第六十四札 おーるどてーる!! =昔話=
まえがき
「新年明けまして!!」
「おめでとうございますっ♪」
「おめでとうございます」
「うむ、おめでとう」
「おめでとーっ!」
「おめっとー……」
「どうした椎佳? いつもは明るさだけが取り柄のおまゴフッ!!」
「だけは余計やっちゅーねん」
「でも椎佳、本当に元気なさそうだけどー……どうしたのっ?」
「いや、ホンマはこういう前書きって昨日やるもんちゃうん? って思っただけ」
「確かに、一理あるのう」
「昨日は~……何でしたでしょうかっ?」
「Tinatuウィルスとかしょーもない事言うとった」
「あぁ……」
「声を揃えて俺をそんな目で見るのはやめて下さい……」
※本編あらすじとは全く関係ありません。
「
――お母さんの話を聞かせて下さい――
そう切り出した
「姉さんは小さい頃から「天才」と称される程に法術師としての素養が高く、する事なす事
「お母さん……、やっぱり凄かったんだね……」
ポツリと呟く咲紀に隆臣さんが「ああ、凄かったぞ」と優しく微笑んだ。
「姉さんの才能に両親はとても期待していたがそれに対して私はそんなに出来が良くなくてね……。「姉は出来るのに何故お前は出来ないんだ」といつも比較されて辛かったが、今となってはいい思い出だよ」
苦笑いを一つしてから隆臣さんは話を続ける。
「姉さんと
「それがお父さん、なの……?」
「恐らくは。それからというもの
「
「ああ、それはもう。
あの時俺に怒鳴り散らした隆雲さんはまだ序の口だったのか。
「名門の男と結婚するのは野島家の総意。それに従えないと言うのなら野島家の縁を切ると父が言い切った所、姉さんはあっさりと家を捨てて出ていってしまったのだ」
「ひゅぅ! 駆け落ちやな」
ひゅぅ! って
昭和か。
「そ、それからどうなったのっ?」
「姉さんの取った行動にこれまた父が怒り、管轄に移転先を照会してみたり人を使って探させたのだが……、結局県外を出たという事ぐらいしか分からなかったようだ」
「そう、なんですね……」
「それ以来一度も岩手の野島家を訪ねて来た事はないが……私宛に一度だけ、偽名で封書が届いた事があるのだ」
「えっ?」
「恐らく父の目を
「……はいっ」
母さんの話を聞いた咲紀が少し誇らしげに、力強く頷いた。
「手紙はそれ一通だけで、それから姉さんから手紙が届く事はなかったし、私も野島家の跡継ぎとして両親からさらに指導を受ける毎日だったのでな。探そうにも探せなかった……。そんなある日……三年前かな。両親と私の元に「姉が鬼に襲われて亡くなった。娘さんの遺体は見つかっていないが恐らく鬼に食われた」という知らせが警察から入ったのは」
「っっ……」
理解はしていたのだろうが、再度告げられる事実に咲紀が体をビクンと震わせる。
「その時の両親は「娘とは縁を切ったのでもはや関係はない。話す事も知っている事も何もない」の一点張りで警察を追い返してしまったが、私にはその知らせが信じられなかった。あんなに強かった千夏姉さんが鬼ごときに殺されるはずはない。これには何か陰謀めいたものが絡んでいるのではないかと。だから私は決めていたんだ。もし千夏姉さんに関する件で誰かが野島家を頼ってくるような事があれば、今度は何としてでも力を貸してやりたいとな」
「だから「野島隆臣」さん個人として力を貸そう、って言ってくれたんですね」
隆臣さんがどうしてあんなにもすんなりと迅速に東京まで来てくれたのかが今、やっと分かった。
「ああ。咲紀が実は生きていて、咲紀の人生が掛かっているなんて言われたら……いや、言われなくても私は来るつもりだったがね。そう言った点ではあの市松には感謝しなければなるまいな」
「市松ですか……」
「彼か彼女かは分からないが、あそこで騒動を起こして時間を稼いでくれなければ利剣君は父によって追い返されていただろうからな」
「……そうかも知れませんね」
「うん? 誰なんそれ?」
聞いたことのない名前の人物が出て来た事で椎佳が俺に尋ねてくるが、俺にも心当たりがないので「正体不明の市松人形の化身だ」と答えておく。
その答えにますます頭に疑問符を浮かべる椎佳。
「さて、以上が咲紀が知らない千夏姉さんの話だ。少なくて申し訳ないが……」
「いえ、そんな事ないです! ありがとうございましたっ! 叔父さんには感謝してもし足りないです……」
バッと立ち上がって深々とお辞儀をする咲紀に、頭を上げるよう促す手振りをする。
「前にも言ったが親戚を……ましてや尊敬する姉さんの娘を助けるのは当たり前の事だ。気にする事はない」
「それでも、咲紀は叔父さんに救われました! 本当にありがとうございますっ……!」
頭を下げたまま言葉を返す咲紀に、隆臣さんがゆっくりと立ち上がって咲紀の肩を持って上体を起こすと、優しい目で微笑んだ。
「これから先、両親が何と言おうと私は咲紀の力になる。困った事があったら何でも言ってきなさい」
「で、でもっ……」
隆臣さんにこれ以上甘えるのは悪いと思っているのだろう。
戸惑っている咲紀に、隆臣さんが肩に置いた手に少し力を入れて真剣な顔付きをする。
「千夏姉さんの事だって両親が勘当なんてしていなければ起こらなかったかも知れない。もう二度と、あんな悲しい思いを叔父さんにさせないでおくれ」
「…………は、はいっ……」
「宜しい」
根負けして返事をした咲紀に満足して隆臣さんが手を離す。
「さて、私はこれにてお
「えっ?」
「本当はゆっくりしたいのはあるのだが、無断でここに来てしまった事で色々なスケジュールがキャンセルや延期になっておってな。帰ってこいと秘書が
「そ、それは大変ですね……。そういう事情であれば、すぐにタクシーを手配しますよ」
「有難い」
この後俺はすぐにタクシーを手配し、咲紀との別れを惜しみつつ帰路につく隆臣さんを総出でお見送りしたのだった。
・ ・ ・ ・ ・
「利剣っ」
「ん?」
「えいっ!」
「グフォッ!!」
咲紀の拳が腹にめり込んだ勢いで変な声が吐息と同時に漏れ、俺の身体がくの字に曲がってしまう。
「な、何するんだ……」
「ううん、物に
「他で試せよ!! 俺を物扱いすんじゃねえ!!」
「だってぇ~……」
怒鳴っている間に段々と痛みが引き、消えていく。
回復速度が速いとか、便利だけど嫌な身体だ。
「咲紀、考えたんだっ」
「……何を?」
「とりゃっ!」
「うおっ!?」
咲紀の右ストレートが俺の頬に迫ってきたのを掌で受け止めると、パシッと小気味のいい音が響く。
「お父さんとお母さんを死なせた人物がいるなら、咲紀はそいつを見つけ出す」
「……おい咲紀。千夏さんは復讐はするなって言ってただろ?」
「復讐じゃないよ。犯人捜しだもん」
「同じようなもんだろ! 危険すぎる」
「でもね、咲紀が生きている以上は咲紀が忘れたとしても相手は忘れてくれないと思うんだ」
「それは……」
「だから偵察の人を送り込んできたり、利剣の事を長野で殺そうとしたんじゃないの?」
「……で、でも……」
まずいな。咲紀の言い分がもっともっぽく聞こえて反論出来ない。
「それとも、法術は忘れてどこかに隠れながらひっそりと暮らせって言うの? それが咲紀にとって幸せなの? 何かに怯えながら生きるなんて嫌だよ……」
「……」
スッと咲紀が俺の掌に当てていた拳を離す。
「手伝ってなんて言わないよ。咲紀は一人でもやるぞーって言う意思表明だから」
「一人じゃ何も出来ないだろ」
「じゃあ手伝ってくれる?」
「それは……」
真剣な目をした咲紀。
はぁー……本気かよ。
「はぁ……。……ここで嫌だって言える程薄情じゃないんでな……。それに、この世界に来て初めて出会ったよしみだ。気の済むまで付き合ってやるよ……」
「ありがとう。じゃあ気の済むまで手伝わせてあげようっ!」
そう言ってフンッと胸を張る咲紀。
何でそんなに偉そうなのかは分からんが……。
今回の件で一段落ついたと思ったら、どうやらまた慌ただしくなりそうだな……。
あとがき
ここまでお読み下さりありがとうございました。
年明けになってしまいましたが、ひとまず「館の幽霊サキ編」と銘打って
第一章終了ですかね。
本当は章とかあんまり気にはしてなかったんですが、いい区切りになるかなと。
それでは引き続きお楽しみください。
時間を見てちょくちょくと加筆修正入れていけたらと思っています。
一度見た方も再び楽しめるような、新しく見る人にもっと楽しんでもらえるような。
そういう加筆修正にしたいと思います。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます