第三十六札 らいふ!! =命=

まえがき

能登のと「やっ!」

??「ぐぉぉぉ!」

利剣りけんの胸に突き刺さる刀。

利剣「の……とさん……なぜ……?」

能登「黒子がいつもお世話になっております!姉です!」

利剣「そんなバカな!?」

能登「これは兄の氷鬼です!」

氷鬼ひょうき「ウゴォ♪」

利剣「えっ、さっき争ってたじゃん……」

能登「兄妹喧嘩です!」

※嘘です。


※今回はちょっと残酷な描写があります。

でもセビィの文章能力だからそんなにひどくないかも。

苦手な方はあとがきまでスクロールをお願い致します。




















 氷鬼ひょうきの雄叫びがして、凍えるような風がピタリと止む。


能登のとさん……!?」


 俺がそっと木の陰から顔を出すと、そこには氷鬼の首の真後ろに刀を突きたてた氷鬼の姿があった。

 そして背中に刺さった刀を握ったまま両足を氷鬼の肩に置き、体重を乗せて深く突き刺そうとしている能登さん。


「グォォォァァ!!!!」

「うっ…! あっ…!」


 激痛に悶え苦しみながら暴れる氷鬼のせいで深く刺す事が出来ずに能登さんは振り落とされないように刀にしがみつくのが精一杯のようだった。


「能登さん!!」


 俺は体の氷を出来るだけ払い落として模造刀を握りしめて突撃する。


「ガァッ!!」

「ぐぅっ……!! キャアッ!!」


 首の後ろに腕を伸ばした氷鬼が能登さんの体を鷲掴みにして、俺の方へと投げつけてきた。

 俺は飛んでくる能登さんをヒラリと回避! ……したら能登さんが地面か木に叩きつけられてしまうと思い、模造刀を地面に投げ捨てて受け止めようと構えた。


 ビュッッ!! ゴガッッ!!


「ぶほっっ!!」

「くはぁっ…!!」


 何とか能登さんの体が地面に叩きつけられるのを防いだが、投げられた勢いで体の向きが逆さになっていた事で能登さんの靴が俺の鼻を強く打つ。


 ズザザザアアアア!!


 痛みで目がチカチカしている中、訳も分からず地面に引きずられるように転がり、全身を痛みが襲う。


「このぉ!!」


 ダメージが少なかった能登さんが跳ね起きたのは気配で分かったんだが、俺はすぐには起き上がれなかった。

 擦り傷に切り傷、打ち身による痛みが全身を襲い、鼻から多分血が出ているようで口の中に鉄臭い味が広がる。


逢沢おうさわさん大丈夫ですか……!? くっ…! 借りますね!!」


 俺の事を心配して声をかけてくれた能登さんの声が忌々しげな声に変わり、離れていった。


「んんんなろぉぉ!!」


 俺は首をぶんぶんと振って自分の体にかつを入れて地面から起き上がった。

 視界に入ったのは刀を持った能登さんが迫ってくる氷鬼に立ち向かう様子。


業炎ごうえん!!」


 能登さんが札を氷鬼に投げつけると、再び氷鬼の腕と胴が燃える。


「ガァァァ!!」


 熱さで身悶える氷鬼の首に生えていたのは一本の刀。

 それを見てようやく俺は能登さんの「借りますね」の意味を理解した。

 俺が投げ捨てた模造刀だ。


「真剣を持ってきたら……よかったなぁ……」


 口の中に入った血をペッと吐き捨てて俺は予備の木刀を抜いた。


「木刀で鬼に立ち向かうとか……ははっ……」


 腕と足を無造作に振り回す鬼の体を模造刀で打ち据える能登さんの後を追うべく、よろよろと走りだす。


「の……とさん! 俺が隙を作るからぁ! 首の刀を抜いて下さいぃぃ!!」


 俺は精いっぱい声を張り上げて氷鬼へと向かっていく。


「逢沢さん!? その体では無理だ!」

「無理でもこのままじゃあれない! たのんますよ!!」

「しかし……! ああ、もうっ!!」


 どう言っても俺を止める事は無理だと察した能登さんが半ばヤケクソ気味に声を上げた。


逢沢利剣おうさわ りけん! 一世一代の大勝負! して……参る!!」


 どこかで見たアニメの台詞。

 一回言ってみたかったんだわ。

 死ぬ気はないけど死ぬ気で鬼へと木刀を突き出す。

 カッコよく決めたけど、俺って多分世紀末のアニメに出てくるモヒカントゲショルダーの野郎くらいの位置づけだよな、なんて考えてしまう。

 俺を注目させる為、能登さんは声を上げずに氷鬼からそっと離れる。


「ウゴォォ!!」

「うおおおお!!」


 鬼の腕が真横に薙がれる。

 見える。

 これをかい潜って、鬼のあごにでも木刀を突き当ててやる。

 その隙をついて能登さんが首の真剣をどうにかすれば後は何とかしてくれる。

 相変わらず他力本願だがしょうがない。


 迫ってくる腕をギリギリの所で屈もうとした時。


 ズッッ……!!


「いってぇ!!」


 突然、左太ももに激痛が走ったと同時に足の力が入らずにグラリともつれる。


「な……」


 太腿ふとももに刺さった苦無くない

 これは黒子の……


「逢沢さぁぁん!!」


 能登さんの声。


「あっ……」


 バァァァン!!


 鬼の腕がかわしそこねた俺の上半身を思いっきり薙ぎ、俺の体はグルグルと回転して木に叩きつけられた。


 ゴギン!! と鈍い音がして激痛と共に俺の意識はそこで途切れた。




 ・ ・ ・ ・ ・




「ハァ……ハァ……」


 宮古の猛攻を防ぎ続けていた黒子だったが、もはや致命傷をもらわないようにするのが精一杯な程、疲労の色が見えていた。

 その頃になると宮古も荒い息をついてはいるものの隙を見ては利剣と能登の様子をチラリと伺えるようになっていたが、それでも黒子の使ってくる手が分からないだけに油断も加勢も出来ずにいた。


「もう、終わりにしましょうか」


 宮古が二刀を構えて黒子を薙ぐ。


 ギィン!


「くっ……!」


 右手で一刀は防いだものの、左手は読み違えた為に足を深く薙がれる。


 ドクドクと血が溢れ出てきて、歩くのにも支障が出る程の傷だった。


「私も早くあちらに行かねば……」


 先ほど能登が氷鬼に投げつけられ、それを利剣が全身で受け止めた様子を見た時に、旗色が良くないと感じた宮古に明らかな焦りが生じていた。

 今は能登が模造刀を握って善戦しているがあれは危なっかしい。

 早く動きを封じて鬼を祓わねば利剣さんが、と考えていた時に黒子が声を漏らす。


「クク……。私はお前に負けるが、任務だけは果たさせてもらう……」


 意味深な黒子の言葉を聞いて、宮古が黒子を見た時。


 ヒュンッ!!


 数本の苦無を宮古目掛けて投げつける黒子。


「そんな物!」


 キィィン!!


 最初の時よりやや速度の落ちた苦無を全て弾き落とした宮古の目に、一本の苦無を違う方向に投げる黒子の姿が映る。


「待てぇぇ!!」


 宮古は叫ぶと同時に小太刀を黒子に繰り出す。


 ザンッッ!!


 小太刀の一閃で右手がくるくると回転して飛ぶがわずかに遅かった。

 放たれた苦無は駆けている利剣の方へと飛んでいく。


「ハハ……! ハハハ!!」


 右手から血を噴き出しながら黒子が左手を懐に入れ、一枚の札を取り出す。


「召喚!? させはしない!」


 宮古が左手も斬り飛ばそうと片手の小太刀を繰り出そうとするが、黒子が右手を宮古に振り上げた事で視界が真っ赤な血に阻害されて行動に遅れが生じる。


 パシィン!!


 そのせいで黒子が先に自分の額にその札を貼り、その直後左手首が血しぶきを撒き散らしながら地面に落ちた。


「燃えろ!!」


 そう叫んだ黒子の法力によって札が力を発動させる。


 ゴォォォォッ!!!!


 真っ赤な炎が黒子の顔を包み、みるみる体へと燃え広がっていく。


「まずい!!」


 どうにか対処をと思った宮古だったが、自身が水系の法力を上手く扱えない事を悔やむ。


「アハハ!……ハハハハハァァァ!!」


 炎に包まれながら。

 満足そうに笑う黒子の声だけが森に響き渡った。




 ・ ・ ・ ・ ・




 能登が突き刺した刀にありったけの法力を流し込み、炎の術を発動させて延髄を焼き切った事でようやく鬼がその動きを止め、地面に力なく倒れる。


「ハァ……ハァ……」


 法力欠乏症による眩暈と頭痛で能登が地面に崩れ落ちる。

 視界が不良になり、自分が立っているのか座っているのかも不確かな感覚に陥る。


「法力……欠乏なんていつぶりかしら……」


 そんな事を言って自嘲しつつも、能登は先ほど打ち飛ばされた利剣の方へと這って向かおうとする。


「大丈夫ですか!?」


 真横からライバルと思っている男の声がする。

 とは言っても能登が勝手にライバル視しているだけではあるが。


「私より……番外の逢沢さんを……見るのが普通でしょう……」


 精一杯の憎まれ口を叩いた能登の言葉を受けて「そうですか、ではすぐ戻ります」と宮古は立ち上がって離れた。


(ふん……。あれだけ強敵と戦って大きな傷もなさそうだなんて……本当に貴方には追いつけないわね……悔しいけど……)


 能登はギリッと奥歯を噛んでからふぅ、とため息をつき仰向けになって転がった。


 風が冷たくて気持ちいい。


 今日は色々ありすぎてひどく疲れた。

 早く帰ってシャワーを浴びてふかふかのベッドで眠りたい。

 当面新人の保護者の仕事なんて御免よ、と心に誓った。











あとがき

はい、黒子さんは勝負に負けて自害しましたね。

なんか能登回になりました。

利剣、いいやつだったなぁ……。

南無南無。

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