第一章 館の幽霊 サキ編

第一札 洋館の定番と言えばメイドさんですよね!

まえがき

短いプロローグをお読みくださり、ありがとうございます。

庭付き霊付き一戸建てに住む利剣と幽霊のサキのやり取りから

この世界の物語は動き始めます。

どうやら利剣は並行世界から来たようで……。









 俺がこの洋館に住み始めたのがつい一週間前。


 結論から言うと異世界転移者ってやつだ。

 あぁ、誤解のないように言っておくと「異世界」と言うよりは「並行世界パワラレルワールド」って感じだな。

 だって文明レベルも現存する国家も、使われている言語すらも全く同じなんだから。

 ん? だったら実は並行世界に転移なんてしてないんじゃないかって?

 ははっ、これだけ聞いたらそう思うかも知れないがまぁ続きを聞いてくれよ。


 事の起こりは、爺ちゃんが数年前に死んだっきりずっと主がいなかったボローい和風家屋を掃除してた時だ。

 他人の転移がどうかなんて分からないが、俺の異世界転移なんて前触れも何もあったもんじゃない。

 瞬きをした後、目に入った光景が既に洋館の玄関だったんだからさ。


 混乱する俺の目の前に突然光と共に現れた女神様。

 あ。嘘じゃないからね?

 確かにこの目で見たんだからね!?

 容姿に立ち居振舞い、どれを取ってもあれは女神様だった。

 一度も本物を見た事なんて無いけど……。

  

 その女神様いわく俺の立っていた場所に、元いた世界とこの世界とを繋ぐ「次元の狭間」なるものが偶然にも発生し、それに飲み込まれてしまったらしい。


「戻りたいと願えば元の世界へ戻してくれるんですか?」


 そう聞いたみたところ「戻せますが、世界同士を繋ぐ穴は既に塞がっているので力技になります。肉体の損傷や欠損、精神に異常をきたすかと思いますが……」とかめっちゃ怖い事を言ってきたので「帰ります」なんて言えなかった。

 元の世界に戻った途端意思のない肉塊に変化した日にゃあ目も当てられない。


 駄々をこねても怒っても悲しんでも何も変わらない。

 元の世界に戻るには肉体・精神ともに壊れるというリスクが伴う。

 となると次に考えないといけないのは諦めて「新しい世界でいかにして安全で不安のない人生を送れるか」になるよね?

 異世界モノのラノベを結構読んでいた俺は、女神様から授けられる恩恵に期待に胸を膨らませていたんだが……。

 それも結局、世界の理や均衡を崩す恐れがあると言う理由で恩恵は一切もらえなかった。


「しかしそれなら能力や技能の代わりと言っては何ですが、何らかの支援がないと生きていけませんよ……!」


 と女神様に食い下がり、それならばと保障してもらえたのが「日本の戸籍」と飛び込んだ先……つまり「無駄に広い洋館」とそれに関する資産の継承。

 女神様の調べによると前所有者は既に他界しており、今は誰も住んでいないということでその辺りの移行は難なく完了した。


 かくして俺の異世界生活、もとい並行世界生活は心の準備なんてする余裕もなく唐突に始まった訳だ。


「並行世界」と言ってもやる事は元いた世界と何も変わらない。

 役所で戸籍の発行。

 これは女神さまの認識操作が効果を発揮しているらしく「申し訳ありません!! 役所側ので個人情報を削除してしまったようで……」と謝罪までされた。

 神様の力ってホント凄いなと改めて感心させられた瞬間だった。

 続いて生きる為に必要なのはお金。

 近くの銀行で口座を開設しようとしたら、銀行も役所と同じ理由で「申し訳ありません!! 当行の逢沢おうさわ様の情報と貯蓄額が紐付け出来ていなかったようで……」とまたまた謝罪をされる。

 ここまで来ると神様の存在が恐ろしく感じてくる。


 そして俺は紐づけされた前所有者の資産を見て驚きに目を見開いた。

 これだけの桁数……恐らく俺が一生、二生、三生して死ぬまで働いても稼げないだろうと思う額だったから。


 とまぁ、俺は並行世界転移二日目にして一生遊んで暮らせる位の保障を受けてしまえたので、そこに関しては宇宙規模であらゆる事象を監視している女神様にとって人間という矮小な種族が定めた文字や数字等に全く頓着がなかったゆえに算出も適当だったという事に感謝しなければいけない。


 だが、そんな順風満帆かつ平穏なセレブ生活は早くも三日目にして終わりを告げた。


 それがこいつ……目の前で大笑いしている幽霊少女サキとの出会いだ。


 三日目の深夜、トイレに行こうとしていた時の事。

 薄暗い廊下の奥に何かあるなぁ……何か置いたっけ? なんて考えながら構わず進んでいたんだけど、それが急にフワリと浮き上がって俺の方へと振り向いた時は背筋が凍り付いた。

 ってか漏らすかと思った。


 元の世界では霊感はおろか幽霊や妖怪の類とは一切無縁だった俺だが、このまま何もせずに殺されるのはゴメンだと意を決して友好的に話しかけて見た所、サキはそれに応えてくれた。

 その時に聞けた情報はサキは自分の名前がサキという事くらいしか覚えていないと言う事と、真っ暗な世界だったのに、いつの間にかあの廊下に居たという事だけ。


 ――真っ暗な世界から、気が付けばあの廊下にいた。――


 これはまさか……俺と同じく異世界からの転移者なんだろうか?

 それとも何かのキッカケで幽霊として目覚めてしまったのか?


 その辺りの事も一切覚えていないという事で、どうにもこうにもならないまま奇妙な同棲生活がスタートして四日が過ぎた。


 一緒に生活して分かった事だが俺からサキに触れる事は出来ず、サキからも人や物に触れられない。

 そして壁や天井をすり抜けるというチート技を使う。

 睡眠や食事を必要としない為四六時中うるさく、疲労などもなさそうだ。

 ただ、俺とのやり取りはしっかりと覚えており、日常会話も出来る。

 まぁ、AI機能が備わった機械よりかは会話が出来て寂しくはないが……。


「とはいえ、このままじゃ良くない」

「はー、……何がー?」


 笑いすぎて涙目になっているサキがふよふよとまた俺の隣に戻ってくる。

 くそ。いつまで笑ってんだ。


「神社とか寺に事情を説明して、サキのお祓いをしてもらおうかと考えてな」


 真顔で返す俺にサキの顔から血の気が引き、慌てて両手をばたばたと振る。


「ちょーっ!? 待ってよやめてよ! サキ悪霊とかじゃないしっ!!」

「人に殴りかかってくる幽霊はいい幽霊とは言えないと思う」

「当たってないじゃん!? すり抜けたし! ほらっ! ほらっ!!」


 言ってズボズボと俺のボディに両手をぶっ刺してくる。

 確かに痛くも何ともないけど、ビジュアル的に気持ち悪いからやめて欲しい。


「サキはいい幽霊だよー!!」

「……と言うのは冗談でこの洋館の清掃と管理をしてくれる人手が欲しいと思ってな……」

「……へ?」


 今の状態は清掃が行き届いておりクモの巣一つない。

 この世界に来た当初は埃まみれのクモの巣だらけだったんだが、複数の清掃業者に依頼して隅から隅まで掃除してもらった。

 本当にお金の力様様さまさまだ。


 しかしこうして住んでいたら埃も出るし汚れてもくる。

 使ってない部屋にはクモも巣を作るだろうし、そのたびに毎回清掃業者を呼んでたらキリがない。


「脅かさないでよ……。ほんと、死ねばいいのに……」


 俺の冗談を聞いてボソッと呟くサキ。おーい聞こえてるぞ。


「だけどなぁ、お前がいる時点で――」

「サキ」

「……お前がいる時点で誰かを――」

「サ・キ」


 笑顔で近づいてきて圧を掛けてくるサキ。顔が笑っているけど目が笑ってない。


 こいつ、何のこだわりか「お前」呼ばわりを超嫌う。


「……サキがいる時点で誰かを雇う事に超絶不安があるなと」

「よろしい」


 さほど無い胸を張り、偉そうに頷かれた。

 思えばいつから上下関係が逆転してしまったんだろうか。


「だからってサキを祓うのは良くないとおもいまーす」


 片手をピっと上げて異議を主張するサキ。


「祓うとは言ってないが、掃除の時くらいは姿を隠していてもらわんと働きに来た人が逃げちゃうだろ」

「えー……ここ、サキの家なのにー……」

「その証拠はないし、死者に所有権などない」


 腕を組んでキッパリとサキにそう言い放ってやる。

 そうそう。


 サキは自分の名前がサキである事との他にこの家は自分の家だと主張している。


 だが転移時に説明してくれた女神様が言うには所有者は既に死亡しており、所有者が不在だったので名義を俺の名義にしてもらったのだ。

 そして仮にサキが所有者だったとしてもそれは生前の話。


 館の今の主は俺なのである。


「今は俺の名義だから、決定権は俺にある」

「横暴だー! 暴政だよー!!」


 市民であるサキ君が吠えているが、その意見は聞き入れられない。


「よって我が家は……家政婦を募集するっっ!!」


 室内に俺の……いや男どもの夢ともいえる魂の叫びが響き渡った。





あとがき

古びた洋館と言えば幽霊、そしてメイド。

メイドと言えばハーレム!

まさに王道ですね!

そして利剣の生活にやっと生身の人間が…!!

次回「メイドはすべて俺の嫁」(嘘)

お楽しみに!!

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