第二十四札 りたーんほーむ!! =帰宅=

まえがき

咲紀の事を色々知り、いよいよ帰路に。

家に着いた利剣が見た光景は…!?

「い、家が燃えている!!」

※嘘です。






 俺が葉ノ上はのうえ家の門をのは、日が落ちて辺りが真っ暗になり始めた頃だった。


 大量の資料に目を通したものの当然ながらそれら全てを暗記する事は出来ず、残念ながら動体視力は向上したけど知力や記憶力は向上していない事が証明され、やむなく所要人物の名前や住所はスマホに打ち込ませてもらう事になった。

 情報をスマホに打ち込む事に対してれんさんは難色を示していたが、館に住む人以外には他言しない事とスマホにはロックをかけて紛失の際にはすぐに何らかの処置を取るということで渋々了承してもらえた。


 余談ではあるが「館に住む人」という事で住み込みで働いている流那りゅなの素性等も調査していたらしく、こちらは俺と違ってすぐに調べがついたそうだ。

 養護施設も運営している流那のお母さんも全く法術系統に縁がない事が判明したようで調査を終えているとの事。

 ただし流那は本当に一般人であり、襲撃してきた奴等の規模や手口が全く分からないので咲紀の事を話して巻き込むのか、話さずに解雇なりするのかは俺の方でよく考えるようにと釘を刺された。


 流那のお母さんが実は闇の組織のトップで、引き取った身寄りのない子達を忍者や刺客として育成していて、流那もまた忍者だとしたらそれはそれで面白かったのだが。


「漣さん、色々とありがとうございました」


 見送りに出ていた漣さんに向き直って俺はお礼を言う。


「いや構わんよ。儂の方こそ非常に興味深い話が聞けた」


 そう言った後で「そのワイパーがないと誰にも信じてもらえそうにない話だがね」と付け足して笑った。


 同じ世界から来た貴重な相棒(無機質)ではあるんだが、何かにつけて存在を主張してくる相棒がこの時ばかりはねたましく、うとましく思えた。


「じゃあ俺はこれで失礼します」


 一礼した俺が館に背を向けた時だった。


「よっしゃ、ほな行こかぁ♪」


 隣に当然のように並ぶ椎佳しいか

 先ほどの綺麗な着物からいつもの動きやすい服装に着替え、背には疾女はやめを背負ってていた。


「えーと、椎佳?」

「何ー?」


「見送り?」

「ちゃうよ」


「…家まで着いてくるの?」

「うん」


「何の……」

咲紀さきの護衛役とかぁ、警備員、お求めやないですかぁ~?」


 「何の為に?」と言おうとした俺の言葉を遮った椎佳が意地悪そうに笑う。


 言われてみれば確かに。

 俺が帰ったら今館にいる忍者さんは帰ってしまうだろう。そうなると館の戦力は静流しずると俺だけになる。

 そして俺が色々動く時は静流一人になってしまう。


 全く商売上手と言うか何と言うか…。

 俺はフフッ…と笑ってから、椎佳に右手を出した。


丁度ちょうど腕が立つ人材を探そうとしていた所だったんだ」


「毎度。ほな姉上ともどもよろしゅうに♪」


そう言って椎佳は俺の右手を取って握手を交わした。




 ・ ・ ・ ・ ・




「ご報告申し上げます…」

「入れ」


 とある場所のある建物内。


 片膝をついていた三十代の男が入室を許可されて静かに障子しょうじを引く。

 廊下まで漂っていた香木こうぼくの匂いが障子を開けたことでより一層強くなる。


「構わん。入れ」


 再度入室を促されて男がゆっくりと室内に入ると中にいたのは一組の男女。

 四十から五十の中年の男とまだ二十歳くらいの若い女だ。

どちらも着物を来ており中年の男は煙管キセルをふかしていた。


「首尾はどうだ? 何ぞわかったか?」


 ふぅ、っと煙を吐いた中年の男が部屋に入ってきた男を見る。

 その視線を直視出来ず、避けるかのように男は深々と頭を畳につけた。


「申し訳ありません…。行かせた者全てが倒され、捕縛されたと報告がありまして――」

「ふ、ふざけるな!!」


 激昂げっこうした男が煙管を男に投げつける。


 煙管は伏せた男の背中に当たると跳ね返って壁にぶつかり、畳に転がる。


部屋にいた女が慌てて煙管を拾い、こぼれた灰やまだ燃えているくずの掃除を始める。


「捕まっただと!? この無能どもがっ!! どう責任を取るつもりだっっ!!」


中年の男が立ち上がり顔を真っ赤にして土下座している男を何度も踏みつける。


「もっ…申し…訳っ…!! ありませ…んっ!! 申し訳ありません!!」


 頭を下げ、痛みに耐えながら男は謝り続ける。


「ええい!!」


最後に一度強く踏みつけた中年の男は肩で大きく息をしながら荒々しく歩き、元いた場所にドスンと座った。


「俺に調査が及ぶ事があってみろ! その時は貴様と、貴様の家族も含めて死をって償わせるからな!!」


踏まれた男は顔を上げないままの状態で頷いた。


「その点はご安心下さいませ…。末端の者が縁遠い知人に金銭を渡して依頼をし、さらにその知人が金に困っていた粗野そやな男共に適当に金銭を渡して…行かせました故……」


 男の報告が気に食わない中年男が苛立いらだちを含んだ声で怒鳴る。


「ふん! その辺のゴロツキなんぞを行かせるからこうなるんじゃないのか!? そんな奴等より法師か与力を行かせれば調べられたのではないのか!?」

「しかし……法師や与力等を行かせてしまうと、登録している以上は関係を調べられて調査の手が及んでしまいます故……」


「そんな事分かっておるわれ者が!! それで? 住人の調べはついたのか!!」

「はっ…。こちらに…」


 そう言って男が一通の封筒を取り出して中年男に差し出す。

 中年男はその封筒を乱暴にひったくると、封を荒々しく破って中身を取り出す。

 中年男が中の報告書の内容を目で追うと同時に男は口を開いた。


逢沢利剣おうさわりけんという一人の男が所有者となっております」

「何者だこいつは!?」


 あらかた書類に目を通した中年男が男を睨む。


「それが……。前住所もなく、親や親族も不明でございまして……」

「そんな馬鹿な話があるものか!! 戸籍もなく生きてきたと言うのか!?」


「役所のデータを入手してみましたが、やはり前住所も身寄りもなく…」

「訳が分からぬわ!!」


中年男がヒステリックにわめき散らしてくるが、当の男自身も正体も出自も全く分からなくてどうしようもなかった為、その話しを保留にして話題をすりかえる事にした。


「そ、そちらに関しては今一度調べさせておりますが、厄介な事がもう一つ…」

「何だ!!」


 食いついて来た中年男に、男は内心安堵した。


「その家に住み込みで働いている女の一人が、あの葉ノ上家の娘と言う事が分かりました…」

「葉ノ上……。チッ! 青龍の犬か!!」


 葉ノ上の名を聞いた中年男が忌々しげに顔を歪める。


「それ故あまり過激な行動が出来ず、監視を続けているのが現状でございます…」

「~~~~!! もう良い!! もう良い!! 下がれ!!」


「失礼致します…!」


 男は深々と頭を下げ、中年の気が変わってまた無理難題を言われてもかなわないと言わんばかりに早々に部屋を出ていった。


「葉ノ上家め……。どこまで俺の邪魔をすれば気が済むのか…!!」


 中年男は調査報告書を一度睨みつけると、机の上に投げつけた。





・ ・ ・ ・ ・




帰りの電車の中。


時刻は既に午後八時をとっくに過ぎ、もうすぐ九時になろうとしていた。


「なぁ、椎佳」

「んー…?」


俺の隣に座り、意識を手放そうとしていた椎佳がぼんやりと意識を覚醒させる。


「何か今日一日で色々あったんだけど、結局連さんって何者なんだ?」

「んー……」


目を閉じて考え込む椎佳。

 答えにくい事なんだろうか? それともどう表現しようか悩んでいるんだろうか。


「………」

「………ん?」


目を閉じた椎佳の頭がカクッと俺の肩に乗っかってくる。

 俺は椎佳の肩をトントンと叩く。


「寝んなよ」

「…寝てへんわ」


 寝てただろ! と言いたかったが水掛け論になりそうなのでやめておく。


「父さんはなー……。ぶっちゃけて青龍管轄のトップみたいなモンやで」


 そして唐突に始まるさっきの話題。


「え……?」


 マジ?

 連さん、関東地方のトップなの?


「そ、それって凄くねえ?」

「うーん、せやけどトップやないから」


 意味不明。


「うーん?」

「五年やったかな? に一回各地方の管轄長が変わるんやけど、父さんめんどくさいからって辞退してん」


 言いそうーーー!!

 「儂そういうのパスだな」って言いそうーーー!!


「せやから今の管轄長はちゃう人やけど、ちょくちょく父さんに相談に来るねん」

「へえ……」


 名実共にあるのにトップに立たない人…そういう人になりたいなホント。


「あぁ、だから一家惨殺事件とかも相談が来て、って感じ?」

「まぁ、そんなトコやと思う。着いたら起こしてな…」


 適当に話しを打ち切って寝ようとする椎佳。

 一人だけ寝るなよ。俺だって寝たいんだぜ?


「あ、そういえば」

「何よホンマ…」


 眠たい中何度も声を掛けられて、うっすら開いた目で俺を睨む椎佳。


「今日着物で出迎えてくれたけど、あれは漣さんが家では着物を着なさいって感じで?」

「ううん。ただ着物で出迎えたらアンタの驚く顔が見れてオモロイ面白いかな、って思っただけ」


 そう言って椎佳はけだるそうに瞳を閉じた。


「そ、そっか…。お休み…」


 …こいつには色々とかなわんわ。




あとがき

新たな従業員、椎佳。

同時に暗躍する何者か。

望まずして巻き込まれていきます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る