第七十五札 みーてぃんぐ!! =会議2=

まえがき

五彩会議、始まる。

利剣って主人公なんですよね?

今回はいません。

眠ってなんかいません。
















「今季の朱雀すざくじゃが、特に目立った出来事もなく平和そのものじゃった。一件だけ、若い者が鬼退治をしくじって重傷を負ったが、その鬼もその場にいた実力の法師が無事に退治しておる。その他の些末さまつな事はこれから配る書類に記載しておる。おい」

「はっ」


 竜之進りゅうのしんがジロリと隣に座っていた男を睨むと、三十代位の和装の男が立ち上がって各管轄長とその補佐役の面々に書類をテキパキと配布する。

 配られた書類を開いた各管轄長――あおいれんもそれに目を通した。

 しばらく無言で目を通していた一同だったが、特に目を引くような内容もなかった為次々と書類を閉じて机の脇に置いていく。


「では次、白虎びゃっこの管轄長である白神しらかみさん、お願いしますね」

「あ、はい。白虎は……特に大きな出来事はなかったのですが、山に小鬼退治に入った何名かの若手法術師が行方不明になっておりまして……」

「何ですって?」

「それが大きな問題ではない、と?」


 行方不明と聞いた一同が何かしらの反応を示していたが、麒麟きりん皇王院こうおういん玄武げんぶの野島がいち早く疑問を投げかけた。

 二人の鋭い眼光を受けた白神はハンカチで額と頬の汗を拭ってからぶるぶると首を振った。


「い、いえ! そんなつもりではなかったのですが、言葉を間違えましたな……申し訳ない。行方が分からないと通報を受けた時点で即座に捜索隊を編成して山狩りを行っていますが依然消息は不明ですな……」

人探ひとさがしの術は行っているのですかな?」

「勿論ですよ野島さん。ただ反応が薄い為妖怪に食われてしまった可能性が高いですな」


 隆臣たかおみの質問に淡々と答える白神。


「その不明者のリストは明らかになっているのでしょうか?」

「はい。同じ山での行方不明の申し出が二件、四人になった時点で若手法術師に一斉に連絡を取り、連絡が取れなかった者をリストアップしております。真尋まひろ、これを配りなさい」

「分かりました」


 白神の隣に座っていた二十歳くらいの銀縁眼鏡の女性が手際よく全員に報告書とリストを配り始める。


「葵さんと葉ノ上はのうえさん、どうぞ」

「有難う真尋さん。今回も白神さんの補佐として来てるんだねえ」

「ええ。まだ若輩者ではありますが頑張っていきます」

「いやいや。白神さんも真尋さんが娘さんだと鼻が高いと思うよ」

「ありがとうございます、葵さん」


 ペコリを葵に頭を下げて、白神の隣へと戻る真尋。


「ふぅむ、九人か。確かに一季節だけにしては多いのう」

「ううん、そうですねぇ……」


 東厳寺と葵が唸り声を漏らしている中、漣がポツリと呟きを漏らした。


「鬼などの上級妖怪が発生している可能性は……?」

「鬼などの姿は今の所確認されていないですな。強い妖力を感じたという報告もありません」

「そうですか……」

「その件について今後どう対応を取っていくべきか、何か案はあるでしょうか?」


 漣と白神のやり取りを聞いていた皇王院がその場にいる全員を一瞥し、意見を求めた時白神が立ち上がって片手をぶんぶんと振って苦笑いする。


「いやいや、この件は白虎だけで何とかなりますから。ご心配ありがとうございます。なのでこの件はご報告だけで……」

「そうですか? しかし事態が悪化する前に早期解決をお願いします」

「分かりました」

「では次は中部……私ですね……私ですが――」


 コンコン……


 深琴みことが報告を始めようとした時、会議室のドアがノックされる。


こずえです」

美夜みやです」


 ドアの向こうから女性らしき二人の声が聞こえ、深琴が「お入りなさい」と答えるとドアが開いて二人の女性が姿を現した。


皇王院深琴こうおういん みこと母様の補佐役、皇王院美夜が書類をお持ちしました」

「同じく皇王院梢。お持ちしました」


 二人はそれぞれあでやかな着物に身を包んだ年の頃十五、六の瓜二つの双子だった。

 長い黒髪をアップにしている方が美夜と名乗り、後ろで二つに分けていた子が梢と名乗った。


「皆様にお配りしなさい」

かしこまりました」


 深琴の指示で二人が声を揃えて返事をして左右から書類を配り始め、配り終える矢否や「失礼いたしました」と部屋を後にした。


「お嬢さん方は年々綺麗になっていきますなぁ……いっっ!!!!」


 愛らしくもどこか色気がある双子の登場で鼻の下を伸ばした白神がデレデレとした顔で美夜と梢を褒め称えていたが急に奇声を上げて口をつぐむ。

 場所が場所でなければ事件性が疑われる表情を戒めるべく、真尋が机の下で父の足を思いっきりかかとで踏み抜いたようだが一同それには気付かない振りをする。

 深琴が咳払いを一つして、報告を始めた。


「んんっ……! さて、麒麟ですが、前季と比べて妖怪の発生が倍近くに増加していて人手が不足している状態になっています。管轄内の問題は麒麟だけで解決したいと尽力しておりましたが法術師達も日夜の連続出動で疲労している者が多数です。恥を忍んで可能であれば各管轄の助力、人員派遣をお願いしたく思います」

「恥なんて事はありません。元々京都はいった類が多い都ですからな」


 頭を下げる深琴に、隆臣が理解を示す。


「そうですねえ。でしたら青龍も人員を送る等して協力しますよ」


 葵も隆臣に続いてニコリと微笑んで快諾した。


「ほっほ。二つの管轄が人員を送るのであれば、朱雀は送らずとも大丈夫かのう」


 東厳寺とうごんじが顎をさすりながらニヤリと笑ったのを受けて、深琴がかぶりを振った。


「今季の妖怪の発生率と発生場所は先ほどお配りした書類に記載されている通り、異常と言っていい発生なのですよ。そこを何とかお願いしたいのですが」

「ふぅむ。約束は出来かねるが、出来る限りの協力はしよう」

「有難うございます、東厳寺さん」

「いやいや、まだ確約ではないでの。戻って管轄の人員状況を把握してから返答させてもらうぞい」

「それで構いません」


 東厳寺との話がまとまった所で、深琴は残る白神を見た。

 白神はその目を見返す事をせずに「いやぁ……」と机に視線を落とした。


「た、大変なのは分かりましたが、こちらは先もご報告した通り法術師が大勢行方不明になっていて捜索隊にも人員を割いている為、助力は出来そうにありませんで……」

「そうですよね。ご無理を言って申し訳ありませんでした」

「いええ! お役に立てず申し訳ない……」


 予想していた返答に、皇王院が頭を下げたのを見て白神も同じく頭を下げた。


「さて、次は……関東。青龍管轄長の葵さん、お願いします」


 いよいよ順番が回ってきた。

 葵はいつになく緊張して生唾を飲んだ。

 コクリと頷いて隣の漣をチラリと見るが、漣は目も合わせてくれずに向かいの白神さんの方を見ている。

 これは援護や手助けを得られないと悟った葵は意を決して口を開いた。


「ええっと……青龍管轄ですがいくつかご報告しないといけない案件がありまして……」


 葵のたった一人の戦いが今、始まった。




あとがき

ここまでお読み下さり、ありがとうございました。

今日も諸事情で短い字数になってしまいました。

漣さんは一切葵さんを手助けしてくれそうにありません。

葵さんは本番やこういう場に弱い性格なんですけどね。

次回、「葵さん奮戦」お楽しみに。

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