第六十八札 めんたー!! =指導者=

まえがき

寿司を食べた利剣達は翌日漣さんに呼び出されていた。

「あの時寿司を食っていなければ断れたかもしれないのに……」

「せやろ? これが知らん間に借りを作るっちゅーこっちゃ……」

「マジで!?」

※半分くらい嘘です。






















咲紀さき君、まずはおめでとう。身体の調子はどうかね?」

「はいっ。特に違和感とかはないですっ!」


 れんさんと咲紀が簡単な自己紹介を行った後でそんなやり取りを交わしている。

 そっかー、よくよく考えてみたらこの二人は初対面なんだよな。

 なんて事を考えながら俺は首だけを動かして再度周囲を確認する。


 50メートルくらいの正方形。

 足元は砂地で天井はなく、ギラギラと真夏の太陽が俺達の体を焼いている。

 確か開閉型で雨天時にはドームになるような構造になっているとか言ってたから、ドームにするのはまさに今ではないだろうか。


 あおいさんから寿司をご馳走になった日に漣さんから連絡を受けて、翌日。

 青龍管轄所が管理している訓練施設に俺達洋館メンバー全員が呼び出されていた。


 と、咲紀の会話もそこそこに漣さんが片手を上げて人懐っこい笑みを浮かべながら俺へと近付いてくる。


「やぁやぁ利剣りけん君! 今日は突然の呼び出しにも関わらず来てくれてありがとう」

「いえ、特に定職にも就いていないもんで……」

「はっはっは! それは実に羨ましい。わしもそのように悠々自適な生活を送りたいものだよ!」

「漣さんの今のお仕事って……」

「ん? まぁ色々と相談に乗ったり難易度の高い案件に駆り出されたり……とまぁ様々だな」

「そ、そうなんですね」

「そんな事よりも今日ここに来てもらったのはだな……」


 漣さんがそこで言葉を切って、チラリと葵さんを見やる。

 すると葵さんが小さくため息を一つついてから漣さんの隣まで歩いてくる。


葉ノ上はのうえさんと話し合った結果、僕達と手合わせをして欲しいんだ」

「手合わせ、ですか?」

「そう! 手合わせだよ。儂と葵さんの二人、対利剣君達のな」

「俺達……ですか」


 という事は2対5って事か。

 数字の上では有利だけど、経験や実力を考慮すると全く足りない気がする。


「父さんがおる時点でウチら五人でも勝ち目なんてあらへんやん……」

「……そうですね」


 椎佳しいかの言葉にうんうんと頷く静流しずる

 静流が同意すると言う事は漣さんは相当の実力者って事なんだな。

 それくらい俺でも分かるけど。


「勿論そう言うだろうと思って儂は法術を一切使わんし、葵さんから身体能力付与の法術は受けん。葵さんは単純な法術攻撃だけだ」

「せやけど、なぁ……」

「うぅん……」


 椎佳と静流は恐らく二人の大人の実力がよく分かっているから悩んでいるんだろう。

 俺はと言うとハナから戦力外の自覚はあるからな。

 ただ成り行きを見守るばかりだ。


「椎佳、静流。この先お前達に襲いかかって来るであろう奴は儂より強いかも知れんし人数だって多いかもしれん。お前達はそのたびに「待った、ずるい」と悩むつもりなのか?」

「いや……、せやけど……」

「いいよ。やります……!」

「さ、咲紀っ!?」


 漣さんと椎佳達の会話に割って入った咲紀が、覚悟を決めた目で漣さんを見据みすえる。


「ほう……その覚悟と思い切りは大変宜しい。楽しくなりそうだな」


 咲紀の視線に漣さんがニッ……と歯を見せて笑った。

 これ、なんかやばいスイッチを入れた気がするなぁ……。




 ・ ・ ・ ・ ・




「で、かばねは何か思い付いたん?」


 試合前の作戦会議……なんだが考える事を最初から放棄しているヤツが屍に速攻策を授かろうとしている。

 少しは考えようぜ……。

 人の事言えないけどな!


「お主は自分で考えようと……」


 あ、俺と同じ事思ってら。

 屍からのダメ出しを受けた椎佳が大きな胸をらして張る。

 あぁ、絶景かな。


「屍。「下手の考え休むに似たり」やで」

「……そうかや……」


 何を言っても無駄だと悟った屍がガクリと肩を落としてうな垂れてしまう。


「ま、まぁまぁ! この中で戦略って言うか色々と見えてそうなのは屍だし! そこは俺達期待してるんだぜ?」

「う、うむ……。コホン。……では私が思いついた作戦じゃが……」


 俺のフォローに屍が顔を上げて気を持ち直して話を続けてくれる。


「まず、確認じゃが静流と椎佳の反応から見て察するに葉ノ上漣氏を二人で沈めるのは無理なのじゃな?」

「情けない話ですが、法術を使っていない父でも十分に強く、勝てるイメージが湧きませんね……」

「ウチらが法術使つこても最初は互角。そっから徐々に押されて各個撃破されておしまい、やな」

「ふむ……それならば利剣」

「任せとけ!」


 少し考えた屍が顔を上げて俺の名前を呼んだので、そのタイミングで俺はドンと胸を叩いた。


「む? まだ何も言っておらぬが私の作戦が読めたという事じゃな?」

「ったり前だろ! 俺は自分の実力をよく理解してるからな。そういう役割なら喜んでやるぜ」

「そういう役割……? ううむ……念の為私が言おうとした作戦内容を教えてはもらっても良いか?」

「おう。「利剣は開始と同時に漣さんに突っ込み斬り合って隙を作れ。その隙を突いて静流と椎佳の波状攻撃で漣さんを倒す」だろ?」

「全っっ然違うわ馬鹿者っっ!!」

「えっ!? 違うの!?」


 屍の両手をわなつかせて雄叫びに近い叫び声を上げたので俺の身体が思わずビクッとなってしまった。


「誰がそんな捨て石みたいな役割を頼むかっ!」

「いやぁ、俺そんなに剣術も体術も凄くないし……」

「お主はもう少し自分の評価を上げてやってくれ……ってそんな話はどうでもいいのじゃ。お主に頼みたいのは漣氏の奥、葵氏を攻めてもらいたい」

「葵さんを?」

「そうじゃ。葵氏は法術を使って攻撃をして来るようじゃが、法術は範囲であれ単体であれ遠距離攻撃の為に色々と面倒なのじゃ。そこを接近戦で牽制けんせいし、妨害してもらいたいのじゃ」

「お、俺に……? そんな事が出来るのか……!?」

「出来るのかではない。やれ」

「オレ、ワカッタ」

「……」


 うう、屍の視線が痛い。


「……咲紀と私は葵氏を先に倒したいが、安全策として私が葵氏を攻めるので、咲紀は玄武等で適宜てきぎ静流と椎佳を援護してやって欲しい。余裕があれば私に加勢というのはどうじゃ?」

「うんっ。分かった! でも咲紀、実戦経験が少ないから引っ張るかも……」

「心配せずとも良い。その為にあの二人が一肌脱いでくれておるのじゃ。……そう思う事にしておこうかの……」


 ん? 屍の表情が険しいが……。


「とにかく、今の作戦で異論はないかの?」

「一ついいか、屍」

「何じゃ? 利剣……」


 俺の真顔に気圧けおされたのか、屍が息を呑む。

 俺はゆっくりと腕を上げ、ビシィッと一点を指さす。


「今の作戦に……、流那りゅなが含まれていない!!」

「ふぇ……ふぇぇぇっ!?」


 指を差された流那が両手を前に出してぶんぶんと首を振る。


「ほな皆、頑張ろっか~……」

「そーだねっ……」

「頑張りましょう」

「えっ? あれ? 皆っ?」


 女性陣が俺を無視してため息をつきながら武器や札を構えて定位置へと歩いていく。


「……流那は見学席で応援みたいだな」

「もぉっ……利剣さん、あんまりふざけちゃうと皆から嫌われますよっ……?」

「そうだな……心配ありがとう」


 もう手遅れな気もするが。


「あのっ、頑張って下さいねっ……」

「ありがと。一撃で退場にならないように頑張るよ」


 俺はヒラヒラと手を振ってから、準備するように言われた模造刀を肩に乗せて流那に背を向けた。




「若者チームは準備が出来たようだな」


 足腰を伸ばしてストレッチを行っていた漣さんが仕上げと言わんばかりに肩をグルグルと回して笑みを浮かべる。


「じゃあ、全員の武器に薄い膜を張るからじっとしててね」


 そう言って葵さんが人数分の札をペタペタとつかつばに張り付けていく。


「木剣や木刀じゃあやっぱり実戦向きじゃないしねぇ。この札さえ貼っていれば斬った斬られたは防げるから大丈夫だよ」

「凄いですね。……ダメージも軽減されるんですか?」

「いいや。打撃はそのまま通るから、変な受け方はしないでね」

「え……」


 とても怖い事を言ったよ? このおじさん。


「さぁ、それでは準備はいいかな?」


 良くないんですが!


「しゃあないな……いっちょやったるか……!」

「うむ。胸を借りるつもりで当たらせてもらおうかの……!」


 おおう、女性陣は軒並みやる気だ。


「……っしゃぁ! チーム利剣、やるぜ!」

「それは嫌や」

「改名を要求する」

「さすがにそれは……」

「勝手に変な名前つけないでよっ!」


 こ、こいつら……。


「あらあら。それでは準備はいいかしら?」


 両チームの間に立った彩乃あやのさんが双方を交互に見る。


「それでは、参りますよ? ……試合、始め!!」


 彩乃さんの力のこもった開始の合図が訓練施設内に響き渡った。





あとがき

ここまでお読み下さりありがとうございました。

次回は久々?のバトルものですね。

咲紀の実力も見られるのでしょうか?

乞うご期待下さい。



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