ごと掘り出し濡らした布で根を包んでストレージへ


 「じゃ、行ってくるねー」

 「ん、行ってらっしゃい」


 あ、そうだ。ついでにドーラに鱗いるか聞いてみよー。防具に使うかな?いらなきゃギルドで売ればいーし。


 「こんにちはー」

 

 冒険者ギルド尋ねると奥の部屋に案内された……最初から裏口から訪ねればよかった。

 お茶を入れ待つこと数分……


 バーンッ!


 「お待たせー。来てくれて助かったよ!」

 「はい……出来るだけ早く訪ねてほしいって聞いたので」

 「うん、そうなんだ。今日来てもらったわけはオークションに出品するものがないかと思ってね」 

 「オークションですか?」

 「オークションっていうのはギルド持ち回りの主催して各国のギルドから貴重なものなどが持ち寄られ、ふた月に1度開催されているんだ。開催場所は様々でそれぞれのギルドで出品されたものを本部を通してオークションし、買い手の元に届けられるんだ」

 「へぇ……」

 「まぁ、主催のギルドは目玉商品を出品するのが通例っていうか……変なものを出すと後々まで響くんだよね。今回はうちが主催だから目玉になるような物が欲しくてねー」

 「あー、それでファルシュ草の株ですか?」

 「うん、めぼしいものがない時には公認ポーションをオークションにかけるんだよ?倍近くの価格で売れたりしてねー」


 へぇ……これも伝説の魔道具師が作り出した特殊な魔道具を使うことで遠方からも参加できオークションが成り立っているらしい。そういえばミーナちゃんのお母さんがちらっとオークションのこと言ってたっけ?


 「オークションの売り上げはギルドと売主の3:7だから、エナくんにも損はないと思うよ」


 損がないなら別に構わないけど……


 「オークションのことを知っている人なんかはとりあえず高そうなものはオークションに申し込んでたりもするよ?受付で即却下の場合も多いけどね」

 「へー」


 結構厳しい審査があるらしい。やっぱ、一定のラインがあるみたい。


 「ファルシュ草の株は持って来ましたけど……ポーションもいるんですか?」

 「うーん、流石にブラッドベアの素材はないよね?」

 「ないですねー。素材は手に入ったらすぐ売っちゃうし……」

 「そっかー……なんか出せそうなのない?」

 

 相当困っているみたい……うーん


 「宝珠の花を使ったポーションなら1本ありますけど……」

 「本当にっ?」


 サブマスの目がギラッと光った気がするけど、言ってしまったから撤回するわけにもいかない。


 「……はい」

 「それも出品してもらっていいかな?」

 「わかりました」


 ストレージからファルシュ草の株と宝珠のポーションを出し、サブマスに渡す。


 「じゃあ、これがオークションのために預かりましたっていう預かり証ね。なくすと落札のお金がもらえなくなることもあるから気をつけてね」

 「はい……そうだ。ポーションもできた分だけ持って来たんですけど……」

 「あ、ついでに公認ポーションも出品していい?目玉は宝珠のポーションとファルシュ草の株になるけど、エナくんのポーションは美味しいから絶対話題になると思うんだ」

 「え、あんまり目立ちたくないんですけど……」

 「うーん、それはもう手遅れじゃないかな?エナくん影で公認さんって呼ばれてるんだよ」

 

 公認さん……まじか。


 「大丈夫!変な輩は私とマルガスでどうにかしてあげるから!なんならギルマスも巻き込んでもいいし……」

 「……ちなみに拒否権は?」

 「うーん……宝珠のポーション出した時点で同じだと思うんだけど……だって公認職人の宝珠のポーションって出品されるんだから誰が作ったかなんて調べればすぐにわかっちゃうでしょ」

 「え、返して……」


 くれるわけないですよねー……


 「うん、だから諦めて出品してね」

 「わかりましたよ……ポーションは初級でいいですか」

 「できれば中級もほしいなー」


 半ばヤケになりながらサブマスにポーションを引き渡した。


 「とりあえず、それぞれ5本ずつ出品させてもらうね。あとはいつも通り買い取らせてもらうから安心してね」 

 「はぁ……」

 

 さっきの預かり証をサブマスに渡すとポーションについてを書き足して返してくれた。

 

 「いやー、エナくんのおかげで助かったよー!目玉がなかったらギルマスをどこかの魔物討伐に送り込んで素材ゲットしなきゃいけなかったからさぁー」

 「オヤクニタテタヨウデ……」


 満面の笑みのサブマスを前に苦笑いしかできない。あれ?ギルマスってサブマスより偉いんじゃなかったっけ?ここのサブマスが特別なんだと信じたい。


 「オークションが終わったら声かけさせてもらうね……手続きとか諸々あるからお金は結構先になっちゃうけど……」

 「わかりました」


 サブマス曰く、売り上げ金はひと月からふた月ほどかかるらしいので結果は気長に待つとしよう。はぁ……疲れた。

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