ここ掘れワンワン

長束直弥

ここ掘れワンワン

 ワンワンと裏の畑でポチが鳴いている。

 まさかこれは……と、クワを担いでいそいそと。

 ここ掘れ、ここ掘れ。

 しかし、いくら掘っても何も出てこない。

 矢っ張りあの話は風説だったのか?


 いやいや、「火の無い所に煙は立たぬ」と言う。

 うわさが立つからには、なんらかの根拠があるはずだ。

 普段、滅多に鳴くことのないポチがしきりに鳴いている。

 これこそが、確かであるという証ではないのか。

 何かある――何かあるに違いない。きっとそうだ。

 そうに違いない……。


 クワを振る手に力が入る、汗がにじむ。

 近くでは、ポチがワンワンと鳴き続けている。

 間違いない。

 ワタシは正直者だ。馬鹿が付くくらいの正直者だ。

 そのうえ、村一番の働き者としても通っている。

 だから、だから必ずここから、大判小判がザクザク、ザァクザク――と。

 

 ポチよ、ここなのだな? ここを掘ればいいのだな?


 やっとこすっとこ家畜化に成功したのポチが、今もなお私のすぐそばで鳴き続けている。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ここ掘れワンワン 長束直弥 @nagatsuka708

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説