第十九札 かんばせーしょん!! =対談=

「お嬢さんを僕に下さい!」と言いたい利剣と

「娘との結婚は認める!だが一発殴らせろ!」と言ってみたい漣。

二人がそれぞれ言いたいキーワードを言える時はいつ来るのか…!

そして判定員の椎佳が下したジャッジとは!!

 ※嘘です。






「ふむ…何から話したものか……」


 そう言ってれんさんが顎髭あごひげをさすりながら天井を見上げる。


「……」


 俺は一体何を聞かれるんだろう。

 何も悪いことはしていないのに何故かドキドキしてしまうのは俺が小心者だからだろうか。

 しばらくの間「ふぅむ」と悩んでいた漣さんが話題を思いついたらしく目線を俺に戻した。


静流しずる椎佳しいか、どちらが好みかね?」

「父さん!?」

「え?っと……」


 身構えていた俺が「は?」と言いたかったのを咄嗟とっさに「え?」と言えた自分をめてやりたい。


 椎佳は椎佳で突然の話題に慌てた声を上げてるし。

 てかこれは何の意味を込めた質問なんだ?

 深い意味が隠されているんだろうか?


「そう、ですねぇ…」


 考えこむ振りをして質問に隠された色々な意図を模索してみる。

 友達としてどちらが良い友か、の感想を求めているのか?

 それとも恋愛的な、ひいてはお嫁さんにするとしたら的な意味?

 それとも身体的なスタイルの話?

 頭を頑張って働かせてみたが、こう言った場での経験が少ない俺の知識ではそれくらいの推測しか出来なかった。


「……どちらもそれぞれに魅力があって、どちらが好みだなんて選べないですよ。あえて言うならどちらも好きですね」


 めつつどちらも選ばないという選択肢。

 これなら大きなハズレはないはずだ。

 ハズレた場合、どういう事になるかは全く見当がつかないが。


「ふぅむ。つまらんのぉ」

「えぇ~…」


 面白いかつまらないか基準の話でした!

 これは一本取られましたな!


「二股はアカンで」


 隣の椎佳が茶化す。

 分かってるよそんなことは。


わしは友人として遊ぶなら椎佳、嫁にするなら静流かのぉ!」

「そうですねぇ…分かる気がします」

「何でやねん!」


 バシィ!


 椎佳がビシッと手首のスナップを利かせてツッコミを入れてくる。

 この親父さんは二人の性質をよく見てるな。

 さすが実の親って所か。


「二人ともお互いを足して半分に割れば程よい具合になるんだがなぁ…。顔だけが似た正反対の姉妹になってしまったよ」


「みんな違うからこそ、いいんじゃないですかね?」


 肩をすくめる漣さんに、当たりさわりのない返事を返す。


「そうだな。うん、ありがとう」

「いえいえ」


 そう言ってお互いに軽く会釈を交わす。


「さて、場も和んだ事だし…」

「は、はぁ…」


 漣さんがそう言ってポンと膝を打つが、別に和んでないっすからね?


逢沢利剣おうさわりけん君。君は一体…なんだね?」


 微笑みで目を細めながらも俺の目を射抜くように真っ直ぐと見てくる。

 一見すると穏やかだが、穏やかじゃないなこれ。


と言われましても…なんでしょうかね…?」


 俺の返事に、ピリッとした空気が一瞬にして広がる。

 椎佳もさっきから背筋をピンと張って漣さんの顔を凝視している。

 漣さんが俺に聞こうとしている事は多分だけど…分かる。

 でもそれをどこまで外部の人間に話していいのかも分からないし、静流や椎佳の目的だって未だよく分かっていない。


「ご質問の意図が良く分かりませんし、その前に静流さんと椎佳さんのやり取りの意味も説明してもらいたいんですが…」


 緊張から早口になってしまい、一息で言いきった俺。

 怖いけど我ながらよく頑張ったぜ俺。

 誰も褒めてくれないから自分で自分を褒めてやる。


「………」


 漣さんが一度目を閉じてから、ゆっくりと開く。

 その目に先ほどの敵意というか気迫は感じられず…変な表現にはなるが「ただ俺を見ているだけ」といった感じだった。


「いや、申し訳ない! 色々と知りたい事がありすぎたのでな…つい急いてしまった」

「そうですか……」

「…既に気づいておるかとは思うが、静流には利剣君の素性を調べる為に館で勤務してもらっていたんだ」

「………」

「利剣……」


 椎佳が俺の名を呼んで、不安そうな面持ちで横顔を見つめている。


 うん。


 椎佳と静流のやり取りを聞いていて分かってはいた。

 いや、分かっていたつもりだっただけなのかも知れない。

 だからこうして改まって告げられた事実に、言い様のない悲しみと寂しさが襲ってきているんだろう。


「…そうですか」


 平静を装って相槌を打つ俺の心中を知ってか知らずか漣さんは淡々と話を続ける。


「もう二ヶ月以上前になるんだろうか。非常に微弱ではあったがが広い範囲で感じられたのだ」


 二か月前。

 俺がこっちに来たくらいだろうか?


「各管轄に確認作業を行い、揺らぎを感じた時間や方角…色々調査した結果……利剣君の住んでいる地域まで行きついた訳だ」

「なるほど……」


 俺が思うにそれは、世界の狭間を飛び越えて並行世界に来てしまった俺が原因で起きた揺らぎなんじゃないだろうか。

 そしてその波動をこの世界の法術師達が感じ取った、と…。

 何か壮大に迷惑をかけてるなぁ…。


 ん? 待てよ。


「で、でも! でもですよ? その調査結果で俺の家付近まで分かったってのは今の話で理解できたんですが、それが何で俺の家って断定出来たんですか?」


 だってそうだろう?


 俺は法力なんて一切ない訳で、感知されるはずがないんだ。

 宝玉には恩恵がある、なんて出てたけど実際のところ術なんて一つも使えない。

 とすると…サキか?

 いやでもサキが法力とか霊力を出していたら、あの時の静流みたいな奴が祓いに来てないか?


「うむ、それについてなんだが……というかがあってだなぁ…」


 言いにくい事なのか、意外にも漣さんが口ごもりながら髭をさする。


「この際だから教えてもらえませんか? 信じてもらえるか分かりませんが俺も自分の事を包み隠さず話しますので」


 俺の言葉に、髭をさする手を止めジッと俺を見る漣さん。


「うむ。どの道話すつもりではいたんだが…。思わぬ所で利剣君から言質げんちが取れたな」


 そう言ってニカッと笑う。


「これは、一本取られましたね」


 そう言って俺もニヤッと笑う。

 さすがに漣さんと同じような、あんなダンディーな笑みは浮かべられんわ。

 それに一本取られたとは言ったけど俺は俺で素性を打ち明けるつもりではいた。

 嘘つけ!って言われると思うけど。


「あの家はな、なんだよ」

「………」


 そりゃそうか。

 サキが漂っているような家なんだし。

 そんな家に住み始めた男がいるなら真っ先にそいつを疑うわ。


「いわくつき、って事は静流や椎佳から聞いてるんですね」

「ん? サキ君の事かな?」

「はい」

「あぁ、聞いてはいるよ。だがね、いわくはそれじゃないんだ。いや、絡んではいるのかもな……」


 漣さんの歯切れが悪い。


「サキじゃないんですか?」

「実はなぁ、利剣」


 今まで空気だった椎佳が口を開いた。


「あの家な……一家惨殺事件が起きた家やねん…」

「うそっ…私の家、怖すぎ…?」


 つい、どこかで聞いたフレーズみたいに呟いてしまった。

 惨殺事件とか何よ。

 確かに女神様は前の所有者は既にこの世にいないみたいな事を言ってた。

 だから譲渡してもらったんだけどもさ。


「うむ。椎佳の言うとおり、三年前にあの家で三人が殺されるという事件が起きておる」

「そうなんですね……」

「知らんのは無理もないか。実際の所さほど大きく報道はされておらんからな」

「なるほど…」


 いいように解釈してくれてるけど、後で訂正しないといけないな。


「そんな家に、一体いつから居たのか分からないが一人で住み始める……怪しくはないかね?」

「ええ、凄く怪しいですね」

「そしてあろう事かはその家でとても高待遇な家事手伝いの募集広告を打った」

「そいつ、何か企んでそうですね」


 本当は何も考えてなかったんだけど。

 起きた事件が事件だけに関係者から見たら怪しかったって事か。


「儂以外にも、利剣君の家に内偵スパイを送り込もうとした家もあったようだがね」

「あー、思い当たる節はあります」


 確かに、求人のチラシを入れていない遠方から来た人とか給料いりませんとか言ってた奴がいた。

 怪しすぎて不採用にした奴らだ。


「静流も大人しい性格で不安はあったのだが、何とか利剣君の目に止まる事が出来て、内偵役として入りこめたという訳だ」


 悪びれも無く話す漣さん。

 ちくしょう。


「で、スパイさんからの情報は人畜無害な青年だった、と」


 皮肉を込めて笑顔で尋ねる俺に、漣さんは苦笑いを浮かべた。


「ああ。仕事もしていないのに家事手伝いを二名を雇えるお給金を捻出出来る不思議な方、とな」

「親から受け継いだ財産かも知れませんね」


 仕事、確かにしてないけどさ。

 報告にも言い方ってあるよね静流さん。


「と、最初の報告はそんな感じではあったが、後半になるにつれて随分と懐柔かいじゅうされてしまっていてな」

「興味がある内容ですね」

「法術と全く無縁で他者を思いやる害意が無い人物、とか剣術など武術に対して真摯しんしに向き合う性分、とか」

「父さん、静姉が恥ずかしさで爆死してまうからそのへんにしといたったら…」


 静流の報告内容を楽しそうに暴露する漣さんを見て静流の事が可哀想に思えたのか椎佳がストップをかける。


「そうか。まぁ、その話は今度静流を交えてでも」

「はぁ…」


 静流、絶対嫌がると思う。


「それで何の話だったかな……」

「静姉の内偵の話やろ」


 珍しく椎佳が話の筋を戻してくれる。

 いつもは茶化す側だからこれは新鮮だな。


「おお、そうだそうだ。それで静流からの報告でサキ君の存在を把握出来たんだ」

「サキですか」

「実はな、一家惨殺事件の被害者の一人が、咲紀という少女なんだよ」

「え…ええええええっ!!!?」


 咲紀……サキ……。

 偶然なのか、必然なのかは分からないが。

 唐突なカミングアウトに俺はつい大声を上げてしまった。







あとがき

サキは咲紀?

咲紀はサキ?

次回、サキの出生の秘密ならぬ死因が明らかに…!?

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