第三十九札 あんくる!! =伯父=

まえがき

野島咲紀の伯父さんの家に到着したよ!

「姪っ子さんを僕に下さい!って言ったらなんて反応するかな!?」

「利剣さん、絶対にふざけないでくださいね?」

「それって絶対にふざけろよって言うフリですか?」

「やってもいいですけど、責任は取りませんよ」

「隣で静かに頷いておきます。あの宗教の勧誘にきた二人組のオバちゃんの隣の人みたいに」

「例えが分かりにくいです」




















「ほぉぉ……」


 新潟駅からタクシーで十分程走った所に野島家はあった。


 葉ノ上家を一回り小さくした規模だけど、古き良き時代の和風木造建築! といった門構えだ。


 宮古さんがモニター付インターホンを押すと軽快な電子音が鳴り、しばらくして「どちらさまでしょうか?」と低め男性の声が聞こえてきた。


「先日ご連絡させて頂きました、青龍管轄せいりゅうかんかつ内西方警察署特別法事件対策課の葉ノ上宮古と申します。」

「お話は伺っております。少々お待ち下さい」

「分かりました」


 そう言ってインターホンがプツリと切れる。


「話、通してくれてたんですね」


 小声で話しかける俺に、宮古さんがクスリと笑う。


「さすがにアポ無しで来て不在だった時はかなりの徒労に終わりますからね」

「確かに、もはや旅行ですよね……」

「そしてここ新潟は青龍管轄ではなく玄武管轄ですので、気を付けて下さいね」

「え、そんな事聞いてないんですが!?」

「あ、命が危ないとかではないので大丈夫ですよ。ただ青龍管轄長である葵さんの権力外にはなると言うだけの事です」

「はぁ……」


 どっちにしても権力外とか聞くと不穏ではあるんですが。


 しばらくして玄関の格子戸がガラリと開き、五十歳ぐらいだろうか……?

 髪に白髪が少し混じった薄毛の男性が姿を現した。


「葉ノ上さん……ですか。お越しになるとは聞いておりましたが……此度はこのような所まで何用で……」

「ええ、実は三年前に亡くなられた野島明晴あきはるさんの件で……」


 宮古さんの切り出した話題に、眉をピクリと動かして目を細める野島さん。

 何だか歓迎されていない雰囲気だ。


「その件については三年前担当の刑事さんにも全面的に協力してお話しましたが……」

「はい。その資料もすべて読ませて頂きました。実は最近少し動きがありまして……」

「動き……ですか……?」


 宮古さんの言葉を聞き若干の興味を示す野島さん。


「ええ。実は隣にいる青年なんですが、事件のあった館で今現在住み込みで調査をしてくれておりまして……」

「住み込み? それは一体どういう事でしょうか? 何故彼が……?」


 いまいち納得できないと言わんばかりに俺の顔を見てから宮古さんに説明を求める野島さん。


「実は彼は玄武の管轄長である野島さんから密命を受けているようで、洋館を調べていたところ、不審な男性三人が侵入してきたそうなんです……」

野島さん、ですか……」


 今までも俺たちに対して歓迎といった雰囲気ではなかったけど、出された名前に温和に答えてくれていた野島さんが忌々しげに言葉を吐き出した。


「ええ。幸い通報によりその三人を捕らえたんですけど、色々と情報を知っているようなのですがなかなか白状しなくてですね……」

「それは、ご苦労様です……」


 表情を変えずに淡々と言葉を返す野島さん。

 てか宮古さん。

 俺って玄武の管轄長に会った事とかないんですが。


「明晴さんのお人柄は色々な人から聞いてよく存じ上げてはいるのですが、誰かに逆恨みをされたとか何か危険な事があった等の情報は思い出されたりはなかったでしょうか?」

「ありませんよ。……逆恨みといいますか、それなら玄武の管轄長さんにお聞きになられた方が早いんじゃないですかね……」


 ん?それはどういう意味だろう。


「そうですか……。ご協力ありがとうございました。」


 そう言って宮古さんが頭を下げたので、俺もそれに倣って頭を下げる。


「いえいえ、どういたしまして。そのような事を聞かれる為にわざわざお越しくださって、本当にご苦労様です。それでは……」


 そういって野島さんは静かに格子を閉めて玄関へと歩いて行った。


「さて、利剣さん。歩きましょうか」

「え? あ、はい」


 顔を上げた宮古さんが歩き出したので俺もその後について歩き出した。




 ・ ・ ・ ・ ・ 




「反応を見てみましたが、これといって怪しい反応はなかったですね」


 少し歩いた喫茶店でコーヒーを一口飲む宮古さん。


「そうですか。俺にはさっぱりでしたが、野島千夏さんの家とは仲が悪いんですか?」

「まぁ、前も話したかもしれませんが野島両家はあまり仲がよくありませんので」

「そうでしたっけか」


 覚えがない。


「野島千夏ちなつさんの法術センスと力量は他の追随ついずいを許さない程に洗練されていたそうですよ? そして明晴さんはその……前も話しましたが法術がお得意ではなかったようです」

「ふむ」


 あぁ、番付Dぐらいなんだっけか?


「そんな二人が結婚、となる訳で周囲で色々な軋轢あつれきがあったようです」

「なるほど」


「昔の事なので法術師上位の立場を利用しての嫌がらせ等があったかなかったかは分かりませんが、今日訪ねた野島家からすれば不肖の息子が上位の法術師の娘をさらってしまった、と精神的に重いものがあったのかも知れませんね」

「政略結婚みたいなものって、あるんですか?」

「うーん、無いとは言い切れませんね。例えば朱雀の恩恵を受けた夫と玄武の恩恵を受けた妻が子供を作れば両方の恩恵を受けた子が生まれるという可能性もあるとは言われています」

「実際の所はどうなんですか?」

「証明ははっきり言って難しいかと。椎佳は白虎の恩恵を受けていますし、静流は青龍の恩恵を受けていますね」

「宮古さんは?」

「……青龍と白虎の二つを」


 出たよチート。

 いや、それを言ったら俺が五神の適性があるチートなのか?

 法術一切使えないけどな!!


「さすが宮古さんですね」


「父が青龍と白虎で、母は白虎と朱雀のようなんですが……朱雀は誰も恩恵がなかさそうです」

「遺伝、はあんましアテになりませんね」


 なんて、野島家の事件に全く関係のない話をしたりして喫茶店の時間はただ過ぎていくのだった。






あとがき

本日はここまでで。

短くて申し訳ありません!

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