第20話 ばいばい、髪の毛。

「ジャン、起きるんだ」


私の声に眉をひそめて、ジャンは目を覚ました。


「あぁ、もう来たんだ」


「……急いで損をした」


「それで? 今日は何するんだっけ。ラングアニス中央地に関する情報収集? それとも、剣技の鍛錬?」


「いや、今日はボビーお兄様の見送りに関してだ」


「あー、そういえば明日だったっけ。出発するの」


「そうだ。今日の夕方には、エドワードたちがボビーお兄様を迎えに来るから、出来ればそれまでに渡したいんだ」


「ふーん、兄上たちもずいぶんと仲が良いよねぇ」


「そうだな。それで、だ。私の髪を切ってほしいんだ」


ハサミを手渡しながら、ジャンにそう言うと、彼は瞳をまんまるくして分かりやすく驚いていた。


「え?!」


戸惑う彼を無視して、私は椅子に座って背中を向けた。


「顎くらいの長さになるまで切って欲しい。それも、出来るだけ一度で」


「……本当に?」


「私が冗談を言うとでも?」


「……いや、そうは思わないけど。でも、折角綺麗で長い髪なのに」


「ならば良かった。今日に向けて、何年も髪の毛を伸ばすのは、大変だったからな」


「今日のため?」


「そうだ」


「ちなみに、切った髪の毛はどうするの?」


「編み込んで、手首につけるお守りにする」


いわゆる、ミサンガだ。

ということは、言っても伝わらないので黙っておく。


「……兄上にも?」


「まさか。ボビーお兄様だけに、だ。エドワードも他人の髪の毛で編まれたお守りなど欲しくはないだろう」


「そうかな? ……まぁいいや。じゃあ、本当に切っちゃうよ?」


「構わない。ところで、ジャン」


「何? 今、集中してるんだから、少し静かにして」


「ジャンはさ、こういう風に、私の奇行に関してあまり色々と言ってこないだろう?」


「え? うん、まあね。というか、もう慣れちゃったし」


「そういうところが、好きだな」

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