第三十一札 ふぁーすとばとる!! =初陣=
まえがき
前回の主人公
本作の主人公?の様子を見てみましょう。
州崎と黒子の戦闘から
「ど、どうしまし―――」
「しっ……!!」
俺の問いかけを片手を上げて制止した
「近くに、います」
その言葉で俺と倉橋さんは慌ててしゃがみこんで息をのんだ。
宮古さんが振り返って、何やら複雑な指の動きで何かの合図を
合図を受け取った飯塚さんがコクリと頷き、背中の弓を取り出して矢をつがえた。
その一連の動作をボーッと眺める俺と
と、弦を引いた飯塚さんが立ち上がって宮古さんがいる方向……すなわち進もうとしていた方向へと矢を放った。
「目を閉じて!」
突如宮古さんの声が飛び、俺は慌てて目を閉じた。
「えっ?」
咄嗟の事で状況が分からなかった美砂さんが短く声を上げた直後。
パッッ!
「キャッッ!!」
目を閉じていても強い光が生まれたのが分かる。
目を閉じるのが遅れたのだろう。
美砂さんが目眩ましをまともに食らったらしく隣で声をを上げた。
「飯塚さんは美砂さんを! 利剣さん、行きますよ!」
「は、はい!」
宮古さんがそう言って前へと走り出したので、呼ばれた俺も追従する。
100メートル程走っただろうか?
茂みを掻きわけて進む宮古さんに続いて茂みを抜けてから俺は驚いた。
目の前に目を押さえてその場で立ちすくむ小さい人間の集団。
いや、これが小鬼か!
「戦えますか!?」
武器を抜いた宮古さんが俺に確認を取りながら近くにいた小鬼の首をはねた。
胴から首が離れ、そのまま黒い霧になって消える小鬼。
その動作があまりにも自然かつ無駄のない動きだったので俺は目を奪われてしまった。
後、宮古さんは意外にも小太刀の二刀流だった。
「利剣さん!?」
「あ、すみません! やれます!」
見とれていた俺は我に返り、慌てて模造刀を鞘から抜いた。
「ギィィ…!」
宮古さんが近くにいる数匹の小鬼を祓ったとはいえ、まだ奥の方にはそれなりの数が目潰しをくらった事で両目を押さえて立ち尽くしていた
「で、でりゃああ!」
妖怪とはいえ無抵抗の敵を一方的に攻撃する事に対して躊躇いが生じたが、腹を決めて一刀の元に斬り伏せる。
「ギャッッ!」
真剣の宮古さんと違い、模造刀で斬れるのだろうかという不安はあったものの法力が付与されていた事で難なく切断された。
続いて何匹か小鬼を斬ってみたが、血なども出ずにただ霧散していくだけの小鬼達。
血が噴き出さないだけでもかなり精神的に楽だなぁ。
何匹目かの小鬼を斬り終えて。
「ひとまずこの付近の小鬼は祓いましたね」
決して軽くはない模造刀を振り回した疲れから肩で息をしていた俺に、汗一つかかず涼しい顔で小太刀を鞘に収める宮古さんが声を掛けてくれる。
「ふぅ……はぁ……。宮古さん、凄いですね……」
俺の心からの尊敬の言葉に、宮古さんは軽く首を振る。
「あはは、これくらいで驚いていたら他の法師の方や父を見たらもっと驚かされますよ」
「そ、そうなんですか……」
他の人ってどんだけ人間離れしてるんだろう……。
興味はあるけど怖くて見れないかもしれない。
「ご、ごめんなさい! 私トロくって……。しかも足がすくんじゃって……」
目が闇夜に慣れた美砂さんが飯塚さんと共に茂みを掻きわけてやって来て深々と頭を下げた。。
「いえ、大丈夫ですよ。それより説明も出来ずに突然交戦してすみませんでした」
そう言って宮古さんも美砂さんに頭を下げる。
「ええっ!? い、いえ、頭を上げて下さい! 私は大丈夫ですから!!」
両手と首をぶんぶんと振って美砂さんが宮古さんの頭を上げようと慌てふためく。
「私も一言言ってから矢を放てば良かったんですが、申し訳ないです」
弓を片手に、飯塚さんもばつが悪そうに肩を竦める。
「そ、それにしても宮古さんと飯塚さん、声を出さずに凄い連携でしたね!」
何か皆が反省し合っている雰囲気を変えるべく、先刻俺が感心した事を声を出した。
「あぁ、あれは戦闘経験がそこそこある法術師の間で使われるジェスチャーですよ」
俺の意を汲んでくれた宮古さんが沈みかけていた雰囲気を切り替えてくれる。
「そうなんですねぇ~。私も覚えたいですねー!」
「マスターするまでにそれなりに時間を要しますが、使えるようになれば戦術の幅も広がりますよ」
「それはますます頑張らないとです!」
宮古さんの説明で美砂さんが興味津々に目を輝かせる。
内心で俺は「良かった」と呟く。
「さて、この辺りは妖気を感じられませんし、移動しましょうか」
「そうですね」
そう言って飯塚さんが弓を背中に回した時だった。
ゾクッッ……!!
「うっ……」
背中に悪寒が走る。
俺の目の前にいる宮古さんは俺が悪寒を感じるより先に険しい顔で俺の左手の茂みを睨みつけていたので、悪寒の原因は宮古さんだろうかと一瞬思ってしまった程だ。
「み、宮古さん……」
感じた異変に宮古さんの名を呼ぶ声が自然と小声になってしまう。
「どうしたんですか……?」
いまいち状況が分からない美砂さんが隣で不思議そうな声を出す。
「葉ノ上さん……これは……」
後ろを振り返れば飯塚さんも何かを察知したのだろう。眉間に皺を寄せて深刻な表情をしていた。
「小鬼なんて可愛い物ではない、非常に危険な妖怪がいます」
「え……?」
端的に話してくれた宮古さんに、美砂さんが緊張から表情が固くなる。
「はっきり言うと異常事態です。何の前兆も無く強力な妖怪が突然現れるなんて有り得ない。誰か悪意を持った人間が封じ込めていた妖怪を解き放ったと判断します」
宮古さんは鞘から小太刀を抜いた。
「飯塚さん。来た道を引き返して森を出て下さい。私はこの妖怪の対処をします」
「し、しかし葉ノ上さん! 私一人ではこの二人を守りきれませんよ!?」
「二人ではありませんよ」
そう言って宮古さんが不敵に笑う。
あぁ、この笑い方は見たことがある。
「え?」
宮古さんの答えに飯塚さんが不思議そうな声を上げる。
「利剣さん。私と行きましょうか」
「え? え?」
飯塚さんに続いて俺が不思議そうな声を上げる。
「飯塚さん。利剣さんは私の妹である
「ほぉ……!」
「え、ちょっ―――」
「利剣さんは私が連れて行きます! なので飯塚さんは倉橋さんを安全な所へ!」
そんな事ないんです。
俺がそう否定しようとするも、宮古さんが俺に喋らせるまいと矢継ぎ早に指示を出す。
何だこの回避不可イベント!!
「それならばこの飯塚、命に代えても! さぁ、倉橋さん!」
「えっ、そんな……でも……!」
俺の事が気になるのか、それとも自分だけ一人で逃げる事に抵抗があるのか美砂さんがうろたえている。
「利剣さん。男なら倉橋さんを落ち着かせてあげてください」
どの口が言うか。
まずは俺が落ちつきたいわ! とツッコミたい気持ちを押さえて俺は美砂さんの肩に手を置いた。
「実力を隠していてごめん。そういう事だからさ……。今は黙って下がっていてくれ」
俺自身もどの口が言うか。
とりあえずおろおろしていた美砂さんを落ち着かせようと最大限に大風呂敷を広げる。
「利剣さん……。分かりました……。私は足手まといですから、後はお願いします……」
上手く勘違いしてくれた美砂さんが残念そうに頷くと、迷いが吹っ切れた美砂さんは飯塚さんの後に続いて森から離脱する。
「宮古さんって、そういう所が漣さんそっくりですね……」
二人の姿が遠ざかったのを確認してから俺は宮古さんを恨めしそうに睨む。
「お誉めに預かり光栄です♪」
「誉めてませんよ!」
俺のツッコミに宮古さんはアハハと笑う。
「あの場ではそれらしい嘘をつきましたが実際の所、私の傍にいた方が一番安全かも知れませんよ?」
「え……?」
「さぁ、行きましょうか。妖怪退治に」
宮古さんはニッコリ笑って、先ほどの小鬼退治の時とは比べ物にならない早さで森の奥へと駆け出した。
「ええい! なるようになれ!!」
あっという間に距離を開けられた俺は半ばヤケクソ気味に宮古さんの背中を全速力で追いかけた。
あとがき
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
セビィの次回作をご期待下さい。
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