第七十八札 うぃる!! =意志=

まえがき

舞台変わってようやく利剣達に。

え? 誰って?

本編の主人公たちですよ!!

今日の献立はハンバーグのようで……

※本編と全く関係ありません。






隆臣たかおみ叔父さんから麒麟きりんの管轄長が咲紀さきに会いたいって言ってるって電話があったよ」


 夕食時。

 全員が食堂に集い俺が熱々のご飯を口に放り込んだ時、咲紀が唐突に重要な事を話しだした。


ふぁにっ!?」

「うわぁっ!? ご飯粒汚いっ!!」


 驚いた俺の口からつい一粒の米が発射されて放物線を描き、それがテーブルに着弾するのを見て咲紀と椎佳しいかが嫌そうな顔をして俺の近くにあった食器を自分達の方へと寄せる。

 その二人の俺に対する扱いにはもう慣れているが、かばねも「このおかずは美味しいのう……」と言って俺に近い器を自分の方へ持っていったのは地味に効く。


麒麟きりん……皇王院こうおういん家やなぁ」

「咲紀さんはどうなさるおつもりなんですか?」

「もちろん受けるよ。虎穴に入らずんば虎子を得ず、だからねっ」

「ふむ。じゃが咲紀だけ行かせる訳にもいかぬ。ここは共に行く者を選別せねばな」

「利剣も確定みたいだけど……」


 渋い顔をして、咲紀が俺をジロリと見る。

 え? 俺?


「俺が? 何で?」

「咲紀の家に知らない間に住んでたから利剣の身元に心当たりがある人は調べて欲しいって葵さんが依頼したみたい。どうせ調べても何も分からないのにね」


 まぁ、咲紀の言う通りだ。

 とはいえさすがに「並行世界の住人みたいなので」とは説明できないし信じてもらえないだろう。

 それならば「青龍管轄も分からなくて困ってまーす」という主張をしておいた方が色々とやりやすい訳だ。

 俺に降りかかる火の粉が増えるだけで。

 もう炎上しちゃうよ。


「して……その皇王院家はいつここに来るのじゃ?」

「それがね、京都までの旅費云々は負担するから京都に来て欲しいんだって」

「なっっ……! 正気かっ!?」


 屍が驚きの声を上げる中、咲紀はもぐもぐとハンバーグを咀嚼して飲み込む。


「うん。叔父さんもそれには反対してくれたんだけど……。皇王院さんが京都の妖怪が増えてて長い間離れられないのと、ここに護衛の者を向かわせるから危険はないってさ……」

「……信用ならぬのじゃが。それなら時期を遅らせればよかろう」

「法術についての話とか、事件に関する事で力になれるかも知れないのは双方にとっていい話だから急ぎで、だってさ……」

「まぁ信用ならないな。でも咲紀は受けるんだろ?」

「うん」


 そう言って頷いた咲紀の目に一切の迷いは無かった。


「ちなみに隆臣さんに返答はしたのか?」

「……ごめん」

「ったく、ホントに思い立ったら即行動だな。で、いつだ?」

「明後日に迎えがここに来るらしいけど……」

「早いな!」

「それだけ興味があると言う事なのじゃろう」

「そんじゃ京都行きは、俺と咲紀と……後は?」

「私がおった方が呪術対策にもなるぞ?」

「そうだなぁ」


 屍の立候補を受けて静流しずると椎佳を見たけど、椎佳は黙々とハンバーグを食べている。

 今日は何か機嫌悪そうだったし、俺も何か声を掛けづらい。


「私も、剣術の腕であれば遅れは取りません」

「お、珍しいじゃん静流」


 意外にも静流が自分の腕前を主張してきた事に若干驚きを感じたけど、今日は大人しい椎佳に注意がいかないように無理にアピールしてるんだろうか?


「私も随分京都の祖父母に会えていませんので」

「何か目的が違ってるー!!」

「冗談ですよ」


 俺のツッコミを受けてクスッと冗談めかして笑う静流だったが多分本心も混じってるだろうな。

 まぁ、そう言った理由で連れて行くのも悪くないけど。


「そういえば利剣。お主、結局弓矢は教えてもらえたのかの?」

「わっ、バカッ……!」


 屍の言葉に椎佳のフォークの動きが止まる。

 俺は咄嗟に馬鹿と言ってしまったが……。

 こいつも俺と同じで結構地雷踏み抜く奴なのな!!


「馬鹿じゃと?」

「あ、いやちょっと言い間違えたというか……バカネとカバネって似てない?」

「ほう……喧嘩を売っておるのじゃな?」

「いや売ってないし! 誤解だ! 弓矢は今そのぉ、お願いしてるっていうかお断り中っていうか……」

「もうええよ」

「そう、もうええって言うか……ええ?」


 椎佳しいかから発せられた「ええよ」を聞いた俺が視線を向けると、フォークをカチャリと置いた椎佳がティッシュで口を拭って俺の視線と合わせる。


「弓術、教えたるわ」

「え、ええっと……? 一体どういう心境の変化で……」

「別に。色々な適性を見てみるのもアリかなって思っただけや。ただし才能が無いと判断したらそこでオシマイやから」

「えっ、それって上手だとしても才能ないわって言われて終わられる可能性も……」

「そんな卑怯な事せぇへん。早速明日からやるで」

「あ、ああ。宜しく頼む」

「うん。ほなご馳走様」

「あ、はいっ!」


 隣に居た流那りゅなに声を掛けて食器一式を台所へと下げに行く椎佳。

 食堂から椎佳が姿を消してから咲紀がポツリと誰に言うでもなく呟く。


「珍しいね椎佳っ……。いつもは食器置いていくのにねっ……」

「それはそれで問題なのじゃがの……」

「今日の椎佳は何か様子がおかしいんだけど、何かあったのか?」


 結局原因が分からずに何か事情を知っていないかと俺が他の皆に尋ねると、それぞれがチラチラと視線を交差させ、ある一点に集中する。


「静流、何か知ってるのか?」

「うーん、実は……」


 そこで俺は初めて、椎佳が剣術をやりたかった事、才能が無くて槍に転向させられた事、今でも剣術に未練があるのではないかという説明を聞いた。

 確かに言われてみれば俺の今の境遇というか状態が屍に言われるがまま武器を変えているように見えなくもないけど、それは椎佳とは別問題だ。

 俺は中学校の時に剣道をしていたから剣術を選んだだけで、特別剣術を使いたいと思った事はない。

 まぁ、確かにカッコイイ武器上位にランクインしてそうだから刀を使いたい!って思ったよこしまな理由もあるんだけど。


「椎佳には悪いけど、俺は弓矢や銃とかに適性があるならそれメインでも全然構わないんだけどな……」

「まぁお主の場合はそうじゃろうし、椎佳が自分の過去とお主を重ね合わせて不機嫌になっとるだけじゃ」

「明日弓矢を教わりつつちょっとその辺の事も聞いてみるよ」

「そうじゃな。このままわだかまりがあるのも良くない」

「京都に行くメンバーは俺、咲紀、屍、静流の四人にしようと思う」

「構成としては問題ないが、東京のここは大丈夫かの? 椎佳と流那だけじゃぞ」

「そうなんだよな……」


 俺は「うーん」と考え込んで頭をひねる。

 三人対三人に分けたら分けたで京都組の守りが薄くなるしなぁ……。

 確かに皇王院さん家が派遣してくれるって言う護衛を加えると三人プラスαで手厚い守りになるんだけど実力は分からないし、そもそもまず本当に味方なのか分からない。

 握手を交わした直後に心臓をブスゥ!って刺される可能性もありえるのだ。

 そうなるとやはり椎佳と流那には心細いとは思うけど洋館を維持する役割を果たしてもらおう。


「決めた! 屍と静流に来てもらう」

「うむ」

「承知いたしました」


 承諾した二人がそれぞれに頷き、頭を下げる。

 明後日には京都か……。

 それまでに弓矢なり何なりの戦闘方法を身に着けておかないとなぁ……

 俺の秘めたる適性能力よ、そろそろ目を覚ます時間だぜ。

 俺はわなわなと右手を震えさせて、自分の右目を覆った。


「俺の右目が……うずくぜ」

「片目がピクピク動くときはストレスか寝不足ではないのかの?」

「いや、そんな原因で疼いてるんじゃ……、いや疼いてすらいないんだけどさ」

「お主の言う事はよく分からん……どういう意味じゃ?」


 そのまま分からないままでいて下さい。











あとがき

ここまでお読み下さりありがとうございました。

やっと利剣達の方にスポットが当たりましたね。

次回「利剣の弓術」

※本編は予定と変わる場合がございます。

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