第四十九札 ちゃいるどふっど ふれんど!! =幼なじみ=

まえがき

「ちょっとツラ貸しぃや」

「ここは昭和じゃったかの…」

「平成終わってもう令和だけどな」


「うっさい利剣」

「何か最近よく黙れとか五月蝿いって良く言われるけど、俺まともな事かエロい事しか言ってないからな?」

「その二極は人としてどうなのじゃ……?」

「のじゃっ子ってどうしてそうやって人の心をえぐって来るの?」

「何じゃ? のじゃっ子って……」




















「始め!」


 俺の開始の合図で、相対している二人が瞬時に戦闘態勢に入る。


「せやぁぁ!」


 掛け声と共に最初に動いたのは椎佳しいか

 先手必勝と言わんばかりに駆け出して距離を詰め、疾女はやめで突きを放つ。


「むっ……」


 それに当たるまいと椎佳の立ち位置からおおよそのリーチを読んで後方へ飛ぶかばね


 ビュンッ!!


 両手でしっかり握りながら繰り出された鋭く重い突きは、概ね屍の読み通りの位置まで来てその穂先をピタリと止める。

 刃にカバーを着けているとは言え、当たると痛そうな勢いの突きを見ると椎佳は本気で当てに行ってるんだろうなぁなんて考えてしまう。


「甘いわぁ!!」


 椎佳が吠えてから右手をパッと離して体を時計回りに反転させたと同時に左足を前に一歩踏み出して突きの距離をさらに伸ばす。

 これは当たるな。


 ガキンッ!!


 そう思った直後、金属の音が辺りに響き渡ったかと思うと槍に触れる前に屍の体が後方に吹き飛んだ。


「逃がさへんで!!」


 後ろに吹き飛んだが受け身を取る様にゴロゴロと転がる屍を追撃すべく椎佳が疾女を握り直す。


 パンッ!! パパンッ!!


「くあっ!!!?」


 追撃していた椎佳の足元で複数回小さな爆発が起きて火花が飛び散った事で躊躇が生まれて速度が鈍る。


「ふぅ…」


 その間に屍は距離を取って跳ね起き、パンパンと衣類の土を払った。


「今度は私の番じゃな」


 スッと懐から数枚の札を取り出して真上へと放り投げる。


「青龍よ、その力を解き放て! 雷牙矢らいがや!」

「ええ度胸や! 白虎びゃっこよ! その力を示してウチに力を顕現けんげんさせぇ!! 金剛こんごう!」


 屍の法力を受けた札がバチバチと雷をまとい、椎佳目掛けて降り注ぐ。

 それに対して迎え撃つつもりの椎佳が法術の詠唱を叫ぶが特に大きな変化は見られない。

 あれか。

 前に言ってた重量と硬度を上げる術か?


「でぇりゃあぁ!」


 見事な槍さばきで迫り来る雷の矢を食らう事なく次々と払い落とす椎佳。


「見事じゃのう」


 そう呟いた屍はというと、術を放った直後に椎佳目掛けて駆け出していた。

 手に別な札を持って。


大鎌おおがまァァ!!」


 屍の接近を許す前に全ての矢を弾き落とした椎佳が得意技の疾女による横薙ぎを放つ。


 ガキンッッ!!


 また金属音。


 渾身こんしんの横薙ぎが見えない壁に弾かれたように見え、椎佳の上半身がその反動で大きく反対方向へとのけ反った。


「やっ!!」


 体勢を崩した椎佳に、好機と踏んだ屍がその足元に滑り込んで足払いを掛ける。


「ちぃぃっっ!!」


 だが椎佳も弾かれた上半身の勢いに逆らわずにそのまま利用する形で右足を軸に左足で蹴りを放った。


 ドッ!!

 ゴッ!!


「ぐあっ!」

「つっっ……!」


 屍の足払いによって椎佳が尻餅をついて転倒し、椎佳の蹴りが側頭部をガードしていた右腕にヒットして屍の体が地面へと転がる。


「くっそぉぉ!!」


 転んだままの椎佳が地面に平行する様に疾女を両手で振るい、それを屍が両足の裏で受け止める。


「やるなぁ……」

「お主こそ」


 肩で息をする椎佳と屍がお互いに不敵に笑い合う。

 動きはほぼ同時だった。

 屍は足で槍を蹴って後方転回……つまりバク転を行い、椎佳は蹴られた槍を真上に持ち上げて屍目掛けて振り下ろす。

 ギリギリの所で椎佳の槍を回避する屍と距離が空いた事でバッと立ち上がる椎佳。


 二人の距離と構えが手合わせ前と同じ状態に戻る。

 力量は互角……か?

 固唾かたずを飲んで次の動きに注目していた時、双方が構えを解いた。


「はぁ……やめややめや……」

「うむ。そうじゃな」


「え?」


 突然の手合わせ終了に俺は間の抜けた声を上げてしまった。

 俺の声を受けて椎佳は槍を肩に置いて渋い顔で屍を一瞥する。


「何か長期戦になりそうやし、そうなったら根比べみたいな感じやからな。軽い手合わせのつもりやったからここいらでおしまいや」

「私はすぐに仕留めるつもりじゃったのじゃがな。意外にしぶとくて仕留めるのに骨が折れそうじゃからな。手合わせはこれにて終いにしておいてやろう」

「へっ、言うとけっ」


 屍の言葉を受けて椎佳が悪態をついて舌を出す。


「引き分け……って事でいいのか、な?」


 俺の質問を聞いた二人がほぼ同時に。


「今回はな」

「今回はの」


 と返事を返した。




 ・ ・ ・ ・ ・ 




「お、お疲れ様っ……」


 手合わせを終え、あてがわれた自室に戻る途中の屍に向かって館内にいた咲紀さきねぎらいの声をかける。


「うむ。ありがとう」

「うん……」


 そこで会話が止まってしまったが、二人ともその場から離れようとしない為微妙な沈黙が流れる。


「か、屍さんはっ……」

「屍。……呼び捨てでよいぞ、咲紀」


 他人行儀な咲紀に、フッと笑う屍。

 その笑みはこの館に来て初めて見せる優しさに満ちた笑みだった。


「昔みたいに……と言っても覚えておらぬとは思うが屍と呼び捨てで良い」

「う、うん……」


 昔の自分は彼女とどんな接し方で、どんな話をしていたんだろう。

 全く思い出せない自分に対して悔しさと苛立ちを覚えながらも咲紀はそれを顔に出さないようにつとめる。


「屍と咲紀はさ……親友だったの?」

「ふむ……」


 親友だったか、の質問を受けて屍はあごに手を当てて考え込む。


「どうなんじゃろうな……」

「えっ? 違うの?」


「ん、いや。違うと言うか……。会っておったのは夏と冬の年二回の数日間だけじゃったからの……。日数で言うと少ないので親友というくくりの判断に悩むと思うての」

「そーなんだ……」


「それに咲紀には咲紀の友達もおったじゃろうし、咲紀が私の事をどう思っておったのかは分からぬが……」

「う、うんっ……」


「私はお主の事をかけがえのない存在とは思うておるぞ」

「ほ、本当に?」


 不安そうに尋ねる咲紀に、屍は力強く頷いた。


「うむ。そうでなければこのように利剣の家に押し掛けたりはせぬよ」

「そっか……そうだよねっ!」


「うむ」

「屍の事と咲紀の事聞いてもいいっ?」

「構わぬぞ。ただ……」


 そう言ってから屍は自分の服をクン、と嗅ぐ。


「汗を流して着替えてからで良いかの……?」

「あははっ! もちろんだよー!」




 ・ ・ ・ ・ ・ 




「な? 悪いやつじゃなさそうだろ?」

「……今はな。この先分からへんし、ウチはまだ信じられへん」


 物陰から監視していた俺と椎佳。

 俺の質問に椎佳が納得いかない表情でムスッと答える。


「まぁ、今はそれでいいんじゃないか? ところで、椎佳の攻撃が二回くらい見えない壁に弾かれたように見えたんだが、あれは何だ?」

「んー……。多分玄武げんぶの力を借りた障壁しょうへきやろな」

「防御術まで使えるのかあいつ」

「ごっつぅ腹立つけどな……」


「あぁ、後さ……」

「ん? な、何や?」


 俺はそこで言葉を切って椎佳を見つめる。


「椎佳は風呂で汗を流さなくていいのか?」

「っっ!!!!」




 この後俺は館の廊下で鳩尾みぞおちを押さえながら十分ぐらい悶え苦しんだ。






あとがき

ここまでお読み下さり、ありがとうございました。

椎佳的には屍みたいな呪術士は指先ひとつでダウンさ的な思いがあったみたいですが、予想外だったようですね!




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