第二章 青龍管轄編

第六十五札 ぷらん!! =方針=

まえがき

咲紀の犯人探しに力を貸すと言った利剣。

何度も襲い掛かってくる刺客と死闘を繰り広げ、

いつしか二人の間には恋心が芽生えていくのだった……。

「利剣……!」

「咲紀っ……!」


「何て事とかありえるよな? 吊り橋効果的な」

「そんな事になるくらいなら咲紀は吊り橋を焼くよ……」

「焼いたら落ちるから!!」

「咲紀は風の法術で飛翔するから」

「殺人だ!!」

※本編とは全く関係ありません。














「こうなる様な気はしてたけどな……」

「まぁ、今さらって感じやな」


椎佳しいかが頭の後ろで両手を組み、ケロッとした顔で反応してくれる。


自室で一通り説明し終えて。

結局のところ皆から返ってきた反応は、以前に咲紀さきの件で危険が迫っているから館を去るか、と伝えた時と全く同じだった。


流那りゅなは皆さんといたいですっ!」

「私もです。今までと変わらず咲紀さんと流那さんをお守りします」

「私は元より咲紀の家族を陥れた犯人を見つけ出すつもりじゃったしの。願ったり叶ったりじゃ」


うんまぁ、確かかばねは前にもそんな事を言ってたな。

そんな事を考えていると、ポンと俺の肩に手が置かれたので振り返るとそこにはタレ目をわざと細目にした椎佳がニヤッと笑う。


「やらへんという選択肢はないやろ」

「椎佳、それ宝くじのCMな」

「よう分かったな」


そう言ってビッと親指を立てる椎佳。

お前とふざけている暇はないんだが。

そんな事はおいといて。


「という事で咲紀。現状維持でこれからも変わらず宜しく」

「みんなっ……、本当にありがとう!」


感動に目を潤ませたのを手でゴシゴシと拭いながから皆に頭を下げた咲紀を見て、皆の表情がほっこりと緩む。


「……して? 咲紀や利剣は今後どのような手で犯人を探し出すつもりなのじゃ?」

「知らん」

「考えてないっ!」

「お主ら……」

「そこは考えとかなアカンやろ……」


胸を張って威張る俺達二人に、屍と椎佳が呆れた顔でダメ出しをしてくる。


「そういう椎佳は考えているの?」

「当たり前やん静姉しずねえ


静流しずるの質問に自信満々、椎佳が頷いて親指を立てたかと思うとグリンと地面に下げて。


「怪しい奴は軒並みぶっつぶして白状させる!」

「椎佳、それは策とは言わないからね?」

「えっ……? ほな策無しやん」


何故そうなる。


「やはり張飛ちょうひには荷が重かったか。ここは参謀さんぼうとして留まって貰っている孔明こうめい大先生のご意見を聞こうではないか」

「えっ? 孔明? 誰それ! すっごく気になるよっ!」

「孔明はやめい!」


三国志の世界に来たつもりで劉備りゅうびこと俺が両手をバッと広げる。


ビュン!!


俺の頬を何かが掠め、もみあげが数本ヒラリと宙を舞う。

正体は……椎佳の愛槍、疾女はやめ


「誰が張飛やコラ」


ドッ、ドッと俺の心臓が激しく早鐘はやがねを打ち、額から汗がじわりと滲む。

返答を間違えたら俺は、死んでしまうかもしれない。


「間違えた……その槍さばきこそまさに呂布りょふポォォウッッ!!!!」


どうやら間違えたようだ。

椎佳の柄が下から上へと振り上げられ、俺はジャクソンの様な奇声を上げて宙に浮かんだ。


「アンタ、絶対わざとやろ……」


椎佳が呆れ顔で地面に倒れ伏している俺を疾女でツンツンと小突く。


「り、利剣さんっ! 大丈夫ですかぁっ……?」

「利剣さん、いくら丈夫なお体とは言っても、おふざけにその能力を費やすのはいかがなものかと思いますよ……」

「ふむふむ……あの位のダメージなら普通に治ってしまうのか? これは色々試してみたくなるのう……」

「それで、孔明はどんな作戦を思い浮かべたのっ?」

「咲紀まで! じゃから私は孔明ではないと言うにっ!」


そこで仕切り直しと言わんばかりに屍がゴホンとわざとらしく咳払いをする。

これは俺を放置して話を進めるつもりだな。

そうはさせない。


「よっこらせっと……。じゃあ話を続けるか」

「う、うむ。私が思うに野島一家に害を加えた犯人が分からぬ以上はこちらから攻めると言う事は不可能なのはみなも分かっていると思う」


起き上がった俺を見た屍が少し驚いていたが、いちいち拾っていたら話が進まないと判断したらしくそのまま話を続ける。


「そこでリスクは伴うのじゃが咲紀が青龍管轄に法術師の登録を行って「野島咲紀が生きていた」という事実を広める事がまず第一歩じゃな」

「確かに。リスクは伴いますが犯人側は焦ると思います」


屍の一案に静流が納得してうんうんと頷く。


「そして次に東京の葉ノ上家と京都の樹条きじょう家、そして玄武の管轄長である野島家との繋がりも出来ておる。これを利用せぬ手はない」

「叔父さん?」

「ん? ウチ?」

「私の家、ですか……?」

「そうじゃ。せっかく好意的に接してくれておるのじゃからの。利用せぬ手はない……」


屍がクックックと意味深な笑い声を漏らす。


「帰ったばかりなのにいきなり叔父さんに……たははぁ……」

「ちょっと、ウチらの家は情報流すとか便宜を図るとかそういう不正はせぇへんと思うで……?」

「そうですね……。葉ノ上、樹条両家はそんな力はありませんし……」

「ほう? 利剣の長野行きなどもそれなりに黒幕を炙り出そうとした下心あっての事じゃと思うがのう……?」

「うっ……」

「それは……私からは何とも……」


どうだと言わんばかりの屍の鋭い視線を受け、痛い所を突かれた静流と椎佳が一気に返事に窮してしまう。

その二人を見て満足したのかは分からないが、屍が視線を緩めてフッと鼻で笑った。


「ま、その件については「利剣が式呼びの儀がまだじゃったからそういう人材を優先的に選別した」や「情報は開示出来ないが、その日に動ける法術師がいなかった」などと様々な言い逃れをされそうじゃしの。それはどうでも良いのじゃ」


何と言うか、屍の頭の回転の早さにはただただ驚かされるばかりだ。

俺と流那はその光景をボーっと見守っているだけだし。


「私が利用する、と言うたのは管轄長会議じゃよ」

「管轄長会議?」

「うむ。利剣が知らぬのは仕方のない話じゃが、こちらの世界の日本は五つの管轄に分類されておっての。それぞれ玄武、青龍、白虎――」

「あ、それは知ってるから大丈夫。聞きたいのはその会議の事だな」

「……そうか」


説明してくれようとしていた屍お姉さんの表情が一瞬にして冷めていく。

これ、もしかして説明したかった的な?

だったら悪い事を言ってしまったが、聞くは聞くでめんどくさいもん。


「管轄長会議と言うのは、春夏秋冬に一度ずつ「五彩」と呼ばれる代表五人が集まって異常報告や今後の方針等を話し合う会議の事じゃ」

「へぇ……。それを利用するって事か」

「うむ。今回は葉ノ上と樹条家が率先して咲紀の救助にあたったとは言え、青龍管轄長である葵家が許可をしているという話であろう? ならば次の会議であおい家と野島家が咲紀存命の報告をすれば全国の管轄長に咲紀の事が伝わる訳じゃ」

「成程なぁ~! そしたら自然と犯人の耳にも入るっちゅう算段か!」

「うむ。利剣から聞いた話じゃと長野では氷鬼を使役したり、かの葉ノ上宮古と互角にやりおうた黒子なる者もいたそうじゃ。察するにそこそこ名のある家が絡んでおると思う」

「俺達の方針は決まったな」

「異論や質問はないかの?」


問いかけ、皆がコクコクと頷くのを確認してから屍はパシっと手を打った。


「では、咲紀と静流はそれぞれ叔父と父に報告を。利剣、お主は武術の底上げじゃ」

「えっ? 俺だけ? 唐突に!?」

「お主の戦闘経験や体捌きはハッキリ言うが悪すぎる。法術が使えないのであればせめて体術と剣術だけは上達しておかぬと死ぬぞ?」

「はぁい……」


ド正論過ぎて反論できるはずがなかった。


「にひひっ、利剣頑張りぃや~♪」


椎佳が面白そうに笑い、心の籠っていないエールを俺に送った時。


コンコン……カチャ……


「お話は終わったかしら~? おばさんだけ仲間外れで寂しいわねぇ……」


彩乃あやのさんがドアを開けてひょこっと顔を出した。

申し訳ありません。

存在を忘れてました。

あ。


「椎佳も、彩乃さんと親子水入らずで槍の手合わせをしたらどうだ? 俺は屍と手合わせするし」

「いぃっ!?」


俺のキラーパスを受けた椎佳が奇声をあげた。


「い、いやウチはほら、父さんに色々報告とかせなアカンし……」

「椎佳。報告は私がしっかりとやっておくから、貴女は母さんとしっかりなさい。だけに、ね」

「くっ……!」


静流のアシストになのか、寒いダジャレになのか分からないが椎佳が苦悶の表情を浮かべる。


「あらぁ、じゃあ椎佳。母さんと槍の手合わせしましょうか~」

「母さん、ウチ実は女の子の日で」

「あらぁ? まだ先だと思うんだけど~」

「ぇー……」


え、そこまで把握されてんの?

怖っっ。

椎佳、万事休す。


「来なさい、椎佳」


いつもののんびりとした声ではなく、凛とした声。


「はい……」


椎佳は疾女を担ぎ、まるで長距離を移動して疲労困憊状態の一兵卒のように力なく彩乃さんの後をついて行った。




 ・ ・ ・ ・ ・




某県某所


「ご報告申し上げます!!」


三十代の男が慌ただしく屋敷内を滑るように駆け、バッと片膝をつく。


「騒々しい!! 何事だ!?」


室内の男が苛立った声で立ち上がりドスドスと足音を立てながら障子へと近付き、乱暴に障子を引く。


「何だ‼」


白髪交じりの五十代の男が片膝をついてこうべを垂れている男を見下ろすと、三十代の男がこわごわと顔を上げる。


「と、東京の野島家から非常に強力な法力を感知したとの事……! 監視を続けた結果、本日玄武管轄長である野島隆臣が館から出て来たとの事です!」

「な、何だと!? 玄武の野島が!? そ、それは何故だ!!」


報告を受けた男が顔を上げた男の襟首を掴み、引き上げる。


「わ、分かりません……! しかしながら野島隆臣見送りの際に……葉ノ上家の者と逢沢利剣、そして……野島咲紀の姿を見たという報告が……!!」

「の、野島……咲紀だと……? 何を……何を馬鹿な事をぉっ!!」


襟首を掴んだまま力任せに左にかなぐり捨て、三十代の男が廊下へと倒れ込む。


「野島咲紀は、三年前に死んだのではなかったのか!!」

「し、死体は発見されていなかったので、どこかに安置されていたのではないかと!」

「はぁ!? 貴様は死者が甦ったとでもいうのか!!」

「い、いえっ……! しかし報告の通りですとその可能性も……!」

たわけが!」


ガッ!!


「うぐっ……!」


激昂した男が倒れている男の頬を足で蹴り、男が再度廊下へと転がる。


「報告報告と! その報告は間違いなく正しい情報なのか!!」

「そ、それは……! 申し訳ありません……!」


口の端から血を流した男がそれを拭うと同時に返事に困る。


「もう良い!! 貴様にいとまをくれてやる! その目でしかと確認して早急に事に当たれ! これは儂の厳命だ!! 出来なければ死んでしまえ!!」


そう言い捨てて部屋に入ると同時に荒々しく障子をタンッ! っと閉めた。


「仰せの……ままに……」


よろよろと起き上がった男は誰も見ていない廊下で正座をし、恭しく頭を下げた。






あとがき

ここまでお読み下さり、ありがとうございました。

書き始めてはや二ヶ月。

毎日更新出来ているのは一重に皆様のお陰です。

第二章も頑張っていきます。

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