第三十八札 りかばりー!! =回復=
まえがき
あれから五年が過ぎた。
俺はまだ病室で窓の外を眺めていた。
「あの葉が落ちたら……俺は死ぬのかな……」
俺の言葉に、困ったような表情を浮かべる看護師さん。
「あの、完治してるんでもうそろそろ退院して欲しいんですけど」
※本編とは全く関係ありません。
「嘘みたいっすね……」
「有り得ない……」
俺と
「法力って
「あれだけの大怪我がここまで回復するなんて!」
またもやそれぞれに別な声を上げた。
「え?」
最後に疑問の声を上げたのは俺だけだったが。
入院生活三日目。
宮古さんが近隣に住んでいる法術師に協力を要請して治癒に関する
その力を解放した直後、全身の痛みが消えて普通に動けるようになるまでに回復したのだが。
「本当に、利剣さんには驚かされる事ばかりですよ……」
「え、そ、そうなんですか?」
初めて見る驚いた表情の宮古さんの顔を何だか新鮮だなぁなんて思いながら、座ったままの状態で軽く上半身を伸ばして体の具合を確認する。
折れた箇所がまだズキズキと痛みはするが、日常生活には支障がなさそうな痛みだった。
「私が持ってきた
「え、でもすっごく良くなりましたよ。もう普通に動けそうです」
「だから驚いているんですが……」
どうやら法術や治癒札の効果は浅い傷を塞いだり止血したり、折れた骨をわずかに修復する程度の効果しかないらしい。
「これも並行世界特典なんですかねぇ……」
「利剣さんが元いた世界の人々の自然治癒能力が、今の利剣さんの回復速度ではなく遅いとしたらそう考えるのが妥当ではないかな、と」
当たり前だ。
人間がこんなにホイホイと治ってたら医者もいらない、オークかオーガだわ。
「いやぁ、どうやら俺だけが特殊みたいですね……」
「なるほど。……とりあえずは一度医師に診てもらいましょうか」
「そうですね」
ナースコールを押そうとした俺を片手で制止して、私が呼んできますよと宮古さんが退室して行った。
その後お爺ちゃん医師に診てもらい「そんなバカな!? すぐレントゲンを!」と驚かれながら明日の退院を許可された。
・ ・ ・ ・ ・
翌日。
俺は東京にやっと帰れるなぁ、なんて思いながら荷物をまとめていた時に宮古さんから一つの提案というか「お願い」をされた。
「利剣さんはすぐ戻らないといけないご予定はありますか?」
「え?いや特には……。でも、そりゃまたどうしてです?」
今までロクに疑いもせずに
「せっかく長野まで来たのでね。ちょっと
宮古さんも今までの経緯があったからか変に隠したりはせず、素直に誘ってくれた目的を教えてくれた。
野島明晴。
咲紀のお父さんだ。
「俺はいいんですが……。いいんですか? 野島家が主犯って可能性もあるんじゃ?」
「あはは。例えそうだとしても、私みたいな警察関係の法術師がいたら襲うに襲えないでしょう」
「黒子は見境なく襲ってきましたけどね……」
「黒子は結局身元が割れないように自害してしまいましたし、場所も森という事で目撃者や情報も全く得られませんでしたしね。今回は野島さんの家に乗り込む形になるので手を出して来たら犯人で確定ですよ。それに……」
「それに?」
俺の問いかけに宮古さんが少し言いにくそうに口を開く。
「番付上の話、にはなってしまいますが野島明晴さんの親族関係の番付は軒並みDの番付でして……。手合わせた黒子は私が感じた所ではBの中位、もしくは上位の実力者でした。Dの家が番付Bの隠密能力に長けた法術師を簡単に雇ったり養えたりは出来ないと思いますので……」
「そういうもんなんですか?」
この世界のその辺りのルールは無知であった為、ここで聞いてみる。
「もちろん例外もありますので断定は出来ません。Aの番付やもしくはSの管轄長……、それらがDの家の為に雇い入れたなんて言う可能性もあります。ただ番付BがDの家をかばう為に自身の顔と体を焼いてまで証拠隠滅をするとはなかなか考えにくく……」
「つまり、黒子のバックには高ランクの法術師が関係している、と?」
「そう、考えるのが自然です」
「ふむ」
ふむ、とか意味深に言ってみたものの全く見当がつかない。
でも、Aは十人位でSが五人、だっけか。
その辺の十五人を洗えば何か分かるんじゃないか? なんて思った。
とりあえず、宮古さんが一緒なら野島家に行っても命の危険はなさそうだからいっか! とか考える自分のポジティブさは我ながら凄いと思う。
「宮古さん。新潟、ご一緒させて頂きますよ」
「さすが利剣さんですね。それではタクシーで駅まで向かいますか」
「あ、はい」
何がさすがなのかは分からないけど。
俺と宮古さんはとりあえず新潟行きの切符を手配すべく病院を後にした。
・ ・ ・ ・ ・
某県某所。
「ご報告致します……。黒子が死亡したとの報告が草からありました」
「な、何だと!? あいつは我々の中でもかなりの手練れだぞ!! で、目標の男はどうなった!?」
若い男の報告を受けた三十代の男が予想外の報告に座っていた椅子を倒して立ち上がった。
「はっっ……! よ、様子を確認させた所、病院に搬送されて命に別状はない状態との事……」
「……何故だ! 何故死なずに生きているんだ!?」
「ど、どうやら葉ノ上家の者と他の法術師が連携を取り、黒子と氷鬼を
「また……! また葉ノ上かぁぁ!!」
報告を受けた三十代の男が頭を掻きむしって怒声を上げる。
その様子を見て報告に来た男は視線を逸らせないまま硬直してしまう。
報告を受けた男はしばらく声を張り上げながら近くにあった物を床に投げつけていたが、やがて平静を取り戻した様子で椅子に腰かけた。
「……分かった……。下がってくれ……」
「し、失礼致します……!!」
報告に来た男が一礼して部屋の扉を開けて退室する。
「失態の報告を……俺はまた主に報告せねばならんのか……」
主から受けるであろう叱責の言葉と受ける暴力を想像して、三十代の男は気を落としながら呟いた。
・ ・ ・ ・ ・
利剣の洋館。
館内の女性陣のiineが一斉にメッセージ通知音を鳴らす。
「んー?」
館で利剣からのメッセージを確認するのは常に椎佳が一番だった。
他の二人は業務に真面目に取り組んでいる為、なかなかスマホからメッセージを確認をする事が出来ないからだ。
「ふーん。
「利剣からー?」
椎佳とおしゃべりをしていた
「うん。何か
「ふぅーん……。あれ? 利剣ってさ、足とか肋骨折ってなかったっけ?」
「治ったらしい」
「え!? 早くない!?」
「うん。早いとは思うねんけど……大した骨折やなかったんかな?」
「大した事ない肋骨の骨折って、どんなのさ……」
咲紀の言葉に、少しだけ考え込む椎佳。
「どんなんやろな? まぁ、治ったって言うならええんちゃう?」
「あっさりだね!」
「まあ、痛いのは利剣であってウチやないからな。そんな事より、静姉と流那にも知らせたらなな」
「うん。咲紀も別に痛くないからもういいや。あ! じゃあ咲紀は流那さんに知らせてくるよーっ!」
利剣に対して非常に失礼な事を言う二人。
咲紀は天井をスッと抜けて二階へと向かっていく。
「……いつ見ても便利やなぁ……」
咲紀の壁抜けを見て、心底羨ましそうに呟きを漏らす椎佳だった。
あとがき
利剣の秘められた能力が明らかに!?
何か攻撃を受ける前提、みたいな能力ですね。
さて、いよいよ次回は野島家に訪問なるか!?
お楽しみに♪
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