第八十九札 ぐらんどぺあれんつ!! =祖父母=

まえがき

主人公は病院にて静養中。

「お主は動けぬからな……代わりに私が動いてやろう……」

「何か卑猥」

「卑猥なのはお主の頭の中じゃ!」

代わりに屍さんが動いてくれるそうです。















「お帰りなさいませ。利剣りけんさんのご様子はどうでしたか?」

「うむ。至って元気そうじゃったぞ。入院していて元気と言う表現もどうかと思うがの」

「そうですか。私もご様子くらいは見たかったのですが……」

「ふぁ……。お帰りかばね~」


 寝室から目をこすりながら歩いてきた咲紀さきが大きな欠伸を一つして屍を出迎える。


「戻った。具合の方はどうじゃ?」

「うん、ちょっと寝たら大分良くなったよ」

「それだけぬえの攻撃を防ぐのに法力を消費したと言う事じゃな……」


 実際に鵺の攻撃を長い時間防ぎ続けた咲紀はかなりの法力を消費した。

 法力欠乏症には至らなかったものの、ひどい睡魔が襲ってきたせいで静流しずるの肩を借りて宿に戻る程に眠かった。


「そうかも? でも実戦で動けて良かったよぉ……。れんさん達の訓練のお陰だねっ」

「そうか……。そのような事もあったのう……」

「ありましたね……」


 三人が一様に漣とあおいとのを思い出す。

 鵺との命を賭けたの方がまだ落ち着いて動けたような気さえする。


葉ノ上はのうえ殿なら……笑いながら鵺をほふるんじゃろうな……」

「否定は出来ません……」

「あはは……」


 三人の間に流れた重い空気を吹き飛ばすかのように屍がパンと手を叩いて無意識に俯いていた顔を上げた。


「さ、さて! 利剣にも言ったが私はちと調べものがあるでの。単独で動こうと思う」

「えっ?」


 突然の屍の提案に、二人が驚きの声を同時に上げる。


「危ないよっ! それなら三人で行動した方がいいよ!」

「そうですよ。それに私と咲紀さんもずっと旅館にこもっている、という訳にも参りせんし」

「ふうむ。じゃがここで三人が行動をしておっては、監視や尾行もあざむきにくくなるしのう……」

「監視や尾行、ですか……?」


 屍の口から出た不穏な単語にいち早く反応した静流がピクリと眉を動かす。


「え? 監視? 尾行?」

「うむ。まだそれに関しては断定ではなく予想の段階じゃ。……利剣には話したが今回の鵺出現にはいくつか不審な点があっての。それをちぃと調べようと思うのじゃ」

「どーゆー事っっ?」

「鵺の封印が解かれたのは皇王院こうおういんもしくはそれに従う家の行いという事じゃ」

「えぇっ!? だって皇王院姉妹が襲われたんだよ?」

「じゃが結果的には死ななかった」

「うーん……でもっ……」

「確かに、あれだけの強力な妖怪の出現に対して周囲に法術師が一人も居なかった事に違和感は感じていましたが……」

「うむ。じゃからまずはその日その付近にいるべきであった法術師から話を聞こうと思うての」

「話してくれるでしょうか?」

「ふふん、誰か一人は話すじゃろうて。私には備えがあるからの」


 胸を張ってフンと鼻を鳴らした屍に、静流の目がスッと細くなった。


「屍さん、まさか利剣さんに使ったように呪術をお使いに……?」

「何っ!? 違うわっ!」

「本当ですか……?」


 ジーっと疑惑の目を向け続ける静流に、屍が否定の声を上げて首をブンブンと振った。


「あの時は咲紀に関する好奇心が勝ってしまってつい暴走してしまったが、今回は大丈夫じゃ」

「今回も好奇心が勝ったら……分からないよね~……?」

「咲紀まで……。全く、大丈夫じゃと言うに……」


 疑いとからかいの視線を受けた屍が腕組みをして頬を膨らませながらそっぽを向く。

 本気で疑われているわけではないという事は理解していたので、屍自身もあくまで怒ったフリをしただけの格好ではあったが。


「ふふ。……それでは屍さんが単独で動かれるとして、追手や監視を欺く為には一体どうすればいいのでしょうか?」

「うむ。その為に一件、寄りたい所があるのじゃが」

「……?」




 ・ ・ ・ ・ ・




「おぉー、静流ちゃんかぁー! よぉ来はったなぁ! ささ、上がり上がりぃ!」

「おじい様、おばあ様、ご無沙汰しております」


 目の前の老夫婦に向かって静流が深々と一礼をしたので、それに合わせる形で咲紀と屍も頭を下げた。


 翌日。


 三人がタクシーで移動した先は静流の母、彩乃あやのの実家である樹条きじょう家だった。


「ご挨拶の為にお電話をしようと思っていたのですが、来て早々色々ありまして……」

「構へん構へん。立ち話も何やし、お友達もお上がりなはれ」

「お、おじゃましまーす……」

「お邪魔します」


 身軽な動きでヒョイと門をくぐり、足取り軽く先へ先へと進んでいく樹条夫婦に、咲紀が静流に近付いてそっと耳打ちする。


「何か、もっと厳格な家をイメージしてたよっ……」

宮古みやこ兄さん……つまり孫が生まれるまではかなり厳格だったと聞いているのですが……私や椎佳の物心がついた時にはあんな感じでした」

「へえ……孫の力って凄いんだねっ……」

「そう、なんでしょうね……」


 通された和室には人数分の座布団が敷いてあり、続いて家の使用人が汗をかいたお茶を運んできてくれる。


「さぁさ、遠慮なくどうぞ」

「有難うございます」

「頂きますっ」

「今日は椎佳しいかちゃんはおらへんのやなぁ……」


 すっかり禿げ上がった静流の祖父が椎佳の姿が無いのを再確認して眉を下げた。


「椎佳は今、勤め先の関係で東京にいます」

「そぉかいなぁ……」

「あ、おじい様、こちらは野島咲紀さんと紫牙崎しがさき屍さんです」


 静流が指をそろえた手で二人を順番に差して紹介を行う。


「の、野島咲紀です」

「初めまして。紫牙崎屍と申します」


 それぞれ自己紹介を行い軽く会釈をしたのを受けて樹条夫妻は笑顔を崩すことも動じる事もなく会釈を返した。


「樹条勘兵衛かんべえです。こっちは妻のかえでです」

「樹条楓です」


 白髪の長髪をそのままストレートに下ろした楓がゆっくりと頭を下げて挨拶をする。

 その動作は優雅そのもので育ちの良さがうかがえる美しい所作だった。


「漣さんは息災かい?」

「はい。父は相変わらず元気です」

「あのお人はシャンとしとったら男前やのになぁ。そろそろ本腰を入れて次世代の担い手になって若いモンを牽引するようによう言うといてな」

「はい。よく言っておきます」


 勘兵衛の言葉に静流がクスッと笑って答える。

 祖父の雰囲気の良さもそうだが、静流がここまで笑顔で話をしている姿も新鮮と言わんばかりに咲紀と屍がお互いの顔を見合わせる。


「それで、今日はお友達と来てくれはるなんて一体どないしはったん?」

「おばあ様、実はお願いがあって参りました」

「お願い? 何やろ……」

「実は……。私達をある場所に連れて行って欲しいんです」

「ある、場所?」


 勘兵衛が疑問の声を上げたのを聞いて、静流はニコリと微笑んで頷いた。










あとがき

ここまでお読み下さり、ありがとうございました。

屍がここに来た理由とは?

そして静流が言ったある場所とは?

次回に続きます。

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