第八十四札 ぱーく!! =公園=
まえがき
真っ二つに分かれた派閥。
割れまいと必死に取り繕う利剣。
どちらかに流れる事が出来れば楽なのに……。
「あれ? 俺って流れて系じゃないの……?」
「どちらに流れても良いのじゃぞ?」
「待ち受けているのはバッドエンドっぽいけどな」
「ほぉー……凄い綺麗だなぁ……」
二条城の風情のある庭園に目を奪われつつも先に進んだ本丸御殿。
松の木と
「
「さすが
ラーメン、つけ麺、僕イケメンのやつ。
「もう、梢は私です。そっちは
「し、失礼しました……」
左目を前髪で隠した梢さんに間違いを指摘され、俺は頭を下げる。
右目を隠した方が美夜さん、美夜さん……。
よし、気を付けよう。
「しかし
「そうでしょうか? さすがに二条城本丸と比較されると厳しいですが……」
「いやぁ、広さと言うよりかは格式?
「そ、そうですか……」
あれからひとまず俺を中心に左に
「和楽庵って所でスイーツが食べられるんだって! 行きたいな~っ!」
「うむ。気にはなっておった」
「ほんじゃここを見終わったら行くか?」
「うんっ!」
「行こう」
恐るべし、スイーツパワー。
さっきまでの不機嫌さはどこへやら。
「そういえば皇王院さん達は甘い物、平気?」
「はい。甘味は好きですよ」
「私もです」
うんうん。
やっぱり女性の多くは甘い物が好きなんだな。
偏見かもしれないけど、嫌いって人に出会った事がないもんね。
俺達は観覧もそこそこに、早速茶房へと足を運ぶ事にした。
本殿を出て茶房に向かおうとした時だった。
ピリッッ……!
何となく不快な感じがして辺りを見回してみるが何も変わった所はない。
気になって咲紀達の方を見てみれば先程までの楽しかった雰囲気はすっかり消え、何かを警戒するような真剣な顔つきに変わっていた。
「か、
「ほう、お主でも気づいたのか。進歩かのう?」
「おいおい茶化すなよ……。この気配は……?」
「うむ。大した事はないのじゃが、妖怪が潜んでいるようじゃな」
「え、マジ?」
「利剣さん。私達、少し離れますね」
皇王院姉妹が顔を見合わせてから俺に断りを入れて西門の方へと走り出した。
「ちょ、皇王院さん……!?」
「放っておけ。妖怪を祓いに行ってくれるのじゃろ?」
「え、でも……」
やっぱりまだわだかまりあるよねぇー。
「正直な所、感じた妖力の弱さでは私達が追い付いた頃には全てカタがついておるじゃろうな」
「そ、そんなもんか?」
「先に喫茶店行っとこうよーっ!」
「咲紀の言う通り、甘味をつまんでおけばすぐに来るじゃろうて」
うーん、法術や妖怪に慣れた二人がこう言ってるんだから、大丈夫か。
「静流?」
「はい」
「静流も同じ意見?」
「そうですね……。お二人の事、気にはなりますが大丈夫とは思っています」
「そっかー。んじゃあ皇王院さんには申し訳ないけど、先に甘い物食べとくか」
申し訳ないと思いつつも実は俺も甘い物を食べたい気分になっていたのでお先に茶房へ向かわせてもらう事にした。
・ ・ ・ ・ ・
元離宮二条城の真上に位置する二条公園。
そこに美夜と梢の姿があった。
「
パァン!!
「ギィッ!!」
一瞬の閃光。
美夜が放った雷の矢が小鬼の脳天を貫き絶命させる。
「
梢が放った
「まさかこの公園にこれだけの小鬼が潜んでいたなんて……」
「法術師達は何をやっていたのかな?」
先程まで子供たちが遊んでいた平和な公園だったのだが、美夜と梢が危険な状態でである事を親達に話すと早々にこの場を離れてくれた。
「本当に潜んでいたのかな?」
「それって、さっきの?」
「うん」
子供達の保護者が去る際に「さっきまで黒いスーツを着た不審な人がいて、電話をしながらウロウロしていた」という情報。
本当だとすると、その人物がこの公園に小鬼を放ったという可能性が高い。
「誰かが人為的に小鬼を……? 何のために?」
「美夜、まさかとは思うけれど……」
「まさか。そんな事をして何の利があるの……?」
二人が問答していたその時だった。
ゴゴゴゴゴ……!!!!
地面が激しく揺れ、美夜と梢はバランスを崩して転倒しそうになる。
「じ、地震……!?」
「まさか……! そんなまさか!! 梢、すぐに母様に――」
ドンッッ!!!!
美夜が声を荒げた時、公園の隅から力強い衝撃波が放たれた。
「キャッ!!」
その勢いと強さに二人が真後ろへと吹き飛ばされる。
何とか地面に手をついて転倒を免れた二人。
「グオオオオオオオ!!!!」
「美夜、まさか!」
「梢、そのまさか!」
公園の隅にあった小さな
険しい顔をした猿顔の妖怪が咆哮してから姉妹を憤怒の形相で睨み付ける。
何とも奇妙なのは頭は猿なのだが胴体は狸、手足が虎で尾は蛇という全く不気味な姿をしていた事だった。
二条公園にある小さな祠。
その名は「
今、皇王院姉妹の目の前に姿を現したそれはまさに妖怪「
・ ・ ・ ・ ・
「ぶーーーーっっ!!!!」
「ぶっ!!!!」
「どわぁぁっ!? きったねええええ!!」
俺の真向かいに座っていた咲紀と屍がそれぞれ抹茶ラテとブラックコーヒーを勢い良く噴き出して来たのを顔面で受け止めてしまった。
誰だよご褒美とか言った奴。
実際に食らって見ろ! 嬉しいとかラッキースケベとかそういう感情湧かねーから。
「な、何だよいきなり!!」
突然尻がムズ痒くなったと思ったら二人の毒霧攻撃を食らったんだが。
静流から手渡されたおしぼりを受け取って顔を拭いて二人を睨み付けると、二人は既に立ち上がっていた。
「え? あれ?」
よく見ればおしぼりを手渡してくれた静流も立ち上がっている。
「咲紀、まずいぞ」
「うん、これは行かないと」
「皆さん、私は先行してお二人に加勢してきます」
「同時に行きたい所じゃが、これはそうも言ってられぬな」
「おいおい、一体何が……」
「利剣はそこに居て! やばいから!!」
「お、おい!」
ダッ!!
静流が、いの一番に駆け出してからそれに続いて咲紀と屍が席を立つ。
静流に続いて咲紀が全力で走って店を出ていく姿は順番に出ていく食い逃げの様―――ってそんな事言ってる場合じゃない。
「おい。屍」
「な、何じゃ!?」
ここに来て、スニーカーの静流・咲紀とロングブーツの屍に大きな差が出てしまった。
屍は一生懸命うんしょうんしょとブーツを履き、靴紐を結ぶ事に時間を取られている。
「一体何が起きてるんだ?」
「うむ、どうやら……強力な妖怪が出たようじゃ……!」
「何だって!? さっきは大丈夫って言ってたじゃないか!」
「じゃから予想外じゃったと皆慌てておるん……じゃっ!」
紐を結びながら律儀に答えてくれる屍は靴紐を結び終えて駆け出そうと腰を上げる。
「待てって」
「ぴぎぃっ!?」
俺が首の後ろで揺れている三つ編みを掴むと、走り出そうとした屍が首をガクンとさせて変な声を出す。
「な、何をする!! お主に構っている暇はないのじゃ!」
「いや俺も行くし!!」
「ならん! 無駄死にするだけじゃ!」
「死なないを頑張る」
「あぁ! 問答する時間も惜しい! 好きにせい!!」
パンッと三つ編みを握っていた俺の手を払いのけると、屍は全速力で店を出て行った。
「行ってやるぜ! せめて壁くらいにはならねえとなぁ!!」
とてつもなく悲しい台詞を言っている自覚はある。
だが何もせずにこのままスイーツを食べている気にはなれない。
「っと、その前に……」
俺はテーブルの隅に置いてあったプラスチックの筒に丸められた伝票を引っ掴んで心の底から叫んだ。
「お姉さん、お会計お願い!」
緊急事態だと言うのに、グッと日常感が増す一言だなホント。
あとがき
ここまでお読み下さりありがとうございました。
どんなに緊急事態でも食い逃げはいけませんよね。
そして最後に残った人がお会計をする。
まんまと女性陣にしてやられましたね。(誤解)
次回、「鵺」をお楽しみに。
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