第八十札 ぷらばけいしょん!! =挑発=

まえがき

弓もダメ。法術もダメ。

なんもかんもダメ。

「ってほんとひでぇ前書きだな! 的を射ているだけに腹立つわ!!」
















 コンコンとドアをノックした俺はドア越しに声を掛ける。


かばねーっ? 屍さぁーんっ?」


 しばらくしてカチャリと鍵の外れる音がして、開いたドアから銀髪を三つ編みにした屍が姿を現す。

 うーん、いつ見ても綺麗な銀髪だよなー。


利剣りけんか。何の用じゃ?」

「あぁ、あー……実は頼みたい事があって……」

「ふむ? ではひとまず入るが良い」


 そう言ってドアノブから手を離した屍が室内へと入り、俺を招き入れてくれる。


「失礼しま……本、多っっ!」


 机の上にうずたかく積まれた本だけでなく、机の脇の床にも大量の本が山になっているのを見て俺は思わず声を上げてしまった。


「お主の……いや今は咲紀さきの家と言った方が適切なのかのう? 書庫には色々と興味深い本がたくさんあっての。しばし借りておるのじゃ」

「今も俺の名義だっての。不服がある場合は咲紀に訴訟を起こしてもらって「法廷で会いましょう」だな」


 咲紀の家とわざと言い直した屍がニヤリと笑いながらからかってきたのを受けて、俺はしごく全うな反応を返す。

 いや、家を咲紀に返すのは別にいいんだけどな?

 そうしたら「次は財産も」となると俺はこの世界で流されて無一文ホームレス生活になるわけで……。

 ぜひとも咲紀お嬢様とは仲良く折り合いをつけてやっていきたいもんだ。


「して? 私に頼みたい事とは何じゃ?」

「ああ! 実はこの有り余……ってるかは分からない生命力を攻撃力に変換するような法術なり呪術なりを教えて欲しいんだよ」


 俺の話を聞いた屍が「はぁ……」とため息をついて肩を落とした。


「お主な……法術呪術はそのように万能ではないのじゃぞ……?」

「同じような事を咲紀にも言われた」

「じゃろうな。……とは言えやはり考えがそこに行き着くのも仕方の無い事かの」

「え? じゃあ屍も……」

「うむ。同じ事を色々と調べておった」

「おお……! でっ?」

「そんな術は現存しておらぬし、もし作り出せたとしても調整が難し過ぎて全生命力を消費した事で命を落とすやも知れんのう」

「あぁ……やっぱりか」


 俺はガックリとうなだれた。

 やっぱ地道に体を鍛えて刀なり槍なり弓なりを使えるようにならないといけないようだ。

 特殊能力がない時点でそうなるだろうなーとは思ってましたけどね!?


「今、ちと尋ねている案件があるでの。そこの返答次第によってはじゃが、何とかなるやも知れぬしならぬかも知れぬ」

「どっちだよ」


 俺のツッコミに対して屍は真面目に受け止めたらしく、困ったように笑う。


「すまぬ。答えてやりたいのはやまやまじゃが、今はその者の返答待ちなのじゃ」

「あ、いや、本気で言った訳じゃないから気にしないでくれ」

「そ、そうか。それなら有り難いのじゃが……」


 真面目か。


「ちなみにその尋ねている案件ってどんな内容なの?」

「ふふっ、それは返事があってのお楽しみ、じゃな」

「すっげー気になる……」

「気になると言えば」


 そこで言葉を切った屍が意地悪そうに笑っていた表情から一転して真剣な顔つきになる。


「ん?」

皇王院こうおういん側が護衛役を迎えを寄越すという話じゃが、その者の力量は信頼に足るのかと思うてな」

「どうなんだろうな? しかも皇王院っていう人が黒幕の場合は襲いかかられる可能性もある訳だしな」

「それについては一計を案じておるのじゃが、万全とは言えぬしのう」

「案じてるんだな」


 俺の言葉に屍が「ふふん♪」と鼻を鳴らした。


「それらの対策をいくつか講じての頭脳役と言うものじゃろ?」

「違いない。じゃあ俺の件も、宜しく頼むよ」

「うむ。ひとまず預かった。それはそうと明日の出発に向けて荷造りは済んだのかの?」

「え? 全然してないけど」


 会って帰ってくるような物だから、日帰りか一泊二日って感覚でいたんだけど。


「私の考えすぎ、か……。何やら引き止められそうな気がしたのじゃが」

「さすがにそれは…………ゼロとは言い切れない気がしてきた」

「そうじゃろう? なので備えだけはしておくべきと思ったのじゃ。樹条きじょうの家に寄る可能性もあるし、皇王院家との間に何か起きた場合には避難させてもらう事も視野に入れておかねばならぬ。妖怪どもも不自然に多く現れていると言う話じゃし、私達にも手伝いの要請があるとも限らんぞ?」

「お、おう……。最悪長く滞在する場合は下着を裏向きにして履けばいいやとか思ってた」

「もし本当ならその際は私に近づかないで欲しいのじゃが」

「ひでえな。勿論嘘だけどコインランドリーとか行けばいいやと思ってた」

「そういう考え方で荷物を減らし、身軽に動き回るというのも有り、か」

「そ、そうだな。そこまで深く考えてなかったんだけど……」


 君は一体どんな生活を送ってきたの?

 何かに追われてる生活でも送ってきたんだろうか……。


「とにかく、明日の準備をする事にするよ」

「そうか。ではまた連絡があったときは伝えるようにする」


 こうして俺は屍との話を切り上げて、部屋を出る事にした。

 うーん、今から修練しようにも皆準備やら何やらで忙しそうだし……。

 俺も準備をするか……。




 ・ ・ ・ ・ ・




 翌日。


逢沢利剣おうさわ りけんさん、野島咲紀さん、お迎えに上がりました。皇王院美夜こうおういん みやと申します」

「皇王院こずえです」


 俺達の目の前で黒髪の美人が二人、うやうやしくお辞儀をしている。

 前髪が二人で左右対称なのが特徴的な、双子だろうか。

 まぁ、髪型と顔がそっくりな双子ならここにもいるからさして驚きもしないけど。


「ふぅん……?」

「へぇ……」


 ジロジロと俺と咲紀を上から下まで舐めるように見る双子。


「な、何ですかっ……?」

深琴みこと母様がお連れしなさいと言うからどんな傑物けつぶつかと思ったのですが……」

「何だか拍子抜けですね」

「なっ……!!」

「いやぁー! 本当に申し訳ないっ!」


 驚きの声を上げた咲紀の前に、すかさず俺はペシッと額を叩いて割って入った。


「り、利剣っっ!?」

「まぁまぁ! しばらくの間一緒に行動を共にするんだし宜しく頼むよ」

「はぁ……」

「では参りましょうか」

「ちと、待ってもらえぬかの?」


 きびすを返して歩き出した皇王院姉妹を後ろから呼び止めた人物がいた。

 屍だ。


「何でしょうか?」


 それぞれ鏡写しの様に首を傾げた皇王院姉妹に、屍があごを上げて挑発的な目線を送る。


「うむ。我々も麒麟から護衛が来ると言うからどんな熟練者が来るのかと楽しみにしておったのじゃが……。麒麟きりん管轄はどうやら人手不足と見える」


 おーい!

」って何?

 勝手に俺たちを含めるんじゃねぇよ!

 雰囲気が悪化しそうなのを防いだ俺の苦労が一瞬で無駄になったわ!

 案の定、屍の挑発を受けて皇王院姉妹の目付きが鋭くなる。


「何? 挑発されてるのかな、梢」

「うん、挑発されてるね、美夜」

「いやぁ、これは別に深い意味とかはなくって……」

「どう取って貰っても構わぬが、咲紀と利剣はお主らの物差しでは測れぬと思うがの」


 屍ええええええ!!!!


「ふぅん……。時間はまだあるかしら? 美夜」

「うん。五分もあれば十分じゃないかしら?」


 やる気満々な皇王院姉妹。


「ほう? 言うてくれるではないか。静流、準備は良いか?」

「……えっ?」


 あれ?

 屍と静流がやるの?

 あ、何か咲紀もどこか安心した表情してる。


「あれ? 野島咲紀さんと逢沢利剣さんが相手をしてくれるんじゃないの?」


 準備運動をしながら髪の毛をアップにしてる方……美夜ちゃんが疑問の声を上げる。


「いや。 利剣も咲紀も私と静流より腕が立つでの。私達に勝てぬようではこの二人になど勝てはせぬよ」


 屍、ホラも大概にしとけ。


「とてもそうは見えないけど……」


 ほら、看破されてっから。


「でも、面白そうだね。楽しませてね、端役のお二人さん」

「梢、失礼じゃない。取り巻きのお二人さんって言った方がいいよ」

「さて、お手並み拝見といくかの?」

「……未熟ながら、お相手させて頂きますね」


 ニコリと笑った静流が紫苑の鞘を左手でギュッと握った。

 あ、これ本気っぽいな。

 こうして、朝っぱらから2対2の実戦試合が始まった。




あとがき

ここまでお読み下さり、ありがとうございました。

皇王院姉妹が早々と登場しました。

今後京都ではどうなってしまうのか!?

その前に2対2の手合わせ。

果たして軍配は……!?


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