第七十七札 いんたれすと!! =興味=

まえがき

死んだと思われていた咲紀が生きていた、もとい復活した事に

驚きを隠せない各管轄長達。

隆臣もいちいち驚いたりビックリしたり驚愕したりしないといけないので

内心演技だと見破られないかドキドキしていたりしていなかったり。

「私は若い頃役者をやっていたんだ」

「え!? 隆臣さん本当ですか!?」

「いや、嘘だが」

「何の嘘なんですか!!」

利剣、まえがきにだけ登場。















 野島千夏のじま ちなつの掛けた術を解除する時に本当はあおいもその場に立ち会いたかった。

 だが運悪くその日は出資者インベスターの紹介案件で妖怪退治を請け負ってしまっていた。

 代理の者を行かせてもこなせる難度ではあったのだが葵自身を指名との事だったので行かなければ出資者の顔に泥を塗る事になってしまう。

 この案件を速やかに終わらせて現場に駆け付ければもしかしたら間に合うかも知れない。

 そう思って意気込む葵に掛かってきたのは「妻から電話があり、無事に術を解除出来たそうだ」というれんからの死刑宣告ともいえる電話だった。

 がっくりうな垂れてからしばらくして、そもそも漣君はどうして現地に行かなかったんだろう? と言う疑問を抱いた。

 野島千夏氏が施した術はまさにSFに出てくる様なコールドスリープ技術の上位互換だ。

 肉体の生命維持を完全に停止させ、なおかつゆっくりとではあるが傷口を修復させるという術。

 そんな法術をたった一人の人間が行ったというのはまさに前代未聞。

 きっと、いや絶対に全国の法術師がその場に立ち会って術を学び、解明したかった事だろう。


「一人が事を成したと言う事は次もまた誰かが成すでしょうな」


 漣君はそう言っていたけど、全くもって勿体ない!


「あ、葵さん? どうかされましたか? 表情が険しくなっておりますが……」

「え? あ、も、申し訳ありません。つい感情が昂ってしまいまして……」

「そうですか……?」


 葵はそうって気にかけてくれた皇王院こうおういんに頭を下げ、野島千夏に関する件の説明を続けた。

 勿論野島隆臣たかおみが助力してくれた事や呪術士の力を借りた事も伏せて。

 話を聞き終えた各管轄長はそれぞれに険しい表情をして考え込む。


「以上の出来事から、野島一家……もとい野島咲紀君の両親が亡くなった事件が再び動きだす事を避けたい犯人が旧野島家に住んでいた逢沢利剣おうさわ りけんという青年の存在を消してしまおうしたのではないかと推測されます」

「全く以って荒唐無稽こうとうむけいな話じゃが……本当にその娘子むすめごは三年前に妖怪に食われたと思われた野島咲紀さき本人なのかのう?」

「ええ。あくまで遺体が発見されなかったので妖怪に食われたという判断をしただけで、肉体は腐敗する事無く隠された地下室で発見されました」

「三年近く遺体が腐らない、いや死んでいないとしても飲まず食わずで何てとても信じられませんよ……」

「肉体には虫を近づかせない札、時間を止める札、腐らない札など色々と術が重ね掛けされて


 実際に、ではなく写真で見ただけだけどね……。

 と葵は寂しく心中で呟いた。


「……その野島咲紀に会う事も勿論出来るのですよね?」


 真剣な目をして皇王院が葵をキッと見据えるのを受け、葵もまた机に肘をついて手と手を組み合わせる。


「可能ですがそれは「一人の法術師として」ですか? それとも「麒麟きりん管轄の長、もしくは総代として」ですか?」

「どちらもです。一人の法術師として彼女に会って母である野島千夏の話も聞きたいし、組織として事件の事を思い出せるだけ思い出してもらい、真相を暴くという目的もあります」

「前述したとおり事件の事について咲紀君は何も覚えていなかったと伝えました。それなのに両親が殺された事件をまた思い出させるのは精神的な苦痛を伴う行為だと思いますが?」

「そんな事は承知の上です。ですが人はそれを乗り越えてこそ恐怖に、辛さに打ち勝っていくものではないのですか?」

「それは皇王院さんの主観であって、咲紀君は肉体的にも精神的にもまだ十六歳そこらです。それをご配慮頂きたく思います」

「しかし――」

「話に割って入って申し訳ありませんが」


 言葉の応酬を続けている皇王院と葵の間に座っていた隆臣がゆっくりと右手を前に上げ、二人の言葉を遮る。


「皇王院さんにも葵さんにも申し訳ありませんが、野島咲紀は我が姉、千夏の娘という事で私の姪にあたります。未成年である以上は我が野島家が後見人となるつもりなので、一度そう言った話も私を通して頂きたい」

「野島さん、急に何を……」

「いやぁ、失礼致しました! 皇王院さん、全くもって野島さんの言う通りですよ。組織に属しているとはいえ咲紀君は未成年。叔父である野島さんが話に入って来るのは当然の事ですねえ!」


 隆臣が話に入ってくれたお陰で幾分か肩の荷が下りた葵が機嫌よく話すのを聞いた漣が足のつま先でコンコンと葵のふくらはぎに合図を送る。

 漣の警告で気が緩んでいる事に気づいた葵がコホンと咳払いをして気を引き締め直した時、皇王院が渋々頷いて隆臣へと体の向きを変えた。


「では野島さんと後でその話をさせて頂くとします」

「ええ、分かりました」

「それならば朱雀も後で話をさせてもらおうかのう」

「あ、白虎もですなぁ!」


 皇王院が隆臣と話をまとめた所で二人の管轄長も便乗して発言をする。


「……さて、葵さんの報告ですが他には何かありますか?」


 あらかた話しつくした葵は「ありません」と答えて青龍の報告は終わった。

 最後に玄武管轄長である隆臣に報告の番が回ってきたが、青龍を上回るような衝撃的な報告など勿論なく、今後の各管轄の動きや法術師全体の方針等を軽く話し合って五彩会議は幕を閉じた。




 ・ ・ ・ ・ ・




「葉ノ上さん、ひどいじゃないかぁ……」


 ホテルの部屋に戻るなり葵が恨めしげな声を出して漣を見る。


「んん? あぁ、いや、申し訳ない。ついつま先でふくらはぎを小突いてしまいましたなぁ」

「そんな事はどうでもいいんだよ!?」


 的はずれの謝罪を受けて思わずツッコミを入れた葵を見て漣がニヤリと笑う。

 その顔を見て自分がからかわれている事を理解した葵が頬を膨らませた。


「はっはっは、いい年したおじさんがそんな顔をしても全く可愛らしくありませんからな? いや申し訳ない。儂が変に説明するのも色々と面倒だと思ってな……」

「その「面倒」は「面倒くさい」の面倒だよねぇ……?」

「いやいや。あるが主には儂が色々と答えるよりも葵さんの人柄に任せた方がお三方も納得がいくと思ってな」

あるんだね……。ふう、確かに言われてみればそうだけどねえ……。あの場には何回来ても慣れないよ……」

「儂もだ。特に今回は一層緊張した」


 どこまでが本気なのかが全く読めない漣がヒョイと肩を竦めたのを見て、葵は力が抜けたようにソファーに腰を下ろした。


「さて、咲紀君の望み通り情報は広げた。後は敵がどう動くか……。何かあった時には我々大人が守ってやらなければな」

「そうだね。でも他の管轄に出向かれると護衛がしづらいねえ」

「儂が犯人ならそうするがな」

「うん、僕もそうするね。まぁ他の管轄と揉めそうになっても僕が責任を持つから大丈夫だよ」

「頼もしいお言葉だが、迷惑は掛けない様に動くさ。……責任を取って辞任されると儂にお鉢が回って来かねんからな」

「もういっそ揉めてもらった方が僕はすっぱりやめられるんだけど……」

「おお、このお茶菓子美味しいですよ! 葵さんもどうですか?」


 辞任する時はしっかりと漣さんを推薦しよう。

 そう心に固く誓った葵だった。




 ・ ・ ・ ・ ・




「では、この会議が終わったら早急にお願いします」

「……確約は出来ませんが、確認を取って連絡をします」

「お願い致します。それでは……」


 席を立ち、隆臣に一礼して皇王院が退室して行く。


「お館様……」

「……うむ。咲紀は忙しくなりそうだな……」

「どうなさるおつもりでしょう……?」

「勿論、に頼むつもりだ」


 そう言って隆臣はニヤリと口の端を上げた。






あとがき

ここまでお読み下さり、ありがとうございました。

やっと五彩会議が終わりました。

どこかで書き直す(修正)する際にはもっと綺麗に仕上げたいです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る