第11話もうあの頃は変わって2年の想いは変わらず

僕は夢を見ている。優衣の思い出を再現された夢の世界にいた。

そう認識すると分かると生活道路にいた世界は亀裂が走る。

ピリッピリッと硝子ガラスのように割れていく。


優衣ゆい!」


中学生だった僕は高校生へと姿と制服と変わっていく。

夢だと分かっても優衣に手を伸ばす。しかし空間が歪み距離の法則は崩壊する。遠くなっていく。

優衣は後ろ姿で今までは隣にいたのに。


「行かないでくれ!

僕は優衣と離れたくないんだ」


「・・・・・」


黒の世界。優衣の姿は遠く遠くなって小さくなっていく。

幻でも声を聞きたかった。

僕が勝手に作った想い人にせめて

夢だけでも謝らせてほしい。


「ゆいぃぃぃぃぃーーー!!」


目覚めた。優しい微睡みと無慈悲な微睡み終了を告げる。

夜空に右手を伸ばす自分。

河川敷かせんしきつつみ(土手)の斜面にシートを敷いて銀河鉄道ぎんがてつどうの夜のように主人公ジョバンニのように死者と会えないか試みて2年も経つ。


「・・・今の僕と話すことは出来なかったが」


虚構の中に現実として起きるかなんて荒唐無稽こうとうむけいすぎるだって自覚しながらも試さずにはいられなかった。

優衣に会えるならなんでもしてきた。結果はすべて失敗。

死者に会えないのは分かってる。だけど理屈を理解しても認めたくなかった。


「だから、こうして今も抗っている・・・せめて言葉を言えたら」


優衣が車に衝突した事件を昨日のように思いだせる。鮮明に。

それは死別を永遠に味わる意味で逆に前向きに考えれば、そのおかげで忘れずにいれている。


(ジョバンニは友人のカムパネルラが銀河の彼方に行ったと確か思っていた。もし天国、地獄、銀河に優衣はいるのだろうか)


僕は夜空を見上げる。彼方にいると思って・・・願って。

それからの一週間は平穏であった。スパイの疑いある今出川の挨拶に教室では片想いとか付き合っているなど変な噂が広まる。

ヒエラルキー最下位を目指す僕からすれば妨害であった。

放課後も妨害は続く。

夕方会議がないと帰宅の誘い。

夕方会議があれば進捗しんちょくせず。


「おまえひまなのか?

もしかして友達がいないのか」


「ムッ、いるよ。さすがにスクールカーストだけ?みんな上だと多いわけじゃないんだよ。

あと、暇なのは・・・じ、事実です」


「へっ、これだからこじらせたぼっちは」


「・・・仁科くん。それブーメラン発言だと思うよ」


「ぐっ!人が気にしている事を抉ってくるとは・・・かわいい顔して腹黒だな」


「か、かわいい・・・・・」


「あっ?どうした急に悶え初めて見ていて不快なんだが」


好意を抱いているアピールなのだろう。も、もしかして俺のことを・・・と思わせる攻撃なのだろう。しかし、それを騙されるほど

パカではない。


「なぁ、晴幸。このイチャイチャを見ているとイラッとして来た。

今から横槍を入れに行く。

おーい」


ベンチにから立ち上がり今出川に手を振る普通の容姿と定評がある政治が悪だくみの笑み。


「待って、待って。

せっかく虎繁を好きになった御仁ごじんだ。静かに見守ろうじゃないか」


ベンチに座る晴幸は政治の後ろ襟をつかみ引き戻す。


「だからこそだよ。

虎繁は前に進まないし今出川さんも困っている。友人として

サポートするのが当然だろう。

あと、悪戯いたずらしたい」


「立派な事を言ったのに・・・最後はそれか。そなたは、いつから

そうなったのか」


嘆かわしいと蟀谷こめかみを押さえる晴幸。


「虎繁くんをこうして本性で話せる女の子がいるのは、友人として恩人に対して嬉しいかな」


クールに足を組んでいた信綱は微笑を浮かべそんなことを言う。


「そうだな」


「あー、激しく同意」


晴幸と信綱は頷き肯定するのはいいが声が思い切り聞こえているぞ。


「も、もしかして仁科くんって

付き合っている女の子が・・・

い、いないの?」


絶賛、喧嘩けんか中だった今出川はチラッと逸らすなど上目遣いで訊いてきた。


「教室を見たら分かるだろう。

落ちこぼれで根暗のヒエラルキー底辺に付き合おうという珍妙な奴なんているわけない」


「そ、そうなんだ・・・えへへ」


「ふん、わらうならいくらでも嗤え」


「ううん。仁科くん他にも訊きたいのだけど・・・好みの女の子を

教えてくれないかな?」


顔を真っ赤にして、告白されたのか錯覚するほど一生懸命なスパイ。なるほど僕を籠絡ろうらくさせるためにストレートに

作戦で来たか。

まぁ、素直に答えるとしよう。


「僕の好みの女の子は、妹だ」


「・・・・・え?」


目を見開き何度も瞬きをする。


「聞こえなかったか?妹だ」


「・・・・・さ、さようですか?」


「左様だ」


沈黙の空気が生まれる。

ベンチの三人組も三者三様の反応している。晴幸は呆れのため息。

信綱は苦笑し、政治は唖然あぜんとしている。優衣を知るのは晴幸と信綱だけだから高校で知り合った政治は知らないか。

それはさておき今出川は驚きで開いた口を塞がらない状態。


(くっくく、こんなシスコンだとさすがの今出川も引いているようだなぁ。嫌悪感で無意識に距離を取ろうとするはずだ)


「・・・あっ!仁科くんって妹想いなんだね」


人差し指を立て独自に解釈したようで妹想いと結論に至った。


「一応、訂正させてもらうが

好きな女の子の意味も含む」


「・・・・・」


フリーズしたスパイにちょっとした論破に近い感情が満ちていく。

まぁ、僕がサイコパスな発言しただけなんだが。細かいことはいい。勝ってればいいんだ。


「そ、それじゃあ・・・・・お、

お兄ちゃん」


「おぇー!やめろ。吐瀉物としゃぶつを催したじゃねか」


「ひ、ひどい!?ねぇ、さすがに今の傷つくよ!!」


僕の中でお兄ちゃんと呼んでいいのは優衣、ただ一人だけだ。

偽物の瑠香や今出川では決してない。

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