第二十八札 へるぱー!! =助っ人=

まえがき

伝説の摸造刀を手にした利剣。

だがそれは、持ち主の欲望を吸い取ると言う恐ろしい妖刀だった…!

「り、利剣さんが貯金を全部寄付するって言ってますぅっ!!」

「な、なんやてー!?」

果たして椎佳は利剣の募金活動を止める事ができるのか!!

※嘘です。









  前略。

 父さん、お身体を大事にしていますか?

 母さんも、俺がいなくなって寂しがってはいないでしょうか?

 俺は元気です。

 俺は今、長野県の森の入り口にいます。

 ではさようなら

 草々。


 …まじで周りが草だらけ、いや山だらけだわ。




 あれから俺は参加の手紙を送り返し、参加する事になった。


 幸い出発日が五日後だった為、その期間で摸造刀を購入したり動きやすい服を用意したりと準備する時間は十分にあった。

 静流しずる椎佳しいかが代わる代わる俺をみっちり鍛えてくれたしな。

 当日は流那りゅなが作ってくれた早めの昼飯を食い、家から首都までは電車。

 そこからある歌に出てくる有名な特急列車あ○さで移動することおよそ二時間。

 ちなみに八時ちょうどの二号ではなかったことは言っておく。

 長野のある駅を降りた所が法術師の集合場所となっていたので別に迷いはしなかった。


「はぁ…夕方五時前か。遅延も考えて早めに出たとはいえ、まだ少し時間があるな…」


 スマホの時計を見れば四時四十六分。

 集合時間は五時半なのでまだ余裕がある。

 

「それなのに……」


 俺は駅の外にたむろしている六人の集まりを発見する。

 何度かチラ見するが、残念ながらとてもじゃないが地元民には見えない。

 弓を背負う者に薙刀なぎなたを立てている者。

 歪曲札わいきょくふだを貼っている刀を持っている奴もいる。

 半分くらいは洋服を着ているものの、法術師らしさがぷんぷん出ていた。


(新参の俺が混じれる雰囲気じゃないからどこかで時間を潰そう…)


 そう思って駅の周りを見てみるが……ものの見事に何もなかった。


 駅の前を国道が走っているが、裏手は山。

 その山が線路に平行するように伸びていてまさに大自然の中の駅! って感じ。


 国道沿いには古風な家が建ち並ぶだけでコンビニ等は一切見当たらない。


「助けて、地図アプリ様!」


 すがるように俺はスマホの地図アプリを起動させる。


「近くに何かありますように……!」


 藁にもすがる思いで俺は現在地周辺を調べてみる。

 店と小学校しかない。

 どちらも今の俺には全く必要がない情報だった。

 何だよわさび店って。


 近くに何も見当たらないので、コンビニを打ちこんで検索する。

 でた。


 最寄りのコンビニ店は…川を挟んで約二キロ先だと…!?

 行って帰るだけで集合時間になっちゃう……

 俺は断念してスマホをポケットに滑り込ませた。


「やぁ、君も法術師かい?」


突然後ろから声を掛けられて反射的に振り返る。


 そこに居たのは暗めのダメージジーンズに黒革のジャケットという出で立ちで長い黒髪を後ろで一つに束ねてポニーテールにした青年だった。


 年齢は二十代半ば…、俺より少し上だろうか?

 腰には日本刀を差している。


「ええ、そうです…」


「同じ仲間だろうと思いつつも、見た目からつい構えて返事をしてしまう。


「俺もなんだ。よろしく」

「宜しく…お願いいたします」


 タメ口にはタメ口で返してやろうと思いはしたのだが、あくまで思っただけ。

 やっぱり年上っぽそうなのでつい丁寧に挨拶を返してしまった。


「君、番付ばんづけは? いくつ?」

「え? 番付…って?」


 青年の質問の意味が分からずそのまま聞き返してしまった俺に対して、青年の顔に明らかな失望と嫌悪の色が見える。


「なんだ、番外かよ」


 そう言って俺の横を通り過ぎる青年。


(え? 何、こいつ)


「足だけは引っ張らないでくれよな」


 そう言い捨てて六人がたむろしている方へと向かう青年。

「なん…なんだよ……」


 番付ってなんだろう?

 スマホを取り出して静流に電話して聞いてやろうとした時だった。


「あの人、感じ悪いですよね」


 また唐突に後ろから声をかけられて俺の身体はビクッ! っと跳ね上がってしまう。

 平静を装って振り返るとそこにいたのは同じく二十歳かそこらの女性だった。

 栗色で、前髪を切り揃えたショートボブに、動きやすいゆったりめのチノパンに長袖の上着を羽織っている。


「ごめんなさい、驚かせてしまいました?」


 申し訳なさそうに俺を見上げる女性に、俺は首をブンブンと振った。


「いや、大丈夫っす…。駅の改札付近に突っ立ってる俺が悪いんで……」


 今度は年齢が近そうな事もあり、比較的くだけた口調で返事を返せた。


「あの人、私にも聞いてきたんですよ。番付は? って」


 ぷぅっと頬を膨らませた女性が嫌悪のこもった目でたむろしている連中と談笑している青年の背中をジィっと睨みつける。


「そ、そうなんだ…それは大変だったっす、ね……」

「法術師には、番付っていうランクがあるみたいですよ」


 初耳だわ。

 ってか大体の事が初耳だからもうあんまし驚かないけど。


「へぇ…。じゃあ番外って言われたのはなりたてだからなんですかねえ…」

「そうみたいですね。年に一回、決まった日に法力測定とか手合わせがあってそれによって番付が上下したりするみたい。その測定を受けていない人は番外って呼ばれるみたいですよ」

「詳しいんすね」

「うん、お父さんから聞いたから」


 お父さん。

 もしかしてこの子は…!


「初めまして、俺は逢沢利剣おうさわりけんって言います」

「あっ! 申し遅れました。倉橋美砂くらはしみさです」


 違った。のか?

 そういえばれんさんからは助っ人って聞いただけで性別とか名前を聞いてない…。


「宜しくお願いします、利剣さん」

「こちらこそ宜しく」


 漣さんに電話して聞いてみるか…。

 俺はスマホを取りだそうとポケットに手を突っ込む。


「わぁ! 利剣さんは刀を使われるんですね!」

「あ、う、うん。そうそう」


 倉橋さんが俺の得物に気づいて羨ましそうに俺を見る。


「凄いですね! 私は脇差わきざしを持って振りまわすのがやっとで…」

「あぁー…。確かに日本刀は重いっすもんね」


 そうなのだ。

 俺はずっと木刀を振りまわしていたからそれに慣れていたんだけどさ、摸造刀と木刀ってやっぱり違うんだと思い知らされた。

 木刀は当然ながら木製だから重さ五百グラムくらいなんだよね。

 対して摸造刀は平気で千二百グラムとかあるから予想より重くて、すぐ疲れが襲ってきた。

 その後色々と愛用している武器や日々の鍛錬などの話で盛り上がる俺達。


 って、若い女の子に話しかけられるのは嬉しいけど電話が全然出来ない…。


「私は先月法術師の登録をしたんですよ。利剣さんは?」

「大体三カ月くらい前、かな……」


「すごいー! じゃあ先輩ですね!」

「いやいや……」


 俺の何を気に入ったのか目を輝かせている倉橋さん。

 やめてくれー、俺は先輩なんかじゃないんだぁー…。


「私、宝玉を触った時は赤が色濃く出てる、って。朱雀の恩恵があるみたいなんですよ!」


 き、来た…!!

 避けていた話題が来てしまった。


「逢沢さんは恩恵、どうでした?」

「い、いやー!俺は……青龍みたいで…」


 咄嗟に静流の恩恵を思い出し、嘘をついた。


「そうなんですねー!」

「ま、まぁねぇ…」


 さすがにこの目を輝かせている雰囲気で「恩恵は五神から受けてるみたいだけど、法術は一切使えないんだ!」なんて言ってみろ。

 きっとさっきの野郎みたいにゴミムシを見るような目で俺を見た挙げ句、地面に唾を吐き捨てて離れて行くんだぜ?

 そんな待遇俺には耐えられない。


「ご出身はどちらなんですか?」

「あぁ、俺は今は東京で…」


「皆、揃っているかな!!」


 突然野太い声が辺りに響いた。

 声の主へと振り返ると改札口に立っていたのは背丈が百八十センチはありそうなスキンヘッドの巨漢だった。

 体格に似合わない差袴姿で右手には棍棒…いや、六角形だ。

 自分の背丈の半分位の長さの六角棒を握りしめていた。

 眉太っ! 目力すごっ!!

 武蔵坊弁慶が生きていたらこんな感じなんだろうか?

 その隣には黒いスーツに身を包み、サングラスを掛けた男女が一組。

 どちらもスタイルが良く、ビシッとキまっている。

 逃げ回る人間を走って追いかける某ハンターを彷彿とさせる雰囲気だ。


「な、何か凄いですね…」

「そっすね…」


 俺と倉橋さんがヒソヒソ声で会話を交わす。


 改札口にはスーツ(男)、差袴、スーツ(女)。

 あれから何人か到着しており、駅前にたむろする十人近くの男女。

 これさぁ、傍からみたら完全な不審者集団だからね?

 少なくとも俺の元いた世界ならお回りさんを呼ばれても仕方がないレベル。

 ここが無人改札で本当に良かった。


「これよりマイクロバスで目的の森まで移動するのでしばらく待機をお願いする!」


 そう言って一礼した弁慶は改札の脇へと静かに移動していった。


 スーツの男女はと言うと女の方が感じ悪い青年の輪の方へ向かっていき、男の方がこちらへと歩いてくる。


「今日ご参加の方のお名前を確認しております」


「く、倉橋美砂です…」

「逢沢、利剣です…」


 名前を確認した男は手に持っているバインダーに挟んだ紙から俺と倉橋さんの名前をボールペンで消した。


「逢沢…さん?」


 俺の名前を確認して、サングラスの男が俺の顔を凝視する。

 実際はサングラスで凝視されているのか分からないけど。


「そ、そうですが……」


「あぁ…、失礼しました」


 そう言って男がサングラスを外す。


「あ……」


 どことなく面影のある目。

 静流にように整った顔立ちの美青年がそこにいた。


「初めまして。葉ノ上宮古はのうえ みやこと申します。いつも父がお世話になっております。今日は助っ人として来させてもらいました」


 そう言って宮古さんはニッコリと笑った。






あとがき

漣さんの息子さん登場。

登場人物がたくさんで申し訳ないと思いつつも後悔はしていない…。

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