第三十七札 さばいぶ!! =生還=
まえがき
周囲が真っ白。
足元や空も真っ白な空間。
「また、会いましたね」
「め、女神様!?」
目の前に立っていたのは俺が並行世界に来てしまった時に必要最低限の
「突然ですが、鬼にバシン! ポキン! で貴方は死んでしまいました」
「えっ!?」
「強さそのままでニューゲームですか? 弱くてコンティニューですか?」
「え、何ですかその狂った選択肢は」
※嘘です。
何だか思い出せないが、夢を見ていた気がする。
意識はぼんやりしているのに、全身がズキズキと痛むのだけはハッキリと分かった。
「…………」
ゆっくりと目を開けた俺が最初に見た物は蛍光灯と真っ白な天井。
(どこだ……? ここ……)
起き上がろうとした途端に激痛が襲い、俺は起き上がる事が出来ずに再び寝転ぶ。
「
俺の視界に再び蛍光灯と真っ白な天井が戻ってくる。
「あー……。俺ってどうなったんだろ……」
こういう時ってさ、俺が覚醒した時に誰かが
首だけを動かして辺りを見てみるが、個室らしい病室に人は見当たらない。
時計の針は午後一時二十分。
「なかなかイベントが始まらないな……」
なんて独り言を漏らした時。
ガラッ!!
病室のドアが勢いよく開き、外から五歳位の男の子が入ってくる。
「おえ?」
俺はやっと始まったイベントが見知らぬ五歳位の男の子である事に困惑して変な声を漏らした。
「じーちゃんじゃない!!」
開口一番その男の子が大声を出し、その直後病室の外からお母さんらしい存在が男の子の手を引っ張る。
「こらぁ! じーじの病室は隣でしょお! すいませんでしたー……」
ピシャン。
勢いよく閉められるドア。
「…………」
俺の目覚めた直後のイベントは病室間違いで始まった。
その後もしばらく待ってみたが誰も訪れなかった為、状況だけを聞きたくて手元にあるナースコールを押してみた。
ガラッ……
しばらくしてパンツスタイルの看護師さんが俺の部屋に来てくれる。
あぁ、別にナース服に期待していた訳じゃないけど報告までに。
「
「あ、はい。起き上がろうとしたら激痛が……」
俺の言葉に看護師さんが目を丸くして驚く。
「いけませんよー! 利剣さんは
「えぇー……」
そうだったのか。
まぁ思い返せば俺って鬼の張り手がパーンで木にドーンだもんな。
折れてて当然、か。
「他にも左腕骨折、右足首
「あっ! ま、待ってください!」
「え?」
そう言って部屋を出ようとする看護師さんを俺は慌てて呼び止めた。
「ここは、どこですか? 俺って運び込まれて何日寝てたんですか?」
「ここは長野県の中央病院です。利剣さんは昨日の夜運び込まれました」
昨日だった。
日数そんなに経ってなかった。
「……ありがとうございます」
聞きたい事を答えてくれた看護師さんはそのまま病室を出て行った。
いや、別に日数が経ってない事を残念に思ってなんかいないんだからね?
それからしばらくボーっと無為に過ごしていたら病室の引き戸がガラッと開いた。
「お目覚めですか!」
急いで来たらしく着衣に若干の乱れがある
「ご迷惑をお掛けしました……」
思うように動かせないながらもペコリと頭だけ下げる俺の近くにゆっくりと歩いて来てから椅子に腰かける宮古さん。
「まぁ……今回は父の考えた作戦だった事もあってこちらが何かを言う資格はありませんが……。一言言わせてもらうとすれば、無謀でしたよ……?」
「宮古さんの言う通りです……」
「今回はたまたま
「いやぁ……とりあえず鬼の攻撃を受けるかよけるかして宮古さんが片付けてくれるまでの時間を稼ごうかなと……」
「んん?」
やべえ、宮古さんが笑ってるけど笑ってない。
心が。
背後に何か
「それは、ご自身で
「あぁ……。そ、そうですね……」
こわごわと肯定する俺。
いや、肯定せざるを得ない。
「……肋骨、折れてるんですってね?」
「え? あ、はい」
突然の質問に反射的に素直に答える俺。
「そうですか……」
そして沈黙。
宮古さんがニコニコと俺の顔を見る。
「え? なんで今それを聞いたんですか?」
「いえ、何となくです」
怖い。
その笑顔と生み出される間が非常に怖い。
「ふぅ……。とはいえ私自身、正直な所苦戦を強いられていましたので……ありがとうございました」
一度ため息をついた宮古さんが困ったような顔をしてからそう言って頭を下げた。
「い、いや……、頭を上げて下さいよ。結果的には俺が迷惑をかけたようなもんですし……」
「それでも、私が今無事でいられるのは利剣さんのお陰ですよ」
宮古さんが無事だったのは俺のお陰、かぁ。
それを聞けただけで、何か救われた気持ちになった。
「ありがとうございます、宮古さん」
「いえ。それでも今後は無謀な行動は控えて下さいね? 今度は死にますよ?」
「は、はい……」
「どうしてもそうなさりたいとおっしゃるのでしたら、今度は私と父が利剣さんの修練にお付き合い致しますから」
「勘弁してくださいよぉ……」
ガラッ!!
そんな事を言っていた時、またもや病室の引き戸が開いた。
「利剣さん!」
病室に入ってきたのは、美砂さんだった。
「あ……美砂さん……」
「良かった! ご無事で……!!」
「いやぁ、無事というか何か動けないんですけどね……」
言って苦笑いする俺。
「さて、私はちょっと
「あ、は、はい」
気を利かせたつもりなのか、宮古さんが「ごゆっくり」と言って病室を出ていく。
扉が閉まってから美砂さんは静かに椅子に腰かけて俺の顔をじっと見る。
「き、来てくれてありがとう……」
「利剣さんが鬼と対峙して怪我をした! って能登さんが血相を変えて森から飛び出して来て……救急車で運ばれた時は本当に死んじゃうんじゃないかって思いましたよ……」
「いやぁ、ご覧の通りしぶとく生き残りました。番外のまま死ねないっすよ、ははは……」
「本当の本当に良かったぁ……」
美砂さんが今にも泣きそうな顔で心配してくるので俺は一生懸命元気な様子を演じる。
これって、親しくなるチャンスじゃん?
並行世界に来てから春が始まるなんて因果なもんだ。
「わざわざお見舞いにまで来てくれて……。予定とか大丈夫なんですか?」
「同じ班の仲間を見捨てて帰る程薄情じゃないですよーだ……」
「そりゃどうも」
「それでも今日の夜には電車で帰らないと、色々と予定を延期させてるんですけどね」
「それは申し訳ない事をしちゃったなぁ」
「いえ! 私が選んだ事ですから」
よし、ここだ!
「んじゃさ、同じ班のよしみでとりあえず連絡先――」
ピリリリリ!! ピリリリリ!!
突然、俺の言葉を遮るように頭の上に置かれていたスマホが鳴った。
「うおっ!? うぃ痛っってぇぇ!!」
慌てて手を伸ばそうとしたが、それが肋骨を伸ばす姿勢になって激痛が走る。
痛みでうずくまる俺を見て、美砂さんが慌てて立ち上がる。
「あっ! と、取ってあげますね!」
そして俺の頭の上に置かれたスマホに手を伸ばす。
「
ディスプレイに表示されている椎佳、の文字を俺に見せてから「はい」っと手渡してくれたのでスマホを受け取ってスマホの通話ボタンをスライドさせる。
「も、もしもし……」
「おぉー! 利剣! 生きとったかぁー!?」
開口一番元気な関西弁が俺の耳に流れ込んでくる。
「あぁ、何とか無事だよ」
「そっかぁー! うちめっちゃ心配したんやからなー!?」
「椎佳が? まっさかぁ……」
「アホ! アンタがおらんなったら何や面白い事が減るやん!」
どういう理由だよ。
「いや、俺はお前を楽しませるために生き延びたんじゃないからな?」
「あっはっは! まぁ
椎佳の後ろで「りゅ、流那はそんな事言ってませんよぅっ……!」という非難の声が聞こえる。
「椎佳、お前減給な」
「はぁ!? 横暴やー!」
「とにかく生きてるから。こっちは大事な話の途中だから、また後でな。じゃあなー!」
「あっ、ちょ――」
何かを言いかけた椎佳だったが、俺はスマホの通話を終了した。
「心配の電話だなんて、いい彼女さんですね」
「えっ!? ち、違いますよ! ただの従業員ですよ!」
「えー? そうなんですかぁ?」
「そうですそうです」
何か誤解された!?
クッソ、椎佳め。
それから俺は何度か連絡先を聞き出そうとしたが、彼女さんに怒られますよぉ、と窘められて美砂さんの連絡先を聞き出す事は叶わなかった。
肋骨とは別に、胸も痛んだ気がした。
あとがき
まぁ、利剣さんには色恋沙汰は無縁ですかね?
洋館はハーレム要素があるのにね。
ここまでお読み下さり有難うございました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます