第八十三札 さいとしーいんぐ!! =観光=

まえがき

「美夜と梢は前髪を下ろすと本当に見分けがつかなくって……」

「お母様?」

「ひどいです……」

「でも、簡単に見分ける方法が一つだけございまして……」

「な、何ですか?」

「それは言えません」

「そこまで言ったなら言って!!?」

「静流と椎佳は素行と口調ですぐ分かるのじゃがのう」

「あら、椎佳も本当は関東弁なんですよ?」

「真か!?」

「真です。現に今屍さんの目の前におるやろ?」

「お主、まさか椎佳か!!」

「さぁ、どうでしょう……」

「くっ……双子めぇ……!!」

※本編とは関係ありません。
















紫牙崎しがさきさんからのご指摘があった通り、今京都市内とその周辺に厳戒態勢を敷いております」


 ある程度の時間会話をした事で一定の信頼を得られたからなのか、深琴みことさんがため息を一つ吐いてから、はぐらかしていた今の状況を伝えてくれる。

 俺は出されたお茶を喉に流し込みながら静かに話を聞く。


「大型・中型妖怪の発生は今の所確認されておらず主に小鬼や虫系等の小型妖怪が主なのですが発生率が非常に高く、管轄内の法術師が駆除に当たっているものの全滅には至っておりません」

「ふむ……発生は市内で起きておるの……ですか?」


 かばね、お前は日本語下手な子か。

 いつも思うが、「のじゃっ子」は目上の人に対してはこうもおかしな言葉使いになってしまうのだろうか。


「それが良く分からない状態です。最初は東部の比叡山ひえいざん方面からポツポツと出現が見られ、続いて西の嵐山方面、北東の皆子山みなこやま、そして最後に北西の愛宕山あたごやまから街中に向けて侵入してきていますね」

「全て山からですね……」


 山の名前を聞いて静流しずるが口元に手を当てて地形を思い浮かべているようだが、俺は比叡山の場所しか分からない。

 こっちの世界に来て早い段階で地図アプリを使って日本の形を見てみたが、元居た世界と同じだったから、地名なども同じなんだろうけど。


「ええ。山側で法術師達をローテーションさせて駆除に当たらせているのですが、すり抜けて市内に来ている様で……。山に、とは申しません。市内を観光がてら巡回して頂き妖怪がいたら祓ってもらえないでしょうか?」

「ふむ……どうじゃ、利剣りけん?」

「えっと、ちなみにその小型の妖怪って人に害を為すんですか?」

「え? まさか逢沢おうさわさんはご存じないのですか?」

「これ、美夜みや

「し、失礼いたしました……」


 美夜の方が驚いた顔で俺に尋ねてきたのを、深琴さんがたしなめる。

 法術師の間では常識的な話なんだろうけど、俺はその辺の仕組みが分かっていない。

 ツン、と屍の指が正座している俺の太腿ふとももに当てられる。

 視線を移すと屍が何か言いたそうな目をしていたんだけど、聞いてしまったものは仕方ないと諦めたのかすぐに目線を逸らされた。


「あ、いや、当たり前の事を聞いてすいません……」

「いえ。娘が失礼を申しました。利剣さんは法術師になられて日が浅いのでしたね。小鬼や虫等の小型妖怪単体が直接人に危害を与えたり命を奪ったりする事は出来ません。ですが「魔がさす」と言う言葉があります様に、心身共に弱っていたり疲れている人の心に対して妖怪の邪気が影響する事で、ふとした弾みで罪を犯してしまったり自らの命を絶ったり、体調を崩したりしてしまいます」

「それは良くないですね……」

「そうなのです。ですからここは一つ、どうか……」

「まぁ、観光がてらって事で……。三人がいいなら引き受けてもいいんじゃないか?」


 俺の言葉を聞いて女性陣がそれぞれコクリと頷いたので、引き受ける事にした。


「ではその件、お手伝いさせて頂きます」

「ありがとうございます。ではこずえ、美夜、京都市内をご案内して差し上げなさい」

「ええ、分かりました」

「母様のお願いとあらば」


 双子の姉妹が全く同じ顔で俺達を見てニコリと微笑んだ。

 こっちの女性陣は……と。

 うわぁ無表情……。

 ま、まぁ! 嫌悪感を前に出さないだけまだマシか……。


「よ、宜しくお願いします皇王院こうおういんさん……」


 女性陣が無表情すぎてまずいので俺は愛想笑い100%で双子の姉妹に話しかける。


「美夜とお呼び下さいまし」

「梢で構いませんよ」


 愛想笑い100%か本気の笑みかは分からない笑顔で笑う双子。


「は、はぁ……じゃあお願いします、美夜さん、梢さん……」


 あー、何かこれ絶対何か起きそうな予感……。




 ・ ・ ・ ・ ・




「利剣さんはどこに行きたいのですか?」

「どこでもご案内いたしますよ?」

「え、ええっと……」


 ねえこれどんな状況?

 何で俺の両腕を着物双子姉妹が左右で腕を絡ませてるの?


「利剣、モッテモテだねぇ~……」

「利剣さん、良かったですね」

「そういうのが好みじゃとはのう……」


 ああっ!?

 なんか誤解って言うか後ろを歩く三人がすっげー冷たい!!

 君達さぁ、普段俺の事なんて何とも思ってないし、何なら煙たがってるよね?

 特に咲紀!


「いや、そういうアレでは……っとと!」


 三人に弁解しよう振り返った俺の手をそれぞれの方へ引き寄せて歩き出す皇王院姉妹。

 その勢いで数歩たたらを踏んだ俺は前を向かざるを得なくなる。


「三千院の青もみじなんていかがですか?」

「あら、それなら貴船神社きふねじんじゃの青もみじの方が良いですよ。川床もあって涼が取れますし」

「あっ、そ、そうなんですねー……。お、おーい? 静流と咲紀、屍はどっちがいい……っておいっ!?」


「咲紀、京都タワー行ってみたいかも」

「ふむ、私は金閣寺や清水寺かのう」

「ではどちらもご案内しましょうか?」


 俺とは逆方向に歩き出す三人。

 待って待って。何で別行動しようとしてるの?


「ちょー! お前ら……! どこ行くんだよっ!!」

「別行動でも宜しいのでは? 金閣寺や清水寺という誰もが思い付くような場所でご満足されるのでしたらそれはそれで。妖怪程度なら利剣さんと私達二人で祓えるでしょうし」

「ふふっ、金閣寺と清水寺……」


 深琴さんの前では猫かぶってたんだよねやっぱりぃぃ!!


「ふっ、別に私達はお主らに案内して欲しいとも思っておらぬしの。せいぜい利剣と宜しくしておくがよかろうて」

「そだね。こっちは女子会~~♪」

「……」


 無言でこくこくと頷く静流。

 いや、この分かれ方はおかしいだろ!?

 青もみじとか川床のチョイスはすっげー惹かれるけどな!


「お前達落ち着けって! 美夜さんと梢さんもちょっと落ち着いて下さいよ……」


 俺は半ば強引に二人の腕をちょっと強めに引きはがした。

 振り払ったり出来ない所が何とも情けないけど。


「利剣さんは皆さんと行かれるのですか?」

「最初に別行動をされたのは野島さん達ですのに……」

「う……」


 それは一理あるんだよな。

 姉妹は俺の腕に絡みついて接近して来たとは言え、全員を青もみじに連れて行こうとしたんだろうと思う。

 ってか俺今彼女いないし?

 静流や屍が不機嫌になってるけど、恋人でもなんでもないからな??


「では利剣はどうするのじゃ?」


 屍が腕組みをして俺をキッと見据えてくる。

 多分どうするのじゃ、というのは

 どっちと行くのかという意味なんだろう。

 そりゃ後々の事を考えると屍達との行動一択だろうけど最初に別行動をしだしたのはウチの女連中だ。つまり和を乱す行動を取った訳だ。

 それを正当化させてしまうとこの先きっとワガママな子達に育ってしまう。

 ここは心を鬼にして皇王院姉妹と……。

 いや、行き先は魅力的だけどすっげー気を遣う未来しか見えない。

 ましてや俺だぞ?

 俺に色仕掛けをしてくる女性は信用ならない。

 そう考えた俺自身とても悲しい気持ちになってしまった。


「利剣さん?」


 表情に出てしまっていたのだろう。

 静流が心配そうな顔をして俺を見つめてくる。


「よし決めた!!」


 俺はポンと手を打ってから、とある方向を指差した。


「君達全員、俺について来い!!」

「え?」

「へ?」


 俺の突然の発言に、両陣営から疑問の声が上がる。


「俺は今から世界遺産、元離宮二条城へ行く!!」


 どっちを選んでもカドが立つならば、双方が提示していない新しい行き先を提示してやれば良いのだ。

 俺って頭いい!!

 まぁ、たまたま看板が目に入っただけなんだけどな。


「利剣さんが見たいのでしたら……」

「何か分からないけど、それでいーよっ……」

「私は見てみたいですけど……」


 俺の発言を受けて皇王院姉妹と三人組が渋々と言った感じでそれを了承する。


「ふっ……、ならば二条城について行ってやるとするかの」


 俺の考えを見抜いたのか、屍だけはどこか満足気にフッと笑った。

 はぁ、行き先は決めたものの前途多難だ……。






あとがき

ここまでお読み下さりありがとうございました。

次回、二条城が闇の炎で燃え上がる。

世界遺産が燃え落ちる中、繰り広げられる魔王との闘い。

「魔王っておかしくない?」

※嘘です。

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