第四十八札 せるふぷろくれいむ!! =自称=

まえがき

「私を、嫁に迎え入れる気はないかのう?」

「ぎ、銀髪のじゃっ子が俺の嫁だと…!?」


「これは、夢か……!?」

「夢というか、妄想じゃの」

※前回こんな話はしておりません。



















「ウチは反対やで」


 応接間でかばねから提案された内容を相談した所、開口一番に椎佳しいかが言った台詞せりふがこれだった。


「随分と短慮たんりょじゃのう」


 椎佳の方を見てヒョイと肩をすくまませるかばね

 そういう行動が火に油を注ぐんですが!


「何やて?」


 キッと椎佳が屍を睨み付けるが、屍は涼しい顔でぶつけられた敵意を受け流す。


「よくよく考えもせずに個人的な感情だけから反対と言うたように見えるのじゃが、それはしっかり考えた上での返答かの?」

「あぁ、せやで」

「お主らの母親がここに来るとの事じゃが、樹条きじょう家は確か京都の法術家系。私より呪術に詳しいとは思えんがのう?」

「ウチの母さんは色々と詳しいしツテもあるしな。心配してもらわんでもええで」

「ほぉ? また一から解読出来るかも分からん呪術士をここに呼び寄せるのかのう」


 お互いが視線を逸らさずににらみ合ったまま会話が進んでいく。


「他の! 他の皆はどうなんだよ?」


 これ以上ヒートアップすると、手や術が飛びかねないので俺はとりあえず他のメンツにも意見を聞いてみる。


流那りゅなはどうだ?」

「え、ふええぇっ!?」


 突然最初に話題を振られた流那が悲鳴にも似た声を上げた。


「ど、どうして流那からなんですかぁ~っ……!?」

「い、いや……流那センサーって結構人を見る目がありそうだなと……」

「何ですかそのセンサーっ……」


 言った俺も分からないですよぉ……。


「とりあえず全員に聞くんだから、直感で答えてくれ……」

「え、ええと……」


 屍の視線と椎佳の視線が自然と流那に集中する。


「りゅ、流那は……」


 前門の椎佳、後門の屍に睨まれ、身動きが取れなくなる流那。


「流那は、賛成かなと……おもい……ます……」


「アァン!?」

「ほう……」


 意外に思った屍がちょっと驚いた顔をして思わず声を漏らし、椎佳からはチンピラかヤンキーが恫喝どうかつする時に出しそうなドスの効いた声と、圧倒的な目力が籠められた視線が流那を襲う。


「ひ、ひぃ……」

「おい椎佳……。相手は流那だから脅しはやめろ……」


 泣き出しそうな流那の前に立ち、とりあえず椎佳に注意する俺だったが、俺も結構怖かったりする。


「……理由は?」


 とりあえず睨むのをやめ、ちょっと不貞腐れたような、むくれた表情で流那に問いかける椎佳。


「え、ええと……。お話を聞いていたり……咲紀さんを見る視線がその……いい人なんだなぁって感じて……」

「ええ人!? どこが!?」


 流那の理由に納得が出来ない椎佳が声を荒げて屍を指差した。


「こいつは! 利剣を呪術で操って咲紀の存在を喋らせたんやで!? 人に術をかけるような奴はロクな奴やないわ!!」

「俺の額を踏みつけて地下室に落とそうとした奴もロクなやつじゃないけどな」

「今はそんな話しとるんちゃうわ!!」


 えぇ……。

 どんな話なの今のこれ……。


静姉しずねえはどうなんよ!?」


 静かに様子を見ていた静流しずるに対して椎佳が視線を送る。


「私は……どちらかと言うと反対です」


 ゆっくりと俺を見てから、屍へと視線を流す。


「理由は椎佳も言っていますが聞きたい情報があったからという理由で、やはり他人に呪術を使って情報を聞き出すという所が信用出来ないです。例え咲紀さきさんと幼なじみであったとしても」

「……」


 静流の落ち着いた雰囲気を放ちながらの非難に、茶化す事も反論する事もせずに屍は黙って目を閉じた。


「利剣はええのんか? 勝手に操られて情報引き出されて。次もないとは限らへん! もしかしたら夜中に呪い殺されるかもしれへんねんで!?」

「呪術はそのように簡単に殺せるものでは……」

「アンタの意見は聞いてへん!」

「はぁ……」


 椎佳の気持ちのたかぶり様に、何を言っても無駄そうだと言わんばかりに大きなため息をついた屍が俺を見た。


「俺はまぁ……この話を皆に相談した時点で、滞在してもらおうかなと思っていた」

「アホやん……」

「アホちゃうわ」


 とりあえず椎佳の暴言に関西弁で返して言葉を続ける。


「俺個人としての推測だけどさ、もし屍が犯人側の人間だとして、咲紀の存在を調べに潜入しに来たんなら、咲紀の存在に気付いた時点で帰らないか?」

「そんなん、裏をかいてあえて残っとるかも知れへんやん」


「それに宮古さんも屍の事を知っていた。つまり一度捜査はしてるんだと思う」

「利剣、色々と知っておるんじゃのう? 警察関係の者じゃったか?」


 あ、やべ。

 こういう捜査系の話って一般人の俺は全部知らないってていで話さないといけないんだっけ?

 まぁ、でも宮古さんと一緒に長野や新潟へと行動してる時点で相手からすればそういう情報も知ってるのでは?と思われているだろうし手遅れじゃなかろうか。

 うん、そうだよな。手遅れだろうきっと。

 俺は自分の中でどうせ手遅れだろうと勝手に結論づけた。


「警察じゃないけど、色々と話は聞いてるもんで……」

「ほう……」


 屍の探求心に満ちた視線が俺を捉える。

 俺は絶対口を割らんぞ!


 おっと、とりあえず本題本題。


「裏をかいて残ったとして、目的はなんだ?」

「この館への侵入の手引きとか、咲紀の身体を処分して証拠隠滅とかやろ」


「そこまで疑うなら、館の警護として雇っている椎佳の出番じゃないか」


 そう言って俺はニヤリと笑ってやる。


「普段、そんなに警護してないみたいだし……」

「し、しとるわ!」


 咲紀から色々聞いてるぞ。

 おさぼり椎佳さんよぉ。


「それこそ逆に屍が犯人側だとして、今追い出した方が襲撃計画とか組織の情報が全くつかめなくなるんだぜ?」

「今吐かせたらええやんか!」


 疾女を構えようとする椎佳。


「椎佳、やめなさい」


 静流が疾女の柄を握って動きを止めた事に対して椎佳が振り向く。


「何でや?」

「私はあくまで「滞在は反対」と言っただけで、屍さんが犯人側だとは考えていないわよ」

「くっ……」


 顔をしかめつつもゆっくりと疾女を戻す椎佳。


「さて、ここまでの意見は2対2。咲紀は……どうなんだ?」


「え……?」


 部屋の端の方をふよふよ浮いていた咲紀に尋ねると、咲紀は一瞬驚いた顔をして、チラリと屍を見た。


「咲紀は……賛成、かな……」


「咲紀……」

「咲紀さん……」


 咲紀の答えに、静流と椎佳が同時に名前を呟く。


「分からないよ? 全然覚えてないし、一つも思い出せないんだけどさっ……なんなんだろーね?」


 たどたどしく話してくれる咲紀の言葉を、皆ただ静かに黙って聞く。


「咲紀の知らない咲紀の過去を話してくれる屍さんが……何だかとっても優しく見えて……。あぁ、屍さんの言ってる事は本当なんだろーなーって……そんな風に思えちゃって……」

「……あーあ」


 突然椎佳が声を上げ、両手を頭の後ろに組む。


「咲紀本人が賛成って言うんやったら……しゃーないわなぁ……」

「そうね。3対2じゃあ従わざるを得ないわね……」


 場をこれ以上悪くしないようにという気遣いからか、やれやれと言った雰囲気をわざと前面に出しながら二人が何とか折れてくれた。


「静流さん……椎佳っ……」


 咲紀が嬉しそうに笑ったのを見て、同じく笑う静流と椎佳。

 いい話だなぁと思ったのか流那の目の端には涙がうっすらと浮かんでいる。

 と、思ったら突然椎佳がビシッ! っと屍を指差した。


「とりあえず滞在は認めたるけど、おかしな行動したらすぐ警察に突き出すからなっ!!」

「うむ。精々気の済むまで監視するといい」


 余裕のある様子で椎佳をまた挑発する屍。


 この二人はずっとこんなノリでやっていくんだろうか?

 不安だぞ。


「さて……しばらくお主の館で厄介になる。改めてよろしく頼む」

「こちらこそ。咲紀の謎解明に尽力してもらうからな」


 そう言って俺が手を差し出すと、屍も手を出して互いに握手を交わす。

 手、柔らかいなぁ。


 こうして我が家に自称「諸葛亮孔明」が期間限定で居候することになった。

 呪術を扱うのじゃっ子にして、咲紀の幼なじみ。

 頼もしい人材が増えたと喜ぶ半面、また面倒ごとが起こるような……。

 そんな予感がひしひしとしていた。







あとがき

ここまでお読み下さり、ありがとうございました。

濃いですね。

屍の似顔絵はあるんですが、ちょっと準備中です。

次回もまたよろしくお願いいたします。

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