第八十五札 ぬえ!! =鵺=

まえがき

二条城の北にある二条公園。

そこに存在していた鵺大明神という祠から出て来たのは……。

妖怪「ぬえ」だった。





「ウォォォォォン!!」

「いけない! 美夜みや!」


 ぬえが咆哮を上げたのを聞いてこずえが美夜に指示を飛ばす。


玄武げんぶ!!」


 ガッキィィィン!!!!


「くぅ!! 重いっ……!」

「オォォォォン!!!!」


 巨大な鵺の腕が力任せに振り下ろされ、美夜が展開した玄武に重くのしかかった。

 法術の力によって弾き飛ばされたり押し潰されたりはなかったものの、美夜の法力が大きく削られる。


「グルルルゥ……?」


 潰れた二人の死体を想像していたのだろうか。

 見えない壁に攻撃が阻まれた鵺が不思議そうに首をかしげて再度腕を振り上げる。


「梢、あまりもたない!」

「分かってる!」


 美夜の隣で梢が懐から数枚の札を取り出し、法力をめて勢いよく鵺に投げつけた。

 札はまるで生きているかのように鵺の周囲をぐるぐると回り、やがて手足に一枚ずつ貼り付く。


紅蓮柱ぐれんばしらっ!!」


 ドォォォォン!!


 梢の合図と共に札が爆発を起こし、腕を振り下ろそうとしていた鵺の体が炎に包まれる。


「グォォォォ!!!?」

「やった!」

「美夜、防御!!」


 ギィィィン……ピシッッ……!!


 梢の怒声で急ぎ障壁しょうへきを展開して攻撃を防いだものの、しっかりと法力が練れていなかった事が原因で玄武にうっすらとヒビが入る。

 もう一度腕を振り上げた時に再度玄武を展開し直そうと考えていた美夜だったが、ここで鵺が予想外の行動に出た。

 尾の蛇が勢いよく体をしならせて玄武に体当たりをかましてきたのだ。


 パキィィィィンッ!!


 玄武が甲高い音と共に砕け散り、二人と鵺を遮るものが無くなる。


「ちぃぃっっ!」

「ウゴォォ!!」

石門せきもん!!」


 ドドドドドォッッ!!!!


 今まで攻めに回っていた梢が地面に法力を流すと、土が隆起し壁となって二人の前にそびえ立つ。


 バシィィッッ!!!!


「キャッ!!」

「くぅっ……!」


 だが玄武のように法力で編まれた障壁とは違い、隆起させたただの土壁。

 鵺が大きく腕を薙ぐと土壁が一撃でごっそりとえぐられ、土片が飛散して二人に襲い掛かる。

 それでも鵺の腕で横に薙がれていたら、姉妹の身体は鋭い虎の爪でバラバラになっていただろう。


「梢、もう一回攻撃を!」

「分かった! 美夜は防御を!」


 それぞれの役割をしっかりとこなす。

 二人が鵺に勝利する為にはそれしかない。


石槍突せきそうとつ!!」


 ドドドドッ!!


 地面から刃先の鋭い石槍が数十本飛び出し、鵺の身体へと突き刺さる。


「ギャアアアアア!!!!」


 だが、石の槍はどれも鵺に深々と突き刺さる事もなく、ことごとく折れて砕けてしまう。


「ならば! 焔毬ほむらまりっっ!!」


 続けて梢が人の顔ぐらいの大きさをした燃え盛る炎の球を作り出し、勢いよく鵺の顔面へと投げつける。


 ゴウッ!!!!


 炎の球が鵺の鼻先にぶつかると、鵺の頭部が激しい炎に包まれる。


「ガアアアアア!!!!」


 雄叫びを上げた鵺だったが、それでも構わずに勢いよく腕を振り下ろす。


 ギィィィン!!!!


 何度目かになる玄武での防御。

 じわじわと削られる法力に、美夜の頬を汗が流れ落ちる。


「梢、もう次は玄武を展開出来るか分からないかも……」

「まさかそんなに消費を……!?」


 と、鵺の顔を覆っていた炎がフッと消え、姿を現したのは毛や皮膚に若干の火傷はあるものの、ほぼ無傷の鵺だった。

 その顔には憤怒の色がありありと浮かび、二人を殺気に満ちた目で睨み付けていた。


「そんな……! 無傷!?」


 鵺が振り下ろした腕をそのままの状態で大きく口を開いた。


「梢!!」


 鵺の口の奥がポゥッ……と赤く光った。

 そしてその直後。


 ゴオオオオオォォ!!!!


 鵺の口から燃え盛る炎が吐き出され、二人を始め辺り一面が火の海に包まれた。


「くぅぅぅっ……!」


 美夜が力を振り絞って玄武の展開を維持し、炎と熱から二人を守ろうと必死の形相で鵺を睨み付けている。


「鵺は炎を吐くということは炎に強いのね……! 私としたことが……」


 梢がギリッと奥歯を噛んで対策を取ろうとするが、梢の得意術は地と火。

 対して美夜は風と水。

 消火作業や鵺に対する攻撃は水系の法術が有利なのだろうが、なにぶん今回の戦闘では防御をになっている為攻撃に転じる事が出来ない。

 加えて玄武によって大きく法力を消費していて、鵺を倒す火力……。水系の術でそのような言い方をするはいささか不思議な感覚ではあるが、火力が不足しているようだった。


「ゴァッ!!」


 炎を吐き終えた鵺が玄武を押さえつけていた腕に体重を乗せる。


 ピシッ……!


 玄武に亀裂が生じ、その形を歪めていく。


「もう、駄目……!」

「させはしない! 石柱せきちゅう!!」


 ドォン!!


 美夜の玄武がゆっくりと消えようとしていた時。

 地面から太い石の柱が生まれ、振り下ろしていた鵺の右腕にぶつかり上へと跳ね上げる。


「グオォォ!!」


 だがそれでも二人を薙ぐために左腕を勢いよく振り上げ、攻撃を繰り出す鵺。


「風よ、穿うがて!!」


 ゴッッ!!!!


 二人の側面から突如巻き起こった風の渦が鵺の左手にぶつかって攻撃を押し返す。


「ガァァッ!?」


 鵺が睨み付けた先。

 そこには紫苑しおんを突き出して風の法術を放った静流しずるの姿があった。


葉ノ上静流はのうえ しずる、参ります!!」


 双子の劣勢を察した静流が地面を蹴り、鵺目掛けて天高く跳躍した。






あとがき

ここまでお読み下さりありがとうございました。

本日は一身上の都合で短い更新となってしまいすみません。

明日ちょっと長めに出来たらな、と思います。

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