第3話 真理とは。


「ほーら、おもちゃですよー」


デレデレと緩みきった顔のお父様が私の前で、でんでん太鼓のような音の鳴るおもちゃを振っている。


きゃっきゃっと笑って欲しいのだろう。

だが生憎、私の精神年齢は赤ん坊と同じではないのだ。


何も楽しくはなかった。

普段から無表情な私の顔が更に不機嫌そうに険しくなってゆく。

世界一可愛くない赤ん坊である。


お父様の持ったでんでん太鼓の音も虚しく部屋に響く。

遂には、それを持つ手も次第に降りてしまった。


「やはり、セシリアは私のことが嫌いなのだろうか?」


眉尻を下げ、今にも泣きそうなお父様が私にそう問いかけてきた。


そんなお父様にお母様は、慰めようと手を伸ばし、お兄様は不思議そうな顔をしていた。

しかし、お母様の手がお父様の背中に届くことはなかった。


私が笑ったからだ。


「セシリア!」


喜ぶお父様。

再び不機嫌な私。


「セシリア……」


悲しむお父様。

きゃっきゃっと笑う私。


その繰り返しである。

私の心中は誰にも気づかれていなかった。


やはり、美丈夫の泣き顔は堪りませんね。

これはどんな世界でも共通する真理だと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る