第五十三札 でぃすかっしょん!! =議論=
まえがき
初日は野島に会う事が出来ず、盛岡観光で終わった三人。
今日こそはと意気込むが……!?
(あ、真面目な前書きですね)
翌日。
再度玄武管轄所を訪れたのだが本日も管轄長は休んでいるとの事だった。
とりあえず至急、東京の
「今日はどこ観るん?」
「どこ観るん? じゃねえよ。俺達の目的は違うだろ」
知らない間に「岩手に来たらここ!観光名所特集千ヶ所!」なんて雑誌を買ってやがる。
ってか千ヶ所もよくチョイスしたな編集者。
多分途中辺りからどうでもいい小道とかちょっと綺麗な溝とか載せてるんじゃないだろうか?
「でもその目的の人物が来てへんねんからしょうがないやん」
「確かにそれはそうなんだが……」
それは、突然のお宅訪問だ。
在宅であれば会ってもらえる確率は高いんだが、そもそも「何で家が分かったのか?」なんて聞かれたりすると面倒だったりする。
警察関係者に知人が居ましてね、なんて口が裂けても言えないし自力で調べた! とか
それに何とか話を聞いてもらえたとして、
しかしそれでも、だ。
咲紀の術を解くためには最終的に咲紀の親族でなおかつ法力が高い誰かに手伝ってもらわなければならない。
前に見せてもらったリストによると咲紀の祖父、祖母、管轄長である
この四人の誰かから協力を得なければならない。
「……このまま待って、管轄所に出てきたとしても会ってもらえるかも分からないし、俺から動くとするか……」
「うん?」
俺の独り言を聞いて椎佳がパタンと観光本を閉じる。
「俺、野島家に行ってみるわ」
「ホンマに言うとん?」
「割と真面目だぞ」
「観光はどないするんよ!?」
「心配する所そこかよォ!!」
ホント、ブレないなこいつ……。
「ウチやない。
「思ってませんよっ!?」
「思ってないだろうが!」
俺と流那の声がハモる。
「ま、それは冗談やけどな。でもそれって流那にとっては危ないんちゃう?」
そう言って流那をチラリと見る椎佳に俺が一度頷く。
「ああ。だから俺一人で行こうかなと思ってる」
「よ、よく分かりませんが危ないのではっ……?」
「せやで。アンタ一人が行った所でなんもでけへんやん」
「それなら三人で行っても同じじゃないか? 流那を守りながら戦うジリ貧の椎佳にすぐ倒れる俺」
「もうちょっと自分を信じたりぃや……」
「なんも出来ない評価をくれたのはお前だろ……」
何とも生産性のない悲しい会話だが、俺は自分の実力をよく分かっているつもりだ。
いまだに法術、使えないしな。
きっと俺の法力は回復速度向上とかにポイント全振りされてしまったんだろう。
「それなら俺一人で訪問して、一時間なり二時間なり報告がなかったら警察に通報するなり何なりしてもらった方がいいかと思った」
「んー……正直ウチは賛成しかねるんやけど……」
「りゅ、流那もです……」
二人で顔を見合わせながらいまいち賛成も反対もしかねる態度で答える椎佳と流那。
「まぁ、そう言うとは思っていたけどさ。でも他にいい案があるか?」
この二人なら何とか勢いで押し切れると踏んだ俺は会話を続ける。
野島に入らずんば咲紀を得ず!!
「りゅ、流那は……管轄所に来られるのを待ってからあちらでお会いになった方がとは思いますが……」
「それがもし、相手が意図的に会うのを拒絶してるとしたら? 何週間、何か月も門前払いを食らうんだぜ?」
「そ、それはぁっ……」
「それやったらウチと利剣で訪問したらええやん」
「流那はどうするんだ?」
「ほ、ホテルの一室に籠もっとってもらうとか……」
「そもそも椎佳のその話は岩手の野島家が俺に危害を加えるという前提の話な訳だろう? 俺に会う事を拒絶してるなら昨日の段階で俺と椎佳、流那の三人が来てるというのは相手に調べられていると思った方がいいと思うぜ」
「う、うん……」
「そうなった場合椎佳と俺が訪問している間に抵抗出来ない流那を何らかの手段でさらう事も考えられるんじゃないか?」
「う……」
よし、いける。
「よって俺が単身突入して、一時間以内に連絡がなかったら警察と宮古さんに連絡して俺を救ってくれ。この作戦でいこう」
「……絶対無理はせんときや?」
「……」
よし、椎佳は落ちた。
流那が納得しかねているが、一つ安心材料を放り込んでおくか。
「ああ、無理はしない。それに大丈夫だと思うぜ? 千夏さんが自分の親族の協力無しでは咲紀に掛けている術が解けないようにしてる訳だし。敵対とか恨まれてるならそんな制約を盛り込まないと思うなぁ……俺は」
「そ、そうですよね……」
よし、落ちた。
正直俺だって単身で突っ込みたくはないが……。
権力を持っている家ならこんな訳の分からん男一人を処分して弱みを作りたくないだろう。
「とりあえず今から野島家に向かう。訪問前にスマホで連絡するから」
「分かったわ」
「分かりました」
「んじゃあな」
そう言ってドアノブに手を掛けた時。
「利剣」
「ん?」
椎佳に呼び止められて俺は振り返った。
「こんな時に言うのはなんやけど……」
両手の指を絡ませて視線を伏せる椎佳。
と、椎佳の親指と人差し指が控えめに円を作る。
「ご飯代、置いてってくれへんか……? ウチ、スッカラカンやねん……」
「……本当にブレないよね、お前は」
俺は財布から数枚の諭吉さんを召喚し、流那へそっと手渡した。
「無駄遣いはしちゃだめだぞ」
「はいっ! 流那がしっかり管理しますっ」
「えっ、ちょっ……!? 利剣、ウチは――」
椎佳が何かを言いかけたが無視して俺はホテルの部屋を後にした。
・ ・ ・ ・ ・
椎佳のブレないノリのお陰で気分は少し楽になった気がしたがそれも一時の事。
これから向かう場所の事を思うと否が応でも気が重くなる。
「はぁ……。丸腰だしなぁ……。静流に素手の稽古もつけてもらうべきだった」
そんな事を後悔しながら俺は盛岡駅から四つ目の駅で下車し、スマホのナビを頼りに目的地と向かう。
――マモナク、モクテキチデス。
ナビの案内通り、少し先に漆喰の塀の上に瓦がズラリと並べられた立派な外構えの家が見えてくる。
「で、でけえ……!」
塀の長さも去ることながら、家屋の大きさに思わず声を漏らしてしまう。
地図アプリで何となく見てたけど、葉ノ上家の二倍近くはありそうな敷地面積だぞ。
「俺、これからここに単身で乗り込むのか……」
ちょっと後悔。
「貴方、法術師?」
「!?」
不意に声を掛けられて振り返ると、そこには十二、三歳の子が立っていた。
目はクリッとしていて大きく、黒髪のおかっぱ頭に落ち着いた色の着物の女の子。
えーと、あれだ。
市松人形。
あんな感じがする。
ってかこんな所で市松人形にエンカウントするとは、何かすげぇ不安になるわ。
「そ、そうだけど君は……?」
「このお家に用があるの?」
俺の質問を無視して市松子が野島家を指差す。
「そうだけど……君は……?」
「そっか。じゃあね」
そう言って市松子は俺が来た方向へと走って行った。
「……え、オールスルー……?」
走って行く市松子の背中を見ながら、戻ってくる事に期待していたが、野島家の角を曲がってその姿が見えなくなってしまう。
「…………」
何だか釈然としないまま、俺は野島家のインターホンを押した。
・ ・ ・ ・ ・
「あらぁ……」
「その話、本当なのかや……?」
静流の話に、二人が同じような反応を示す。
「え、ええ。私も半信半疑ではありましたが、お父さんのと椎佳から聞いた話によると……そうみたいです」
「この世界の隣に、似たような世界があるなんて何だかロマンチックねぇ」
うっとりする
「そんな興味深い話があるとは……! これじゃから人の世とは面白い……!! して!? その世界の狭間とは一体どこにあるのじゃ!? どんな感覚なのじゃ!?」
「そ、それはっ!……私にはっ……わかりっ……ませんっ……」
両肩を揺さぶられて頭を前後にガクガクする静流に、屍が手を離して頭を抱える。
「くぁぁっ! 利剣、早う帰ってこい……! いや、いっそ私も岩手に……!」
普段はクールで冷めた物腰の屍の変わりように、咲紀と静流は言葉を失う。
「屍が壊れたぁ……。りけーん……」
「利剣さん……お早いお戻りを……」
普段は利剣の帰りなどこれっぽっちも願っていない咲紀だったがこの時ばかりは早く帰って来て欲しいと強く強く願った。
あとがき
ここまでお読み下さり、ありがとうございました。
市松子登場。
彼女は一体何なんですかね?
セビィの作品ですよ。
モブキャラという可能性もあります。
ほら、長野の病院の五歳児みたいに……。
続きをお楽しみに!
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