第五十一札 てぃーたいむ!! =茶会=

まえがき

「彩乃さん、俺……!」

「あらあら……私、もうおばさんよ?」

「関係ありませんよ!」

「でしたら……夫を見事打ち倒して私をお奪いになって?」

「よっしゃー!」


ザンッ!!


「グハッ!!」

「まだまだ修練が足りんようじゃな。どれ、二十年程儂が稽古をつけてやろう」

「奪う相手から技を教わるのか……!!」

「門下生、増えましたね♪」

「嵌められた!?」

 ※本編とは全く関係ありません。

 もはやはんぺんです。










紫牙崎しがさきさんと協力して、色々と分かった事があるのだけれど……」


 応接間で流那りゅなの入れた紅茶を飲みながら俺の買ってきたケーキを頬張るひと時。

 彩乃あやのさんが途中経過を皆に伝えてくれようとしていた。


 決して!

 サボっている訳でも楽しんでいる訳でもない。

 だが、作業や仕事の間にはこういったひと時がないと効率が上がらないのだ。

 まぁ、俺は何もしてないけどな!

 強いて言うなら駅前にケーキを買いに行ったくらいだ。


「何が分かったん?」


 彩乃さんに尋ねてからモンブランを口に運ぶ椎佳しいか

 俺もモンブランが良かったのにチョキを出したばかりに奪われてしまった。


「今掛けられている法術の解除には複数の条件があるみたいなのよ」


 そう答えて抹茶ケーキを上品に切って口に入れる彩乃さん。

 彩乃さんは抹茶が好きそうだな、という俺の読みは当たったようだ。


「複数の条件……ですか?」


 ショートケーキをフォークでカットする手を止め、彩乃さんに目線を送る静流しずる


「そうなのじゃ。その辺りは野島千夏のじま ちなつの遊び心と言うべきか、意地悪というべきか……」


 口調を隠す事が疲れてしまったのだろう。

 ガトーショコラをつつくかばねの口調はいつもの口調に戻っていた。

 彩乃さんもそれを聞いて何も言わない所を見ると、さして問題でもなかったんだろう。

 てか屍。

 のじゃっ子ならお前も抹茶系だろう。

 何でチョコレートなんていう洋モノを選んでいるんだ。


「ふぇ? 意地悪、ですか?」


 ベイクドチーズケーキを嬉しそうに頬張っていた流那りゅながちゃんと飲み込んでから屍の言い方に疑問を感じて尋ねる。

 流那はショートケーキっぽいと思っていたのに意外だ。


「うむ。札に書かれている文字や種類、記号を読み解いておったのじゃが……どうにも反作用的な力をめれば壊せるという術式でもなさそうでのう……」


「オーケー。俺にでも分かるように説明をしてくれ」

「さ、咲紀さきにも分かるようにっ……」


 素直に分からなかった俺と咲紀が手を上げて発言をする。

 ちなみに俺は、屍が選ぶだろうと思って買った抹茶のロールケーキだ。

 結果的にジャンケンに負け続けた俺は残り物となったロールケーキを食べる羽目になった。

 別に? また買うからいいし。

 悔しくないし。


「そうねえ……。今分かる所でお話するとまずは紫牙崎さんの呪術を使って咲紀さんの身体にまとわりついている呪力を抑え込まないといけなさそうね。その状態を維持して次は他の法術師……、例えば私が法術を使って時止めの札の効果を無力化させるのだけれど、その後にまだもう一段階あってね……」

「何やそれ……。何かアレみたいやな。ほら、大きい人形が小さくなっていくやつ」

「マトリョーシカ?」

「そうそれ!」


 さすが椎佳の双子の姉と言った所だろうか。

 椎佳の雑なヒントですぐ答えが出てくるのが凄いわ。


「うーん、どっちかっていうとピタゴラスイッチみたいな……」


 咲紀が何か言ってるが無視してやる。

 てかお前暇だからって子供向けのNH〇とか見てんなよ。


「あーっ! 確かにぴたごらすいっちみたいですね~♪」


 咲紀の言葉を拾った流那が嬉しそうにポンと手を叩く。


 アッー!

 仲間がいた!!


「ピタゴラスの定理がどうかしたのかの?」


 やっぱりのじゃっ子には分からんか。


「定理じゃないよー! ピタゴラスイッチって言うのは――」

「で、で! その彩乃さんが法術を無効化させた後に何が待っているんですか?」


 これ以上ピタゴラスイッチの話題を広げるのは良くないと判断した俺は説明しようとする咲紀の言葉を遮って珍しく話を元に戻す側に立った。

 色々と知りたい屍が「むぅ……」と不服そうな声を上げるがここは我慢してもらおう。


「それが……」


 彩乃さんがチラリと咲紀を見て言葉を濁す。

 視線を感じた咲紀が不思議そうな顔をした時、屍が口を開いた。


「血縁、親族で法力が強い者の協力が必要なようじゃ」

「ええ……」


 屍が率先して言いにくい事を言ってくれた事でどこか安堵しつつも申し訳なさそうに頷く彩乃さん。


「血縁……強い人……」


 屍が言った事を小声で復唱する咲紀。


「咲紀のお母さんの方の……野島さんか」


 確か咲紀のお父さんの方は軒並み平凡な法術師だと聞いた。

 そうなると消去法で玄武の管轄長をしている野島家に頼らざるを得なくなる。


「確かにそっちはまだ会っていませんね……」

「母さん、屍。それって確かな事なん?」


 椎佳の問いかけに自然と二人が視線を交わす。


「確定ではないのだけれど、ねえ……」

「術式の構築や文字の配置がわざとクセのある独特な使い回しになっておってのう……。不要な文字や術式も交ぜておるようなので苦労しておるのじゃ……」


「オーケー。俺にでも分かるように説明をしてくれ」

「さ、咲紀にも分かるようにっ……」


 再度、素直に分からなかった俺と咲紀が手を上げて発言をする。


「凹凸のない真四角のピースのパズルで、違う絵柄のパズルも混ぜ込まれている中で一万ピースの絵を完成させるような物といえばわかりやすいかのう?」

「咲紀の母さん、最低だな」

「母さんの悪口を言うなーっ!!」


 咲紀が非難の声を上げるけど、確かにそれは凶悪かつ意地悪だ。


「何か、手伝えなくて悪いな」


 素直に申し訳ないと思った俺が頭を下げると屍と彩乃さんは首を振った。


「いいのよ。これは宮古がずっと追いかけていた事件を解明する鍵にもなるんだし。宮古が悩んでいたのを知っていたから、母親冥利みょうりに尽きますわ」

「私は、自身の知識と経験になるのでな。この件は好きでやっておる。それに……。いや、何でもない」


 咲紀をチラリと見て口を閉じる屍。

 咲紀がどこか嬉しそうに頬を染めている。

 お前らそういう関係か。


「さっき彩乃さんと屍が言った事が本当で、必要なら……俺は玄武の管轄長に会ってくる」

「ウチもいくで」

「私も、お供します」

「りゅ、流那もっ」


 俺の発言を聞いて静流、椎佳、流那が次々と手を上げる。


「お主ら全員が向かえばこの家がカラになるではないか……」

「じゃあ俺は残る」

「何でや!!」


 パァン!!


 椎佳のスナップの効いたツッコミが俺の胸に入る。


「痛ってぇ!」


 本当に痛い。


「本当は咲紀が行けたら一番いいんだけど……」

「咲紀は離れたら不味まずい気がするんだろう?」

「うん……」


「咲紀は術の効果範囲を感じ取れておるんじゃな」

「ん? どういう事だ?」

「今咲紀の体にかけられておる術には一定の範囲があってのう。その範囲を越えると術の効果が弱まったり、失われたりするのじゃ」

「もちろん、今かかっている術が弱まったり失われたりするなら距離を離せば……って言う話じゃないんだよな?」


 俺の質問にコクンと頷く屍。


「うむ。その方法で術の解除をすると恐らくじゃが、咲紀の魂は二度と肉体に戻ることが出来ずに永遠に彷徨い続けるじゃろうな」

「咲紀、このお家に引きこもる」

「今までずっと引きこもってんじゃねえかよ」

「無理に出なくて良かったよぉ……」


 安堵で胸をなでおろす咲紀。


「ふぅん。そんじゃあ咲紀は霊体だけど本当は死んでいなかった。深い傷を負った体を治すために千夏さんの術で分離していただけ、って事か」

「そうじゃろうな」


「だから霊感のない流那にも見えるって言う事か……」

「なるほどです~っ……」


「あ!」

「どうした椎佳?」


「ええ事思い付いたで!」


 椎佳が全員を見てからニヤリと笑う。


「咲紀の霊体が離れられへんのやったら、体ごと野島さんの所へ運んだらええねん!!」

「おぉー! あったまいいな椎佳!!」


 まさに逆転の発想ってやつだ。

 咲紀の霊体が離れられないなら、体ごと運べばいいのだ。


「それ……なんだけど椎佳……」

「うん?」


 言いにくそうに彩乃さんが着物の裾で口元を隠す。


「どうやら咲紀さんの身体は傷を癒すために、土地神様と契約をしているみたいで……」

「へ……? 土地神……」


 それを聞いてポカンとする椎佳を見て、咲紀の体を運ぶのは無理な事なんだと俺は何となく察した。


「無理という事は分かった」

「うむ。土地神は名の通りこの洋館付近の地域を守る神でのう。契約があるから術を正しい手順で解くまでは動かさぬ方が良い」

「詰んだ!」


 椎佳が両手で頭を抱えてった。


「まぁ、咲紀が行けなくても俺は行って来る」

「私も行きます」

「りゅ、流那も」

「ほなウチ――」


「それはもうええっちゅうねん!!」


 何とも締まりのない会話が延々と続くのだった。








あとがき

ピタゴラスイッチ。

あのシステムは凄いですよね。

あんな感じでネタもポンポンと浮かんだらいいのに。

ここまで読んでくださってありがとうございました。

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