第三十札 ばいおれんす!! =暴力=

まえがき

「俺は州崎。利剣に代わる新しい主人公だ」

「ちょっ…!? 主役は俺……!!」

※ある意味今回の主役は州崎です。












「右斜め前!」


 州崎すざきの指示で後方の男が言われた方向へ数枚の札を投げる。


 法力がめられた札は紙で出来ているにも関わらず射られた矢のような速さで勢いを落とすことなく目標である小鬼の群れ目掛けて飛んで行く。


「ギッ!!」


 小鬼達が札の存在に気付いて声を上げて散らばろうとするが遅すぎた。


 複数の札が次々とその力を解放し、札を核として生み出された無数の氷柱つららがその周囲にいた小鬼達に容赦なく襲いかかった。

 

「ギァ……ァ……」


 ザァァ……


 氷の刃に身体を貫かれて絶命した小鬼達が黒い霧となって霧散する。


 いける。

 洲崎は心中でそう確信してほくそ笑んだ。


 仙波せんば能登のとが後方で見ている中でチームの指揮を取っていた洲崎だったが二人から……主に能登の後押しが強かったのだが「とりあえずは安定している」という一定の評価を受けて、州崎は一時間程前から三人チームの指揮役として別行動を取ること許されていた。


「さすが洲崎さんですね。 発見もお早い!」


 札を投げた男……佐々木が尊敬の念を込めて口を開く。

 佐々木は細身で三十代半ば。

 狩衣かりぎぬ烏帽子えぼしという現代人からすると何とも時代錯誤じだいさくごな衣装に身を包んでいた。


「いやいや。佐々木さんこそ氷系法術のお手前、なかなかお見事ですよ」


 佐々木の言葉に気を良くした洲崎が笑いながら答える。


「でも普通に余裕ですね。葉ノ上はのうえさん……でしたっけ? 何か三チームがいいとか提案してたみたいですけど正直能登さんの言う通り、小鬼退治に必要なのはチーム数であって戦力ではないですよねぇ~」


 佐々木の隣にいたやや小太りの女……佐々木の妻が胸中ずっと思っていた事を口に出す。

 こちらも三十代半ばで狩衣に烏帽子といった出で立ちをしていた。


「まぁまぁ佐々木さん。葉ノ上さんの息子さんは慎重なんですよ。番付が上の人でも判断を間違える事がありますよ」

「でもぉ~……」

「さぁさ、次の小鬼を祓いますよ」


 州崎は心中で舌打ちをした。


(この草木が生い茂った森の中で、誰が聞いているか分からねぇんだぞ? 悪い印象を持たれるような発言をするんなら俺の居ない所で言えよ。俺を巻き込むな……)


 だからお前達はEの中位止まりなんだよと思うがそれは顔には出さない。

 ここで陰口をたしなめて二人の気分を悪くさせてしまうと後々の連携が取り辛くなるリスクがあるからだ。

 州崎はやんわりと宮古みやこをフォローしつつ自分は陰口に一切同意しないというスタンスに徹する事を決めて歩みを進めた。

 

 法術師は日本全国で約一万二千人がその名を法術師連盟に登録している。

 それぞれの地方を総括している五管轄の長五人をSランクとし、Aランク十五人、Bランク百人、Cランク四百人、Dランク千二百人、Eランクが一万人とそれぞれの強さに応じて順位をつける制度を取っており、これを「番付」と呼ぶ。

 昔は「い、ろ、は、に、ほ」であったり「秀・優・良・可・不可」と分けられていたのだが時が経つにつれて分かりにくいという声があがったり「不可というのは無能と言っているようで差別的ではないか」という意見が出た事からS~Eの表記に変えたという経緯がある。

 つまり州崎はD12……上から数えて532番目の実力者で、佐々木夫妻は6,000番目ぐらいの実力であるという事だ。


(俺はまだまだ強くなる。まず次の試験でCに昇格だ。それから……)


そんな事を考えながら歩いていた州崎は周囲への警戒と索敵を完全に怠っていた。


ガサ……!!


「っっ!!!?」


 突然の物音に州崎が足を止めて警戒態勢に入る。

いきなりの州崎の動きに、後ろを歩いていた佐々木夫妻がビクリと体を震わせて後方へと下がる。


「ど、どうかしました……か?」


微動だにせず闇を睨みつける州崎に、佐々木の夫がこわごわと尋ねる。


「……誰だ?」


佐々木の質問には答えず、州崎が闇に向かって声を投げかける。


「……誰もいないんじゃ……ひっ……!」


闇に目を凝らした佐々木婦人が何かを見つけて短い悲鳴を上げた。


闇の中静かに佇んでいたのは黒子くろこ

全身真っ黒は勿論の事、顔にも薄布の頭巾がかかっており顔も性別もうかがえない。


「俺達は青龍管轄の法術師だ。失礼だが何者だ? 頭巾を取ってもらおう」


そう言って州崎が鞘から刀を抜いて構える。


「日本刀の若い男……。逢沢おうさわ殿に相違ないか?」


やや高めの透き通った声。

いまいち女なのか男なのかが判別しかねる声で黒子が尋ねた。


「逢沢? 残念だが俺は州崎だ」


「……ならば用は無い」


少しの間の後、黒子がそう言った直後。


ヒュン!! ギィン!!


「くっ!!」


 黒子の身体がゆらりと動いたと同時に何かが空を切る音がして、それを弾いた州崎の刀から火花が散る。


「ぎぇっ!!」

「ぎゃあっ!!」


 後ろの佐々木夫妻から叫び声が上がった。


 ドッ……!!


 州崎が弾いた何かが地面に落ちて突き刺さる。

 苦無くない

 忍者が使う両刃の武器で、手に持って相手を突き刺したり手裏剣の様に投げつける事も出来る武器だ。


「敵かァ!! 佐々木さん、援護を!!」


 黒子の出現に振り返る事も出来ず、州崎は黒子へと斬りかかる為に突撃する。


「うぉぉぉ!!」


ヒュンッッ!!


 州崎が黒子の左肩から右胴に掛けて袈裟斬けさぎりを放つが、黒子は身体を後ろに逸らしてその一撃を紙一重でかわす。

 その直後、バネの様に身体を前のめりにして勢い良く両手に持った苦無で突き刺そうとしてくる黒子。


「させるかよ!!」


 ギィン!!


 返す刃でその苦無を弾き上げ、苦無を弾かれた黒子の胴がガラ空きになる。


「でりゃあああ!!」


 州崎が空いた胴へ横薙ぎを叩き込むが黒子はブリッジでその一撃を回避してそのまま後方転回で距離を取る。


 こいつ強い!!


 一連の攻防で黒子がただ者ではない事を悟り、州崎は後ろへ跳躍して刀を構えなおした。

 そして横目で佐々木夫妻を睨みつけて叫んだ。


「何してるんですか佐々木さん!! 早く術を……!!」


 そう言い掛けて州崎は息を飲んだ。


 横たわる佐々木主人を泣きながら抱き抱える婦人。

 婦人の右肩には苦無が刺さり、狩衣を赤く染め上げていた。

そして主人はまばたきもせず虚ろな目で空を眺め、口をだらしなく開いて血を流し……絶命していた。

 その細い喉には黒光りする苦無が深々と突き刺さっていた。

 

「なっっ……!?」

「主人が……主人がぁ!! ウワァァァ!!」


 佐々木婦人が叫ぶように声を張り上げ、主人の胸に顔を伏せて泣きだした。

 

 州崎は混乱した。

 佐々木が死んだ。 女は? 闘えるのか?

 どうする? 俺だけで黒子に勝てるか? 逃げるか?

 目的は? 逢沢? 誰だ? どこかで聞いたような……。


 ヒュンッ!!


 「うぉぉっ!?」


 混乱で隙が生まれて反応が遅れた州崎に再び苦無が襲いかかる。


 ギィン!! ドッ!!


「ぐっ……!!」


一本は刀で叩き落としたものの、左太股ふとももに突き刺さる苦無。


「て、めぇ……!!」


足に刺さった苦無を抜いた州崎が苦無を地面に叩きつけて憎悪に満ちた目で黒子を睨みつける。


「俺はっ!! こんな所で死なねぇぇ!!」


 州崎が一枚の札を取り出し、力を解放させる。

 周囲に強い風が吹き荒れ、その風が凝縮されて見えない刃と化す。


「風よ、荒れろ!! 目の前の愚者を切り刻め!!」

 

「……遊びすぎた。後はこいつと戯れていろ」


 興を失ったように言葉を吐き捨てて黒子が一枚の札を取り出して破った。


「逃がすかよ!! 風刃!!」


 州崎が放った真空刃が黒子目がけて襲いかかるが、黒子はその刃が見えているかのように最小限の動きで刃をかわすとそのまま闇に溶け込んで消えた。


「どこだ!! チクショウ!!」

 州崎が辺りを見回して声を張り上げるが、返事はない。

辺りは佐々木婦人のすすり泣く声と虫の鳴き声だけが聞こえるのみ。

 

 と。


 ズルッ……


 何かが地を這う音。


 「……!!」


 音のした茂みへと刀を向ける州崎。


 闇の中、赤く光る目が二つ。


 同時に感じる妖力。

 

「妖怪……!!」


 その赤い目が州崎の背丈より高く、三メートル程の高さまでグググと上がった。

 

「な……んだと……!?」


 州崎の目の前に現れたのは大蛇。


 リズミカルに舌をチロチロと出し入れしながら、州崎の身体の二倍はある太さの蛇が餌を見つけたと言わんばかりに嬉しそうに目を細めた。












あとがき

あー、ポッと出のごますり佐々木さんが死んじゃいました。

考えた時間の10分の1ぐらいで退場とは……。

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