第五十五札 ぐらんどふぁざー!! =祖父=

まえがき

穏便に済ませようと頑張ったのに野島隆雲のじま りゅううんによって追い出されそうになった利剣。

そんな時に庭から煙玉が飛んできて館の中は一時騒然とした雰囲気になる。

気が付けば利剣は市松人形のような少女と背中合わせになり、そこから恋に落ちる。

「って女なら誰でもいいみたいな扱いやめてくれるかな!?」

「吊り橋効果……」

「えっ(キュン……)」

※後半は嘘です。どこからが後半なのかは皆様の想像にお任せ致します。















「キェェェイ!!」


 雄叫びというかもはや悲鳴にも似た声で男が槍を繰り出してくる。

 だが法術の家だからなのか、この男が未熟だからなのかは知らんが軌道が見え見えだ。

 椎佳の槍を食らっている俺からすればこんな突きは朝飯前だ。


「ふんっ!!」


 俺は体を半歩右にずらして突きをかわすと、男の手に木刀を振り下ろす。


 バシィッ!!


「ぐあぁ!」


 打ち据えられた痛みで槍を手放す男から視線を外して右側面から来る木刀の振り下ろしを受け止める。


 カッ!!


「はいぃ!!」


 俺は何となく奇声を上げながら男の腹に右足蹴りを叩き込むと男はくの字に折れ曲がってうずくまった。


「大丈夫か市松子いちまつこ!」


 男どもが一瞬ひるんだ隙を見て俺は真後ろにいた市松子へと振り返る。


「……?」


 俺の声に「何が?」と言いたげに軽く首をかしげる市松子。

 その足元には三人の男がうずくまっている。

 見た所、鼻に一撃が二名と鳩尾みぞおちが一名と言った所だろうか。


「……問題なさそうだな」

「うん」


 左右から挟み撃ちで斬りかかってくる男二人に、袖からトンファーを取り出してそれぞれの攻撃を受け止める市松子。

 ってか袖からトンファーって出てくるもんなの?


 ヒュンッ! ヒュンッ!!


 二人の木刀の威力を上手にいなし、それぞれの脳天にトンファーを素早く打ち下ろすと、男達は白目を剥いて卒倒した。


 痛そう。


 その二名の後を追う形で市松子に迫っていた小手の男がハイキックを顎にもらい、後方に倒れた。


「か、囲め! 同時に攻めろ!!」


 気が付けば十六人ほどいた男どもは半分に減っていた。

 まぁ、俺は二人で市松子が六人倒してるんだけどさ。


「とはいえ、大分状況は楽だが……うわっ!!」


 ドタッッ!!


 そう呟いた時、突然俺の右足の力が抜けて転倒する。


「な、何だ……!?」

「今だ!」


 状態を確認する暇も与えずに男達がそれぞれ槍と木刀で倒れた俺目掛けて攻撃を繰り出す。


「くっ!!」


 何発かもらってでも一人は沈めたいと腹をくくった時、白いお手玉みたいな物が俺の顔の横を通り過ぎた。

 微かに香る、香辛料。


 パンッ!


「ぎゃあぁ!」「目がっ! 目がぁぁ!!」


 どこかで聞いた大佐のような台詞を発して男二人が攻撃の手を止める。


「さ、さんきゅ……」


 市松子の方を見てお礼を言いたかったが、そんな余裕もなかったのでとりあえず目つぶしに当たらなかった男の突きを木刀で弾き上げて喉元に突きを入れる。

 木刀だから死にはしないだろう、多分。


「ガハッ……!」


 唾液を散らして男が喉を押さえて転げまわるのを確認してから俺は右足に目をやる。


「何だ、これ……?」


 右足に貼られた札。

 この札のせいで俺の右足の力が抜けたって事か?

 札を剥がして床に投げ捨てると、右足に感覚が戻ってくる。


「っしゃ、復活! このっ! おらぁっ!!」


 目をこすって悶え苦しんでいた男二名の武器を弾き飛ばしてから木刀で肩と頭にそれぞれ一撃ずつ入れてやると気絶したようで大人しくなった。


 そうこうしている間に市松子の方でも争いが終わったようで、その場に立っているのは俺と市松子だけになった。


「お、終わったのか……?」

「……とりあえず……は」


 冷静になって辺りを見回してみたけど……死んでない……よな?

 ……うん、なんか大丈夫そうだ。


「市松子、ありがとうな。どうにかこうにか切り抜ける事が出来た」

「……ううん」


 ん?

 お礼を言ってから冷静に考えるとだな。


「って、お前が煙玉を投げたからこうなったんじゃないか!」

「ひゅー、ひゅー」


 口を尖らせてはいるが、言葉でひゅうひゅう言ってる市松子。


「口笛吹いて誤魔化そうとすんな。ってか吹けてないから」

「……」

「そろそろ正体を教えてくれよ。お前、咲紀のいとこだろ?」

「……」


 俺の言葉が図星だったらしく、うつむく市松子。


「こ、これは何たる事か……!」


 さっき聞いたしわがれ声がした方へと振り向くと、隆雲がわなわなと震えながら目を大きく見開いていた。


「戻ってきたんですね」


 ドン、っと木刀を床に立ててジロリと睨み付ける俺。

 いやさ、もうどういう対応をしたら許してもらえるのかも見当がつかないわ。

 ここで「暴れてすいません、へへへ」ってヘコヘコしても多分効果はないだろうなーと思ったから、逆に強者キャラで行こうと思った。

 幸い咲紀のいとこもいるし。


「お前は一体、何者だ!!」


「え? って……」


 俺はバッと市松子を見る。

 バッと顔を背ける市松子。


 おま……! いとこじゃないの!?


 てか隆雲じゃないけどわりとマジで「お前は何者だ!?」って聞きたい。


「さぁな? 俺は逢沢利剣おうさわ りけんだけどな」


 心から市松子の存在をはぐらかす俺。

 誰かこの状況をどうにかしてくれ。


「隆雲さん、俺は貴方の力を借りたいだけなんだ。こんな手荒な事をするつもりはなかったんだ。な、なぁ? 市松子……」

「…………。……うん」


 何だよこの間は。


「儂は断じて認めん! このような狼藉ろうぜきを働いたお前たちを絶対に許さんぞ!! もちろん千夏ちなつの件にも一切助力はせん!」

「りゅ、隆雲さん……」


 どうしてここまで頑なに自分の娘の事を嫌えるのか。

 俺は拳を握りしめた。

 この爺さんを数発殴ってでも無理やり連れて帰って……。

 と、玄関の方で何やら声が聞こえた。

 ドタドタと荒々しい足音が近づいて来ると同時に「お館様!」「お待ちを!」と言う声も聞こえる。


 お館様?


 廊下から丸眼鏡を掛け、短い髪を真ん中で分けた年の割りに白髪の多い男が姿を現した。


「こ、これは一体何事か!!!?」


 和室の惨劇を見回してから驚愕する男に、俺達を警戒しながら隆雲が近づいていく。


「た、隆臣たかおみ! 早かったのう!」

「父上、これは一体……!」


 隆臣と呼ばれた男が俺と市松子から視線を外さないまま隆雲に尋ねる。


「賊じゃ! この家に突然押し入り、乱暴狼藉を働いた不貞な輩じゃ!」


 そう言って隆雲が俺達を細い指で差す。


「ち、違います!!」


 隆雲の説明に俺が否定の声を上げる。


「違うにしては随分と我が家の者が手ひどくやられているようだが……?」

「そ、それはこの市松子が……」


 疑いの目を向ける隆臣さんに、俺は目を逸らして市松子を見る。

 どうすんだよ市松子。


「……どうしよう」


 いや、どうしようじゃねえよ!

 考えもなしにこんな事したの!?

 馬鹿なの? 馬鹿だよね!?


「事情は分からないがこれほどまでに怪我人を出されて素直に返す訳にはいかぬ。警察が来るまで逃げられないと思え」


 隆臣さんが両手にズラリと札を出し、戦闘態勢に入る。


「ごっ、ごごご誤解です! 俺と市松子は他人なんです! 警察に捕まるのはこの市松子で――」

「ひどい。私と利剣さんは一蓮托生」


 両手を胸の前に添えて首を振る市松子。

 残念だが市松人形の時点で可愛いとも何とも思わない。


「ねえよ!! 俺は咲紀の件で力が貸して欲しくて野島さんの家に来ただけで討ち入りに来たんじゃねぇわ!」

「咲紀……だと?」


 隆臣さんがピクリと眉を動かして、札を投げようとした手の動きを止める。


「そ、そうです! 俺は野島咲紀さんの件で来ただけなんです! この現状は話の流れで何故かこうなってしまって……!」

「……おい! 警察への通報をすぐに止めろ!」


 俺から視線を外さず険しい目で睨み付けたまま、通報しようとしていた男に指示を飛ばす。


「は、はい!」


 男が慌てて通報は誤報だったと訂正を入れ始める。

 セーーフ……。


「利剣……と言ったか。少し話を聞かせて貰おう」

「は、はい。それはもちろんです……」


 首の皮一枚、って所か。


「その前に怪我人の手当てをさせて欲しいのだが構わんか?」

「も、もちろんです……」


 かくして隆臣さんの指示で避難していた女性を始めとして避難誘導をしていた男達が総出で怪我人の移動と手当てを始めたのだった。










あとがき

ここまでお読み下さり、ありがとうございました。

野島隆臣さん登場。

そして市松子はいとこじゃないの?

じゃあ誰なの!?

次回明らかになるかもです。

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