第四十三札 ねーむ!! =名前=

まえがき

紫牙崎さん、いや紫牙崎は敵だった!!

巧みな精神操作により咲紀の事を喋ってしまった利剣!

そこに助けに入ったはずの椎佳による裏切り攻撃(フレンドリーアタック)!

キレた利剣による椎佳ステイ!

躾の悪い駄犬はしっかりおしおきだ!

























「……で……?」


 警戒度を最大限に引き上げた俺は再びソファーにゆっくりと腰を落とし、紫牙崎しがさきさんも悪びれた様子もなさそうに向かいのソファーに座ったので話を再開させた。


 椎佳しいかはとりあえず何が起きてもいいように応接間の隅っこで正座をさせている。

 もちろん俺の指示に素直に従うはずがないので、給料という名の人質とれんさんに報告するという脅しをもって屈服させた。


 その時の椎佳のくっころくそ! 殺せ!! 的な表情はクセになりそうだったぜ。


「紫牙崎さん……。俺に何をした? 目的は何だ?」


 俺に危害を加えた時点で敵認定。

 歓迎ムードではなく尋問モードに入る。

 念の為、静流にもiineイインを送りってすぐ応接間に来るように伝えている。


「目的はとうに分かっておろう? 咲紀さきがいるかどうかの確認を手っ取り早い方法で教えてもらっただけじゃ」

「俺の意思を無視してか」


「素直に聞いても答えてくれんじゃろう? それにお主も玄武管轄の密命とやらで住んでいるなどと嘘をついたようじゃしの」

「あれは宮古みやこさんが勝手に……」


「あ、アホッ!」


 隅っこで椎佳が声を上げたが時すでに遅し。

 俺の言葉を聞いて紫牙崎がニヤリと笑う。


「やはり嘘じゃったか」

「あ……」


 この手の人物に熱くなってしまった事に後悔する。

 冷静に。

 こちらが聞きたい事だけを聞いて、余計な事は言わないでおこう……。

 心にそう誓って俺は話を続けた。


「俺に何をしたんだ?」

「驚いた。お主、呪術じゅじゅつを知らんのか?」


 じゅ、呪術だと……!?

 法術が何たるかがようやく分かった所なのに。


「モチロンシッテイルサ」

「知らんのバレバレやて」

「うっさい椎佳」


 緊張感の無い会話の進み方に紫牙崎が呆れた顔をしている。


「はぁ。呪術とはその名の通り人を呪ったり操ったりするのに特化した術じゃ」

「人を呪い殺したりするのか」

「うーん……。可能じゃと思うがそれにはかなりの下準備や時間がかかるでの。それより直接殺した方が早いと思うがの」


 意外にも親切に答えてくれる紫牙崎。


「つまり俺は呪術を使われて、咲紀の事を話してしまったと」

「うむ」


 うむって。

 罪の意識はないんだな。


「ここに来て目的が変わったって言ってたけど、それは何故だ?」

「……」


 黙り込む紫牙崎。すると、


 コンコン。


「どうぞ」


 ドアをノックする音が聞こえ、俺は部屋の向こうにいる人物に入室を促す。


 カチャ……


「失礼いたします」


 ドアを開けた静流が一礼して入室してくる。

 よし、これで三対一。

 どんな事が起きても対応出来そうだ。


「静流。彼女は呪術を使うから気をつけろ」

「呪術士の方でしたか」


 そう言って警戒する目つきで静流は紫牙崎を一睨ひとにらみする。


「紫牙崎と申す。お主の名は?」

「静流とお呼び頂ければ」


 淡々と自己紹介をする静流。


「ふむ。苗字は何と言う?」

「……静流とお呼び頂ければ」


 素っ気ない静流の反応に紫牙崎が手を口元に添えてクスリと笑う。


「ふふっ、多少は呪術に心得のある奴がおるようじゃな」


 え?

 名乗ったら何かまずいの?


「静流、名乗っちゃったよ俺」

「ええと……後でお話しますが、あまりご自身の情報は口になさらない事をおすすめします」


 ごめんなさい。


「紫牙崎さんの来訪の目的はなんでしょうか?」


 俺に代わって静流が質問を投げかけてくれる。


「咲紀に会いに来た」


 紫牙崎の言葉で静流がチラリと俺の顔を見る。


「……すまん。呪術にはまって喋らされた」

「そうですか……」


 聞きたい事を確認した静流は視線を紫牙崎に戻した。


「咲紀さんがいるという情報はどこで手に入れたのでしょうか?」

「……」


 紫牙崎が先ほどと同じく黙り込む……と思っていたら。


「お主達はさっきから本気でそれを聞いておるのか? 私を試しておるのか?」


 ん?


「それはどういう意味だ?」


 俺の問いに、紫牙崎はスッと右手を前に上げた。


「!?」


 俺を含めた三人が呪術にかかるまいと身構える。


 だが紫牙崎は突き出した右手の人差し指でそのまま地面をさした。


「この館に微弱じゃが法力の流れがあるじゃろう?」

「え……?」


 俺達の声に、紫牙崎は再び心底呆れた表情を浮かべたのだった。




 ・ ・ ・ ・ ・




「……」


 応接間に呼び出され、紫牙崎と対面した咲紀。

 紫牙崎が妙な真似をしないようにそこそこ距離をあけ、咲紀の左右には静流と椎佳が控えている。


「水戸黄門みたいだな」


 ボソリと言った俺の言葉に椎佳が「誰が助さんや」と小声でツッコミを入れる。

 いや、どっちがどっちとは決めてなかったんだが。


「……えーと……」


 無言で見つめ合う雰囲気に耐えられなくなったのか、咲紀が困惑しながら声を発した。


「久しぶり、じゃの」


 紫牙崎がフッと先に笑いかける。

 その笑みは俺達が対応した時のような不敵さはなく、懐かしさと微かな喜びが混じっているように見えた。


 いやいや。


 こいつは女狐だ。

 腹黒っぽそうだ。

 油断したらダメだと俺は気を引き締めて紫牙崎を見る。


「ごめんなさい……咲紀は貴女を覚えてなくて……」


 申し訳なさそうに頭を下げる咲紀に対して、かぶりを振る紫牙崎。


「いや、それは仕方のない事じゃろう。気にする事はない」

「ごめんなさい……」

「なぁ、アンタは一体何者なんや?」


 咲紀とのやり取りを見ても関係性がさっぱり分からず、痺れを切らした椎佳が紫牙崎に問いかけた。


「ふぅむ……、そうじゃな……。咲紀の幼なじみと言った所かの」

「お……幼なじみ……」

「咲紀、お前昔からこんな濃ゆいキャラと付き合ってたのか」


「失礼なっ!」

「す、好きで付き合ってた訳じゃないと思うよっっ!」


 俺の言葉にそれぞれ反応を返す紫牙崎と咲紀。

 特に咲紀の言葉がひどい。

 あ、ちょっと紫牙崎がショック受けてるっぽい。

 咲紀の方を「え、そうなの?」みたいな顔で見てる。


「あっ! ごめんなさい!! 本当に過去の事は何も覚えてなくてついっ…!!」

「い、いや……」


 つい、で紫牙崎に精神的なダメージを与えるとはさすが法術師。


「紫牙崎さん、お聞きしてもいいですか?」

「なんじゃ?」


 椎佳の次は静流が紫牙崎に疑問をぶつける。


「咲紀さんの幼なじみと言う事はひとまず信じさせてもらうとして、どうして幼なじみの貴方が呪術を人に行使してまで咲紀さんに会いたいと思われたのですか?」

「……別にお主らに信じてもらえなくとも私は構わぬのじゃが……。やれやれ……色々と好奇心が絶えぬ奴らじゃのう……」


 紫牙崎が渋い顔をしてため息をつくが心底嫌そうと言う訳でもなさそうで、いちいち話すのが面倒臭いという感じに取れる。


「咲紀が知られたく無い事もあるじゃろうから、部分部分のみの話にはなるが容赦してもらおう。良いかの?」


 紫牙崎の確認に、俺と静流はコクリと頷いた。

 何故か咲紀も頷いてるし。


「そうじゃな……。咲紀との最初の出会いはお互いに六歳の時じゃったかの……」

「あ、ちょい待ち」


 昔語りを始めた紫牙崎の言葉の区切りを突いて、椎佳が手を上げる。


「え……?」


 突然の待ったにちょっと困惑気味の紫牙崎。

 それも気にせず椎佳がニヘッと笑って言葉を続ける。


「その話ってながなる?」

「ん……?」


 椎佳の質問の真意がつかめず、頭に疑問符を浮かべる紫牙崎。


「いやぁ~~、長なるんやったら飲み物取ってこようかなーなんて……」


 俺も呆れる程下らない理由だった!!

 しかし、だからこそ椎佳。

 それでこそ椎佳と言うべきだろうか。

 そんな椎佳を何だか納得いかない表情で見てから、


「……取って来て構わぬが……私はお主を好きになれなさそうじゃ」


 とだけ返事を返した。


「そっか! さんきゅー!!」


 そう言って早速部屋を飛び出して行く椎佳に、静流は頭を抱えていた。

 なんとなーく気まずい雰囲気が流れたので、何かを話した方がいいだろうかなんて考える俺。


「なぁ、ええと……」

「ん?」


「気にはなってたんだけど……紫牙崎、さんの下の名前って……?」

「ふむ……」


 うん、話題が特に思い浮かばずに名前を聞いてしまう俺。

 さっき呪術士相手に名前を……とか言う話をしたばっかりなのにな。


「いやほら、俺は名乗った訳だしさ? よければ、なんて――」

「屍」


「え?」

紫牙崎しがさき かばねじゃ」


 案外あっさりと教えてくれた下の名前は、呪術士らしいといえば呪術士らしい名前だった。




あとがき

紫牙崎 屍は咲紀の幼なじみだった!?

椎佳のせいで次回に引きのばされる過去!

決してセビィのせいではない……。

待て、次回!

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