第5話ユルシ……パワーアップ!

アクマでもマジ!シャン物語5

ユルシ八歳 九月


第二十章 ユルシの非日常


わたしは魔法使いになれた。なれた代わりに恋心が凍り付いた。凍り付いた恋心を戻す魔法術式をおじさんがすぐ組んだ。わたしは缶コーヒーを渡された。おじさんが呪文を詠唱した。

「ホット!」

缶コーヒーは暖かくなっていく。それは、わたしとおじさんの魔力の差を表してもいる。わたしに宿った魔力は氷。熱を下げる魔力を帯びてると認識して、空気中の水分さえ氷に変えるだけの力は持ってる。それだけの力を持ってても、おじさんの魔力で熱操作された缶コーヒーはまるで私の魔力を受け付けずに暖かくなる一方。手に持ってる缶コーヒーは暖まり続けて、今に火傷してしまいそうなくらい熱くなった。

おじさんがわたしに缶コーヒーを飲む様に促した。

「ユルシちゃんの事が心配だよ、おじさんが居ないとこれから先困る事になる。飲みなさい。」

「うん。これ飲んで、またおじさんへの気持ち復活すると、おじさんは困らないの?」

「おじさんはね構いやしないんだよ。」

おじさんが妙に悲しそうな顔で私の頭をポンポンと叩いた。わたしは妙だな?と思い。おじさんのテレパシーを聴こうと耳を澄ます。

(これを飲んでしまったら、ユルシちゃんにはテレパシーが届かない可能性が生まれる、そうしたら最後俺の方がユルシちゃんを求めてしまう。)

!?

わたしは直ぐに飲もうとした。けど、それが間違いだった……

「おじさん飲んだよ!あのね?あれ?何でおじさんのテレパシーがユルシに聴こえるの?」

(そうか、安心した。)

「ユルシに夢中になってくれないの?」

(ごめんね。いや、言葉にしよう。)

そう言っておじさんは悲しそうな顔から更に悲しそうな顔をして、言葉に出した。

「ユルシちゃんに掛けた魔法術式が完全に成功しなかったのは、ユルシちゃんが想いを念じ無かったからだよ。願ってたら叶ってた。」

「おじさんはユルシを好きになってくれないの?」

「好きになるにしても年齢的に厳しいと思うんだよ。ユルシちゃんに掛けた術式が一時的に機能するのは、晴れの日だけみたいだね。」

晴れの日?雨の日だったら?

「雨の日だったらどうなるの?」

「雨の日だったらユルシちゃんは氷を使う魔法使いだ。今日は降らないから良さそうだけど、明日午後から雨みたいだからって悠長な事は言ってられない。おじさんと雨の降ってる隣の県に電車で移動だよ?」

えー?おでかけ!嬉しい!

「ユルシね今日はお泊りがいいな?」

「ユルシちゃんが掛かった魔法は、恋の魔法と、限定的に能力を封じる魔法。」

でも、雨降ったらどうなるの?

「雨の日はユルシどうなるの?魔法使えるの?」

「多分そうだと思うし、今から確認に行く。電車で1時間くらいだから、駅に向かおう。」

「おじさん車持ってないの?」

「うん……」


†††


こうして駅に向かった。公園から徒歩15分に駅がある。おじさんが駅に着くなりユルシに説明しだした。なんでも、テレパシー使いは遠出が億劫で外出する時は必ずスマホにイヤホンを刺して音楽を聴く、音楽はサウンドトラックかクラシックを聴いてると、脳内でサウンドトラックを再現しても垂れ流しになるテレパシーはほぼ無音になるって言っている。

「ユルシちゃん試しにアニソン聴いてみるから、なんて歌ってるか分かるはずだよ?」

楽しそう!聴き分けるクイズみたい!

おじさんはイヤフォンをスマホに刺して音楽を流し始めたみたい。

(シャイニーソード……)

「シャイニーソード?」

「当たり次行くよ?」

(夢で高く飛んだ……)

「高く飛んだ?」

「当たり分かっただろう?」

「うん、おじさんがクラシック聴いたらどうなるの?サウンドトラックって何なの?教て!」

おじさんがイヤフォンを外してスピーカーで音楽を鳴らす。サウンドトラックというものらしい。ユルシにはただ楽器?が流れて、歌が無い奴を聴かされた。なるほど曲のみの物なのかと、この時はそう認識した。

おじさんがサウンドトラック聴いたらどうなるんだろう?

「サウンドトラックは分かったけど、その曲が流れるって思うよ?」

「両耳かっぽじってよーく聴いてみるかい?」

「うん!」

おじさんはイヤフォンをスマホに刺してサウンドトラックを流し始めたみたい。

(…………)

「……」

ユルシは両耳を澄ませておじさんのテレパシーに集中してるけど何も聴こえない。

なんでなの?おじさんがくれた缶コーヒーの作用なの?ユルシは期待と不安に胸を高鳴らせてるよ。

(…………)

「……」

ユルシはおじさんが聴いてたサウンドトラックをどんな曲か思い出しながらおじさんの頭の中を想像した……特に何も起こらない。晴れの日のユルシはただの人間みたいだよ。

(…………)

「おじさんもういいよ!」

おじさんはイヤフォンを外して自分の世界から現実世界に帰って来たみたいだ。ユルシは一安心したよ。

(あれ、分かってくれた?)

「すっご〜い!おじさんは色々な魔法が使えるんだね!?」

「アクマでもマジ!シャン!」

「またそれ?おじさんは悪魔じゃなくて、ユルシの天使だよ!」

「ペテンシじゃないよ?アクマでもマジ!シャン!」

「ユルシの為に天使になってよ?」

「おじさんはね魔法使いなんだよ?」

おじさんはやたら、アクマでもマジ!シャン!と言います。やたら自分は悪魔であって天使じゃ無いと言います、ユルシはどうしたらいいのか分からないよ……

「親子くらい違うから?」

「そうだよ。」

「友達から……」

「ずっと友達でいられる?」

ユルシはおじさんが好き。でも、おじさんはユルシを好きになってくれ無さそう……

「ユルシが大人になったら振り向いて……」

「その時、ユルシちゃんの気持ちが変わらないならね?」

「じゃあ友達から!」


こうして、だらだら話してる間に電車がやってきた。ユルシとおじさんは電車に乗り込んだ。


†††


ユルシは電車に乗ってビックリした。おじさんが来ているTシャツ(六芒星の中に843と胸中央にプリントされている。)を着た男6人が乗っていたのが目に付いた。おじさんはその上に黒いパーカーを羽織ってる。

おじさんもしかして何かの組織に入ってるのかな?ユルシは心配かなー?

ユルシの心配を他所におじさんは椅子に座って視線を外に向けてる。ユルシはとりあえず隣に座る。おじさんは一言も話さないので、六芒星に843Tシャツ着てる人達を観察する。

……どうやら、このTシャツは魔導書等販売店ってお店のグッズらしい。なんかもの凄く高いらしい。二人が電車を降りた……お金は払わずにTシャツ見せてる……タダで降りて行った……このTシャツユルシも欲しいよ……

「おじさん話さないからつまらない!」

「……もう少しで着くから静かにしてなさい。」

「うー。」

また三人降りた。またTシャツ見せてタダで降りている。電車降りたらおじさんに聞いてみよう。

外が段々と雨雲が見えてきた。雨になるとユルシが魔法使いになってるか確認するらしいけど、あの時みたいな強い意志で魔法を使ったら日常生活に支障をきたしてしまいそう……ユルシはどうなっちゃうのかな?

でも雨音が近付いてくる度にユルシは、何かが起こると確信してしまうよ。


†††


執着駅に着いた。隣の県の端っこに着いた。外は雨がパラパラと降っていて、ユルシの気分は高揚してる。

「着いたよ。ユルシちゃんに何か変化あるか調べるから、屋内は人目に付きやすいから、あそこの大きな野球場に行ってみよう。傘さして、歩いて行こう。

その時わたしから驚きの言葉が出た。

「こんな小さな女の子雨の日に歩かせるの?タクシー拾ってよ?カッコ悪いところ見せないで!わたしはおじさんに恋したいんだよ?」

「え?ユルシちゃん?……まさか!」

「まさか何?」

「ちょっと飛ばしてみる!」

(聴こえてる?メーデーメーデー!)

「飛ばすって車?タクシー拾ってよ?」

(えっ?ありゃマジでか?)

「おじさんさっきからダンマリだよ?」

(聴こえてたら片想いのままかも?)

「おじさん?……テレパシー飛ばしてたの?わたしには聴こえなくなったのかな?」

おじさんはどうやらテレパシーを飛ばしてたらしい。わたしには聴こえなくなってた。これって?

「ユルシちゃんは聴こえないんだね!いや、雨の日しか魔法使いになれないのか、うん。良かった。ささ、タクシー乗り場行こう。」

「う、うん。」

なんだろう?何かとても嫌な気分になった。テレパシーが聴こえる聴こえないだけで何なんだろうこの扱いの差は?


†††


野球場にすぐ着いた。とりあえずおじさんはご機嫌の様子で、わたしにコーラを買って来てくれた。わたしはそれを飲みながらおじさんの話を聞いてて驚いた。というか怒られた事もあったんだ。

「魔法使いは術式をその場で即組める様に訓練しないといけない。さっきコーラを受け取る時、プルタブを開ける時、飲む時美味しいと言う時色々と術式を組むタイミングがあった。」

「タイミングは勉強する!けど、何を仕掛ける術式なの?」

わたしはおじさんの魔法の使い方を習っている。けど、タイミングや条件は何となく分かるものの、何を仕掛けるかがピンと来てない。

「おじさんに攻撃は出来ないだろうが、惚れさせるまで行かなくとも、少し好きになって貰うとかは術式を組めた筈だ。」

わたしはおじさん嫌いになるかも?

「そこまでして好きじゃないよ……」

わたしは手に持ってるコーラの空き缶を凍て付かせた。

「そ、そんな、折角テレパシーが聴こえないユルシちゃんと友達になれたのに……」

おじさんは項垂れてる。わたしにはどうにも出来ないって思った。その時だった。

「あれ?空晴れて来たね?何か変化あった?」

空はすっかり太陽が顔を出していた。ユルシの心も暖かくなった。

ん?あれ、さっきまで使えた魔法が使えない?あれ?それとさっきからまたおじさんのテレパシーが聴こえる。帰り遅くならないかな?とか言ってる。これ、、、黙っていようかな?

「ん?魔法が使えないよ。それとおじさんのテレパシーが聴こえなくなったままだよ?」

「魔法使いじゃ無い時だったから良かったものを、嘘を吐いたら魔力が後退して、最後には恐ろしい事になる。いいかいユルシちゃん?」

「は、はい……」

ユルシは嘘を言った自分が恥ずかしくなった。でも、テレパシーが聴こえるって何で分かったのかな?

「何で分かったの?」

「俺がテレパシーの代表格だから、表情見たらほぼほぼ分かるんだよ。」

「そうなんだ。おじさんすっご〜い!」

「うん。それと嘘を沢山言ったら、魔法使いですら無くなる。気を付けて。」

「それって、どうなるの?」

「先に言ってた方が良いね。魔物になると言われてる。」

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