第五十七札 らんちぼっくす!! =お弁当=

まえがき

野島隆臣さんが仲間に加わった。


「椎佳、すぐに帰るぞ!」

「何でや!? ウチ今流那と小岩井農場に来とるねん!」

「何でだよ!?」

って言う会話の流れを思い付いたんですが、さすがに利剣が単身乗り込んでるのに観光に行くほど椎佳は鬼畜ではないかと思い直しボツになりました。
















「……」


 新幹線の車内。

 チラリと見た窓の外では景色が高速で流れていく。


「……」


 俺の隣には駅で買った弁当を黙々と口に運んでいる隆臣たかおみさんが座っている。


「口に合わんかね?」


 里芋の煮物を箸で器用に挟んだ隆臣さんが顔を上げて尋ねてくる。


「い、いえ、美味しいです……」

「そうか」


 それだけ言って隆臣さんが食事を再開する。


(き、気まずい……!)


 そんな事を考えながら、俺は白米と鮭の切り身を口に放り込んで窓の外に視線を移した。



 ・ ・ ・ ・ ・




 松子まつこが塀の向こうに消えて男達が騒然となった時、隆臣さんが準備を終えて戻ってきた。

 報告を受けた隆臣さんは可能な限りで良いから追跡せよと言う指示を出してから俺に「さて、行こうか」と告げた。


「お、俺が言うのもなんですけど……いいんですか? 屋敷内をぐちゃぐちゃにしたままにしてしまって……」

「良くはないが、逢沢おうさわ君と市松いちまつは無関係なのだろう?」


「え、ええ。誰なのかも分かりません」

「ああ。それならば家の者に市松を追わせるので捕まえたら請求書でも突き付けてやるとするか。もっとも……捕まえられたらの話ではあるが」


 自嘲じちょうめいた笑みを浮かべる隆臣さんの様子を見るに松子の捕縛は諦めているのだろう。

 無理もない、あれだけの人数で束になって掛かっても怪我一つ負わせられなかった化け物なんだから。


「それにもし逢沢君と市松に繋がりがあったならば、君を捕らえている時点で市松を捕らえているのも同じだと思わないかな?」

「……繋がりがあるならばそうなりますね」

「父が目を覚ますと色々と煩い。すぐにここを発とう」

「は、はい!」


 こうして俺と隆臣さんは野島家を後にした。





「はぁ!? 何でそんな事になっとるんよ!?」

「いやぁ、本当に流れ的にそうなったというか……」


 移動の途中、とりあえず椎佳しいかに連絡を入れてこれからの動きを伝える。


「ウチらもすぐ荷物まとめて向かうわ! どこで待ち合わせるん?」

「その事なんだけど、今から電車で盛岡に向かって新幹線のチケットを買うつもりだ」

「盛岡駅やな!? オッケー!」

「ま、間に合うのか?」

流那りゅなを担いででも行くわ!」

「別に、観光してても――」

「こないな時にそないな事しとられへんやろ!」


 プッッ……


 そう言って一方的に通話を切る椎佳。

 どの口が言うんですかね。


「ええっと……、俺の同行者も盛岡駅で合流するみたい、です……」

「そうか」


 それだけ答えた隆臣さんは盛岡行きの電車が来て、それに乗り込んだ後もずっと言葉を発する事はなかった。

 俺自身、野島家の事や千夏さんの事を聞くのは野暮な事だっていうのは分かるし、かと言って何で協力してくれるんですか? とか聞くのも疑っているみたいで機嫌を損ねられてもまずい。

 とりあえずは盛岡駅で椎佳と流那と合流する。

 それまではこの無言の時間を耐えきってやる!




 ・ ・ ・ ・ ・




利剣りけん!」


 聞き馴染みのあるイントネーションに俺はお目当ての人物を探す。


「来たか!」


 椎佳と流那を見つけた俺は軽く手を振って合流する。


「はいこれ、二人分の新幹線チケット」

「はいこれ、利剣の荷物」


 何て不平等な物々交換だ。


「こちらが、野島隆臣のじま たかおみさん……。玄武の管轄長だ」


樹条きじょう椎佳です」

「あっ、せ、瀬堂せどう流那ですっっ」


「野島隆臣だ」


 俺の紹介で頭を下げる二人に、隆臣さんも会釈をする。


「瀬堂……はともかく、樹条は聞き馴染みがある……。確か京都の……」

「あ、それウチの母親ですぅ」

「ふむ……成程な……」


 隆臣さんが口元に手を当てて色々と考えを巡らせているようだ。

 椎佳は椎佳で友好的な表情とは言えない顔つきで明後日の方向を眺めてるし。

 流那は相変わらず状況についていけずに俺の顔を伺っている。

 可愛い奴め。

 お陰で少し落ち着いたぜ。


「新幹線はあと二十分くらいで出るみたいなんで、ホームに移動しましょうか」


 とりあえずツアーガイドのように全員に移動を促す俺。

 俺の言葉に全員がぞろぞろと新幹線乗り場へと移動する。


 ホームに移動するとすでに乗客の列が出来ており最後尾に並んで電車を待つ事にした。


「利剣、もうお昼やなぁ」


 ポツリと呟いた椎佳の言葉に、俺は駅の時計を見た。

 12時30分。

 成程確かに。


 はっ!!

 これは椎佳のナイスアシストか!!


「と、ところで隆臣さんは、お昼まだですよね?」

「そうだな」


「椎佳と流那は?」


「まだ食べてへんで」

「流那もですっ」


「じゃあ俺、皆の弁当買ってきます」


 弁当作戦。

 ご飯を食べてお腹も膨らめば多少は距離も縮まるはず!

 椎佳はそういう意味合いで言ったんだよな?

 俺はそう思ってるぜ。

 決して自分の腹が減ったからじゃないよな?


「それには及ばん」


 買いに走ろうとした俺が隆臣さんの声に動きを止める。


「え?」

「私が買ってくる」


「い、いえそんな!!」


 両手をぶんぶんと振る俺に構う事なく隆臣さんは歩き出す。


「これからしばらくの間共に行動する間柄。遠慮はしなくて良い」


 通り過ぎざまにそう言ってスタスタとホームの端にある弁当コーナーへと歩いて行った。


「あ……ど、どうも……」


 何かちょっと距離、縮まったのか?

 遠慮しなくていいって言ってくれたぞ?


「椎佳の作戦、成功だなぁ……」

「ん? 作戦て?」


「え? 弁当食べたら距離が少しでも縮まるから昼時やなぁ、って言ったんじゃないの?」

「ううん。昼ご飯の時間やなって言ったら利剣が弁当買うてくれるかなって思って」

「おう。俺はお前に失望したぜ」

「何でやねん!?」


 椎佳がビシッと空中にツッコミを入れる。

 この子は本当にマイペースだわ!


「野島さん、良い人なんですね~っ♪」


 流那がニコニコと言ったのを聞いて椎佳が眉をひそめる。


「そぉかぁ~? 何か企んどるかも知れへんで?」

「そ、そんな風にはっ……」

「弁当に毒入れるとか」

「そんな失礼な~っ!」

「うーん……」


 あまり疑うのも良くはないが、椎佳の言う通りというか。

 野島家的には協力を拒否されてるんだよなぁ。

 今回も野島隆臣「個人」としての助力って言う引っかかる言い方だった訳で。

 何かを企んでいるという可能性は十二分にある。

 考えられる可能性は、なんだ……?


「買ってきたぞ」


 隆臣さんが弁当が四つ入った袋をぶら下げて戻ってきたので、俺は考える事を一旦やめる。


「あ、ありがとうございます! ええと幾らですか……?」


 財布を取り出す俺に、隆臣さんがフッと笑う。


「さすがに自分より二回りも下の者から弁当代は受け取れんな。ほれ」


「あ、ありがとうございます……」

「ありがとうございますーっ!」

「おおきにー!」


 それぞれに幕の内弁当が行き渡った時、軽快な音楽が流れて新幹線のホーム入りを伝える構内アナウンスが響き渡った。






 ・ ・ ・ ・ ・




 時はさかのぼって前日の午前。

 利剣が岩手県入りをして、玄武管轄所を訪れた頃。



 プルルル……プルルル……


(もしもし……)


 しばらくのコール音の後、控えめな女の子の声が聞こえる。


「おお、えにしか? 儂だ、れんだ。利剣君達は見つかったか?」

(はい。目標を発見しました)


「んん!? 目標? ああ、利剣君を見つけたのか。じゃあ何かあった際はそれとなく護衛してやってくれ。野島家には葉ノ上家が絡んでいる事が露見せぬようにな」

(分かりました。ひとまず尾行して接触を図ります)


「あ、ああ……任せた。あ! あとな縁! お前は力の加減とか物事の手順をすっ飛ばすフシがあるからな!! そこは重々注意するんだぞ!?

(お任せ下さい。全てぬかりなく……)


「くれぐれも! 突発的な行動は控える事! 後先考えずに行動しない事!! それから――」


 プッ……


 電話が切られて、漣は伝えるべき言葉を止める。


「……人選、間違えたかのぉ……」

「……はぁ……」


 漣の横では御庭番の翡翠ひすいが額に手を当てて苦悩の表情を浮かべていた。











あとがき

年末年始は行きたくもない会社の忘年会とか飲み会があって

原稿落としそうです。

現に今日更新予定だった八老戦記は更新が出来そうにありません。

(一応不定期って言ってるしね……)

楽しみにしてくださっている方がいらしたら申し訳ありません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る