第七十六札 さぷらいず!! =驚き=

まえがき

「読み手の皆、俺の事忘れてないだろうか?」

「いやぁ、元々物語におってもおらんでも影響なくない?」

「えっ? そこまで!?」

「多分アンタの代わりに流那その場所におっても大丈夫なレベル」

「いや、鬼にパァンとかは死ぬと思うぜ」

「大丈夫、そのシーンだけスタントマン入れるから」

「いやこれ映画じゃないから」

※本編とは全く関係ありません。
















「えー……青龍管轄せいりゅうかんかつはいくつかご報告する事がありまして……。まず長野県で小鬼が大量発生したためそれをはらう人員が欲しいという救援要請がありましてですね、それに対処すべくBランクである準教官三名と新人法術師を含めた十名の計十三名を派遣させましたが……一部その発生情報に誤りがあり二名が死亡、一名が重傷、二名が軽傷を負いました……」

「情報に誤りですって? 一体どんな誤りでそんな被害が出るんですか!?」


 怒気をはらんだ皇王院こうおういんの言葉を受けて、あおい自身「本当にどういう事かなんて僕が知りたいよ」なんて事を思いつつもそれを一切顔に出さず真剣な面持ちで答える。


「恐らくですが現地駐在の法術師からの「情報が誤っていた」のではなくて「悪意を持った人間が意図的に脅威になる存在を隠匿いんとくしていた」事によるものかと思います」

「悪意を持った人間? 何を以ってその様な憶測を? その根拠はおありなんですか?」

「実はその時にここにいる葉ノ上はのうえ君のご子息が参加されていまして……」


 葉ノ上の名が出たことによって一同の視線がれんに集まり、漣が静かに頭を下げる。


「漣君のご子息である宮古みやこ氏から話を聞いた所、深い森の中で忍び装束に身を包んだ「黒子くろこ」なる者に遭遇してすぐ交戦状態になったとの事です。黒子はあろうことか氷鬼ひょうきを召喚して宮古氏を殺害しようとしましたが失敗して自害したと言う内容でした」

「黒子に氷鬼……? その話に信憑性しんぴょうせいはあるんですか……?」


 いぶかしげな顔で尋ねる白神しらかみに、葵は自信を持ってコクリと頷いた。


「その場にいたほぼ全員が強力な妖気を感じたのに加えDランク上位の洲崎すざきという男性が率いていた隊が最初に黒子に遭遇した際に、対話を試みる間もなく一名が殺害された為交戦。接戦の末に大蛇を召喚して逃走したという報告を受けています」

「接戦、と言う事は黒子の力量的にはDから良くてCという事ではないのかのう?」

「私も最初は東厳寺とうごんじさんのように考えたのですが、宮古氏が黒子と接近戦を行った感じではBランクに相当する腕前だと言っておりました。合わせて大蛇と氷鬼を召喚出来る札を所持していた事からそれなりの名家が召し抱えていた武人かと思われる為、洲崎より宮古氏の報告の方が合点がいきます」

「なるほどのう。洲崎とやらが接戦の末追い払ったと嘘をついておると言う事じゃな?」

「そうとも言い切れませんが、その可能性の方が有り得るかと」

「なぜそんな嘘を?」

「それは分かりませんねえ……。報告が嘘だという証拠もありませんし、本当だという証拠もありませんからね」

「フン。何にせよ下の者二名を死なせておめおめと逃げたのには変わりはないがの」


 洲崎の行動に対して東厳寺が鼻で笑う。

 命あっての物種だけど、と思った葵だったがそれも口には出さない。


「その悪意を持った人間の目的は葉ノ上宮古だった、と言う事でしょうか?」

「いえ、どうやら黒子が襲おうとした目的の人物は他の様でして……」

「他? どういう事ですか?」


 歯切れの悪い葵の様子に、若干の苛立ちを感じながら皇王院が答えを急かす。


「そ、それが……この件は各管轄長からの情報提供も頂きたい案件なのですが……

 、実はとある洋館に気が付けば住みついていた青年がいまして、その人物の情報を頂きたいのです」


 そう言って葵が「配って差し上げて」と言うと漣がゆっくりと立ち上がり、全員の周りを歩きながら書類を机の上に置いていく。


逢沢利剣おうさわ りけん……? 逢沢家は何軒か知っているが、聞いたことのない名じゃな」

「逢沢利剣ですか……私も東厳寺さんと同じで知らないですね」

「この青年がある洋館に住み着いている事に何か問題でもあるのでしょうか? そもそも先程の黒子の件もまだ終わっていませんよ!」


 書類をトントンと指で叩き、皇王院が理解出来ないと言った風に眉間にしわを寄せる。


「その家は、三年前の野島一家殺害事件のあった洋館です」

「な……!!!!!?」


 葵が告げた言葉に、漣を除く全員が驚愕の表情を浮かべる。

 隆臣たかおみさんはその件を知っているのに、意外と役者なんだなぁと葵は胸中で感心した。


「な、何であの家に住んでいるんですか!?」

「野島の縁者かいのぉ?」

「いえ、縁者に逢沢はおりませんな。それにそんな話は私も初耳です」

「葵さん、一体どういう事なのでしょう!?」


 口々に驚きと疑問の声が飛び交う中、葵は沈静化を図ろうと両手でまぁまぁと四人を宥める。


「報告の順序が前後してしまい、申し訳ありません。ただ青龍管轄としてもその者の詳細を調査しましたが、戸籍・所有権共に東京都と国が認めているだけに、どんな魔法を使ったのかが全く分からなくてですね……」


 漣からおおまかな内容は聞いていた葵が心底困ったような雰囲気を演じてポリポリと頭を掻く。

 葵のその様子が可笑しくて吹き出しそうになりながらも漣は必死に奥歯を噛みしめて渋い顔をしていた。


「葵管轄長、その青年とコンタクトは取られたのですか?」

「取りました。実はその件に関してまだご報告が……」

「はぁ……、今度は何なのですか?」


 次々と出てくる葵からの報告に、若干あきれ顔の皇王院が報告を催促する。

 東厳寺と白神はと言うと今の報告が衝撃的過ぎて、話の内容と疑問が消化しきれていないようだ。


「実は逢沢利剣君の住む洋館に、殺害された野島一家の一人娘である野島咲紀さんが……幽霊の状態で存在していまして……」

「は?」

「え?」

「うん?」

「何!?」


 葵の言葉に四者がそれぞれの表情で耳を疑った。


「そこで館の中をくまなく探した結果――」

「ま、待って……、待って下さい葵さん! 野島家のご息女が霊体で発見ですって!?」

「は、はい。そうですね」

「そんな重要な情報を何故今の今まで麒麟きりんに連絡してこなかったのですか!! これは管轄長の報告責任を放棄した大問題ですよ!!」

「そっ、そうですよ!! 白虎びゃっこも聞いていませんよ! 重大な出来事じゃないですか!!」


 皇王院の詰問を聞き、一緒になって白神も葵を責める。


「本来であればそうするべきだったのですが今回は事が事だけに公には出来ず、青龍管轄が責任を持って対応していました」

「説明になっていませんよ!」

「そうですよ!」

「どういう事か詳しく説明してもらえまいか……?」


 熱くなっている皇王院と白神とは真逆に、隆臣が冷たい視線を葵に向けて静かに語りかける。

 演技とは分かっていながらもその圧力と雰囲気に葵の背筋に冷たいものが走る。


「ま、まず話は三年前に起きた事件までさかのぼりますが……あの事件はどこか異質だったと思っています。それは当時あの事件を担当していた葉ノ上君もそう感じている事です。そうだよね? 葉ノ上君」

「……はい」


 事件の説明をしてくれるかも、などと淡い期待を抱きながら話を振った葵だったが、漣は肯定しただけで説明をしてくれる気配はない。

 胸中で漣さんめ、後で何かご馳走してもらうからねと思いつつ続けて口を開いた。


「さ、三年前の野島家に起きた事件ですが表向きには式呼びの儀で呼び出した鬼が予想外に強く、咲紀君が食われた事に慌てた両親がその命と引き換えに祓ったという「事故死」扱いで終わっていますが当然我々はそう思っていません。札を手配した者が事件後に服毒自殺で命を絶っている点も不自然です。これには事件性があると考えるのが妥当かと思いましたので……」

「つまり、我々を信じていない、と?」


 不快感を隠すこと無く露わにした皇王院が睨み付けてきたのを受けて葵はかぶりを振る。


「皆様を信じていない、と言う風に捉えられるのであれば仕方がありません。しかし殺害された野島家も、札を取り扱っていた業者に裏切られて命を落としています。誰が味方で誰が敵なのか正直分からない状態で咲紀君の情報を無闇に広げたくなかったという事はご理解頂きたく思います」

「……納得はしておりませんが話の内容は分かりました。それで? 野島咲紀さんの霊体は何か事件当時の事を覚えていたのですか?」

「それが何も覚えてはいませんでした。……ですが霊体と肉体を結合させて、無事現世に戻ってきました」


「…………は?」


 皇王院、白神、東厳寺の口から発せられた「は?」は今だかつて一度も聞いたことがない程に間の抜けた声だった。




あとがき

ここまでお読み下さりありがとうございました。

ようやく文字数が復活した感じです。

これからも余裕を持って頑張っていきたいと思います!!

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