第六十九札 こーおぺれーしょん!! =協力=

まえがき

彩乃さんの声で始まった試合。

「次は流那さんが掛け声をしてみたらどうかしら?」

「は、はっじめーっ! ですかっ?」

「あら、可愛い♪」












「行くで静姉しずねえ!!」

「ええ……!」


 開始の合図と同時にあおいさんがれんさんの後方へと下がり、静流しずる椎佳しいかが同時に駆け出した。


「ほう……、わしの相手はお前たちか」


 漣さんが腰に差した二本の小太刀を引き抜いて腰を落として迎え撃つ構えを取る。

 漣さんの戦闘スタイルは宮古みやこさんと同じ二刀流か!


利剣りけんっっ!!」

「っと、悪ぃ!」


 かばねから叱咤しったの声が飛び、俺は慌てて先行した二人に続いて走り出す。

 とは言っても少し迂回して奥にいる葵さんを目指して、だけど。


「せぇい!!」


 漣さんから少し離れた場所で椎佳が砂地を蹴って高く跳躍し、大きく愛槍あいそう疾女はやめ」を振りかぶった。


兜断かぶとだちぃ!!」

「ハァァァッ!!」


 ギィィィィン!!!!


 けたたましい金属音が響き渡る。

 大声と同時に勢いよく振り下ろされた重みのある一撃を、交差させた小太刀で挟んで受けた漣さんが瞬時に椎佳の真意に気付く。


「ぬぅっ!?」

東風こち!!」


 跳躍した椎佳の下を、法術で速度を上げた静流が一気に距離を詰めて漣さんの胴を薙ぐ。


 キィン!!


「!?」


 予想していた手応えとはまったく違う感触に困惑した静流だったが勢いを殺す事をせそのまま漣さんの脇を通り抜けた。


「ウチの攻撃のインパクトだけ二本で受けて勢い殺して、すぐに右で静姉の横薙ぎを受けるとかどんだけバケモンやねんな……!!」

「はっはっ!! お前たちの連携を今まで何度見てきたと思っているんだ!?」

「やぁぁっ!」


 静流が背後から再度漣さんに斬りかかるも、それを右手の小太刀だけで器用に受け止める。

 椎佳も静流の連続攻撃に合わせて引いた槍で何度も突きを放つが、左手の小太刀で軽くいなされている。

 俺はそんな光景を横目に、葵さん目掛けて一直線に走った。


「うおおぉぉ!」

「真っすぐ走ると危ないよ?」


 葵さんが数枚のうち一枚の札を俺に向かって投げると、札が燃え始めて瞬く間に火の玉へと変化する。


「うおおっっ!?」


 俺はそれを某サングラス黒スーツの映画よろしく大きく後ろにのけぞって何とか回避した。


「おお! じゃあ次だよ」


 再び葵さんが火の玉を作り出して俺へと投げつけてくる。


「見切った!!」


 軌道を読んだ俺が体を半歩ずらして二つ目の火の玉をかわした。

 いける!


「はいっ!」


 パチン、と葵さんが指を鳴らした直後。

 突如背後でドォン!! と爆発が起こった。

 後で屍に聞いた話では、火の玉が葵さんの合図で大きく膨張して爆発したんだそうだ。


「……ん?」


 爆風と衝撃を覚悟した俺だったが一向に来る気配がない。

 不思議に思い振り返ると、見えない壁? 水晶で出来た甲羅が爆発から俺を守ってくれていた。


「あ……」

「何をしておるか! 構わず行けぇ!!」


 爆炎のさらに向こう。

 爆風がギリギリ届くか届かないかの場所で屍が印を組んでいた。

 屍の玄武か!


「さ、さんきゅ屍!!」


 俺は屍に礼を言い、振り返って再度葵さん目掛けて駆け出そうとした。

 のだが。


「戦闘中によそ見は禁物だよ?」

「なっ……」


 次の法術を完成させていた葵さんがニヤリと笑って地面に札を貼り付ける。

 直後、地面が隆起して人間ぐらいの大きさをした岩石の柱が無数に飛び出してくる。


 ズドドドドドォォォ!!


 おいおい! 地面は砂地なのに有り得ねぇだろ!!

 おぼつかない足取りでいくつかの柱を回避したものの全てを回避するのは至難の業。


「ぐっっ……はっ……!!」


 腹にいい柱を食らい、俺の身体が上空へと突き上げられる。


「利剣っっ!!」


 心配そうな目で上空の俺を見上げる屍が視界に入る。

 馬鹿。

 ――俺に気にせずに攻めろ。――

 声を出そうとしたが、肺の空気が全部排出されたのか上手く声が出せない。

 あぁ、痛ぇなぁ、クソッ……。




 ・ ・ ・ ・ ・




 利剣が宙を舞う少し前。

 静流と椎佳は攻撃をし続ける事で拮抗を保っている状態が続いていた。


(くっ……! 攻める手ェ少しでも緩めたら父さんがすぐに攻撃入れてくるから休まれへん……!!)


 椎佳が胸中で毒づきながら漣を挟んで向こうにいる静流を見やるが、恐らく同じ考えなのだろう。

 静流も途切れる事のない攻撃を続けている。


「氷雨っっ!」


 咲紀が札をかざすと、漣目掛けて氷の弾丸が無数に飛んでいく。


「ほぉ! だがまだだな!!」


 咲紀の術が来るタイミングを読んでいた漣が静流への防ぐ手をわざと緩め、同時に椎佳への受けに攻撃を混ぜる。


「うわっっ!!」

「くっっ!」


 それによって椎佳が後ずさり、静流が慌てて漣を追おうとして後方へと下がる。


 バババババッッッ!!


 漣と静流の間を氷の弾丸が通り抜け、それによって漣の足止めをする存在が椎佳一人になる。


「陣形を考えて法術を撃たんとなぁ!」

「し、静姉ぇっ!」

「さぁ、行くぞ?」


 椎佳の地獄の始まりだった。




 ・ ・ ・ ・ ・




(どうにかして着地しねぇとな……)


 地面に向かって落ちる俺がどうやって受け身を取ろうか悩んでいた時。


 バババババババッッ!!


「ぐぁぁぁぁ!!」


 突然氷の弾丸が撃ち込まれ、冷たさと痛みが全身を襲う。


 ドシャアッッ!!


 受け身も取れずに砂地に落下する俺。

 くっそ、葵さん容赦ねえな……。

 けど、折れてないな……。

 よし……。


「咲紀ィ! 味方に当ててどうするのじゃっ!!」

「ご、ごめんっ! 当てるつもりじゃなくってっ……!!」


 屍の非難に動揺する咲紀。

 っておいマジかよ!!

 味方からの攻撃フレンドリー・ファイアかよ!!


「うわぁぁっ!!」


 と、漣さんの攻撃を受けたらしく椎佳が吹き飛んで地面を転がる。


「椎佳ぁ!」

「ふぅむ。まだまだだったな。さて……」


 椎佳をぶっ飛ばした漣さんに向かってすぐに飛びかかった静流だったが漣さんは既に向き直っており、横一閃に小太刀を薙ぐ。


 キィィィ……ン!!


「んん?」


 漣さんの横薙ぎが見えない壁に阻まれる。

 これは……玄武か?


「はっっ!!」


 その隙をついて静流が紫苑を振り下ろしたがそれを振っていない手の小太刀で受け止め、足を繰り出した。


「が……はっ……!!」


 鳩尾に蹴りを食らって静流も後方へと吹き飛ぶ。


「静流さんっ! うっ……」

「試合はまだ終わっておらんから、駆け寄るのは悪手だな」


 心配で駆け寄ろうとしていた咲紀の喉元に小太刀を突き付ける漣さん。


「紫牙崎さんも咄嗟に静流ちゃんに玄武を張ったのはいいけど、こっちがお留守になっちゃったね」


 静流に玄武を張ったのは咲紀ではなく屍だったらしく、屍もまた前衛である俺がこうして這いつくばっている時点で葵さんへの攻撃を断念してサポートに回ろうとしたのだろう。


「……私達の負け、じゃな」


 屍がかぶりを振って、両手をゆっくりと上げて降参のポーズを取った。




 ・ ・ ・ ・ ・




「ふぅむ……さてさて……」


 漣さんが地面に座る俺達を見下ろして顎をさする。


「いや、分かっていたとは言え、まともに連携が取れているのが静流と椎佳だけだったなぁ……」

「分かってたんですか?」

「何となくは、な。しかし利剣君、あの高さから落ちて平気なんだな……」

「あ、まぁ……丈夫なので助かりました」

「咲紀の氷雨を全身に受けておったしのう……」

「あっ、そうだてめえ咲紀! お前かよあれ!」

「ワザとじゃないし……!」

「あぁ、咲紀君は回りが見えていない、連携が取れていないからそこは改善する事だな」

「……はい……」


 俺が詰めたら反論したくせに、漣さんが言うとしょんぼりして聞いてやがる。


「とにかく次はもう少し仲間の動きを見て、連携を意識してやる事。質問はあるかな?」

「え? 次って……?」


 手を上げて尋ねた俺に、歯を見せて笑う漣さん。


「まさか一回の手合わせで終了、とはならんよな? さぁ二回戦といこうじゃないか!」


 ――本当ですか?――


 心にそう思ったが、そんな事が言えるはずもなく俺達は無言でゆっくりと腰を上げた。




あとがき

ここまでお読み下さりありがとうございました。

戦力と連携の底上げ作戦開始って所でしょうか?

次回もお付き合い、願います!

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