第四十二札 ぱーぽーず!! =目的=
まえがき
突然訪れた謎の女性!
「東京国税局です。納税してますか?」
「してませんね」
「家宅捜索しまーす」
「や、やめてぇぇぇ!」
こうならないように、遺産を相続するときは気をつけて!
東京国税局PRポスターより
※本編とは全く関係ありません。
「お待たせしました。
「ふむ……。
応接間に座っていたのは、銀髪を後ろで三つ編みにした二十歳くらいの落ち着いた色合いとデザインの洋服に身を包んだ女性だった。
あれはワイルドだろぉ系だろう。
最初は俺の事を睨んでいるのか? と思ったがどうやらつり目のせいでそう見えただけらしく、入って自己紹介をした俺に対して普通に名前を名乗ってくれた。
俺は紫牙崎さんの対面に腰かけると、さっそく本題に移る事にする。
「で、紫牙崎さんは今日はどういったご用件でこちらに……?」
「うむ。いきなり本題を切り出してくれるのは私としても
そう言って紫牙崎さんは流那か静流が運んでくれたコーヒーに手を伸ばし、一口。
「新潟の野島家に訪問して来た者がおる、と
のう?
もしかしてこれは稀少価値の高い
漫画やアニメでは一人はいたが、現実世界で会うのはこれが初めてだ。
期待に胸が膨らむ。
「あ、あぁ……訪問しました。陽菜さん、と言うのは……?」
にやけてしまいそうになる顔を必死に我慢して落ち着かせる。
「なんじゃ、知らんのか。野島咲紀の
のじゃっ子きたぁぁぁ!!
ってそこじゃなくて。
「咲紀の……。え……従姉妹?」
「うむ。お主が会うたのは陽菜の父親だけじゃろう?」
「ええ」
うーん、新鮮だなぁ。
いざ実際会ってみてもあんまり違和感ってないんだなぁ。
紫牙崎さんが使い慣れてるからだろうか?
「陽菜が父親から逢沢利剣なるものが咲紀の住んでいた家に今現在住んでいるという話を聞いた。そこでその住所を父親から聞き出して私に教えてくれたという経緯じゃ。分かるかの?」
「ああ、ありがとうございます。経緯は分かりましたが……、何でまた紫牙崎さんが?」
「うむ。私が来た理由じゃが……」
コンコン。
理由を話かけたタイミングにドアがノックされた事で紫牙崎さんが一度言葉を止めたので、俺は「どうぞ」とだけ短く返事をして紫牙崎さんに向き直る。
ガチャ……。
「失礼しまーす。コーヒーを持ってきましたー」
ドアを開けて俺のコーヒーを持ってきた人物。
それは何故か椎佳だった。
おい、椎佳何でお前なんだよ。
カチャ……カタン……
「コーヒーこちらに置いておきまーす」
そう言って俺の前にコーヒーの入ったカップを置く椎佳。
ここは喫茶店かとツッコみたくなるようなノリだ。
「
お礼を言いつつ視線に別な思いを込めて見てやると、椎佳がトレイを持って退室するべく俺の後ろにあるドアへと歩いていった。
ガチャ……バタン。
ドアの開閉音。
「ええと……それで紫牙崎さんが来た理由ですが……」
中断した話を再開しようとした俺だったが、紫牙崎さんが「む?」と声を上げる。
どうしたんだろうかと紫牙崎さんの声を見るとその視線が一点に集中されていたので俺は視線の先を追うように振り返る。
するとそこにはトレイを持った椎佳がまだ立っていた。
「……椎佳?」
「はぁい、何でございましょー?」
慣れない丁寧語を使う椎佳に違和感しか感じない俺。
「いや、何でございましょうじゃないから。ありがとう。
紫牙崎さんの手前、いつも通りの対応が出来ずに俺が笑顔でやんわりと退室を促す。
「あ、他に御用があるかと思いますしお気になさらずー」
だが、俺の言葉を受けて椎佳はニッコリと笑い、その場に待機し続ける。
「用事があったらその時は呼ぶから出ててくれ……」
「そうですかー?」
「うん」
「ほんじゃあ、また後で……」
また後でも何もねえよ。呼ばねえし。
椎佳は一礼だけして、やっと退室して行った。
「……逢沢さんの家では変わった家事手伝いを雇っておるのじゃのう」
「彼女だけですよ。他は真面目な子ばかりなんですが、お恥ずかしい限りです」
そう言って俺はコーヒーを口に運ぶ前に、砂糖とミルクに手を伸ばし……。
……ない。
砂糖とミルクがない。
くっそ、あいつ!!
「また後で」の意味が今ここで分かった俺だったがそれで呼ぶのは
うえぇ、苦い……!!
「何やら気苦労が多そうじゃのう。……おっと、話を戻すとじゃな。私がここに来た理由は最初はここに逢沢さんが住む事になった経緯を聞かせてもらおうと思ったのと、咲紀の亡くなった土地に線香を上げさせてもらおうと思ったのじゃ」
「なるほど。……最初は?」
俺の言葉に、コクリと頷く紫牙崎さん。
「うむ。「最初は」じゃ。じゃがここに来て目的が変わった」
言ってから目がスッと細くなり、口の端を上げてニヤリと笑う紫牙崎さん。
その笑みに、俺の背筋に冷たい物が走る。
「も、目的……ですか……?」
紫牙崎さんの目から視線を逸らさず。
いや、何故か逸らせない俺が紫牙崎さんに言われた言葉をそのまま口に出してしまう。
何だ、これ……なんか心地いい……。
けど……目を逸らさないと……やばい感じがする……。
「うむ。逢沢さんに聞くが、この家に野島咲紀本人がおるのではないか?」
いませんよ。
その言葉が頭に浮かび、そう答えようと思っていたのに。
「い……ます……ね……」
俺の口は思考に反して真実を述べていた。
これは、どういう事だ……!
「ふむ、ふむ……」
紫牙崎さんがニヤリと笑って微笑み、席を立つ。
目線は逸らさないままで。
俺の目もまた、紫牙崎さんの目を逸らさないように追いかけてしまう。
ゆっくりと俺の傍に近づいてくる紫牙崎さん。
その手が俺の頬に触れる。
「では、次に聞きたいのじゃが……」
コンコン ガチャッッ!!
「しーつれいしまーす! 砂糖とミルクを忘れて……まし……た」
「なっ……!?」
返事を待たずに椎佳が形だけのノックをしてからドアを勢い良く開き、俺と紫牙崎さんの様子を見て固まった。
突飛な椎佳の行動に紫牙崎さんが思わず俺から目線を外したことで
「椎佳ぁ!!」
この時ばかりはナイスと褒めてやりたい気持ちで椎佳の方へ振り向く。
その瞬間。
「こんのケダモノォォ!!」
ビッシィィィ!!!!
飛んできた角砂糖が俺の両目に突き刺さる。
「んひぎぃぃぃぃ!!!?」
ソファーから転げ落ち、両目を押さえて絨毯を転げまわる俺。
「アンタはっ! オンナやったら誰にでも手ェ出すんやなっ!!」
近づいて来た椎佳が地面をのたうち回っている俺に片足を上げて
そ、そこはやめてぇっっ!! 男の子じゃなくなっちゃううう!!
じゃなくて!
「椎佳、違う! 紫牙崎さんは敵だ!! 敵!!」
「あぁ! 女のっ! 敵やなっ! アンタがなっ!!」
ドッ! ドッ! ドッ! ドッ!!
必死に真実を伝えようとする俺の言葉に耳を貸さずに椎佳はストンピングを続ける。
(利剣さんはもう少し煩悩を抑えて減らすべきですよ)
静流から受けた忠告が走馬灯のように蘇る。
何で今のタイミングなんだよ。
しかし椎佳の踏みつけが絶妙な場所に入ってきて、起き上がれないし満足に呼吸もできない。
葉ノ上家、怖えよぉ……!
「むぅ……、椎佳とか言うたかの……? もうそのへんで止めてやってくれぬかの……?」
「アンタはそれでええのんかっ!? 受けた恐怖は今ここで返しておきや!!」
俺がこんな目に遭っている元凶が居た堪れなくなったのか椎佳を静止してくれているが椎佳は踏みつけをやめない。
そして椎佳。お前に恐怖は与えていないからな。
「逢沢さんに仕掛けたのは私からじゃからな。もうそこら辺で止めてやってくれ」
「おらおらおら!! ……え……?」
紫牙崎さんのカミングアウトを聞いてようやく足の動きを止める椎佳。
「ぶはっ! ぶはぁぁぁ!!」
俺は新鮮な空気を肺に取り入れると同時にうずくまっていた守りの姿勢をといた。
「え? 紫牙崎さんが? どーゆー事や?」
「ふぅむ。ちと
そう言って腕を組みながら肩をすくめる紫牙崎さん。
俺はゆっくりと立ち上がって、憎悪に燃えた瞳で椎佳を睨んだ。
「椎佳、テメェ……」
「あはは……ちょっとした勘違いやん……」
全然反省していない様子でてへぺろぉ♪ と言う擬音を出さんばかりに笑う椎佳。
「勘違いで許されるかぁぁ!!!! お前はそこで正座してろ!!!!」
応接間を中心に、洋館中に響き渡っているんじゃないかと思う位の大声で椎佳を怒鳴りつけた。
あとがき
謎の女性紫牙崎さん現る。
彼女の正体とは!?
そして目的とは!?
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