第二十札 ふぉと!! =写真=

まえがき

利剣が住んでいた家は何と!惨殺事件が起きた事故物件だった!

女神様、瑕疵物件なら告知義務があるんですよ?

不動産だったら違法ですよ。

まぁ、サキがいるし、いわくつきはいわくつきですよね。






利剣りけん君がどこまで知っているのかは分からんが」


 そこで言葉を切ってから、れんさんがお茶を手に取ってすする。

 俺もお茶の存在を思い出して漣さんにならうように茶を啜った。

 ふう、緑茶の程よい苦みが気分を落ち着かせてくれるなぁ。


「三年程前にあの洋館の庭で死体が発見された。外見の特徴から判断した結果、所有者であった野島のじま明晴あきはるさんと野島千夏ちなつさんであることが判明したんだ」


 野島…、それがサキの苗字だろうか。

 今はまだ、咲紀さきさんがサキと同一人物かは分からないけど。


「咲紀さんも…?」


 俺の問いかけに漣さんがかぶりを振る。


「いや。野島咲紀君の遺体は発見されていないのだが…事件現場に流れていた出血の量を見た所、恐らく生存はしていないだろう…」

「見た? と言うことは漣さんは現場を見たんですか?」

「ああ、当時は与力方よりきがたとして現場にも立ち入っておる」

「もしかして漣さんって警察関係者なんですか?」

「ん? いや、違うが」

「そうですか…」


 警察関係じゃないのに、事件現場に立ち入れるもんなのか…?


「不思議そうな顔をしておるな。あぁ、まずはそこから話をせねばならんか」

「え? 顔に出てました?」

「うむ。利剣君は顔に出やすい性質なのでな」

「あはは……」


 苦笑いして、俺は自分の頬をペシッと叩いた。

 気を付けよう…。


「道路を歩いていた人が「敷地内で血を流して人が倒れているようだ」と通報したらしく最初に駆け付けたのは警察なんだが、死体の損壊状態がな…。およそ行為ではなかったんだ」

「と、言いますと…」


 その一言でおおよその予想はついているが。


「二人とも大型の獣に襲われたのかと思うぐらいの深い傷を負っていてな。千夏さんに至っては絶命するまでに大小さまざまな裂傷を受けていた」

「………」

「そこで警察も通常事件ではなく、法術師による事件もしくは妖怪のたぐいが起こした事件であると判断してこちらに投げてきたという訳だ」

「そういう流れなんですね…」


 警察と法術師の関係性が何となく分かったような分からないような。

 法術師はある程度の行政の権利が与えられているのだろうか。


「と、これは世間的にも比較的知られている流れではあるのだが…」


 漣さんがそんな事も知らないのかと言った目で俺を見てくる。


「それも後で説明します…。それで咲紀さんは…?」

「これは現場の調査による推測でしかないが、咲紀君はその大型の妖怪…鬼などに捕食されたとの結果に至った」

「妖怪に…食われた…!?」


 俺の言葉に漣さんが神妙に頷く。

 サラッと衝撃的な事を言ったぞ!?


「うむ。第一に付近で咲紀君の目撃情報が一切ないという事。そして第二に咲紀君の血液が大量に流れているのにも関わらず遺体の一片も発見されていない事。以上から最初の被害者は野島咲紀君で、捕食後に野島夫妻を殺害したという事が現場の状態から推測される」

「え、じゃあその妖怪は…? 目撃者とか被害は…!?」


 そんな獰猛どうもうな妖怪が出現したなら近所の人間にも危害が及ぶだろうし、見た人もいるはずだ。


「聞き込みは行ったんだが、妖怪の目撃情報は一切なかった」

「それじゃあ、野島一家を殺害した後妖怪は一体どこに…? 本当は近隣にも被害とか犠牲者がいるんじゃないんですか?」

「犠牲者は野島一家のみだったんだよ、利剣君」

「え…?」

「つまり、野島明晴さんと千夏さんが命と引き換えに妖怪を祓ったと考えるのが妥当だろうな」

「祓った…? 野島夫妻がですか?」

「そうだよ。野島明晴さんと千夏さんはな…法術師だったんだよ」

「……え?」

「そして、野島咲紀君もまた、両親と同じ法術師だ」

「そ、そんな上手い偶然が?」


 もし咲紀がサキなら、サキは食われた法術師という事になる。

 それならば巫女みたいな服装で化けて出てきてもおかしくはない話、か…。


「偶然…ではなく、その事件が起きたキッカケに野島夫妻が関わっているとしたら? それはおのずと必然の事件にはならんかね?」

「必然、ですか?」


 漣さんは何が言いたいんだろう。

 野島夫妻が目的があって妖怪を召喚したと言う事か?


「表向きに発表された内容は、野島夫妻が妖怪を呼び出して娘を殺した後自分達も深手を負った段階で妖怪を排除または封印してから絶命したのではないか、という事になっている」

「いやいや……」


 そんな馬鹿な内容で納得出来るはずがない。

 俺でも分かる。そんな無理な話で……ん?


「表向き、は?」

「そう。だから実の所、誰かが事故になるように仕組んだと思っておる」

「誰かが……」

「式呼びの儀というのは知っているかね?」

「知っています。確か法術師が一人前になったのを親戚に見てもらうって言う儀式ですよね」

「そう。低級の妖怪が封じられた札を破り、その場に顕現けんげんさせて祓うという昔からの慣習かんしゅうだよ」

「静流と椎佳が成人男性くらいの大きさの鬼を祓ったとか…」


 言ってからチラリと椎佳を見やると、椎佳はばつが悪そうに苦笑いを浮かべていた。


「あはは……」

「何だ椎佳。そんな事まで言っておったのか」


 と、呆れ顔の漣さん。


「まぁまぁ…。もう隠さず話すんやし時効やって、時効…」

「その口の軽さには今度お灸をすえてやらねばいかんなぁ」


 不敵に笑う漣さんに、椎佳の顔が引きつった。


「ご、ごめんなさい……」


 あぁ、椎佳からは静流には内緒って約束で教えてくれたんだったか。

 うっかりと口を滑らせてしまった。

 すまん椎佳。

 ここはひとつ助け舟を出しておくか…。


「それで? 式呼びの儀がどうかしたんですか?」

「うむ。法術師達は皆、そう言った法術に関する道具や札などは全て贔屓ひいきにしている法具商人から仕入れておるんだが、その式呼びの儀に使われた札が何者かによってすり替えられていた可能性があるのだ」


 よし、話題すり替え成功。


「つまり、弱い妖怪を入れた札を仕入れたと思っていたら、強い妖怪が顕現してしまった、と…?」

「そう。何者かが野島一家に対して殺意と悪意をもって取ったはかり事だと儂は見ている」

「その法具商人から話は聞いたんですか?」


 俺の問いに漣さんはかぶりを振る。


「自室で毒を飲んで死んでいたのを発見した」

「真犯人による証拠隠滅ですか……」

「ああ。方々に手は尽くしたが結局大した進展もないまま三年が過ぎた時、利剣君が現れたと言う訳だ」


 そう言って漣さんはニヤリと笑い、座卓の上で両手を組んだ。


「成程」


 漣さん、俺本当に何も知らないっすからね?


「知りたいかな?」

「何をですか?」

「咲紀君がサキ君なのか、どうか」


 やけに勿体ぶるなぁ…。


「そりゃ知りたいです」

「いいのかね?」

「何がですか?」

「今儂が話している内容は、はっきり言って警察が法術師の管轄として投げた案件で、法術師関係者の中でも一部の人間しか知らん事だ。これ以上話すという事は儂に協力するという事になるが?」

「………ははっ」


 俺は思わず笑ってしまった。

 だってそうだろ?

 ここまでお膳立てされてる状況で、知らなくていいので関わりませんって言えるか?


 それに、だ。


 事件に関わりませんと言って帰ったところでその謀り事をしたやつからすれば俺は殺人現場に住んでいる謎の青年って事だろ。

 もし犯人が今も生きているとしたら、気が気じゃないんじゃないだろうか。


「サキの事もどうにか救ってあげたいと思っているので、協力します」

「そうか。椎佳」


 漣さんが椎佳に声をかけると、椎佳が俺の背中をバンッと叩く。


「いってぇ!!」

「男前やなぁ! 利剣!」

「何だよいきなり…」

「ほい」


 椎佳が着物の帯から取りだした一枚の写真。

 そこには仲睦まじく笑う家族三人の姿があった。

 40歳くらいだろうか? 左に男性、右に女性。

 そして……。


「サキ……!!」


 ニッコリと満面の笑みを浮かべた黒髪の少女の姿が、そこに映っていた。




あとがき

サキは咲紀、法術師一家の娘、野島咲紀だった!

サキは妖怪に食われた咲紀の残留思念だったのか…!

成仏させてあげたい所ですね。

※小説家になろう サイトに咲紀を載せる予定です。

こっちにも画像載せられたらいいのに。

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