第八十六札 さぽーと!! =加勢=

まえがき

「お会計、三千九百六十円になります」

「あ、はい。じゃあ一万円で……」

「ちっ。五千円とかないんですかね……」

「ちっ!? えっ、「ちっ!?」って言ったよね!?」

「いえ。それよりもお急ぎなのでは? 逃げられた彼女さんを追わないと」

「彼女じゃねえし!! ってか嘘前書きに嘘ストーリーぶっこまないでくれる!? 本編でも大分不遇なんだからさ!!」

※本編とは全く関係ありません。










「はっっ!!」


 風の力を借りてぬえの上空まで飛翔した静流しずるが鵺の眉間目掛けて紫苑しおんを振り下ろす。


 ギィィン!!


 鵺は静流の剣撃を片手で難なく防ぎ、一睨みしてから大口を開けた。


「カァァ……!!」

「危ない! 鵺は口から――」

穿うがて!!」


 こずえの言葉を聞く前に危険を察知した静流が紫苑から左手を離して突風を生み出す。

 その直後鵺の口から炎が吐き出されたものの作り出した風によって散らされ、同時に静流の身体が鵺から離れる。


「お怪我はありませんか……!?」


 風の勢いを利用して双子の近くに着地した静流が紫苑を構え直し、鵺を睨み付けながら声を掛ける。


「何とか……!しかし私の法力がもう……」

美夜みやは逃げて。後は私が……!」

「二人とも、お下がり下さい。私が時間を稼ぎますので」

「そんな! 葉ノ上はのうえさん一人では無理です!」

「シャァァッッ!!」


 静流を呑もうと側面から大口を開けて迫って来た尾蛇の攻撃をかわし、首をねようと紫苑を振り下ろす。


 ジャリッッ……!!


「くっ……!」


 だが思ったより鱗が固く、紫苑が弾かれてしまう。

 こんな時父さんや宮古兄さんなら力で斬り落とすだろうに、と自身の非力さを恨んだ。

 それでも尾蛇は静流を呑むことが出来なかった事と、刀によって斬り落とされるかもしれないという警戒心から鵺の身体へと一旦身を引いた。


「早くお逃げを!!」

「美夜は下がって! 私が葉ノ上さんに助力します!!」

「で、でもそれでは防御が……!」

「そんな問答をしている場合ではありません! 来ます!!」


 静流の叫び通り、静流を警戒した鵺が再度口から炎を吐きだした。


「玄武……! くぅっ……!!」

石門せきもん!!」


 美夜が障壁を生み出そうとするも、法力が底を尽きたせいで立ちくらみを起こしてその場に膝をつく。

 同時に梢が作り出した土の壁が、鵺の炎を遮らんとそびえ立つ。

 炎が直撃するのは防いだものの熱風が三人の肌をジリジリと焼き、呼吸をするにも喉に痛みが生じる。


「大丈夫!? 美夜!!」

「美夜さん!」

「へ、平気です……! 申し訳――」


 ゴッッ!!!!


 と、尾蛇が体当たりをかまし、土壁が粉々に砕け散る。

 炎は止んだが、鵺がその両手を真上に上げて三人目掛けて振り下ろそうとしていた。


「駄目! 土壁であれは防げない!!」

「穿て!!」


 直撃は避けまいと静流が鵺の顔面に突風をぶつけるも、物怖じしない鵺はそのまま両手を三人へと振り下ろした。


「玄武!!」


 ギィィィィン!!!!


 見えない障壁によって鵺の両手が三人の真上で静止する。


「グァッッ!!!?」


 力を籠めてもびくともしない壁に対して、それでも三人を押しつぶさんと鵺が両の腕に力を籠める。

 梢と美夜が振り返った先。

 そこには両手の指で印を組み、玄武を展開し続ける咲紀さきの姿があった。


野島咲紀のじま さき!」

「……ずるいよっ!! 静流さんだけ二条城の塀を飛び越えちゃうんだもん!」

「申し訳ありません。先を急ぐにはそれが最短距離だったもので……」

「グォォォ!!」

「ほう、鵺か……」


 咆哮して腕を乱雑に振り回して玄武の破壊を試みている鵺を睨んで、咲紀の隣に並んだかばねが法力を練りながら口の端を上げる。


「楽しそうだね……?」

「気のせいじゃ。それより鵺は炎を使う性質上水や氷を嫌う。私が鵺の動きを止めたら合図するので咲紀は水系の術で攻撃をしてくれぬか?」

「え。咲紀今玄武で三人を守ってるから屍が攻撃したらいいんじゃ……」


 額に汗の玉を浮かべ、玄武を展開させ続けている咲紀の言葉に屍がフッと鼻を鳴らす。


「生憎と私は水系の術に不慣れでの。咲紀の方が相性的によかろ?」

「……分かった。でも結構ガシガシと法力削られていってるから早めにして欲しいかな……」

「うむ。では早速……」


 屍が練っていた法力を数枚の札に流し込み、鵺目掛けて投げつける。

 投げられた札は鵺には貼り付かずにビタリと地面に落ちると同時に輝きを放ちだした。

 地面にあったのは鵺の影。


「静流! ついでに姉妹!! 鵺の動きが止まったら玄武が消えるのでこちらに走って来るのじゃ! ……影縛符えいばくふ!!」

「グッッ……!?」


 屍の声が三人に届くと同時に鵺の身体がビクンと跳ね、その動きがピタリと止まる。

 影に貼られた札によって動きを封じられた鵺がグゥゥとうなり声を上げながら全身に力を籠める。


「咲紀、今!!」

「う、うん! 静流さん達こっちへ!」

「分かりました!」


 玄武が消え、咲紀と屍の方へ走って来る三人に当たらないように咲紀が札を足元に貼り付け、進路を調整して術を発動させた。


氷走烈破ひょうそうれっぱ!!」


 ピキキキ……!


 咲紀の足元から氷の道が生まれ、それが一瞬にして鵺の足元まで伸びる。

 静流や皇王院姉妹を避けて半円を描くようにして生まれた氷の道。

 と。


 バババババ!!!!


 咲紀側の氷から鋭利で巨大な氷柱が無数に生まれ、導火線に火がつけられたかのように鵺へ近づいていく。


 ザンッッ!!!!


「ギャオオオオオ!!!!」


 身動きの取れない鵺の腕や足に大量の氷柱が切り傷を作り、いくつかが胴に深々と突き刺さった事で鵺が雄叫びを上げた。


「咲紀、まだいけるかの……!?」

「うん!」

「そうか……出来る限り傷を与えておかねば後々厳しいぞ……」


 鵺の動きを封じる事に集中しながらずっと法力を注ぎ込んでいる屍だがその法力消費は激しく、動きを押さえられる残り時間はそう長くはなかった。


「攻撃出来る人がいたらお願い!」

「助力します!」


 梢が咲紀に並び、法力を札に籠める。


「傷がある今なら……! 地走ちばしり!!」

氷走烈破ひょうそうれっぱァ!!」


 ドドドドド!!!!


「ギェェアアア!!!!」


 二人の法術師による地と氷の刃が、再び鵺の身体を切り裂いた。




 ・ ・ ・ ・ ・




「あ、あいつは何なんだ……!?」


 お会計を済ませてパンフレットを見ながら何とか辿り着いた公園にいたのは超デカい化け物だった。

 顔が猿で、胴体が狸……尻尾に蛇、あぁ、ヌエか!!

 女性陣はと言うと氷や土? 岩? の刃で攻撃を叩き込んでいる最中だった。


「静流!」

利剣りけんさん! 利剣さん、美夜さんを連れて避難を!」

「っておい! 何で俺まで逃げないといけないんだよ!?」

「その非難ではなく、避難です!」

「いや、今のはボケてないから!! 俺だって何か出来る事が」

「ごめんなさい、ありません!」

「静流辛辣しんらつゥゥ!!」


 何? お会計済ませて走ってきたのにこの扱いひどくない?


「今どういう状況なんだよ…!」


 説明を求めるも屍は鵺を睨んだまま動かず、咲紀と……あれは梢さんの方か? は攻撃中。

 静流も紫苑を構えて何か精神を集中させているっぽい。


「利剣さん、私は法力が底を尽きて足手まといな状態です。鵺の動きを紫牙崎さんが止めて二人が法術で攻撃をしている状況です」

「ありがとう美夜さん。一人で避難できる?」

「出来ます。どうか利剣さんのお力を示して下さい」

「お? あ、あぁ!」


 そうだったっけ。

 今さっき静流は俺にガチで「出来る事なんてない」って言いきったけどさ、一応東京で初対面だった時は静流より俺の方が秘められた力を持っていて強いぜ! みたいな感じをにおわせている設定じゃなかったか?


「俺だって何かやろうと思えば出来るはずだしな……」


 背中に背負っていた包みから一本の棒を取り出した俺は他のメンバーの……主に静流の動きに注目する。

 咲紀や梢さんの法術に便乗は出来ないが、静流の出たタイミングなら俺が突撃して斬りかかってもいけるはずだ。

 長野で体験した恐怖が全く消えた訳じゃないけど俺だって一撃くらい……。

 棒の安全装置を解除するとバチンと勢いよく左右に弦が開き、その正体が明らかとなる。


「利剣さんは弓使いでいらっしゃるのですか?」

「あー……。いやぁ、ボウガンも使えるって事で……」


 そう。

 京都に行くまでの日数が無かった俺は、結局剣術や弓の修練を一旦脇に置いて椎佳のアドバイス通りボウガンを持つ事にした。

 一応数本の矢には火と水の札を貼ってあるから妖怪対策もバッチリだ。

 ボウガンに矢を装填した俺はそれを両手で持って鵺へと照準を合わせる。

 あれだけ身体が大きければどこかに当たるだろ。


「影縛符の効果が切れる!!」

「グオォォォ!!!!」


 屍が叫んですぐ。

 咆哮と共に地面の札が剥がれ、体中から血を噴き出した鵺が頭と尾……四つの目で俺達を殺意に満ちた目で睨み付けて来た。







あとがき

ここまでお読み下さりありがとうございました!

主人公? やっと到着です。

はい、主人公に活躍なんてあるのかは別として……。

鵺編も次で三話目になりますがお付き合いください。

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