第二十三札 いんふぉめーしょん!! =情報=

まえがき

お金欲しさに侵入者が乱入。

そして即退場。

モヒカンスキンヘッドにトゲトゲショルダーを装備した奴らだったら

もう少し戦えたんでしょうかね?







翡翠ひすいさん、侵入者を教えて下さってありがとうございます」


 静流しずるがスマホを取り出してメッセージを再度確認する。


 iineイイン送り主の所には「翡翠さん」と表示されており、「侵入者は三人です。二名は木刀と警棒所持、一名別動で武装不明の為一名の方を対処致します」というメッセージが送られて来ていた。


「いえいえ。私がお知らせせずとも静流様なら既にお気付きになられていたでしょう?」


「それにしても、は…」


 そう言って静流は苦笑いしながらメッセージの後に送られてきたスタンプに目を落とす。


 可愛くコミカルに描かれた猫が手に持った日本刀を舌で舐めているスタンプで、その脇には「バッサリっちゃいますニャ♪」と血液で書かれたような文字が入っていた。


「可愛いですよね。私のお気に入りです」


 静流の画面を覗き込み、フフッと笑う翡翠。


「本当に殺してしまわないかと心配になりましたよ」


「まさか……私ってそんなに無慈悲に見えますか?」


「冗談です」


 静流の言葉に翡翠は目を丸くした。


「静流様がご冗談を言われるだなんて、変わられましたね」


「そんな、私だって冗談くらいは言いますよ…」


 そう言った静流に翡翠が近寄りまじまじと顔立ちや髪色を観察する。


「もしかして、椎佳しいか様ですか?」


「翡翠さんっっ」


 非難の声を受けた翡翠が近付けた顔を離して笑う。


「ふふ、冗談ですよ」


「もうっ…」


 そんなやり取りをしてから静流はふと思い出したように口を開いた。


「あ……、父さんの元へ戻らなくても大丈夫ですか? 翡翠さんのお陰でこちらは落ち着きましたが」


 翡翠は縁と同じく葉ノ上はのうえ家に御庭番おにわばんとして仕えており、その仕事内容は内偵や諜報活動だけではなく武術の訓練も積んでいる事から警護や護衛等も行っているのだった。


 諜報活動として記憶に新しいのは、スーパーで静流が置いた封筒を持ち帰った若い女性といえば分かりやすいだろうか。


「ええ、お館様やかたさまの元には椎佳様もおられますしこちらにまた侵入者が来る可能性もゼロではありませんので。それにお館様の強さであれば私など居ても居なくても変わりはないかと思いますよ」


 そう言って肩をすくめる翡翠に静流も小さく頷いて同意する。


「そうかもね…。分かりました、それでは引き続き警護をお願い致します」


かしこまりました」


「やはり目的は…咲紀さんなのかしら……」


 不法侵入の動機を推測しながら静流は一ヶ所に集められている侵入者を一瞥いちべつする。


「尋問する前に絞め落としてしまいましたが、やはりそのようですわ」


 そう言って翡翠は懐から一枚の写真を静流に差し出した。


「迷彩服の男が持っておりました」


 受け取った写真には一人の少女が写っていた。

 先日椎佳から見せてもらった野島一家の写真に写っていた少女…咲紀の写真。


「咲紀さん……」


 遠くからサイレンの音が聞こえる。

 徐々に大きくなる音からしてこの館に向かっているのだろう。それを聞いたからなのか翡翠がそっと裏手の方へときびすを返す。


「静流様、それでは私は再び身を隠します」


「えっ…? 翡翠さんも館の中で待機をしていたら…」


 引き留める静流に対して翡翠が一度首を振る。


「私が館に居ては流那さんも咲紀さんも不思議に思われるでしょう。それにもし賊が敷地外からこの館を観察しているとしたら立地と建物構造からして表側と東西の一部分なので私の存在はまだ知られていないかと思います。それならば私は今一度裏側に潜み、侵入がなければよし。侵入があればご報告して対処に当たりたいと思います」


「そう…。分かったわ…」


 こういう場合、父さんなら、母さんなら、椎佳なら何て言うんだろう? などと考えてしまう。


「そんなん、るかいひんか分からんのやからくつろいどきぃやでなさいよ流那りゅなにはウチの知り合いのお姉ちゃんやって言うとくわ」


 椎佳ならそんな嘘をしれっとつくだろうし、流那さんも「そうなのですかぁ」と言って信じそうだ。

 だが、静流は椎佳ではない。

 翡翠の話す内容が理に叶っていて異論の余地がないように聞こえてしまった静流は無理に引き留める事が出来ず、ただただ彼女を見送る事しか出来なかった。




・ ・ ・ ・ ・




「それでは、失礼致します…」


 部屋に事件に関する資料と共に、場に似つかわしくない掃除道具を置いてえにしは退室した。


「そのフローリングワイパーに椎佳さんが驚いていましたが、それは俺が元の世界から持ってきた物です!」


 自信満々に、それが証拠だといわんばかりに俺は主張してやった。


「ふぅむ……確かに重さはアルミニウムのように軽いのに強度は鋼鉄のように硬い。これが何の材質なのかを説明することは出来んなぁ…」


 フローリングワイパーを手に取ったれんさんが力を入れてみたり持ち上げてみたりする。


「利剣君の世界ではこの材質は皆こうなのかね?」


 漣さんがそっと、フローリングワイパーを俺に差し出した。


「いいえ。俺の世界のアルミニウムもこの世界と同じく軽いですがこの薄さなら簡単にへこみますよ」


 受け取った俺は言葉を続ける。


「神様いわく並行世界に飛び込んだ事で身体や精神に何らかの影響があるかも知れないとの事だったので、恐らくこの道具にも変化があったんじゃないかと思います」


「利剣君に変化はあったのかな?」


 不敵に笑い漣さんが好奇心の眼差しを向けてくる。


「はい。俺はどうやら動体視力が向上しているのと、微弱ながら五神の恩恵があるみたいです。……法術は使えませんが」


 そう言って自嘲気味に笑ってやる。へっ、動体視力が向上したと言っても本気の静流の動きについていけてないしな。


「何でフローリングワイパーだけ見違えるような進化を遂げてるんですかねぇ!?」

「知らんがな…」


 誰に言うでもない俺の悲痛な叫びに対して冷静にツッコミを入れる椎佳。


「進化具合も上やし? 利剣の身分証明もしてくれたし? つまりはフローリングワイパーが主役って事やろ?」


「やめろおおお!! 傷口に塩を塗るような事言うなぁ!!」


崩れ落ちる俺を見て、漣さんがわざとらしくゴホンと咳払いをする。


「まぁ…何にしても、だ。利剣君が協力してくれると返答してくれてこちらは非常に有難い。そして利剣君にとってもいい話であると思うよ」


「あ、はい。そうですね…」


 落ちついた漣さんの様子で椎佳に上げられた俺のテンションもシュンと下がっていく。

 しかし、漣さんの言う通りだ。こうして咲紀の情報も貰えたし犯人を捕まえれば咲紀の両親を殺した動機も聞けるし何より咲紀の弔い合戦にもなる。

 俺としてはいい事ずくめだ。咲紀が成仏するのは寂しいけど。


iineイイン

iineイイン


と、その時俺以外のスマホがメッセージの新着を知らせる。


「おっと失礼」

「利剣、ごめんな」


 二人していそいそとスマホを取りだしてメッセージの送り主と内容を確認する。

 漣さんもかよ。


「ふむ……」

「利剣、家が……!!」


 さっきとは打って変わって真剣な表情の椎佳に俺は緊張する。


「何だよ、椎佳……」


 ズイッと椎佳がスマホを俺の目の前に突き付けてくる。

 スマホの縁に綺麗な花のシールがデコレーションされていて可愛らしい…って、見る所はそこじゃないな。


 俺は椎佳のiine内容を目で追い、目を見開いた。


「え…?」


驚く俺に椎佳が口を開く。


「利剣の家に三人の男性が侵入。静姉がそいつらを撃退、捕縛。警察には通報済み。狙いは咲紀と思うって…」

「何でこんな…!!」


 何この超絶展開。思考が追いつかない。

 咲紀を狙う? 何で?


「とにかく俺、戻らないと…」

「まぁ待ちなさい」


 立ちあがろうとする俺を漣さんが片手を上げて制す。


「でも!!」

「安心するといい。もうすでに賊は捕縛したとの事だ」


「いやでも……また来るかも知れないですし…」

「警察には通報したとの事だし相手方もそんな状態で新手を送り込むような真似はせんよ。それに我が家の静流は利剣君も知っての通り腕が立つ。そんじょそこらの三下ザコに負けるような教育はしとらん。それに加えて腕利きの忍者を派遣しておるからな」


「に、忍者ですか……」


 さっきの縁とか言う狐面の子みたいな人だろうか?

 それにしても今のご時世に帯刀してたり忍者がいたりと、本当に何でもアリな世界だなぁ。


「駆け付けるよりも、ここにある野島家に関する資料に目を通した方が遥かに有意義だと思うぞ? 貸し出しは出来んからそのつもりでな」


「は、はい…」


座卓に置かれたファイルは二冊。

一冊にはA4の紙が50枚近くファイリングされているように見える。


「(試験勉強でもこんなに読んだ事ないなぁ…)」


 そう思いつつ俺は一冊目のファイルを手に取った。




・ ・ ・ ・ ・




 その頃、利剣の家の二階では流那に対して咲紀の厳しい指導が入っていた。


「サキさぁん…。流那、そろそろ一階に降りたいんですけどっ…」


「ダメだよ! まだほらここ! 埃が何となくある気がする!」


「ふぇぇ…」


 さっきから同じ所をぐるぐると拭いている気がする。

 そう思いつつも咲紀の指摘を受けて流那はしっかりと掃除にいそしむのであった。


 そしてある一定の時間が経った時流那は無言になり、やがて咲紀の清掃不足の指摘と制止の声を無視してズンズンと階下に降りさせた咲紀は、この館において「流那を初めてガチギレさせた人」という不名誉な称号を得た。





あとがき

ここまでお読み下さり、ありがとうございました。

ついに不法侵入者まで現れました。

今後どうなるのか…!?

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