第四十札 みっどないと!! =真夜中=
まえがき
宮古さんと新潟でキャッキャウフフな時間を過ごした利剣。
そして二人の愛の逃避行が始まる。
「始まりません」
結論から言うと、新潟の野島家では大した収穫もなく空振りに終わったと言える。
まぁ、
東京駅に戻った俺は宮古さんと別れて一人帰路につく。
「何か……どっと疲れた……」
小鬼との初戦闘に始まり、大蛇に続いて鬼。
大蛇に関しては俺、戦う宮古さんを見てただけなんだけど。
そして今まで実感はなかったけど、命を狙われているという自覚。
「もう、
(うげぇ、
そんな声が聞こえてきそうな気がするが気にしない。
洗濯物を一緒に洗われて嫌がる娘じゃあるまいし。
最寄り駅で降りてから歩いて二十分ほど。
そんな事を色々考えている間に家に着く。
「帰ってきたぜ……!」
五日間ぶりの我が家。
一週間も経っていないのに凄く懐かしく感じてしまう。
「皆、玄関で俺の帰りを待っててくれてるかなぁっと♪」
足取りも軽く、外の門を開けて敷地内に入る。
長い石畳を歩いて玄関の鍵穴に鍵を差す。
ガチャ……。
「たっだいまぁー! ……ってあれ?」
玄関には誰もいない。
明々と照明器具だけが点いている。
「はて……?」
ただいまと言ってみたが、誰も出てくる気配がない。
「ったく、しょうがねえな……」
一階の右側の一室が八畳の和室になっており、そこにいるのかと思って引き戸を開けてみる。
ガラッ!
「あ、お帰りー」
「おかえりー」
テレビを見ながら
視線と体の向きはテレビをみたままの状態で。
「た、ただいま……」
こう、もっとお帰りムードを出して出迎えてくれるもんじゃないの?
俺この館の主よ? 雇用主よ?
「ええっと……
「静姉も流那も明日早いから寝かしたで」
な、何だと!?
許せん!
館の主が帰ってきたというのに何たる無礼!
「え、俺が帰ってきたのに寝かしたとか!」
「利剣……」
俺の言葉に椎佳がゆっくりと起き上がる。
「何だ!?」
「今何時や?」
「……ち時……」
「聞こえへん! 大きい声で!」
「はっ! 夜中の一時です! サー!!」
俺はハンバーガーとコーラが大好きな大国軍人よろしく直立不動で答える。
そうなのだ。昼頃新潟に行って野島さん家に行ってなんだかんだ話したり色々していたら戻ってきたのがこんな時間になってしまった訳だ。
「そやな。ウチが起きとるだけで感謝モンやで……」
「ハッ! こんなウジムシの為に起きていて下さり感激であります!!」
「よし!」
「ふぅ……。まぁ、確かにこんな時間に帰ってきたから正直寝てるよなーとは思ったけどついノリでやってみた。後悔はしていない」
「あっそ」
「お土産はー?」
二人とも俺に対してマジぞんざい。
食べられもしない咲紀がお土産の有無を尋ねてきたので俺は紙袋を取り出した。
「はい、バナナのお菓子」
「それ東京やん」
「咲紀、食べられないけどね」
くっそこいつら。
「じゃあ俺が食うからいいよ」
しまおうとする紙袋の持ち手を椎佳の手が素早く掴む。
「食べへんとは言うてへん」
俺は素直に東京のバナナ土産を渡すと、椎佳は「おおきに♪」と嬉しそうに紙袋から箱を取り出し始めた。
「今食うのか?」
俺の言葉の意味を理解した椎佳が一瞬動きを止める。
が再び動き出して紙袋を破って中身を取り出す。
「アンタを待っとったら小腹が空いてん」
「太るぞ? 夜中の一時だし……」
「明日、利剣と運動して汗をかくからそれでプラスマイナスゼロやな」
ひょいっとお菓子を口に放り込む椎佳。
「汗をかく運動って……。俺にだって女性を選ぶ権利がバフォォッ!!!?」
椎佳の正拳突きが俺の腹部にめり込む。
「どういう意味やどういう勘違いやどういう意味や!!」
「どういう意味……って……二回……言ってる……」
腹を押さえてうずくまりながら必死にツッコミを入れる俺。
悲しきかな関西人のサガ。
「利剣、大丈夫? 死ぬ?」
「死ぬか!!」
咲紀の問いかけに対してもしっかりツッコミを入れる俺。
まだ痛むが最初の時より大分おさまった。
「てか椎佳コラ! 手加減しろよ! 俺は骨が折れてんだぞ!?」
復活した俺がお菓子をひょいっと口に運ぶ椎佳に抗議する。
「そうやんなぁ? その割にはピンピンしてへん?」
「あー……なんつうか……並行世界特典みたいな?」
「うん?」
「何それー?」
とりあえず俺は椎佳と咲紀に、この五日間の出来事を話せる範囲で話してやる。
「野島家……。お父さんの実家……」
「倉橋美砂……。利剣が付き合い損ねた女……」
「お前ら食いつく所そこなのな」
二人とも俺の武勇伝や大怪我を負った経緯などに興味を示してはくれなかった。
まぁ、期待なんてしてなかったけどさ!!
しかも美砂さんが誤解した原因はお前だからな、椎佳。
その件については法廷で争うくらい許さない所存。
「まぁ、冗談は置いといて。利剣の超回復力ってのは凄いやん」
「そうか? 完全にダメージを受ける前提の能力じゃねぇ?」
俺の言葉に、椎佳が両手をぎゅっと握ってニンマリと笑う。
「明日の手合わせがますます楽しみになってきたで……。ウチ、ワクワクすっで」
「やめろ。どこぞの戦闘民族が被る。それにまた骨折とかは勘弁だし」
「折れへん程度にヤるから」
「もうすでに言葉のチョイスが不穏ですな」
「そんな事より利剣っ!」
もはや椎佳と言葉を交わすと漫才になりつつある会話をぶった切って咲紀が参戦してくる。
「ん?」
「お父さんのお兄さん? って、どんな人だったの? 新潟だっけ? 教えて?利剣の事はどうでもいいから!」
さりげに毒吐くなよ咲紀。
まぁ、やはり両親の事や自分の事については興味が全くないわけではないらしく、咲紀が随分と熱心に尋ねてくるので俺は知りうる限りの事を答えてやった。
「んー、温和そうな人だったかな。和服でさ、ちょっと白髪が混じって髪の毛が薄かった。家の中までは上げてもらえなかったけどな。あと――」
言いかけて俺は言葉を切った。
そんな俺に対して咲紀が「うん?」と不思議そうな顔になる。
「あと……家の門構えがそこそこ大きかった」
「そーなんだー?」
――さすがにお母さんの方の野島家とは仲が悪そうだった。
なんてのは言わない方がいいよな。
そんな事伝えても咲紀が悲しむだけだし。
俺のそういった機微を察したのか椎佳がお菓子を頬張りながらフッと笑う。
「あんひゃほええひゃふひゃなぁ」
「食ってから喋れ」
ゴクンとお菓子を飲み込む椎佳。
別にいいんだけど味わって食えよ。
後静流と流那の分も残しとけよ。
「アンタもええ奴やなぁ」
「俺はいつもいい奴だぞ」
「それはどうなんやろ?」
「おい」
「あははっ! で、宮兄の強さを間近で見てどないやった?」
「鬼畜だった」
「せやろ?」
「宮古さんは白虎と青龍の恩恵がある、みたいな事言ってたけど、椎佳の白虎の恩恵って見た事ないよな」
静流の恩恵は青龍。
風系に強いようで、移動速度を上げたり落下速度を緩和したりといった法術を使えるのは知っている。
だが椎佳の術は見た事がない。
「ん? そうやっけ?」
「そうだよ。教えてくれよ」
「んー……ええけど、地味やで?」
「キャラがもはや派手だからプラスマイナスゼロ……あぶねえ!!」
突然椎佳の
「命拾いしたな」
「もう誰が敵で誰が味方か分かんないぜ」
「ウチの法術はこれや」
そう言って疾女を俺の肩にそっと乗せる。
ズンッッ!!
「うおっ!?」
肩に乗った疾女が、疾女じゃない。
槍何本分なんだ? と言いたくなるくらいの重量が俺の肩にのしかかる。
「こ、これは……?」
椎佳が疾女を俺の肩から離し、畳の上にそっと置いた。
「白虎の属性は金。ウチの得意技は金属変化を主にした術やねん」
「重量とかか」
「そーそー。重量を
「へぇ……。結構便利なんじゃないのか?」
感心する俺に、椎佳は軽く首をかしげる。
「どうなんやろな? 静姉や宮兄みたいに身体強化でちゃっちゃと動かれへんし、重量変化はウチの体にとっても重いから振り下ろしの時のインパクト時に術を
「なるほど。確かに繊細な作業はゴリラな椎佳にはいやぴったりかもしれないな、うんうん」
疾女をフルスイングしようとした椎佳の脅迫に負けて俺は心にもない事を口走ってしまう。
「なぁ、利剣」
「何でしょう椎佳さん」
「ウチにぴったりかも知れへんって言い直したのはええんやけど」
「うん」
俺の背中を冷や汗がつたう。
「ゴリラはアウトやわ」
「俺も気づきました」
直後。
椎佳のフルスイングが俺の意識を綺麗さっぱり刈り取った。
翌朝起きてきた
あとがき
ここまでお読み下さり、ありがとうございました!
皆さん大好き(?)
椎佳と咲紀成分を補充しました。(嘘)
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