第八十一札 しすたー!! =姉妹=

まえがき

挑発する皇王院に対して喧嘩をふっかけた屍。

何故か模擬戦をする事になったんですが……。

静流さんも何だかご機嫌ナナメですし。

さて、試合の結果はいかに……。

「この模擬戦で5話くらい引き伸ばせるなぁ利剣」

「伸ばせねえよ! どんだけ濃密なんだよ!!」



















「えーと、準備はいいかーっ……?」


 向かい合う二組を交互に見るが、返事もなくうなずきもしない。

 静流しずるは既にさやから切れ味を抑える札が貼られた紫苑しおんを抜き、かばねも後ろ手に札か何かを持っているようだ。

 皇王院こうおういん姉妹の武器は……何も持っていない様に見えるが……。

 二人とも咲紀さきみたいな法術の使い手だろうか?

 だとすると静流が懐にかいくぐれれば……。


「勝負、始めっっ!!」


 と、椎佳しいかが開始の合図を出した事で俺の意識が現実に引き戻された。


「わ、わりぃ……」

「ボーッとしとったらアカンで」


 ボーッとはしてないけど考え事をしていたのは事実だ。

 俺は「そうだな」とだけ相槌あいづちを打って試合に注目する。

 開始の合図が俺ではなかった事に多少の戸惑いはあったものの、四人が四人それぞれに示し合わせた行動に移っていく。


炎波ほなみ!」


 かばねが持っていた札の力を解き放つと、炎の波が扇状に広がって皇王院姉妹へと襲い掛かる。


 ゴォォッ!!


美夜みや、お願い」

「任せて。水渦みうず


 ザァァーーッッ!!


 右目を前髪で隠した方……美夜が手を掲げると大量の水が渦を巻いて姉妹をぐるりと取り囲んだ。


 ジュゥゥゥ……!!!!


 炎の波が水の渦と衝突して蒸発する事によって大量の水蒸気が周囲に発生する。


「静流!! 頼むぞっ! 火雨ひさめ!!」


 ザアアアァァ!!!!


 綺麗だが不気味な火の雨が屍の上空から水蒸気の立ち込める中に叩きこまれた。

 その隙に静流が側面へと移動して雨が止むのを待つ。

 あれって当たったら火傷するんじゃないか……?

 だが俺の心配をよそに水蒸気が晴れた中では亀甲模様の障壁が展開されていて火の雨をことごとく弾いていた。

 玄武か。


「くっ……」


 状態を見た静流が一気に距離を詰めんと駆け出す。


「ありがとう美夜。今度は私の番だね」

地走ちばしり


 そう言って左目を前髪で隠した梢が札を取り出してそれを足元に貼り付ける。


 ゴゴゴッッ!!!!


 姉妹を中心に周囲の地面がせり上がり、それが鋭い土の刃に変形しながら広がっていく。


「風よ舞い上がれ!!」


 静流が風の力を借りて高く跳躍した事で、迫って来ていた刃をかわす。

 そして紫苑を振り上げて梢目掛けて振り下ろした。


「ハッッ!!」


 ギィィィン!!!!


「くっ……!!」

「ふふっ……」


 懐から取り出した短い棒の様な物で静流の紫苑を受け止めて不敵に笑う梢。

 一度紫苑を引いて再度斬りかかった時、梢がその棒を大きく広げた。


 ギィン!!!!


「鉄扇!!」

「あら、単騎突撃で動きを止めると危険ですよ?」

「静流っっ!!」


 迫っていた地走を玄武甲で防いだ屍が静流に玄武を展開しようとしたものの間に合わなかったようだ。

 静流が梢の得物の名を叫んだ時、隣に居た美夜が静流目掛けて術を発動する。


氷舞刃ひょうぶじん

「か、風よ貫けっっ!!」


 ドォンッッ!!!!


 美夜の術の発動と同時に静流が自分に突風を打ち込んで後方へと吹き飛ぶ。

 それを追う形で静流へ襲い掛かる無数の氷の刃。


 パキン! パキィッ!!


 吹き飛びながらも紫苑で氷の刃を斬り砕く静流だったが、そもそも緊急回避の為無理な体勢で後方へと吹き飛んだ影響ですぐに地面をゴロゴロと転がる。

 後を追っていくつかの刃が地面へと刺さっていく。


「食らえ!!」


 屍がソフトボール位の赤い玉を皇王院姉妹目掛けて投げつける。


「梢、私がやるからあっちをお願いね」

「うん、分かった」


 ここに来て初めて別行動を始めた姉妹。

 美夜が手をパンッと叩くと目の前に水の壁が姿を現す。


 ジュッ……ボンッ!!!!


 赤い炎の玉は水の壁に飲み込まれ消火されると同時に人間一人を巻き込むぐらいの爆発を起こしたものの、水の壁が大きく膨れあがって水飛沫が飛び散っただけで屍が想像していた爆発は起きなかった。


「あらあら。怖い怖い」

「ふうむ……水と火では相性が良くはないのう……」


 屍が冷や汗を流しながら苦々しく笑っている。


「ならば……! 火雨ひさめ!!」


 屍が再び火の雨を美夜目掛けて打ち込む。

 それと同時に走り出すと、美夜との距離を詰める。


「玄武!!」


 やむなく美夜が障壁を貼って火の雨から身を守る。


「ふふっ……! これならばどうじゃ? 玄武!!」


 不敵に笑った屍が玄武を展開したまま、美夜の玄武へと体当たりをかました。


「そんな無駄な事――」


 パッキィィィン!!!!


 ガラスが割れるような音がして双方の玄武が砕け散る。


「そんなっ……!?」

「ふん! 互いの力量は同じぐらいだったようじゃのう!!」


 屍が腰の後ろに差していたトンファーを取り出し、回転させてから美夜の脳天に叩き込まんと腕を振り上げた。


 ドッ!!!!


「ぐぁっ……!!」


 鈍い音がして、屍の動きが止まる。

 対して美夜は口の端を上げてニッコリと笑っていた。


「ふふっ。接近戦なら勝てると思ったの? 読みが甘いですね」


 うめき声を上げたのは……トンファーを振り下ろした屍の方だった。


「ぐっ……う……!」


 左胸を押さえて後方へとたたらを踏む屍。

 美夜の左腕が屍へ真っ直ぐ伸びている。


 カラン……。


 屍の胸から何かが落ちた。

 良く見ると太い矢だ。


袖箭ちゅうせんかぁっ……!」

「あら、物知りなんですね」


 余裕の笑みを浮かべて懐から梢と同じ鉄扇を取り出す美夜。


「椎佳、袖箭って何だ?」

暗器あんき……隠し武器の一種やな。えにしもあんなん持っとるわ……」

「暗器か!」

「美夜の場合は袖に忍ばせておいて、いざとなったら矢を打てるようにしとったんやな……。実戦やったら屍の左胸に突き刺さっとったで……」

「実戦なら……」


 その言葉に俺はゾッとした。

 同時にこれが模擬戦で本当に良かったと思う。


「実戦なら今の一撃で左胸に矢が突き立っていますが、まだ戦われますか?」


 鉄扇でわざとらしくぱたぱたと自分の顔を扇いで屍に問いかける美夜。

 屍は屈辱に顔を歪めながらくるりと背を向けて「私の負けじゃ……!」と吐き捨てるように言った。

 それと同時に。


 ギィィィン!!!!


「!!!?」


 甲高い金属音が鳴り響いた音で美夜を含めた全員が音の方へと向き直る。


 ザンッ!!


 しばらくして地面に突き刺さった鉄扇。


「……これはこれは……」


 喉元に突きつけられた紫苑に視線を集中させた梢が力無く両手を上げた。


「距離を取って術で攻めていれば勝てていたかも知れませんね。参りました」

「……お手合わせ、ありがとうございました」


 スッと紫苑を引いて、鞘に収める静流。


「し、静姉~~~!!」


 勝利の喜びで静流に駆け出す椎佳。

 咲紀や流那も静流へと駆け寄っている。


「ふぅ……負けてしもうたわ」

「ナイスファイト、屍」

「1勝1敗とはの……無様なものじゃ」


 自嘲気味に笑う屍を見て、俺は力強く首を振った。


「そんな事は断じてない。凄かったぜ」

「凄かろうか負けは負け。まだまだ修練が足りぬという事じゃ……」

「そんなに落ち込むなって。次勝てば、実戦で生き残ればいいんだろ」

「お主の能天気さが羨ましく思えるの……」


 俺の言葉はさして心に響かなかったようだ。

 まぁ、向上心が高いのはいい事、なんだろうか。

 とは言え励ました俺が傷ついてるんだけどな。




 ・ ・ ・ ・ ・




「あら、負けたのね梢」

「ええ、負けましたね」

「どうして距離を取って攻めなかったの?」

「下手に距離を取ると、美夜の方に駆け出していたかも知れなくて」


 そう言って勝利に酔いしれている椎佳達の方を見る梢。


「そう。私は相性では勝っていたのだけど玄武を相殺されて意表を突かれてしまったわ」

「……美夜の玄武を相殺したの?」

「ええ。それで使うつもりのなかった袖箭を使ってしまった」

「そんな……」


 美夜の告白に梢が周りに見えないように目を丸くする。


「梢、少し認識を改めないといけないわね」

「それよりも強い野島咲紀と逢沢利剣……。油断できないね、美夜」


 本人達の知らない所で、皇王院姉妹に警戒レベルを引き上げられた咲紀と利剣だった。







あとがき

ここまでお読み下さり、ありがとうございました。

正直どっちが勝つか負けるかを全く考えてませんでした。

何かぶつけてみたらこうなったといいますか……。

とにかくこのまま頑張っていきたいと思います。

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