第四十四札 ぱすと!! =過去=

まえがき

椎佳と屍は仲良くなれなさそう!?

咲紀と椎佳は仲良し。

屍と咲紀も仲良し。

くっ、友達の友達は友達とは呼べないということか!

※何を伝えたいのかセビィにも分かりません。


























咲紀さきとの最初の出会いは六歳の時じゃった」


 口調が昔話をするお婆ちゃんだなとー思うけど口には出さず黙って傾聴けいちょうする。

 椎佳しいかが俺の方をチラチラ見てくるから恐らく同じ事を考えているんだろうな。

 咲紀は自分の過去という事でかばねさんの事を食い入る様に見ている。


「私の家は呪術を生業としておる家系での、それなりに名は知られておると思ったのじゃが……」


 チラリとこちらを見る屍に、顔を見合わせる三人。


「不勉強で申し訳ありません……。父なら存じ上げているかと思うのですが……」


 申し訳ないと思い頭を下げようとする静流しずるを屍が手で制止する。


「いや、法術師と呪術士は基本的に関わる機会がないからのう。私は葉ノ上家はのうえけの噂は色々耳にしておるが、の」

「どんな噂やろ……」


 ボソッと呟く椎佳に、屍さんがフフッと笑う。

 何となく無双とか武勇伝とかそっち系の噂だと言うのは容易に想像できた。


「さて、話がれてしまったが私の家は法術師との繋がりもあってな。どうやら咲紀が五歳の時に新潟の野島家で法術を使った際に暴発させてしまったようじゃ」

「暴発……」


 それを聞いた俺が咲紀を見るが、咲紀は「覚えてないし……」と首を振る。


「ん? 五歳?」


「私と出会う一年前じゃな。その暴発によって家の一部が損壊する事態にはなったものの、死者も怪我人もおらんかったので大事おおごとにはならなかった。じゃがその時の法力の大きさを近隣の法術師が感じ取ってのう。私の家に知らせが入ったという経緯じゃ」

「……近隣の法術師が屍さんの家に知らせる?」


 単純に気になった事を聞いてみた俺に、屍さんがコクリと頷く。


「私の家は分かりやすく言うと上昇志向が強い家での。呪術の格は勿論の事、法術や占星せんせいに風水や武術……様々な物を取り入れて己の術を昇華しょうかさせる事が一族そろって大好きなのじゃ」


 なるほど。


「なので各地の法術師達と何かしらの繋がりを持っておる。勿論あちらもこちらを利用する事が度々あるが……、まぁその話はどうでも良いか」

「気にはなるけど話を続けてもらおう」


 法術師が呪術士を頼る状況ってどんな状況だろうな。


「うむ。その時は「新潟の野島家で膨大な法力を感じた」と言う連絡が入った事から、その家の娘である野島陽菜のじま ひなが発生源だろうと言う結論になっての、私の親が咲紀の叔父に接触を図った。「双方お互いの力を利用して格を上げていかないか」という親の提案に二つ返事で乗ってきたので、陽菜と年齢の近かった私が主に交友を深める事となったのじゃが……」

「それが人違いやった、って事?」


 椎佳の言葉を聞いた屍さんがヒョイと肩をすくめた。


「そうじゃの。陽菜とは年に数回ほど……、学校が長い休みの時に会いに行く程度だったのじゃが暴走させる程の力量が全く見えなくてのう。不思議に思っておった翌年、咲紀と出会ったのが始まりじゃな」

「咲紀と……紫牙崎さんは六歳の時からの付き合いなんだねっ……」

「そうじゃ。会えなくなる三年前までは毎年季節ごとに会っておった」


 懐かしげに話す屍さんに対して思い出せない咲紀が申し訳なさそうな顔をする。


「咲紀と会ってそんな力がある、ってすぐに分かったのか?」

「うむ。初めて会った時に「こいつじゃ」と分かった。咲紀の潜在的な法力は凄まじかったぞ」

「へぇ……」


「会うたびに法力の使い方が上手くなっておったし、私と法力や呪術の話をしておったのじゃが……三年前に陽菜から突然、咲紀が事故で死んだと聞かされた」


 事故。

 そうだ。

 実際には事件だが、当時は事故として周囲に知らされたんだろう。


「死体は見つかっておらんと聞いておったのでどこかで生きていると信じていた時期もあったのじゃが、この家に来ても何も感じなかったしやはり死んでしまったのかと諦めておった所……」

「陽菜さんから知らせがあった、と」


「うむ。それでここに来てみれば去年は感じなかった法力の流れを何故か感じ取れたという話じゃな」

「今年は感じた、と……」

「そうじゃな。年に一度、命日の日近くにはここに来ておったからの」


 それって、やっぱ俺が並行世界に来た影響で法力の波が生まれて何かが起きてしまったんだろうか?


「さて、私が知っている事とここに来た目的は話したぞ。次は逢沢利剣おうさわ りけん、お主の番じゃぞ」

「え……?」


「咲紀の家にいつの間にか主として住んでおる上に、幽霊の咲紀との同居。玄武管轄長の密命と偽って新潟野島家に接触を図り、しかもこの屋敷に葉ノ上家の姉妹も住んでおるというこの奇異な状況。様々な知識を得たい私としては非常に興味をそそられるのじゃがのう?」

「まぁ……なんというか状況に流されてその流れに身を任せた結果こうなったとしか……」


「さっぱり分からぬぞ」

「俺もわからん」

「むぅ……」


 俺がはぐらかしていると思ったのか、屍さんがムスッとした表情をする。


「お主に呪術を使用した事は謝る。じゃから教えてはくれぬか?」


 謝られてもなぁ……。

 正直信じてもらえんだろうし、俺も屍を信じきれてはいない。

 だからこの話を広げるのは危険だと思った俺はひとまずははぐらかす事にする。


「正直呪術を使ってきた所から信用は出来ていない。だから話す気はない」

「ぅぐ……。そう言われると……」


 屍さんが呻き声を漏らす。


「あの……」


 二人のやり取りに静流が控えめに手を上げる。


「法力の流れを感じ取ったと言っておりましたが、どのような流れなのでしょうか?」

「あぁ、それを言ってなかったのう……」


 静流の質問に屍さんが静流へと向き直る。

 静流グッジョブ。


「この館の何処かからうっすらと法力が流れ出ておる事に気付いたのじゃ。その法力の流れを私に追わせてもらえないかと思ったんじゃが」

「ふむ……追えるのか?」


 俺の問いに屍さんがフンと鼻を鳴らす。


「私を誰じゃと思うておる。お主の許可がもらえるならば屋敷の中に漂う法力が何処から来ているのかすぐに突き止めてやろう」


「ホンマに信用出来るんかいな……」

「ははっ、流れている法力を読み取れも気づきもせずに槍だけを振り回しておる弱者には永遠に見つけられんじゃろうがな」


 椎佳の言葉を聞いた屍さんが挑発的な視線で椎佳を見る。


「な、何やてぇぇ!?」

「落ち着きなさい椎佳」


 静流の制止を受け、今にも屍さんに噛み付かん勢いの椎佳が踏みとどまる。


「利剣……」


 咲紀が不安そうな顔で俺の名前を小声で呼ぶ。


「俺は屍さんにその法力がどこから漏れているのか。それが何なのかを突き止めたいと思うが……咲紀はそれでいいか?」


 俺の問いかけに咲紀は少し考えてからコクリと頷いた。


「俺は屍さんに調査を依頼するよ」


 その言葉を聞いた屍がニッと笑った。


「よく決断してくれた。よかろう、この紫牙崎屍。必ずや法力の発生源を見つけてやろう」




 ・ ・ ・ ・ ・




「ではこの応接間から……」


 ピトッ……と応接間の壁に手を触れてからそっと目を閉じる屍さん。


「ふむ……」


 目を開けた屍さんが応接間のドアを開ける。


「二階に行く」


 応接間から玄関の方へと歩きだし、玄関にある階段を登り始める。

 後をついていく俺達四人。


「あらっ? い、いらっしゃいませ……」


 二階を掃除していた流那が俺達に気付いて挨拶をする。


「む……?」


 流那を見た屍がジッと流那を見る。


「ふ、ふぇっ……?」


 つり目の屍に睨まれているような気になってしまい、何か粗相をしてしまったのかと流那の目が泳いでいる。


「か、屍さん……その子はウチの家事手伝いの……」

「二階じゃと遠ざかったか。一階に戻る」


 フォロー入れようとした俺の言葉を遮って屍さんがクルリと踵を返す。


「ぇっ? ふぇっ?」


 何がどうなっているのか分からずに流那が疑問の声を上げる。

 どうやら流那を見ていたのではなく、二階の法力を探っていたようだ。


「流那さんごめんなさい。お話は後で……」


 言って去ろうとした静流。


「りゅ、流那も混ぜてくださぁいっ! 何だか皆さんだけでずるいですよぅっ……」


 そう言って俺達の後について来る流那。

 うーん、別に遊んでいる訳ではないんだが。


 こうして館のメンバー全員で法力の流れを追いかけるという作業を行う事になった。

 主に探っているのは屍さんなんだけど。






あとがき

ここまでお読み下さり、ありがとうございました。

のじゃっ子屍。

今後の働きにご期待下さい。








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