第二十五札 こんてぃにゅー!! =継続=

まえがき

真実を咲紀に告げる。

その前に流那をどうするか。

利剣さん胃痛!










 結局、昨日は家に着いたのが十時前と遅かった為、詳しい話は翌日話そうと言う事で解散した。


 解散っつっても自分の家の中だけど。


 侵入者撃退後、静流しずるは犯人の警察への引き渡しに加えて事情聴取という事で調書の聞き取りや当時の状況説明等で、二時間程拘束されて動けなかったようでその間の夕飯の準備や風呂の掃除や何やらを流那りゅなが一人でこなしてくれたらしい。

 流那は流那で何か咲紀さきに対して怒っていたようだが、咲紀いわく任務の為だったとか訳の分からない事を供述している。


 翌日、俺は一同を応接間に集めて詳しい話をする事にした。


「その前に一度確認しておきたいんだけど。ええと…流那」

「は、はいっ?」


「退職金を出すから何も聞かずに退職してもらうという選択肢もあるんだけど…」

「ふぇっ…?」

「利剣、どういうことっ!?」


 俺の言葉に、流那と咲紀が反応する。


「うん…。静流しずる椎佳しいかは既に知っている話なんだけど、この館を中心に色々と物事が動いている。俺の事も含めてな」


 何も言わず、静かに聞く流那と咲紀。


「昨日の不法侵入もその一つみたいで、今後流那の安全を完全に保障する事が出来ないと思う。あぁ、もちろん流那を守らないとか自衛しろって言ってるんじゃないんだ。でも、万が一って事もあるしさ、とばっちりで巻きこまれる可能性も否定できない」

「………」


 何も言わずうつむく流那を見て、俺は言葉を続ける。


「それにこのままこの話を聞いたら、完全に今回の件で関係者になってしまう。今なら何も聞かずに退職金を受け取ってここから離れられるぞっていう分岐点なんだ」

「咲紀のせい?」


 ポツリと咲紀が呟く。

 悲しげに上目うわめづかいで俺を見る咲紀。


「……違う。それは違う」

「違わないよ…。咲紀がいるから、昨日の奴らも来たんでしょ?」

「それは……分からない」


 こんな時だけ察しがいい。

 いや…元々咲紀はこんな奴だ。

 悪戯いたずらはするけど、人に迷惑をかけたくない奴なんだよなこいつは。


「流那は、足手まといですか?」


 スッと顔を上げた流那が俺を見る。


「流那は居ない方が、いいですか?」

「その質問は…ずるいよ…」


 俺は視線を逸らして静流と椎佳を見てしまう。

 静流も椎佳も口には出さないが、思っている事は分かる。


「足手まといとか、居ない方がいいなんて思ってねえよ……」

「じゃあ……流那はっ…」


「逆やで」


 重苦しい空気に耐えかねたのか。

 俺が頼りなかったから助け舟を出したのか、椎佳が口を開いた。


「皆流那の事が好きやねん。せやから危険な目に合わせたくないから提案しとるねん…」

「そ、そうだぜ」


 椎佳、ありがとう。


「流那は、それでもここに居させて欲しいです」


 ギュッ…と服を握ってハッキリと思いを告げる流那。


「足手まといかも知れませんけどっ! 流那はここに居たいですっ…!」


 ポロリ、と流那の目から涙がこぼれる。


「り、流那……」

「あーあ、利剣が泣かした…」


 椎佳、裏切りやがった。


「おうち、家事いっぱいっ、がんばりまずがらぁっ…」


「わ、分かった…分かったから泣かないでくれっ……」


「うぇぇえ…」


 何で流那はこの家にこだわるんだろう?

 待遇がいいから? などと邪推じゃすいしてしまう。

 ぐすぐすと泣きじゃくる流那の背中を静流がそっと撫でる。


「大丈夫ですよ、流那さん……」

「あ、ありがとございますぅ…」


 あっちは静流に任せておこう。

 改めて俺は咲紀に向き直る。


「……な、何さ?」

「咲紀。「野島のじま」って聞き覚えないか?」


 それを聞いた咲紀の眉がピクリと動く。


「のじ…ま?」

「そう。「野島 咲紀」それがお前の…サキの名前だ」


 そう言って俺はポケットから一枚の紙を取りだした。

 預かることは出来なかったので、写真をカラーコピーしてもらった物だ。


「これが野島家の家族写真だ」


 咲紀は触れられないので俺が広げて見せてやる。


「これが……サキなの…?」


 写真をジッと見つめる咲紀。


「そうだ。咲紀だよ」


「そっかぁ…。鏡とか写真に映らないからさ…自分の顔がどんななのか分からなかったから…」


 あ、そうだったのか。

 何かそんな会話をしたことなかったな。


「咲紀の隣に居る二人は、お父さんとお母さん?」

「そうだ」


「そっかぁ……。これがお父さんとお母さん……」


 どこか懐かしそうに目を細めて眺める咲紀。

 何か思い出してくれたらいいんだが……。


「お父さんとお母さんは、今どうしてるの?」


 その問いかけに、俺は言葉を詰まらせてしまう。

 やっぱり俺の口から言わないとダメなんだよね?

 俺はチラっと椎佳を見る。


「んんっ…!」


 わざとらしく咳込んで視線を逸らす椎佳。

 静流は流那をなだめ中だし。

 でも流那の方はだいぶ落ち着いてきたな。

 やっぱり俺が言うのか…。


「咲紀のお父さんとお母さん、そして咲紀は恐らく亡くなっている」

「………」


 そっと、咲紀がうつむいた。


「本当…?」

「あぁ。お父さんとお母さんのご遺体は三年前に発見されている。咲紀の遺体は見つかっていないけど、大量の出血からして妖怪に食われただろう、と言う結果だ…」


「そんな……」


 真実を聞いた流那が信じられないと言う顔で呟きを漏らした。


「葉ノ上さんの見立てでは、何者かが妖怪を呼び出す札をすり替えて妖怪の力で野島一家を殺害させたという可能性が高いだろう、と」

「そっか……」


 バッっと咲紀が顔を上げた。


「や、いや~! 咲紀はもう死んじゃってたんだねー! 分かってたけどさっ! 身体がないってなるとどうしようもないね!!」


ふわふわと空中で回転して、咲紀が無理に笑う。


「でもさぁ、死んだって言うのにまだ何かしに来るなんてさぁー! 咲紀の家って生前悪い事でもしてたのかなー!?」

「咲紀、大丈夫やで」


 無理に空元気を出す咲紀に椎佳が声をかける。


「逆や。アンタの家はいい奴で、来とる奴らが悪モンや。心配せんでええ! ウチらがアンタを守るから…」

「椎佳……」


咲紀が椎佳の名前を呼んでから、シュバッ!っと椎佳の顔に近づく。


「アンタじゃないよ? 咲紀だよ?」

「さ、咲紀……」


 突然接近されてびっくりした椎佳が思わず言いなおしてしまう。


「ん、よろしい♪」


 満足した咲紀がうんうんと頷いて椎佳から離れる。


「ホントにおま…咲紀はブレねえのな」

「ここはブレたら負けだと思ってる」


 何故かドヤ顔で言ってくる咲紀。


「それにさぁ……。なんてゆーのかなぁ」


 空中で胡坐あぐらをかいて、腕組みをして首をひねる。


「咲紀が実はお前は野島咲紀だー! って聞いたり、両親も咲紀も死んでるんだ! って聞いてもさー……。全然記憶がないから悲しいとか寂しいとかっていう感情が湧いてこないんだよね…」

「そ、そうなのか?」

「うん、そう」


 そういうものなんだろうか?

 まぁ、確かに記憶喪失状態だと、親から受けた愛情はおろか、親自体も思い出せないんだもんな。


「ん? ほなもし静姉やウチが死んでしもたら悲しい?」

「うん、悲しいと思う…」


 眉を下げて答える咲紀。


「俺が死んだら?」

「笑うと思う」


 満面の笑みを浮かべて親指を立てる咲紀


「なんっっでだよ!!!?」

「えー…だって……袴の中身はどうなってるんだグヘヘとか言ってたし…」


「ちょっ、おまっ…!!」


 慌てた俺は辺りを見回す。


「………」


 無言で俺を見る三人の女性の目が冷たい。


「あ、あれはただの興味本位で……別に……」


「いるよねーそういう犯罪者。前にテレビで見たよー。女性のスカートの中身に興味があったって言ってた」


 ここでそういう例えは非常によくない!!


「いや! 俺の言う興味本位とは性的な意味ではなく……」


「利剣………」


 やれやれと言う感じで首を振ってから、ポンっと椎佳が俺の肩に手を置く。


「椎佳……」


「表、出よか。ちょっと性根を叩き直したるわ」


 ニコっと笑いながら椎佳が俺の襟首を掴んで引きずる。


「ちょ、待って…! って、椎佳力つええ!!」


 必死の抵抗むなしく俺は椎佳に庭に引きずられ、地獄のようなしごきを受けるのだった。




・ ・ ・ ・ ・




「お館様、あおい様がお越しになられました」


 葉ノ上家。

 障子越しに翡翠ひすいの透き通った声が聞こえる。


「うむ。お通ししなさい」


かしこまりました」


 スッ、と翡翠のシルエットが移動していく。

 暫くして障子が開き、黒髪短髪で人が良さそうな顔をした小柄な男が姿を現した。



「いよう、葉ノ上さん」

「うん? 葵さん、今日はどうしたのだね?」


 れんから片手で座るように促され、葵と呼ばれた四十代の男がよいしょと腰を下ろす。


「またまたわざとらしい。分かってるクセに。あ、これお土産ね」


 葵はヒョイと着物の袖から紙に包まれた土産を漣に差し出す。


「これは…筒井屋の羊羹ようかんではないか。さっそく馳走になろうかな。おい翡翠」


「お呼びですか?」


 声をかけるとすぐに障子の向こうから声が聞こえた。


「羊羹を頂いたから、さっそく切って持って来てくれないか?」


「承知いたしました」


 スッ、と障子が少し開き煌びやかな着物を着た翡翠が少し顔を覗かせる。

 漣が立ち上がって羊羹を渡すと、恭しく受け取ってから障子をそっと閉めた。


「いやぁ、漣さんの所のお庭番はいつ見てもお綺麗ですなぁ」

「ははは。顔だけではなく実力の方も折り紙つきですよ」


「それで今日寄らせてもらったのはですね、あれから進展があったのかなぁと思いましてね…」

「あぁ、それで羊羹を持ってきたと…」


「…へぇ?」


 漣の言葉が理解できずに間の抜けた声を上げてしまった葵だったが、すぐに吹き出してしまう。


「ふっ! あっはっはっは! 成程、成程! そうそう、それで羊羹を土産にね!」

「分かってもらえて安心したよ」


「いやいや、本当に年は取りたくないもんだね。頭の回転が悪くなってしょうがないや」


 そう言ってパシンと自分の額を叩く葵。


「いやすまない。あの洋館羊羹だが、持ち主と接触して協力を取り付ける事が出来た」

「ええ!? そりゃ本当かい?」


 予想外の返答に葵が身を乗り出して驚く。


「本当だとも。しかも、あの家で命を落とした野島咲紀君の幽霊も、同居している」

「ええ!? そんな話、にわかには信じられないよ……」


 懐から手ぬぐいを取りだして、額の汗を拭く葵。


「うーん、やっぱり僕は葉ノ上さんに青龍の管轄長をやってもらいたいよ……」


 葵の言葉に漣はぶるぶると首を振る。


「嫌だ。儂は面倒くさい事が嫌いでな。こうやって好き勝手動いておる方が成果が出せるのだよ。わはは!」

「僕だって好きでやってる訳じゃあないからね? この前だって朱雀の管轄長が―――」


「失礼致します。お茶と羊羹をお持ち致しました。」

「うん。入ってくれ」


「はい」


 スッ…と障子が開き、綺麗に切られた羊羹とお茶が座卓に並んだ。


「ありがとう翡翠さん。翡翠さんからも言ってやっておくれよ」

「何を、でしょうか?」


 話を聞いていない翡翠だが、おおよその見当はついているがここはあえて知らないフリで話しを進める。


「葉ノ上さんこそが管轄長に相応しいと言う話だよぉ!」


「そうですねえ……。お館様はご興味のある事しか動きませんので…向いていないかと」

「えぇ…」


 困ったように笑う翡翠に、がっかりと肩を落とす葵。


「それでは失礼致します。ごゆっくりと」


 そう言って翡翠は静かに障子を閉めた。




あとがき

胃痛が終わったら今度は肉体的な激痛みたいです。

チラっと漣さんの話も盛り込んでみたら字数だけが無駄に増えました。

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