第四十五札 るーつ!! =根源=

まえがき

「こっちじゃ!」

屍さんの後についていく一同。

その歩みに迷いはなく、ただ一ヶ所だけを目指して足早に進んでいく。

階段を下りて食堂のドアを開け放ち、ずんずんと奥へ進み、そして。

「ここじゃ!」

たどり着いたのはキッチン。

「え……ここから法力が……?」

俺の言葉を無視して屍さんが棚の引き戸を開ける。

ガラッッ!

「あった! 大福じゃ!」

「え……? 大福……?」

「この匂いが邪魔で法力を探れなくてのう」

「どんな嗅覚だよ!」

※嘘です。本編をどうぞお楽しみ下さい。



















「ふむ……一階のようじゃな」


 俺には感じ取れないがかばねさんには感じ取れているんだろう。

 階下に降りてから左右を見てから応接間のある西側とは反対方向を指差す。


「東側には何があるのじゃ?」

「えーと、東側にはトイレ、男湯、女湯、厨房、普段くつろいでる和室と……あと物置があるな」


「決まりじゃな」


「おん……」

「女湯とか言わへんやんな?」


 俺が言い切るより早く椎佳しいかが釘を刺してくる。


「……ものおんきものおきだべさ」


 苦し紛れになまらせてみた俺を流那りゅな以外の女性が冷ややかな目で見る。

 流那だけは俺が誤魔化ごまかす為に訛って話した理由や女性陣の間に流れる冷たい空気の原因が分からずにキョロキョロとしていた。


「……こういった事態の時でも空気を読まずに自分の言いたい事を言う性分を見るに、私より社会への適応が出来ておらぬように見えるのう……」

「自分の口調が社会に適応してない自覚はあるんだな」

五月蝿うるさい」


 くっそ、のじゃっ子に社会に適応してないとか言われると地味に心にくるぞ。


「おふざけはさておき、物置に行ってみるかの。案内を頼む」

「お、おう……」


 人の心を傷つけておいて平然と被害者に案内させる加害者。

 案内も何もそんなに広い家じゃないから物置にはすぐに、たどり着いた。


「ここだな」

「ここは普段使っておるのかや?」


「いんや。使うほど荷物がないから使ってない」

「そうか」


 そう言って物置のドアを開ける屍さん。

 窓のない真っ暗な部屋。

 屍さんが壁のスイッチを押すと天井の電球がぼんやりと灯る。


「……」


 ゆっくりと部屋を見回してからゆっくりと歩く屍さんの様子を廊下から覗き込むように観察する一同。


 コツ……コツ……


「……この下からうっすらと法力が漏れておるようじゃ」


 しゃがみこんだ屍さんが指で床下をノックしながら俺を見る。


「床下……? 地下!?」

「うむ」


「え? で、でも咲紀さきはいっつも壁やら天井とか霊体だから抜けてたし、床下だって……」


 そう言いながら咲紀を見ると、信じられないこいつ、何言ってんの? と言わんばかりの顔で俺を見る咲紀。


「地面なんてもぐる訳ないじゃん。非常識な……」

「天井とか屋根抜けるのも非常識だわっっ!」


 幽霊に常識を問われ、思わずツッコミを入れる俺。


「地下があるだなんて……兄さんは何も……」

「恐らくは警察も地下の存在はおろか法力の流れも気づかなかったのではないかの?」

「はぁー……、そんな事があり得るんかいな……」

「現にお主らも気付かなかったじゃろう? かくいう私も昨年来たときは気付かなかったからの。さて、床の何処かが動く仕掛けならいいのじゃが……」


 静流や椎佳の言葉に一つ一つ返事を返しながら床や壁を調べ始める屍さん。


「もし仕掛けがなかったら?」


 俺の質問に、屍さんが俺を見てフフリと笑みを浮かべる。


「主から調査許可を得ておるからの。床を破壊して道を作らせてもらおうかの」


 調査許可は出したが破壊許可は出してねぇよ。


「おっと、これは……」


 コン……カン……コン……。


 屍さんが何かを見つけたらしく、床の一部を叩く。


「……マイナスドライバーはあるかの?」

「取って来ますね」


 そう言って静流が部屋を離れた。


「……」

「気になるんやったら、先に潜ってみるか?」


 床の一点を眺めている咲紀を気遣って椎佳が声を掛ける。


「ううん……。地下に何があったとしても咲紀は……咲紀を心配してくれた皆と一緒に見たいかな……」

「そっか。ほなそうしよっか」

「うんっ」


 そう言って二人はニコッと笑い合う。

 その様子を横目で見ている屍さんはどこか羨ましそうにも、自分も混ざりたいけど混ざれない事をもどかしく感じているようにも見えた。


 しばらくしてマイナスドライバーを静流から受け取った屍は床の一部に刺しこんだ。


 よほど注目しないと気付かないような隙間にマイナスドライバーを入れて、テコの原理で傾けると床板の一枚が軽く浮き上がった。

 それをドライバーで力を入れて起こすとギギギと音を立てて徐々に上がっていき、板の裏側に取っ手のような握りがついていたのを握った屍さんが一気に引き上げる。


 ズズ……


 隙間に積もっていた埃が舞い、少し大きめの座布団くらいの床板を持ち上げるとなんとそこに地下に続く梯子が姿を現した。


「地下……」


 俺が呟くと、屍さんがふぅと息を吐いた。


「さぁ、館の主を先頭に地下探検に参ろうかの」

「お、おう……」


 地下がどうなっているのかが分からないのに俺を先頭にする屍さん、パねぇっす。

 しかし女性陣を先に行かせる訳にもいかないよなぁ……。

 俺は意を決して縦梯子たてばしごに足をかけ、ゆっくりと下へと降りていく。

 錆び?

 何か鉄臭い。


「利剣、スマホのライトをONにしといたらー?」


 梯子を下りて少し。

 顔以外を床下まで沈めた所で椎佳からナイスな提案が出される。


「おう、そうだな」


 そう言って俺は自然に首を上げたが、何と言うか。

 期待するような光景はなかった。


(流那のロングスカート以外は全員ジーンズとか綿生地のパンツとか)


「踏んで落としたろか?」


 笑顔を浮かべながら足を上げて俺の顔を踏もうとする椎佳。


「お前は俺の心が読めるのか? もしくは心が男なのか……」


 そう軽口を叩いた直後。

 椎佳のストンピング踏み落としが俺の額にヒットし、危うく俺は真っ暗な地下に落下しかけたのだった。




 ・ ・ ・ ・ ・




「痛てて……。しかし真っ暗だな……。地下だしそりゃそうか」


 なんて独り言を言いながらスマホで辺りを照らす。

 広さは十四帖ほどだろうか。

 少し広めのリビングと言ったところだ。

 埃なのか錆なのか、何というか空気が悪い。


 部屋の真ん中には台? テーブル? が置かれているくらいで他には何もない。


 いや。


「……天井や壁に何か貼ってあるな……」


 何かうねうねと文字が書かれているが俺には読み取れない。


「うわぁー! 何やここ! 広っっ!!」


 次に下りてきた椎佳が驚きの声を上げ、地下室内に声が反響する。


「てめぇ、さっきは落下しかけたじゃねえか!」

「ごめぺろ」


 ちょろっと舌を出す椎佳。

 こいつだけは許さねえ。

 いつか仕返ししてやる。

 そう、いつかだ。


「この空間は……」

「わぁ……真っ暗だねえ……」


 続いて静流と咲紀が降りてきて、最後に屍さんが床に足をつける。


「ほう……」


「あれ? 流那は?」

「流那さんは……降りるのが怖いという事で……」


 静流がそっと梯子の上を指差した。


「あぁ、分かった」


 流那、かわいそうに。


 そんなやり取りをしている中、屍さんだけは天井や壁の紙切れをまじまじと見つめている。


「ほぉ……これは……」


 一枚見ては次に。


「おぉ……!」


 それを見ては次にを繰り返している。


「な、何やねんな……?」


 気になった椎佳が思わず屍さんに声を掛ける。

 椎佳は屍の事をあまり好意的に思っていなさそうだが、それよりも好奇心の方がまさったようだ。


「ん? 知りたいのか?」


 屍さんが意地悪そうに椎佳に尋ねると、椎佳は「別に……」と強がりな事を言ってそっぽを向いた。

 その反応だけで屍さんは満足したらしく、俺や静流を見てから口を開いた。


「まず天井に貼ってある無数の札じゃが、法力の流れを遮断して隠蔽いんぺいする効果があるようじゃ」

「そ、そんな札が何故ここに……」

「さぁ? そこまでは分からぬがこの部屋を隠したかったようじゃ。そして何らかの弾みで……ほれ。あそのに貼ってある札が一枚、少し剥がれておるじゃろう?」


 屍さんが指差した方向。

 一枚の札が半分程剥がれていた。


「あれによって法力が微かに漏れ出し、私がそれに気付けたという事じゃな」

「なるほど……」


 静流の反応を聞いて、屍さんは言葉を続ける。


「壁に貼ってあるのは避虫札。文字からしてどうやら虫を寄せ付けない効果があるようじゃ」

「え? そんな事も出来るのん!?」


 椎佳が驚きの声を上げたのに対し、屍さんは小首をかしげる。


「分からぬ。札にはそう書いてあるから恐らくそういう効果なんじゃろうと思う」

「なんじゃそら……」


 確かに。

 効果があるのか分からないが、この部屋には一切の虫がいない。


「そして……注目すべきはあの台じゃ!」


 嬉々とした声を上げて屍さんが台の方へと歩き出す。


「だ、台?」


 台には何も貼っていないし何もないんだが……


「ふふ……。その位では私の感知能力は騙せぬよ……」


 言いながら屍さんが台の少し上をごそごそと触っているような手ぶりを見せる。

 まるでパントマイムだ。


「あった……それ!!」


 屍さんが何かを取った動きを見せ、その手を上に掲げた。






あとがき

ここまでお読み下さりありがとうございました。

次回、屍の手に掴まれた物とは!?

「利剣のへその緒、取ったりぃぃ!!」

※嘘です。

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