第二十九札 さーちえねみー!! =索敵=

まえがき

こ、これが小鬼……!!

利剣の前に現れたのは背丈が6メートルはあろう鬼だった。

「え? この世界ではこのサイズが小鬼ですよ」

しれっと答える宮古さん。

じゃあ大鬼は何メートルなんだよ!?

気になるが怖くて聞けない利剣達の鬼退治が今、幕を開ける……!!

※嘘です。









 目的地までバスで移動する事三十分。

 民家が一つも無い山に囲まれた県道脇に俺達はいた。


「はい、これで大丈夫ですよ」


 俺の武器に術を付与し終えた宮古みやこさんが模造刀もぞうとうと木刀を手渡してくれる。


「六時間ぐらいは効果が続くと思います。効果がなくなったら一度下がって、再度付与を受けてくださいね」

「ありがとうございます」


 受け取った模造刀と木刀にはそれぞれ一枚の札が貼られていて、柄を握っただけで特殊な力がめられているのが分かった。

 今から六時間って、深夜零時過ぎか。

 ハードワークだな…。


 バスから離れた所では弁慶べんけいと初老の男が何か話を話しこんでいて、森の入口の方にはスーツの女性といけすかないポニーテールの青年を含めた八人の男女がいた。


「宮古さんの番付はどれくらいなんですか?」


駅での一件で気になっていた俺は宮古さんにストレートに尋ねてみた。

さきほど受けた扱いが引っ掛かっていたし、今後そういう場面になった時に宮古さんの番付を聞いておく事で何らかの強弱の物差しにはなるだろうと思ったからだ。


「あ、それは私も気になってました。強そうですもんね」


 倉橋さんも俺の質問に同調する。

 興味津々きょうみしんしんの二人の視線を受けた宮古さんが困ったような表情を浮かべて笑う。


「私ですか? うーん、個人的には番付に重きを置く風潮ふうちょうはあまり好ましく思っていないんだけどね……」

「そうなんですか? でも、中にはそういう人もいますよねー」


 そう言って倉橋さんは少し離れた場所で木にもたれかかっているポニーテールの青年を一瞥いちべつする。


「そうですね……。残念ながらそういった人がいるのも現状です」

「おう、この子達が葉ノ上はのうえさんの言ってた期待の新人達かい?」


 背後から野太い声がしたので振り返ると、そこには弁慶さんが腕組みをして立っていた。


 何だ? ここの人達は話しかける人の背後に立たないと声が掛けられない呪いとかルールでもあるんだろうか。

 ってか宮古さんめ。番付の話が見事に有耶無耶うやむやになったな。

 俺は宮古さんに番付を聞けなくて不服ですという表情で見てやったが、それに気づかないのか気付いていない振りをしているのか弁慶に向き直って会話を始めた。


「父から聞いていたのはこちらの利剣さんだけですね。こちらのお嬢さんは今日が初陣だそうで仲良くなったそうです。……こちらは仙波せんばさん。今回のチームの総指揮を取ってくれる法術師さんだよ」


「仙波さん、今日はお世話になります。逢沢利剣おうさわ りけんと言います」

「私は倉橋美砂くらはし みさと言います! 宜しくお願いします!」


 宮古さんが弁慶、もとい仙波さんの紹介してくれたのでその流れで俺と倉橋さんが自己紹介をした。


「宜しくな。まぁ今日は俺達から離れずに小鬼をぶった斬ってりゃあいいからよ!」


 そう言って仙波さんはドンと自分の胸を叩く。


「まぁ、あっちの八人は一応番付に入っているし能登のとさんが付いてるから大丈夫だろ」

「そうですね」


 仙波さんの言葉に宮古さんがうなづく。


「さっき駐在の術師から話を聞いたが、はらっても祓ってもどこからか湧いてくるらしい」


 クイッと親指で先ほど話をしていた初老の男を指差す。


「異常発生とかですかね?」

「……」


俺の問いかけに宮古さんと仙波さんは無言で顔を見合わせる。


「違うんですか?」


 倉橋さんの言葉に仙波さんが真剣な表情で重々しく口を開く。


「これは断定出来んのだが……他所よそから運ばれた可能性がある」

「えっ? 何でそんな事するんですか?」


「それが分からんのだ。ここに小鬼を集めて強力な妖怪を生みだそうとしているのか……はてまた他に何か俺達が考えもつかないような目的があっての事なのかその辺はさっぱりだ」


 仙波はぼりぼりと坊主頭を掻いて答えた。


 ザッ、ザッ……


 先ほど仙波さんが能登さんと呼んでいた女性がこちらに向かって歩いてくる。


「おう能登さん。首尾はどうだ?」


 片手だけ上げて軽く挨拶を交わした仙波さんに能登さんはぺこっと少しだけ会釈をする。


「はい。あちらの法術師達への作戦概要の説明は終わりました」


 チラリと俺と倉橋さんを一瞥したが、能登さんはすぐ仙波さんに向き直った。


「そうか、有難う能登さん。さて振り分けだが……葉ノ上さんどうするかね?」

「そうですね……。総数十三人なので四人、四人、五人の三チームが無難では?」

「ふぅむ、やはりそれが妥当か」

「いえ、効率を考えるのであれば四人のチームを一つと三人のチームを三つが良いかと」


 宮古さんの提案に仙波さんが頷いたとき、能登さんがすぐに異論を唱える。


「しかしそれでは先導役が一組不在になりますよ」

「あちらの日本刀を差した男性……州崎すざきさんの番付はD12だそうです。番付だけを見れば葉ノ上さんの妹さんに勝るとも劣らないかと思いますが?」


 能登さんの発案に意見した宮古さんに対して、能登さんがピシャリと言葉を返す。

 気のせいだろうか? 能登さんの口調と言葉から何だか宮古さんの事をあまり快くは思っていないように感じる。


 てかあのポニ男、州崎って言うのか。今日の事は忘れんぞ。


 しかしその雰囲気に物怖じせずに宮古さんは意見を続ける。


「しかし今回の案件は戦闘未経験の者が二人いる状況です。州崎さんの番付は確かに十分な戦力になり得ると思いますが仙波さんと能登さん、そして私の三名が率先して指揮を取った方が安全かと思います」

「今回の討伐対象は危険度の低い小鬼です。チームを多くした方が小鬼を多く駆除出来てこの地域に住まう人達の危険と不安を早く取り除く事が出来るかと」


 自分の考えを曲げない性分なのは宮古さんも静流しずるも似ているといえば似てるけど、この能登さんにも同じ事が言えるなぁ。

 まぁ、その戦闘未経験者というお荷物的な存在のうちの一人が俺なので何かを発言する権利も無さそうである。

 どちらも譲らない拮抗した状態に、俺はもう一人の戦闘未経験者である倉橋さんをチラリと見てみると倉橋さんはあわあわと動揺した様子で仙波さんを見ていたので俺もそれに倣う。

 険悪な二人の様子を見かねた仙波さんは二人の間に割って入った。


「かぁー! 分かった分かった……。二人の言い分は分かったから」


 仙波さんは頭をぼりぼり掻いてから腕組みをして考えこむ。

 悩んだ時に頭を掻くのはこの男のクセなんだろうな、と俺は冷静に分析してみる。

 やがて何か思いついたのか仙波さんは二人の顔を交互に見た。


「じゃあこうしよう! まずは四人と九人のチームを作る。三人のチームは葉ノ上さん、逢沢君、倉橋さんとあっちの誰か一名だ。」


「は、はい」


 名前を呼ばれて宮古さんがひとまず反応を返す。


「九人のチームだが、ひとまず州崎さんと他二名主導の動きを見せてもらって、問題がなさそうなら州崎さんチーム、俺チーム、能登さんの三チームで別れる。それでどうだ?」


「成程」


 仙波さんの提案に能登さんが頷く。


「勿論州崎さんの動きや指示に問題があれば、九人を五人と四人に分けて俺と能登さんが指揮を取る。それなら問題ないだろう?」


 我ながら名案とばかりに白い歯を見せてニヤリと笑う仙波さんに宮古さんも能登さんも「そういう事なら……」と賛成の意を示した。


「よぉし! んじゃさっそく行動に移そうや。事前の打ち合わせでちょいと時間を食っちまったからな」


 パァンと両手を叩いた仙波さんは立てかけていた六角棒を片手で持ちあげるとズシリと肩に背負い、全員を一か所に集めるように声を掛けた。




・ ・ ・ ・ ・




背の低い木の枝をかきわけ、森の中を進む四人。


先頭から宮古さん、俺、倉橋さん、そして飯塚いいづかさんという四十近くの弓を背負った道着の男性の順。


「足元に気をつけて下さいね」


 前を歩く宮古さんが後ろの俺たちに気遣って声をかけてくれる。


「は、はいっ」


 山道を歩くのに慣れていないのか倉橋さんがおぼつかない足取りで返事を返す。


「後ろは見てるから安心するといいよ」


 飯塚さんも倉橋さんに対して優しい声をかけつつ周囲を警戒している。

 駅では六人で集まっていて輪に入れなかったけど、話をしてみると案外いい人だった。

 それに倉橋さんは可愛らしくて人懐っこいし守ってあげたくなるような感じだもんな。


「宮古さんが前を歩いてくれているとはいえ、それでも緊張しますね……」


 手の汗を服で拭いながら俺は宮古さんに話しかける。


「利剣さんなら大丈夫ですよ。静流や椎佳しいかと手合わせ出来ているならなおさら問題ないですよ」

「だといいんですけど」


 正直静流や椎佳と手合わせして一回も勝った事はないんだけど。


「お二人はお友達……ではなさそうですけどどういったご関係なんですか?」

「利剣さんは私の父の知人なんですよ」


 倉橋さんの質問に素直に答える宮古さん。


「そーなんだ……。利剣さんって実は凄い人だったり?」


 突然下の名前で呼ばれた事に俺はドキッとしてしまう。


「え? な、なんで?」

「だって利剣さん番外だよって言ってたのに、葉ノ上さんやそのお父さんとお知り合いだって言うし……。番外仲間だーって思ってたのに何だかなぁ~……」


 と、ねたような口調で顔を横に向ける倉橋さん。


「うーん、正直俺は凄くないんけど、偶然知り合った人が凄かったってだけなんだよなぁ……」


 まぁ、並行世界から来たって時点で凄い人ではあるんだけどさすがにそれは言わない。


「あ、ごめんなさい! つい葉ノ上さんにつられて利剣さんって呼んじゃいました」

「いや、大丈夫。堅苦しいのは苦手なもんで……」


「あ、じゃあ私の事も美砂でいいですよ」

「あ、う、うん……。改めて宜しく、美砂さん……」


 こ、これは甘酸っぱい!!

 よしここでグッとお近づきになって――


「葉ノ上さんって、あの葉ノ上さんですか?」


 突然、一番後ろの飯塚さんが会話に入ってくる。

 あ、俺のストロベリータイムが……。


「ええ、恐らくは……」


はにかんで肯定する宮古さん。


「おお! お噂はかねがね耳にしております! その御子息と共に任務に当たれるとはいやはや……」


 興奮した様子で一気にまくしたてる飯塚さんに、俺と倉橋さんは圧倒されてしまう。


「有名なんですね……。すみません、不勉強で……」

「同じく、申し訳ないです」


 倉橋さんと俺が宮古さんに対して申し訳なさそうに頭を下げる。


「本当に気にしないで下さいね。後利剣さんはそういう戯れはやめて下さいね?」

「えぇー…」


 俺だけイエローカードを食らった所で急に宮古さんが足を止めて前へと振り返る。


「ど、どうしまし―――」

「しっ……!!」


 俺の問いかけを片手を上げて制止した宮古さんが身を屈めて囁くように声を出した。


「近くに、います」


 その言葉で俺と倉橋さんは慌ててしゃがみこんで息をのんだ。











あとがき

ここまでお読み下さりありがとうございました。

参加する事に意味がある、って言う事でコンテストなんかに応募したいのに

十万文字に足りていないという…。

毎日更新で頑張ります。

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